前回のあらすじ
ライスとブルボンの復活
ライスさんとブルボンさんの調子がだいぶ戻り、ついにライスさんは本番のレースに出ることになった。
その出場するレースと言うのが、”日経賞”。G2のレースで有馬記念と同じ、長距離のレースと出ることになった。元々は、あの騒動がなければ有馬記念を通して目黒記念を走り、そして日経賞から春の天皇賞を走るはずだったらしい。しかし、あの騒動のトラウマを治すことを優先した結果、危うく春の天皇賞をぶっつけ本番で走るかもしれなかったのだ。
だけど、ライスさんの様子を見て酉川トレーナーさんが大丈夫だと判断した結果、春の天皇賞前に日経賞を走ることになったのだ。
ちなみに、なぜそんなことを考えたのかと言うと・・・
「さて、ライス。今日がレース復帰本番の日経賞だが、大丈夫か?」
「う・・・うん、まだちょっと怖いけれど・・・大丈夫だよ、お兄さま!」
―――今日が、そのライスさんの日経賞の日だからだ。
私は、ライスさんのサポートとして中山レース場に来ているけれど・・・残念ながらマックイーンさんとゴルシは応援に来れなかった。
マックイーンさんは春の天皇賞に向けての本格的なトレーニングがあり、今回は小鳥遊トレーナーに任せて中山レース場に来ている。ちなみにゴルシは、火星衛星軌道5番地64丁目にちゃぶ台をひっくり返しに・・・と言うわけではなく、マックイーンさんの並走トレーニングでいないだけだ。
「よし、大丈夫そうだな。今のうちに、レースプランを再確認しておこう。」
「は、はい!えっと・・・まず最初にマークするのは2人目の逃げの・・・ランスイズデイさん・・・だったよね。」
「ああ、序盤から3番手をキープ。ライスの判断で無理だと判断したら、4番手に下がってもいい。」
衣装と髪形のチェックが終わり、最後にシュージュのチェックに入る。作業のさながらで酉川トレーナーさんとライスさんの作戦を聞いているけれど、聞いている限りではあまり難しいように感じはしない。
・・・けれど問題は
「それで、注意するべき相手だ。今回注意するべき相手は2番”スケアリーハンター”・・・ファンからの通称は、狩猟姫。」
そう、スケアリーハンターさんがこの日経賞に出走する。
私は、ゴルシに頼みスケアリーハンターさんのレースを見せてもらうことになり、一度か二度、ハンターさんのレースを見たのだが
「ハッキリ言って負ける可能性が高い。」
「ふぇ!?」
「相手もプレッシャーを使ってくる。」
「えぇ!?」
「しかも、ライスよりもプレッシャーの使い方が上手い。」
「そ、そんなぁっ!?」
・・・酉川トレーナーさんは死んだ遠い目でどこかを眺めている。
ハンターさんのレースの仕方は、”追い込み”のみ。だけど、それが彼女が放つ圧倒的なプレッシャーによってとても強いものに変わっているのだ。
ライスさんのレースが静かに勝利を狙うなら、ハンターさんのレースはまるで獲物を追い立てる狩人のように自分の得意なペースに
正直、レースを見た時・・・ちょっとだけ恐ろしいと感じたのは内緒だ。
「だが、ライスなら勝てると信じてる。とにかく、スケアリーハンターに注意するんだ。」
「う・・・うん、頑張る!!」
[ドアのノック音]
「そろそろ本バ場入場です!準備お願いしまーす!!」
「・・・よし、行くぞライス。」
「任せて、お兄さま!」
=====
私ができるサポートも終わり、観客席に移動する。
ライスさんが出る・・・と言うこともあり、入場制限に加えて警備員の増員までされている中、それでもファン同士のピリピリとした空気感が少しだけ息を詰まらせる。
・・・大丈夫、今までのループでも日経賞では特に問題は起きていなかった。だから今回も、大丈夫なはずだ。
「あれ?メグルちゃんじゃないっすか、この前ぶりっすね。」
「アシゲ!アシゲ!!」
と、少しだけ不安になっているとマスクをしたウマ娘・・・”オルフェーヴル”さんと市松模様リボンのウマ娘・・・ポンコツ化している”ジャスタウェイ”さんが私を見つけたのか駆け寄ってくる。
二人の姿を見ただけで、少しだけホッとしてピリピリとした空気感が少しだけ和らいだ気がする。
「はい、この前ぶりですね。オルフェさんジャスタさん」
「アシゲ!」
「奇遇っすね~。もしかして、ライスシャワーさんのサポートに?」
「はい、そうなんです。本バ場入場が終わって応援しに、こっちに。そちらはハンターさんの応援・・・ですか?」
「アシゲ!アシゲ!!」
「まあそんなところっす。それにしても、警備員の数すごいっすね。入場制限もかかってるし・・・これじゃ、天皇賞みたいすっねぇ。」
「・・・天覧レースの方がもっと厳重ですよ?」
そんな会話をしていると、レース開始のファンファーレが鳴り響く。
