前回のあらすじ
ライスシャワーとデート、そして小さな決意
―――春の天皇賞。
そんな春の天皇賞が開催される京都レース場は、溢れんばかりの人で覆いつくされている。その数を大雑把に言うのなら、夏のコミックマーケットぐらいの人だかりだ。デジタルさんがそう言っていたので間違いはないと思う、多分。そして、そんな京都レース場にいる観客の皆さんが望んでいるのは多岐にわたる。
【”シリウスの名優”メジロマックイーンが、古強者の意地を見せ勝つのか?
つい3週間前、突然復帰し瞬く間にこのレースへの出走権を掴んだ”サイボーグ”ミホノブルボンが勝つのか?
はたまた、地方トレセン学園からの刺客・・・”狩猟姫”スケアリーハンターが、このレースも狩猟を完了させるのか。
それとも、またライスシャワーが横から勝利を盗むのか。】
期待と興奮、そして怒りが混ざった会場の雰囲気は警備員や警察官が増員されていても、今にも爆発しそうなほどの熱気となってこの
先ほど終わったパドックでは、問題こそ起きなかったものの・・・ライスさんが紹介された途端に空気感が若干怪しいものに変わっていたが、特にそれらしい問題は起こっておらず、罵声やブーイングの一つも起きなかったぐらいだ。
「・・・失礼。」
「うぇっ?!す、すすすっ、ストームロード先輩!?」
「ピエッ!?」
「おっ、おちつくのよ・・・動かなければ襲ってこないわ。」
シリウス3人娘が騒ぎ立てる。どうやらいつの間にかロードさんが、私たちが居る場所に来たようだ。
最近では私用で休学が多かったみたいだけれど、心配の必要がなさそうなぐらい元気そうだ。
「お久しぶりです、ロードさん。」
「・・・ああ。・・・どうだ?」
「はい、私は元気ですよ!それにしても、どうしてロードさんがココに?」
「・・・血縁者、応援。」
「なるほど、このレースに従妹さんが出走されるんですね。」
いつものロードさん翻訳をしていると、周りから変な目で見られてしまう。失礼な、ロードさんの言いたいことが分かるだけだよ!?そんな頭のおかしい子のような眼はやめて!?実際にロードさんはそう言ってるんだからね!?
「・・・このレースは、荒れる。」
「ロードさんも、そう思うんですか?」
「・・・・・・残酷なほどに。」
「・・・いいえ、勝ちますよ。きっと。」
「・・・いい、返事だ。」
ロードさんはそう言いながら、私の頭を優しくなでてくれる。
頭なら撫でられてて慣れていると思ったのだけれど・・・ロードさんに撫でられると、どういうわけか他の人とは違い温かい気持ちになる。
少しだけ照れくさいけれど、なんだかうれしいな。
「「尊ーーーーっ」」
「あぁー!お手洗いから帰ってきたデジタルちゃんとネットサバイバーちゃんが倒れた!」
「いつものことなの~」
「なんだか安心する光景だなぁ・・・。」
=====
side:ライスシャワー
=====
地下道の出口付近で、ライスは深呼吸をする。
となりには緊張した様子がないマックイーンさんが、堂々と胸を張っていた。
もうすでに、
・・・でも、少しだけ怖い。パドックだと、ライスが出た途端に・・静かになった。ライスの前の人まで上がっていた歓声が、一気にしーんとしたときは、心臓が少しだけきゅっとなってしまった。もし、ライスがココから出た時、同じようなことをになれば・・・
なんて考えていると、マックイーンさんがライスの手を掴んだ。
そのままライスの手をマックイーンさんの手が覆う、マックイーンさんの顔を見れば・・・その表情は、とても優しいものだった。
「・・・マックイーンさん?」
「落ち着きましたか?」
「は、はい。」
ライスがそう言えば、マックイーンさんは笑顔になって手を離す。
離された手は、ほんのりとマックイーンさんの暖かさが残っていて・・・それが何だか名残惜しく感じてしまう。
・・・前も、こんなことがあったなぁ。
「
「・・・それって」
「ええ、
さっきまで、ライスを心配してくれていたマックイーンさんは、今度はギラギラと熱意を露わにする。
・・・マックイーンさんは、本気なんだ。本気で、この春の天皇賞を勝ちに来ている。
きっと、ライスじゃあ叶わないかもしれない・・・でも、
