アイズによく睨まれるんだけど多分絶対に黒竜のせい   作:川瀬ユン

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狂ったようにプロセカとOWやってました


(オリ主が俗物なのは)間違っているかもしれない

 

 

 早朝、朝日が雲の間から僅かに差す、静寂が広がる時間帯にグランは大通りから外れた喫茶店に入った。

 

「マスター、すまないが……」

「…………」

 

 こんな時間から客が居るわけもなく、一人カップを磨いていた店の主人はグランに目を向けたと思えば、胡乱な眼差しで突いてくる。

 目配せで貸し切りを頼む。美の女神と密談していたとオラリオ中に広まったら、堪ったものではない。

 

 唯でさえ多い闇討ち地味た襲撃がこれ以上増えれば、色々とまずい。偶に襲ってくるやたらと強い猫獣人や四人組の小人族、エルフとの戦闘では魔法の使用も躊躇う余裕もなく、必然的にアミッドやリヴェリアからの説教が待っているのだ。

 

「マスター、紅茶と…………」

「じゃあ、私も同じのを」

「……!? お前さん…………はぁ」

 

 凛と響いた、『美』が限りなく込められた声。

 目を見開いた店主はグランをじっと見つめ、頭痛を堪えるように息を吐きながら茶葉を取り出し、何も言わずに準備を始めた。

 最大限の感謝を目で伝えたグランは窓辺の席に腰を下ろし、ローブの下に微笑みを隠した女神と今一度、対面する。

 

 銀糸を思わせる髪がローブの奥に見え隠れし、姿を見せずとも圧倒的なまでの美しさを醸し出している。フレイヤは意図的に神威を抑えているにも関わらず、それでも遍く人々を魅了する美貌を宿していた。

 

 こうして対面し、表面上は一切動揺しないグランもまた、黒竜の呪いがゆえの神威への耐性が無ければ、必ず目を奪われていただろう。

 

「いい雰囲気のところね。見た感じ、行きつけのお店なのかしら?」

「あぁ、かなり前からの付き合いのおかげで、こうした急な事にも、多少の融通が効く」

 

 肩をすくめながら皮肉めいた事を言うグランに、フレイヤの微笑は崩れない。

 鳥のさえずりと、茶を淹れる音のみが広がる空間で、グランが話を切り出した。

 

「それで、貴方ともあろう神が、一体全体俺に何の用だ」

「あら? 気になる子供に話しかけるのに理由はいるかしら?」

「それは……光栄と言うのが正解か?」

 

 下界の者なら放心するような、甘く蕩けた声音に対して、やはり眉一つ動かさずに鉄仮面を崩さないグラン。

 そんな様子を見て、フレイヤはローブの下で笑みを深めた。

 

(纏わりつく黒炎と、揺らぎながらも崩れない…………神威への耐性、『美』もやっぱり効かない……!)

 

 神でも一見して変化が見えないその表情、しかしフレイヤはその奥───グランの『魂』をしかと見た。

 

 面と向かって会うのはこれが始めてだが、前々からフレイヤはグランに興味があった。

 言ってしまえば、彼の今までの功績が故に。

 

 暗黒期、年端もいかない少年でありながらの活躍に始まり、過去に闇派閥の神が放出した神威を無視し、あろうことか()()()()()()()()()()()()()という前人未到の偉業を果たしているのだ。

 

 知れば知るほど興味が止まらない愉快な子供。それがフレイヤのグランへの印象だった。

 

(魂に揺らぎが見える……やっぱり、この子の神威への耐性は完璧じゃないわね)

 

 しかし、想定外──いや、想定以上。その輝く魂はフレイヤの瞳を捉えて離さなかった。

 その目を焼く魂を前にして、美しいと、それが欲しいと、純粋にそう思った。

 

「貴方、私のところ来ない?」

「…………そういうことは、もう少し後に来ると思っていたんだが」

 

