前回のあらすじ
またもや炎上
日経賞が終わり、とある悪意のある動画で再び炎上したけれど、気にせずにトレーニングを続けるライスさん。なにせ、もうすぐ春の天皇賞。
私も、マックイーンさんから全部を聞いたわけではないけれど、マックイーンさんはライスさんに一つの挑戦状を突き付けていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「お疲れ様です、ライスさん。またタイム更新しましたよ?」
「た、小鳥遊トレーナーさん・・・何秒、縮められたの?」
「・・・・・・1.3秒です。」
「じゃあ、まだまだ、だね。」
そう言いながら、息も絶え絶えなライスさんはもう一つの練習コースに視線を送る。
小鳥遊トレーナーも私も、その視線の先に同じように目を向けると、マックイーンさんとタキオンさんがベテルギウスのウマ娘の皆さんと一緒に疑似レースを行っていた。
ライスさんにとって脅威となっていたブルードッグスピアさんを悠々と追い越し、鬼気迫る表情で追い上げるタキオンさんすら置いてきぼりにして、ゴール板担当のゴルシの前を駆け抜けるマックイーンさん。
・・・それだけを見ても、どちらの実力が上なのかは火を見るよりも明らかだ。
「しかしライスさん、それ以上は―――」
「―――あと一回だけ、お願いします!」
止めようとした、小鳥遊トレーナーに頭を下げるライスさん。小鳥遊トレーナーは困ったように眉をひそめ、口をつぐむ。
「じゃあ、あと一回だけな、ライス。」
「お兄さま!」
「酉川先輩・・・」
「あと一回って言ったんだ、やらせてやれ小鳥遊。」
小鳥遊トレーナーは、ライスさんが心配なのだろう。今のトレーニングでさえ、酉川トレーナーが組んだギリギリまで体力を使うハードなトレーニングなのだ。
ただでさえトレーニング漬けでボロボロに近いライスさんの体が、もういつ限界を迎えてもおかしくないところまで来ているのだ。それでも、ライスさんは諦めてはいない。
ライスさんのまっすぐな瞳が、小鳥遊トレーナーを捉えて離さず・・・けれど、確かな覚悟が横から見る私でも分かる。
「・・・分かりました。あと一回だけです。」
「っ・・・はい!」
ふたたび、小鳥遊トレーナーの合図とともにライスさんが走り出す。
さっきよりも、少し早めのペースで・・・それでも冷静に。
「メグルさーん、ちょっと来てくださーい!」
と、ナラクさんに呼ばれる。私は、大きな声で返事をして、ナラクさんが居るベンチへと向かい、サポート科のウマ娘の仕事を始める。
ライスさんも頑張っているんだから、私も頑張らないと・・・。
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「ふぅ・・・皆さん、お疲れ様です。」
私がそう声をかけると、ナラクさんとベテルギウスのサポートウマ娘さんたちは返事を返してくれる。
今日は珍しくシリウスとベテルギウスのトレーニングが早めに終わり、夕方になる前にトレーニングは終了した。後は私たちが用具を片付けるだけになっている。トレーナーさんたちはトレーニング後に会議があるそうで、申し訳なさそうに頭を下げつつ学園内部へと去っていった。
私に言われるわけもなく、みんながそそくさと器具や用具の点検を開始して、問題が無いようであればすぐさま片付けに入る。
私も持ってきたクーラーボックスを片付けるべく、手を伸ばした時・・・
「あ、あのお姉さま!」
ライスさんに声を掛けられ、振り返ると制服姿のライスさんがそこにいた。
「で、ででで、デートしませんか!?」
瞳の模様をぐるぐるさせながら、顔を赤くして叫ぶライスさん。絶対これゴルシが余計な事教えたでしょ。
ライスさんにデートに誘われはしたものの、私にはサポートウマ娘としてのお仕事がまだ残っている。そんな中すぐに帰ってしまうと他の人にも申し訳ない。
その為、どうやって断ろうか考えていると・・・
「あ~、今日は一人少なくても片付けられるな~。」
「一人ぐらいならすぐに帰っちゃっても問題ないよね~。」
「そうそう~、私たち忙しいから一人無断で帰っても気づかないかも~。」
・・・白々しいほどの棒読みでナラクさんたちが私に向けてそう言ってくる。意図は分かるのだけれどもう少し普通に言うことはできないのだろうか・・・。
実際、私も最近働きすぎかな?と、感じることはあったので・・・今日ぐらいはゆっくりしてもいいのかもしれない。