「ライスも、負けません。もう、負けないって・・・折れないって決めましたから。」
もう、悲しんでる必要なんてない。
だから、相手が誰だろうと・・・ライスは折れたくない。
「ふふっ、その意気ですわ。さあ、行きましょう。ライスさん。」
「・・・はいっ!」
ライスはマックイーンさんと一緒に地下道から出てターフの上に立つ。
太陽の光で目がくらんだ後、青々とした空とターフが視界いっぱいに広がる。見慣れた光景、そして走り慣れたターフ・・・ライスは、このレースに勝つために来た。
その第一歩を、
~~~~~
「さあ先週の大雨を忘れさせるような気持ちいい春の晴天の中、18人フルゲート、G1レース”天皇賞・春”が始まろうとしています。実況はいつものお姉さんことリードモデレーターと、解説には葉矢車さんをお招きしております。葉矢車さん、今回のレースどうなるのでしょうか。」
「そうですね。まず注目してほしいのはもちろん1番人気3枠のメジロマックイーンさんでしょうね。この天皇賞・春の3連覇がかかっており、また衰えを感じさせない実力がまさに”ターフの名優”の異名にふさわしいです。
次に注目してほしいのは、1枠2番人気ミホノブルボンさんです。菊花賞の一件以来療養していた彼女ですがつい3週間前に復帰、療養していたとは思えないほどの実力をつけて戻ってきました。そのレースは機械的で、見る人によってはつまらないと感じるでしょうが・・・彼女の走りは完璧の一言を付けざるを得ません!
3人目は、14枠3番人気のスケアリーハンターさんですね。彼女の走りは力強く、また安定した走りを見せてくれます。日経賞ではワープと見間違えるほどの末脚を披露していますから、今回のレースでもそれが発揮されるかどうかで勝敗は変わるでしょう。
あと、これは個人的な解説なのですが、私が注目しているのは17番8番人気のライスシャワーさんです。彼女の走りはマックイーンさんに似ているものの、ライスシャワーさん独自の技量が盛り込まれており、どうなるか分からないでしょう。場合によっては彼女がレースを掴むかもしれません。」
スピーカーで聞こえてくる実況さんと解説さんの言葉を聞き流しつつ、レース前に気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、ライスはライスのレースをすれば必ず勝てる。
「・・・ライスさん。」
「・・・ブルボンさん。」
気持ちを落ち着かせていると、ブルボンさんに声をかけられる。
もちろん、ただの世間話なわけでもないし、それに言葉が必要なわけでもない。
「逃げ切って見せます。」
「・・・勝つのはライスだよ。」
ジリジリと、ライスとブルボンさんの間に火花が散る。
変わっていないブルボンさんに安心するのもつかの間、ゲートに入るように指示される。
一人、また一人とゲートに入っていって・・・ライスの隣に、ハンターさんが入ってくる。
「・・・今度は、油断しませんから。」
「ふふっ・・・それは楽しみだ。」
最後の一人が入り、走り出すために構える。
「さあ全員がゲートに入りました・・・今スタート!
ミホノブルボン、
良かった、実況さん達からすら
いまライスが居る位置は、ラムダイムヤさんの少し前、マックイーンさんを見逃さない位置取りだ。ブルボンさんとマックイーンさん、そしてハンターさんはライスに気付いているみたいだけれど、他の人はライスに気付いていないみたい。
「き、気を取り直して、第1コーナーを回って第2コーナーへ、おぉっとミホノブルボンが
「とても素晴らしいコーナリングですね。」
「続く様にブルードッグスピア、ノーフェイスキング。そしてウマ娘たちが歓声を浴びつつスタンド前を駆け抜けて行きます。順位を振り返っていきましょう、快調に飛ばしていますミホノブルボン、
あ、あまり探さないでほしいかな?ちゃんと走ってはいるし・・・。
ともかく、ライスは静かに
「・・・コホン、春の天皇賞3連覇がかかるメジロマックイーン、京都レース場は歓声に包まれています!偉業に向けて気合いも十分!堂々とした走りで現在4番手の位置につけています!
