前回のあらすじ
二人の少女の涙と、暗躍する狩人
あの日から、さらに日にちが立った。あの日以来、ライスさんの症状がさらに良くなって、一人でも大丈夫になり、ブルボンさんの心理的なカウンセリングも始まった。
レース開催についても、
「マックイーンさんとブルボンさん、そいてバクシンオーさん以外全員、練習に集中できていませんね・・・。」
「小鳥遊、よく見ろ・・・。ブルボンのフォームがわずかだが崩れてる。ありゃ、集中できてねぇよ。」
「僅かながら左脚が高く上がってるな・・・」
そんなトレーナーさんたちの言葉を聞きつつ、サポートウマ娘としてのやることを続けている。
ベテルギウスのサポートウマ娘さんたちに指示を出しつつ、シリウスのことをナラクさんと一緒に―――
「ぶ、ブルボンさんっ!!」
ーーーどうやら緊急でやるべきことができたようだ。
「メグmーーー」
「ーーーナラクさん!」
「はい!」
酉川トレーナーが私の名前を呼ぶより早く、ナラクさんに声をかけるとナラクさんも慣れた様子で担架と応急箱、そしてクーラーボックスを持ってターフに入る。
左足を抱えて倒れこむブルボンさんに近づき、素早く患部であろう左足のシューズと靴下を脱がせる。
(・・・左足が赤く腫れてる。)
「ブルボンさん、触りますよ?痛かったら教えてください!!」
ブルボンさんに声掛けを行い、できるだけ弱い力で赤く腫れている場所を押す。
それだけで、ブルボンさんは痛みを訴え、歯を食いしばる。
「少し動かしますよ?先ほどと同じように痛かったら教えてください!!」
さらに声掛けを行い、左足をゆっくりと動かす。すると、ブルボンさんは左足を右側にひねった際に、顔をしかめて再び歯を食いしばった。どうやら捻挫の様だ。やるべき応急処置はすぐに思い出せる。
「ナラクさん、氷嚢と包帯をお願い。」
「事前に作って冷やしておきました、包帯はすぐに出します!!」
ナラクさんが取りだした氷嚢を受け取り、赤く腫れている場所にあてる。ブルボンさんが驚いて足を動かそうとするが左手で掴んで動かさないようにする。
それを見たナラクさんは、私に包帯を渡すことなく、ナラクさん自身で左足に包帯を巻き始めた。左足が動かさないようにガッチリと包帯で固め、その上から氷嚢を当てる。ようやく、ベテルギウスのサポートウマ娘さんたちも自分のやるべきことを思い出したのか、駆け寄ってくる。
とりあえず、保健室へ・・・と思い、顔をあげると、一人のウマ娘が、こちらを見ていた。
「・・・ライス、さん?」
見ていたのは、ライスさんだった。勇気を出して、みんなの練習を見に来たのだろう。けれど、ライスさんは、ブルボンさんが怪我をした瞬、間を・・・・・・ッ!!
私がソレを察知した瞬間には、ライスさんは走り去ってしまった。たしか、あの道は・・・旧校舎の方に・・・
「ごめんなさい、ナラクさん!後は頼みます!!」
「えっ、メグルさん!?わ、分かりました!!」
=====
side:ライスシャワー
=====
見た。見ちゃった。見てしまった。
ブルボンさんが、ライスと目を合わせた瞬間、ブルボンさんが転んでしまうのを見てしまった。転んで、足を、左足を、庇ってた、ライスが、ライスが、こ、転ばせたんだ。ライスが、勇気を出さなければ、ライスが練習を見に来なければ、ライスが、ライスが、ライスが・・・
そのことで、頭がいっぱいになって、あの場所から逃げようと必死に走る。走って、林道を通って、古い校舎にたどり着く。確か、この場所は、トレセン学園の旧校舎・・・誰の気配も、ない。・・・ここなら、誰も、ライスを見つけられないよね。渡り廊下を通って中庭に移動して、両端の女神像が壊れて、水の出ていない三女神さまの噴水の淵に座り込む。
静かで、鳥さんの声も聞こえなくて、必死に走っていたから気付かなかったけれど、
「ブルボンさん、大丈夫・・・かなぁ。」
ゆっくりと考えて、何より真っ先に思い浮かんだのはブルボンさんだった。
菊花賞のあの時、ライスはブルボンさんに勝てた。勝ってしまった。そこから、ライスのせいでいろんな不幸が始まった。リリスさんが頭を怪我して、パンプキンさんが目を怪我して、大勢の人がケガをして、そして今度はブルボンさんを・・・。
『そうだねぇ、みーんな怪我しちゃったね、ラ・イ・ス?』
「っ、だれッ!?」
右隣から、不気味な声が聞こえて急いで離れる。
そこに居たのは、いつもの勝負服を着た
よ、よく見れば、いつもの勝負服もボロボロで、隠れてる右目からも、血が流れてて・・・・・・
『ひどいなぁ~、ライスシャワーはライスだよぉ。わかるかな?
怖い、目の前にいる
腰が抜けて、上手く歩けることはできないけれど、後ずさりをしながら、その人から離れる。
『それよりも、みーんな怪我しちゃったね。ブラストさんも、リリスさんも、パンプキンさんも・・・ブルボンさんも。これもぜーんぶ、
「・・・っ」
怖い人は、後ずさるライスを感情のない目で見降ろしながら、ゆっくりと近づいてくる。
『ブラストさんは短距離しか走れないのに、無理やりライスとの並走トレーニングをやらされてぇ、そのまま脚がポッキリと!』
「ち、ちがっ・・・」
『リリスさんは、ライスがブルボンさんに勝ったからおきた乱闘に巻き込まれて、お酒の瓶が頭にガチャーン!血がいっぱい流れてたよねぇ~。』
「・・・っ」
『パンプキンさんなんて、倒れたリリスさんを庇おうとして、殴られちゃって低木の尖った枝に目がブスッて!!痛そうだったねぇ~!』
「やめっ・・・やめて・・・」
『それで、今回のブルボンさん・・・一瞬、嬉しそうな顔だったよねぇ?でもざぁんねん、ライスのせいで足が折れちゃった☆あーあ、二度と走れないねぇ?』
「やめてッ!!」
耳を両手で塞いで、その怖い人からの言葉を聞こえないようにする。
『耳をふさいでも無駄だよ?
「な、なんで・・・しっかりふさいでるのにっ!?」
『そんな事より、今のままだと、みーんな怪我しちゃうよ?
「いや・・・いやーーーっ!!」
聞きたくないことが、無理やり聞かされて、思い浮かべたくないことが、無理やり脳裏に浮かんでしまう。
『ぜーんぶ、
「・・・らいすが、いなくなれば、みんな、すくわれるの?」
『もちろん。みーんな、幸せになれる。みーんな助かる。みーんな、笑顔になれる。』
「らいすが、いなく、なれば・・・。」
『今は、考える時間をあげる。じっくり考えてほしいな?
そう言って、怖い
何事もなかったかのように、やがてカラスや虫の鳴き声が聞こえてくる。
(らいすは・・・・・・