ライスさんに人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーして、ナラクさんたちがわざと目を離してくれている間にベンチにおいてある学生鞄を手に取り、ライスさんと一緒に練習コースから立ち去る。
「・・・え、えへへ。お姉さまをお持ち帰りしちゃった。」
「こら、どこでそんな言葉を覚えたんですか?」
「えっとね?ゴールドシップさんがこういうとお姉さまが喜ぶって」
「ゴルシ・・・。」
ライスさんに変な事を教えたゴルシにはあとでキツイお灸を据えることにして、ライスさんの歩幅に合わせてゆっくりと歩く。
すると、ライスさんが私の手を掴み、そのまま恋人つなぎにしてくる。特に振り払う必要もないので、むしろこっちから少しだけ強く握ってみる。
まさか私が握り返すだなんて思ってもみなかったのか、ライスさんはまた瞳の模様をぐるぐるさせて顔を真っ赤にする。
「は、ははは、はやく行こう!お姉さま!!」
「くすっ・・・もちろんです。ライスさん!」
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side:ゴルシ
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嬉しそうに歩くライスと、最近働きづめで疲れていたメグメグが笑顔になりながらデートの目的地へと向かっていく。そんな二人をアタシらは追跡して・・・アタシはほっこりとしている。えっ、なんでアタシがデートに誘わなかったのかって?いや、だっていつでも誘えるし・・・。今回は
話を戻すと、アタシはほっこりとしているのだけれど・・・アタシ以外の追跡者は、一人は嫉妬の炎を燃やしているし、一人は今にも飛び出しそうだ。
「ぐぬぬぬぬっ、後輩だからと思っていたら、わたくしより先にメグルさんをデートに誘うだなんてぇ・・・ゆるせませんわっ!!」
「いや、”わたくし、どうメグルさんとお出かけを誘えばいいのかわかりませんわぁ”ってアタシに泣きついて、アドバイスしたのにヒヨって誘えなかったのはどこのお嬢様だったっけ?あと学年的にはライスの方が先輩だからな?」
「・・・メグルが、デート。お姉ちゃんとして、成功するかどうか見極めないと・・・。もしちょっとでもメグルに変な事をするのなら私があの場に突入して・・・!!」
「カフェ、いくらお姉ちゃんでもやっていいこと悪い事があるんだよ!?」
「いい加減妹離れとか―――(カフェにジト目で見つめられる)あ、はい。なんでもないです。」
とまあ、暴走しかけているマックイーンとカフェを止めるために来たのだが、正直止められる自信はない。
マックイーンに関しては、アタシよりボケ力が上回っている時、アタシではどうしても止められないし。カフェに対しては、どうやったって頭が上がらない。頼む、噂のカフェのオトモダチってヤツ・・・カフェを止めてくれ。(ごめんなさい、最近私でも止められません。)
・・・ともかく、この二人が飛び出さないようにしつつ、ライスのデートが成功するように祈るしかねぇ!
まず最初にライスがデート場所として選んだのは、おしゃれな喫茶店。ランチメニューで予約限定のふわふわなパンケーキが食べられると噂の喫茶店だ。
ライスとメグメグが入店すると、二人が近くで見たいがために強引に入ろうとするが、何とか説得して遠目で眺めるだけになった。
ときどき、通行人に不審な表情で見られるけれど、マックイーンとカフェは真剣な表情で喫茶店の窓際席で例のパンケーキを食べる二人を眺めている。
「まずはランチですか・・・。ここの喫茶店を選択するということは、いいチョイスでしょうけれど。それはそれとしてメグルのあーんは許しません。それはお姉ちゃんたる私の特権です。」
「あのパンケーキ、とてもおいしそうですわね。今度わたくしがメグルさんを誘うときに参考にさせていただきましょうか。あと、カフェさん?あーんされる特権は、対等なパートナーであるわたくしのモノですわ?お間違えの無いように。」
・・・そんな軽口を言い合う二人だが、目が笑っていない。
不穏なオーラがひしひしと伝わり、通行人も目をそらしたり見ないフリをしてそそくさと立ち去ってゆく。そうだ、できるだけ関わらないでくれ。そして正直アタシももう帰りたい。いくらゴルシ様とはいえ、こういう空気を変えることはできないのだ。特に、この二人のこういう時に関しては!!