さあ、向こう正面に入り第3コーナーへ!各ウマ娘、徐々にペースを上げながら淀の坂を下って行きます!」
【貴顕の使命を果たすべくLv.9】
マックイーンさんが最終コーナー直前で勢いよく走り出していく。
・・・そろそろ、仕掛けよう。
【 Invito da Dark Shadows Lv.3】
「あぁあああっ!ら、ライスシャワーが居た!ライスシャワーがメジロマックイーンの真後ろにいた!!勝負を仕掛けたメジロマックイーンに待ったをかけた!!」
・・・聞こえてくる。マックイーンさんの息遣い、鼓動・・・そして、驚きと焦り。
この日の為に、ゴールドシップさんといっぱい練習してきた。トゥエルブライフさんに頼んで何度も試させてもらった。後は、走りぬくだけ。
マックイーンさんについてく!
「メジロマックイーンとライスシャワーがノーフェイスキングとブルードッグスピアを抜かし、ミホノブルボンに迫る!!先頭はミホノブルボン、最終コーナーを回って最後の直線に入りました!!」
【G00 1st.F∞; Lv.8】
「ミホノブルボンが逃げる!最後の力を振り絞り直線を駆け抜ける!!しかし、メジロマックイーンが逃がさない!!さらに外からライスシャワーだ!マークしていたライスシャワーが徐々にその差を詰めてきた!!」
最後の直線で残しておいた力を振り絞る。でも今この時、一番警戒する必要があるのはブルボンさんでもマックイーンさんでもない・・・
ゾクッ・・・
―――来たッ!!
「さ、最後方からスケアリーハンター!?ものすごい末脚で追いかけてきました!!並んで先頭を奪い合うのは何と4人!誰が勝つのか分かりません!!ミホノブルボンが先頭をキープしていたがスケアリーハンターが奪い取る!!いやライスシャワーだ!ライスシャワーがさらに先頭を奪い取った!!メジロマックイーンはここまでか!?」
・・・そんなわけがない、ブルボンさんもハンターさんもそれは分かってる。
こんなところで、マックイーンさんが諦めるわけがない。
【導きの
「め、メジロマックイーンが先頭を奪った!まだ沈まないターフの名優は終わらない!!残り300m、横並びです!!ミホノブルボン、メジロマックイーン、ライスシャワー、スケアリーハンターが並び合ったまま、今、ゴールイン!!」
・・・ゴール板を越えて、徐々に速度を落としていく。
歓声の上がっていたスタンドですら痛いほどの静寂に包まれている。
「ただいま写真判定中です。暴動を起こさないようにお願いいたします。」
実況のお姉さんのスピーカーを通じて響く声だけが、京都レース場に響く。
最後にバクハツトラックさんが「ほあぁぁ~~~~!」と叫びながらゴール板を抜けても、未だに写真判定の文字は消えない。
「長いですわねぇ~・・・」
「ええ、長いですね。」
「ふっ・・・長いな。」
「えっ、えっ。えっ?」
いつの間にかライスを取り囲むようにマックイーンさんたちが立っている。
「驚きましたわ、あんなプレッシャーをかけられるなんて思っても居ませんでしたもの。」
「先頭を走っていた私ですら感じるほど、凄まじいプレッシャーでしたよ。」
「初めてだよ、私が恐ろしいと感じたのは。おかげで
「え・・・えへへ、が、頑張って練習したんだ~。」
三人がそれぞれ、ライスが新しくできるようになったものを褒めてくれる。
マックイーンさんがうんうんと嬉しそうに頷いて、ブルボンさんはライスを抱きしめて、ハンターさんはライスを撫でている。
・・・やがて、
