前回のあらすじ
ミホノブルボンは止まらない。
京都新聞杯に敗れたライスさんは、『シリウス』の中でも特にトレーニングを行うようになった。もうすぐ菊花賞も近いのだが、そのトレーニングは極端なまで無駄を削ぎ落し、『極限の境地』を使わないマックイーンさんに対して五分五分の実力を見せるようになってきた。
「はぁ、はぁ・・・。ダメだ・・・これだと、まだ追いつけない。」
よっぽど、最後の最後にブルボンさんに追い抜かされたことが悔しいみたいで、何度も何度も走っては休み、走っては休みを繰り返している。まるで、あの時の・・・極限の境地を手に入れようとしたときのマックイーンさんのようだけれど、あの時とは違いしっかりと休憩や休息をとっているし、無理をしない範疇で試しているので・・・私たちも止めるための声掛けがしづらいのだ。
そんな様子を私とナラクさんはずっと見守っている。いざと言うとき、すぐにライスさんを助けられるようにだ。
「相当、無理してますね・・・ライスさんは。もう、止めませんか・・・?私、見ていられません!」
「ダメだよナラクさん。今のライスさんを止めるのはダメ、止めると・・・ライスさんをもっと傷つけちゃう。」
「・・・それは、そうですけれど。」
ナラクさんも理解はしているんだろう、けれど見ていて心苦しいのは私も同じだ。
菊花賞は長距離。いくらブルボンさんが苦手としていて、ライスさんの得意な距離だとしても・・・あの走りをされてしまえば、ライスさんの勝率は低い。私がそう予想するよりも早く、酉川トレーナーがライスさんに見せないように頭を抱えていたのを見て、私のそんな考えは確立されてしまった。それほど、このループのブルボンさんは無茶苦茶なのだ。ずっと前のループのバクシンオーさんのように世界一距離の長いレースを一人で勝ったように、ウララちゃんが有馬記念だけでなく、凱旋門賞を取ったときのように。
「・・・とにかく、倒れたら私たちが助ける。そうなるまで、私たちはライスさんを見守ろう?」
「・・・・・・わかりました。」
ナラクさんが渋々ながら頷いてくれる、目線を練習コースに戻せば・・・ライスさんはまだ走っていた。
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「はぁ、はぁ・・・はぁ。」
時間はすっかり、夕方を迎えてしまい遠くでカラスが鳴いている。シリウスメンバーはまだ練習を続けているけれど、ライスさんはさすがに疲れ切ってしまっている。
その為、私はゆっくりとライスさんに近づき、声をかける。
「ライスさん、大丈夫ですか?」
「・・・うん、大丈夫、です。でも、まだ・・・。」
キッと目つきを鋭くして、また走り出そうとするけれどバランスを崩してそのまま前に倒れそうになってしまう。慌てて支えると、異常と言えるほどの熱を発生させており・・・脚はけいれんを起こしていた。
ライスさんも倒れてしまったことで、自分が限界を迎えたことを分かったみたいで・・・ごめんなさい。と小さく謝り、私に抱えられてベンチに座り込んだ。
「ナラクさん、スポーツドリンクをお願いできる?できれば、自販機の・・・」
「はい、私もちょうど自販機のジュースが飲みたくなってきたのでちょっと行ってきますね!」
私の言葉の意味を理解してくれたナラクさんはお財布を持って足早にその場から離れてくれる。
ライスさんは自分で汗を引き取りつつ、私をチラチラとみてくる。
「・・・あとちょっとだったのが悔しかった?」
私がそう聞くと、小さく頷いてくれる。
「やっと、やっとブルボンさんに追いついたって思ったんだけど・・・まだまだ、だったから。」
たった200m、それでも200m。そこでブルボンさんは再び加速し、追いついたライスさんに1バ身差の敗北を与えた。
それが、ライスさんにとって・・・よほど悔しかったのだろう。あと一歩だった、あと少しだった・・・だからこそライスさんは厳しい練習を続けたのだろう。
「大丈夫だよ、ライスさんがブルボンさんとレースをするたびにジリジリと追い詰めてるのが何よりの証拠だから。」
「そう、だよね・・・うん。」
私の答えが、ライスさんの気持ちを少しだけ和らげたようだ。
その後、ナラクさんは人数分のスポーツドリンクを買ってきてくれて、私とライスさんとナラクさんは、他のみんなの練習を見守った。