『さあ、三月も後半の日経賞。暖かな陽気の中、良バ場の発表です。三番人気8番ライスシャワー、レース復帰はこの日経賞となりました。二番人気は2番スケアリーハンター、本日も圧巻の追い込みを見せてくれるのでしょうか。1番人気を紹介しましょう、4番ランスイズデイ!前走の阪神大賞典では2着の好走を見せました。』
『誰が勝つのか分からない見物のレースです、勝っても負けても悔いのないようになってほしいですね。』
『さあ、全員がゲートに入りまして・・・今スタートしました!おぉっと、ポンと飛び出したのは7番アキレスキャロット、絶好のスタートです!さあそのままハナに立ったのは7番アキレスキャロット、続いて4番ランスイズデイ、その次8番ライスシャワー、並ぶように1番トライスター、中団を見ていきましょう。3番ケルトビッチ、5番フェイトエイレーン、6番オオカミノモリ、最後方ポツンと一人、2番スケアリーハンターここに居ます。』
『それぞれの脚質に合った走りをしていますね。ですが、ケルトビッチとオオカミノモリが少しかかり気味かなと思います。』
実況さんと解説さんの言葉を聞きながらレースを注視する。
幸い、ライスさんはそのままでも大丈夫と判断したようで、ランスイズデイさんにぴったりと張り付いている。実況さんは何も言っていなかったけれど、スケアリーハンターさんはスタートで出遅れているため、私の知る限りではこのままいけばライスさんが勝つはずだ。
「オルフェーヴルの姉貴、アレ・・・
「狙ってるっすね。相手は~・・・ライスシャワーさんか。」
「・・・え?スケアリーハンターさんが何か狙っているんですか?」
しかし、私よりスケアリーハンターさんをよく知る二人がそういう。
思わず、二人に向けて視線を向けた途端―――
【嗚呼、
―――
レースでは中盤に入ったにもかかわらずケルトビッチさん、フェイトエイレーンさん、オオカミノモリさんがラストスパートをかけるように姿勢を低くし必死に疾走している。
『おぉっと、ケルトビッチ、フェイトエイレーン、オオカミノモリが仕掛けた!?終盤に向けて仕掛けたのでしょうか!?』
『いえ、どうやらかかってしまっているようです。冷静さを取り戻せるといいのですが・・・』
「・・・あれは完全に飲まれてますね。」
「あちゃー・・・さすがに対抗できないっすか。」
どういうことかわからず、レースを見ているとオルフェーブルさんが、スケアリーハンターさんが何をやったのかを説明してくれる。
スケアリーハンターさんは、プレッシャーの使い方がとてつもなく巧妙で、特に
そして、スケアリーハンターさんは、生まれつき他人に威圧感を与えやすいらしく・・・それをレースで上手く使っているだけだ。
「正直、ルール違反すれすれっスけどね。アレ。」
「一応、ファールとか妨害とかじゃなく、ただの威圧だからなぁ・・・アレを始めてもらったとき、後ろに怪物が居るって錯覚して、急いで逃げなきゃっ!ってなったもんなぁ・・・」
感慨深くジャスタウェイさんがそう言い、オルフェーブルさんも懐かしそうに頷く。
つまり、今現在、本気で走っている三名は、スケアリーハンターさんを恐れて、生存本能のままに走り続けているのだろう。元々ウマ娘は体力の多いって言っても、あのペースでは・・・
『あぁーっと!?ケルトビッチ、フェイトエイレーン、オオカミノモリが減速していく!その隙にスケアリーハンターが5番手に上がる!!っと、ケルトビッチ、フェイトエイレーン、オオカミノモリが停止し、ターフの上で座り込んでいます!』
『な、何かトラブルがあったのでしょうか?怪我がなければいいのですけれど・・・』
放送の声と共に、観客席から彼女たちのファンの悲鳴と不安の声が上がる。
そんな中、オルフェーブルさんとジャスタウェイさんの同情的な視線がとても悲しそうに見える。
そのままレースは進んでゆき、ついに最終コーナーを曲がった。
『さあ、レースは終盤!現在先頭は4番ランスイズデイ!それを追うのはアキレスキャロット!!』
(―――ライスだって、強いんだッ!!)
【ブルーローズチェイサー Lv.3】
『しかしライスシャワーだ!内からライスシャワーが突っ込んでくる!!すごい走りだ!?力強い末脚で一気に先頭に躍り出た!!』
「・・・ライスさん。」
ライスさんの心の叫びが聞こえ、手に力が入る。
ランスイズデイさんを追い抜かし、ライスさんが先頭に立つ。残り150m・・・何事もなければ、ライスさんが勝てる。
―――100m、ライスさんがまた差を開ける。
―――50m、もう誰もライスさんを追い抜かすことはできない。
―――25m、勝った。私も、ここにはいない酉川トレーナーさんも、あの二人を除く観客も、実況も解説もそう思った。
だけど、
『ライスシャワーが一着で・・・お、大外からスケアリーハンターがゴールラインに突っ込んだ!い、一着はスケアリーハンター!?えっ、えぇっ!?』
私は、実況さんの悲鳴のような困惑した声を、ただ・・・聞くことしかできなかった。
次回は久々の(オマケ)掲示板回