「お待たせいたしました、今回の春の天皇賞、勝者は・・・ライスシャワーとミホノブルボン!同着、同着です!!3着はメジロマックイーン!4着はスケアリーハンターの順番となりました!!」
「っ!やりましたね、ライスさん。」
あっちょ、ブルボンさんふりまわさーーー
=====
side:スケアリーハンター
=====
ミホノブルボンが、ライスシャワーを抱きしめたまま、ぐるぐると回って振り回している。
私はそれを横目に、スタンド席にいる従姉・・・ストームロードを見つけて、近寄る。偶然、シリウスのメンバーがいるが・・・まあ構わないだろう。
「いい走りだった。」
「負けてしまいましたけどね。」
「楽しい、レースだったな。」
「ええ・・・違いありません。」
「・・・嬉しいか?」
「バレましたか。」
てへ、と舌を少し出す。
・・・負けて、ここまで気持ちがスッキリするのも久しぶりだ。
「私は友やライバルの価値を忘れて自惚れていました。自らを狩人と名乗り、獣を狩ると嘯いていて・・・お恥ずかしい限りです。」
「・・・いい、表情だ。」
「あなたほどでは、笑ってますよ?」
「別に、いいだろう。」
「ふふっ。」
あの景色、ライバルの勝利を祝い、次は負けないと宣言する。
(いろんなところに、謝らなければな。不遜な態度をと・・・った、ことを?)
・・・やがて私は、とある疑問にたどり着く。
どうして私は、そこまで増長していたのか。どうして途中で、思い返すことができなかったのか。
これではまるで、まるで・・・
(・・・そうか、やってくれたな、妹君。)
―――最初から、私は首輪をつけられていたわけだ。
「ぶ、ブルボンさん落ち着いてくださいまし!ライスさんが伸びておりますわ~!」
「はっ・・・ら、ライスさん?!」
「・・・ふふっ。」
その事を追求するのは後にしよう、今は彼女たちを落ち着かせ、この後のライブを完遂することが最重要だ。
(ライブ終了後)
[携帯のコール音]
『[ガチャッ]どうかしたのか、狩人。あぁ、まずはこの言葉を贈ろう。天皇賞は残念な結果だったな。』
「妹君、今更そのような言葉を贈る理由・・・気付かないとお思いで?」
『・・・フッ、さすがに感づくか。よく気付いた・・・というべきか?それとも、友情で解けたのかな?』
「戯言を・・・いつから私にその能力を使っていた。」
『クハハッ・・・最初からだよ、ハンター。キミを計画に誘ったときから、ずっとだ。キミは面白いように忠誠を誓ってくれていたよ。』
「いくらロードの妹君とは言え、此度の件・・・見逃すわけにはいきますまい。」
『だが、ストーム家の継承者は・・・
「ロードを・・・自らの姉を侮辱するか!」
『・・・凱旋門を挑めすらできない姉になど興味はない。むしろ不愉快だ。』
「もう貴様とは手を組まん。私はゴールドシップ側につこう。」
『好きにすると良い。どんな手段を使っても、
[通話の切れる音]
「・・・魔王めッ!」
固有スキル紹介!
【Invito da Dark Shadows】
小さながんばり屋【ぜつぼうの淵】編をクリアすると、特別なライスシャワーを貰える。
そのライスシャワーの固有スキルがコレ。
効果はマークしていた相手が固有スキルを発動した場合に発動。
自分以外の固有スキルの発動を阻害し、自身はとても加速する。
しかし、継承固有スキルには効果がない。
【嗚呼、
ウマ娘が最も恐ろしいと感じる気配を発し、自分以外のウマ娘を怯えさせる。
怯えたウマ娘は、掛かり時より倍のスタミナを消費する。
発動条件は、中盤で後方集団に位置し自分が追い抜かされること。