前回のあらすじ
きょうふ
ライスさんがいるであろう旧校舎は、不気味なほどに静まり返っている。なにもいないと、頭では理解していても、どうしても身構えてしまう。
いつ何かに襲われても、すぐに反撃できるように意識しつつ、旧校舎の中庭に移動する。この旧校舎のカギは、私が秋川理事長から受け取ったカギを除いて、いつもの校舎にある職員室のカギ、そして秋川理事長のディスクにあるマスターキーを持っている人しか、入ることはできない。なら、ライスさんが居るのは、中庭だ。
(・・・いやな予感がする。)
ヒンヤリとした冷たい空気が、背筋にぴったりと張り付いて離れない。慎重に、足音すら立てないようにしつつ、中庭に出ると・・・そこに、ライスさんは居た。
居る、けれども・・・いつもと比べて、随分と雰囲気が違う。いつもの、どこか和む柔らかな雰囲気ではなく、ピリピリした敵視に近い雰囲気。関わることを拒絶させるような、そんな怖い雰囲気だ。
けれど、私はそんな雰囲気に臆せず、声をかける。
「・・・ライスさん?」
「お姉さま?お姉さまなの?」
ライスさんが振り返り、ハイライトのない左目が私を見据える。ゾクリと、背筋が拒否反応を表す。ピリピリとした雰囲気が、ドロリとした気持ち悪さに・・・足が沼にハマってしまったときのように、身動きすることができなくなる雰囲気が、私とライスさんの居る中庭を包む。
「あぁ~お姉さまだぁ~!」
「えっと、その・・・大丈夫ですか?」
「何のこと?」
ドロリとした目が、からかうように細くなる。ゆっくりと足音を鳴らしながら、ライスさんは私に近づいてくる。
「あのね、お姉さま。ライス、分かったことがあるの。」
いつも通りの微笑みを浮かべるライスさん、けれどその微笑みから感じられるのはいつもの照れくさそうな様子ではない。
やがて、私は壁際に追い詰められ・・・ライスさんが間近で見上げてくる。赤らめた頬と上目遣いが可愛らしいが・・・どうしても、私は恐怖を感じてしまう。
「ブラストさんも、リリスさんも、パンプキンさんも、ブルボンさんも・・・ライスが居たからケガをしたんだ。」
「そ、それは違いますっ!」
「うぅん、違わないよお姉さま。だからね、ふふっ・・・ライスは、いない方がいいんだ。そうすれば、みーんな、しあわせなんだよ?」
ゴポッと、嫌な音が聞こえた。やがて、私の体は沈んでゆく。黒く深く冷たい沼の底へ。
気付いてあがいても、私にはそれしかできない。どんどん、どんどん・・・その黒く冷たい場所に引き込まれていく。
ライスさんは、そんな私を見上げながら、抱きしめてくる。
「でもね、お姉さまだけは、一緒にいてほしいなぁ~。だからね
―――
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「知ってる?中央トレセン学園の旧校舎の幽霊の話!!」
「噂で聞いたかな~?旧校舎の三女神像噴水跡に出る白いウマ娘と黒いウマ娘の影を見ると、旧校舎から出られなくなるって奴でしょ?」
「そうそう、何でもとある事件がきっかけで起きた今世紀最大の謎の失踪事件なんだって!」
二人のウマ娘が、下校しながらそんな会話をしている。
いや、下校ではない・・・彼女たちの足取りは先ほどから話している旧校舎へと続いている。
「それで、気になるから見に行くって話だけど・・・。」
「だいじょーぶ!どうせそういうのって、都市伝説とかそういうだよ!旧校舎がどうなってるかの見学だよ~、け・ん・が・く!」
「そういう話じゃないでしょうに、それに・・・来週レースでしょ?そんなことしてトレーナーさんに怒られても知らないよ?」
「うぅ・・・ちょっとだけだよぉ!中庭を見たらすぐ帰るって、ねぇお願い~!いっしょにいこうよぉ~!!」
「・・・はぁ、分かったから裾を引っ張らないで。伸びちゃうでしょ?」
「・・・・・・えっ、引っ張ってないけど。」
「は?今もグイグイ・・・引っ張って・・・・・・」
「「きゃぁああ~~~~~~っ!!」」
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[テレビの音声「昨日夕頃、中央トレセン学園に通学中のイノチシラズさん16歳と、フラッグアップさん16歳が中央トレセン学園の旧校舎の敷地内にて意識不明の重体で発見されました。今年に入り12名・・・これまでの合計で、46名のウマ娘が意識不明の重体で発見されています。警察は原因究明を最優先にしていますが、未だ犯人の全貌すらつかめていないようです。また、同旧校舎は、取り壊しの予定がありましたがーーー」]
・・・いつかの部屋で、黒鹿毛のウマ娘とスケアリーハンターは、ニュース番組を流すテレビの音声を聞き流しつつ、ティーカップを傾けてお茶会を興じている。
しかし、その二人の立ち振る舞いこそ穏やかなものではあるものの、視線は剣呑で、雰囲気は重苦しいものとなっている。
「・・・今月に入り、今のニュースの二人で3名か。妹君、どう見るべきかな?」
「
黒鹿毛のウマ娘が、意図返しでそう聞くと、スケアリーハンターは笑いを堪えつつも、苛立った様子で答える。
「まあ、そうですね。とても不本意です。追い込まれた手負いの獣が抵抗せずに倒れ、そのまま神秘・・・いや、怪異に成り果てるとは思いもよりませんでしたとも。」
スケアリーハンターは一枚のクッキーを手に取ると、それを握りつぶす。パラパラとクッキーの破片が落ち、スケアリーハンターのズボンと、高そうな絨毯に降り注ぐ。
砕けたクックイーを眺めるスケアリーハンターは額に青い筋が浮かぶほどに怒りが現れ、少しでも動けば死んでしまいそうな殺気が吹き荒れる。だが、黒鹿毛のウマ娘は動じずにティーカップに入った紅茶を、音をたてずに上品に飲み干す。
「・・・
「
「呪いとて、時には祝福にもなるのだ、利用しない手はない。」
「~ッ!!・・・・・・妹君の決定ならば、
「構わないとも。」
スケアリーハンターは、不満そうなまま席を立ち・・・そのまま部屋から出ていく。
入れ替わりのように葦毛のウマ娘が真ん丸とした大きいメス猫を抱えて、部屋に入ってくる。
「・・・荒れてたね。」
「先ほどまで、例の件について話していたからな。」
「・・・な”ぁ~。」
「あっ、ご、ごめんね・・・」
「ふふっ、どうやらお前も気に喰わないみたいだな。だが、手段はそれしかないのだよ。」
「・・・う”ぅぅぅッ。」
「あまり煽らないであげて、ストレスで餌も食べてくれないんだから・・・」
しかし、芦毛のウマ娘は黒鹿毛のウマ娘の態度で威嚇しだしたメス猫を抱えて、すぐさま退出した。
・・・部屋に残った黒鹿毛のウマ娘は、物思いにふける。
(しかし、これほどまでのイレギュラー。どこから波及した影響なのだ・・・?)
黒鹿毛のウマ娘は、考え耽る。ただ一つの答えは、深い深い闇の中だというのに。
[ピロン♪]「トロフィーを獲得しました。」
(金トロフィー) 『絶望の底で手招きするモノたち』
Re:ライスシャワー のワーストエンドを見る。