しばらくすると、ライスとメグメグが喫茶店から出てきて次の場所へと向かう。ライスが次のデート場所に選んだのは映画館。そこで最近話題のとある映画を見るようでチケットを二枚購入して塩バター味のポップコーンを買って奥へと進んで行った。アタシも気になっていた映画だったということもあり、今度はマックイーンとカフェを止めずにチケットを3枚購入して(アタシはチュロスを買った。)奥へと進む。
映画の内容はウマ娘とトレーナーの恋の物語を描いたもので、本格的なレースや引き込まれるような演技もあってかマックイーンとカフェは映画に見入っていた。そんな中、アタシは今までのループの中で見たことがあるのを思い出して見入るふりをして、チュロスを頬張りながら脳内チェスを楽しむことにした。ちなみに、この映画はメグメグも見たはずだが・・・アタシとは違って懐かしむように映画を見ている。(ライスも、マックイーンとかでと同じように映画に見入っている。)
[映画のエンディング]
・・・1時間30分ほどの映画が終わり、映画館を後にする。
当初の目的である尾行を忘れて、マックイーンとカフェは近くの喫茶店で感想会を開くようだ。アタシは感想会は遠慮して、ライスとメグメグにばれないように静かに尾行する。マックイーンとカフェは少し残念そうにしていたけど、アタシにはあの映画は合わなかったと適当言って納得してもらったので、特に不信感を持たれることないだろう。
さて、尾行しているうちにライスとメグメグは高台にある公園にたどり着く、アタシはそれを草陰から見守ることにしたのだけれど・・・この公園にたどり着いて、ベンチに座っても話し声は聞こえてこない。二人とも静かにその場所から見下ろせる景色を眺めている。
けれど、アタシが飽きて帰ろうとした途端―――
「ねえ、お姉さま。今日のデート・・・どう、だったかな?」
と、ライスがメグメグにそう聞いた。
「そうですねぇ・・・とても、楽しかったですよ?久々にお金もそこそこ使っちゃいましたし。」
「よ、よかったぁ・・・。」
ニコニコと本当の笑顔を浮かべているメグメグと、デートが成功したのがうれしいのか胸をなでおろすライス。その光景だけでも、姉妹のように見える。
ライスは今回のデートは復帰した後から計画しており、何度かアタシに相談したこともあった。どうして急に誘おうとしたのかは、アタシにもわからないけれど・・・マックイーンのような感情は向けられていないのは分かったから、協力はした。
「それにしても、どうして私にデートを?」
・・・どうやらメグメグもデートに誘われたことを疑問に思っていたみたいだ。
「えっとね、いつもサポートしてくれていることにありがとうって伝えたくて。」
「・・・くすっ、もう、ライスさんったら。」
メグメグはライスの答えが気に入ったのか、優しくライスの頭をなで始める。
本当にそれだけみたいだ、アタシも・・・ちょっとだけ疑いすぎたのかもしれない。姉貴分として失格だな。なんて思いつつ、静かにその場から立ち去る。
よし、帰ったらとりあえずメグメグにどうやって謝ろうか考えないとなぁ・・・。
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side:ライスシャワー
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「じゃあ、お姉さま、また明日!おやすみなさい!!」
「はい、ライスさんも気をつけて、おやすみなさい!」
・・・お姉さまと帰り道で別れて、栗東寮への道を歩くお姉さまの背中を見送る。
その背中が、懐かしくて・・・そして、同時に寂しさと申し訳なさがこみあげてくる。それをグッとこらえて、ライスも美浦寮への帰り道を歩き始める。
「頑張るから・・・いつも応援してくれるみんなの為にも、それに―――」
「―――もう、メグルお姉さまを悲しませないためにもっ」
小さな声でそう呟き、間近に迫った春の天皇賞に身構えるのであった。