その後、みんなのトレーニングも終わり、明日は本番に向けたチームレースを行うと酉川トレーナーから伝えられ、そのまま解散になった。
「・・・ねえ、ゴルシ。」
「んあ?どうしたメグメグ。」
「菊花賞・・・大丈夫かな。」
「・・・・・・アタシにも分からねぇ、でもなるようになるさ。」
ゴルシはそれだけ言い、私の手をつないで帰ろうとする。
私も、今日だけはゴルシに手を引かれたい気分だったので、そのまま手を引かれて栗東寮に帰ることになった。
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栗東寮にたどり着くと、何やら入り口で人だかりができている。
耳を澄ませてみれば、「サインください!」や「握手してください!」などの黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「なんだこりゃ、いったいどこのすっとこどっこいだぁ!?」
「やれやれ・・・相変わらず騒がしいな、ゴールドシップ。」
「あん?このゴルシ様を知っているのは・・・って、スケちゃんじゃねぇか!よっ、スケちゃん!カクちゃんは元気かぁ~?このこのぉ~。」
「はぁ・・・。せめてスケちゃんはやめてくれ。」
その中心にいたのは、見慣れないウマ娘さん・・・中央トレセン学園の制服を着込んではいるモノのどうも顔に覚えがない。けれど、どうやらゴルシと面識があり・・・相当、迷惑をかけているようだ。ゴルシがどうも申し訳ありません!
「てか、京都トレセン学園に転校してたのにどうしてこっちに戻ってきたんだよ?」
「一身上の都合だ。私にもそういった理由はあるさ、何かおかしいかね?」
「このクソ真面目がよぉ、ちょっとはボケっていうのを覚えたらどうだぁ?」
「貴公がもう少し淑女らしくするのであれば、この性格を改めようとみてみよう。」
「
どうやら、ゴルシだけではなく、ゴルシの同期とも知り合いらしい。
どんな方なんだろうと、人込みをかき分けてみると・・・
「・・・そちらの方は?」
「あん?あー・・・そういえばスケちゃんはメグメグが来る前に京都トレセンに転校したんだっけな・・・こいつの名前はメグリメグル。ゴルシちゃんランキング1位の理解者さ!」
「・・・・・・ほぉ?」
チラリと、スケちゃんさんの目線が私に向けられる。
黒鹿毛の髪色に、血のような赤黒く鋭い目、どことなくライスさんを思い浮かべるような彼女は、私をただ・・・じぃーっと見つめていた。
「失礼した、私の名はスケアリーハンター。以後お見知りおきを、メグル嬢。」
そう私に声をかけて、左手を右胸にあてて一礼するスケアリーハンターさん。その所作一つで、黄色い歓声と私に対する嫉妬の視線が向けられる。しゃ、社交辞令でさえ睨まれてしまうのか・・・。自分から名乗り返す前にコホンと咳払いをしてから、服装を整える。
「先ほどゴールドシップから紹介されましたメグリメグルです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
そう挨拶を返すと、スケアリーハンターさんは嬉しそうに目を細め握手を求めてくる。私はその悪手に答えて、軽く握手をした。と、
「おっと、失礼。」
グイッと引き寄せられ、そのまま抱き寄せられる。その瞬間、カラスが私の立っていた場所を横切り危うく怪我をするところだった。カラスが飛び去ったところで小さい悲鳴が起き、また嫉妬の視線が私に向けられる。
「す、すみません。ありがとうござい―――」
「―――
「・・・?」
「失礼、独り言だ。では、そろそろ失礼するよ。」
そう言い、スケアリーハンターさんはそそくさと栗東寮の奥へと消えていく。取り巻きのウマ娘も黄色い歓声を上げながらそのあとを追っていった。やがて、ゴルシが私に近づき声をかけてくれる。
「大丈夫かよメグメグ。何か変な事とかされなかったか?」
「ううん、むしろ助けてくれたぐらい。」
「ほーん・・・アイツ・・・気を付けた方がいいな。」
「ゴルシ?」
「んぁ?なんでもないぜー、ほら早く帰ろーぜー!アタシはベットが恋しい~!」
「はぁ・・・ハイハイ。」
次章
『Re:小さながんばり屋 【ぜつぼうの淵】』編
「ふふっ・・・ライスは、いない方がいいんだ。そうすれば、みーんな、しあわせなんだよ?」
coming Soon...