 率直に伝えた言葉に対し、僅かに眉をひそめるグランを見て愛おしさが生まれる。

 鉄仮面に見えて魂の動きと合わせれば、一部の感情が読み取れた。

 

(困惑…………でも揺るがない。もうちょっと揺さぶってみようかしら)

 

「それだけ貴方が欲しいって、思ってるのよ?」

「それは光栄だが、美の神からの勧誘は破滅の呼び声と、昔からロキから言われていてね」

「ふぅん……? 貴方が『破滅』なんかに堕ちるとは思えないけど?」

 

『あの男に、レベルの一つなど意味をなさないでしょう。全力でぶつかれば───我が身とて、どうなるか分かりません』

 

 フレイヤの脳裏にオッタルが言っていた言葉が思い出された。

 黒竜の力、その一端を自身の権能として操る青年が今まで何度も『破滅』に近しい『異常』を踏破してきた事をフレイヤは知っている。

 それこそ古代の『英雄』にも劣らない格上殺しを成すこの青年が破滅に堕ちるなど、想像がつかなかった。

 

(それにしても、固いわね。そういうところも可愛いのだけれど、少しぐらい驚いた顔も見てみたいわ…………)

 

 神からすれば軽いお遊びのようなもの。

 ふとあの鉄仮面が剥がれる姿が見てみたいと、そう思って───何の予兆もなしに、限定的に神威を解放した。

 広がっていく銀の粒子は『美』そのものであり、紅茶を淹れていた老店主が石像のように固まる。

 いや、辺り一帯の時が止まった。そう感じるほどに、世界から音が消え失せた。

 神であろうとも魅了するその神威は、遍く下界の生命を骨抜きにする。抗うことなど不可能、そんな自然の摂理に似た理不尽。

 だが、

 

「───戯れはやめろ」

 

 それを黒炎が()()()()()

 見えたのは一瞬、顕れたのは刹那。

 その瞬刻の内に左腕から迸った焔が銀の粒子を喰らい尽くし、世界に時が戻ってくる。

 

「俺個人への戯れはいい。だが今のは、境界線を超えていたぞ神フレイヤ」

「…………そうね。今のは私が悪かったわ、少し、はしゃぎ過ぎちゃった」

 

 神威に当てられたからか、呆けた足取りでカップを運ぶ店主を尻目に睨むグランに謝罪する。

 オラリオに長くいれば、神の戯れに嫌でも慣れてしまう。

 

(これ、長くなりそうだな…………いやもう美の女神様の美貌を堪能するしかないだろこれ)

 

 跳ね上がり続ける心拍の果てに辿り着いたのは限りなく俗物に近い開き直りだった。

 ショートを繰り返した思考はまともに機能せず、元から高いとは言えないIQはサボテンと同等まで下がっている。

 ため息を一つ溢し、諦めたように紅茶を一口飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ、なんで俺フレイヤ様のこと抱えてんの? 体柔らかすぎだろ、惚れるぞ???)

 

 フレイヤを抱え、フレイヤ・ファミリアのホームにひた走りながら、グランは脳内に特大の疑問符を浮かべた。

 

 フレイヤから話を振られ、それに答える。そんな一般的な茶会に近しいやり取りの後、気づけば帰りの付き添いをすることになり、何故か俗に言うお姫様抱っこをして街を駆けている。

 

 会話の中でも何度かど壺にはまる感覚があったが、返事を返すのに精一杯で意識を向けることなど出来はしなかった。

 しかし、拝み倒せるほど整った顔を眺めた結果、グランのコンディションは理論値に近しいほど上がっている。

 

(おっしゃ、フレイヤ・ファミリアがなんだ。オッタルだろうがかかってこいや!)

 

 テンションとイキリ具合も理論値に近しいほど上がっている。内心で済んでいるからいいが、本当に喧嘩を売れば被害の規模にロイマンが三回は気絶するだろう。

 

(てか、フレイヤ様エグすぎない? いい匂いするし体凄く柔らかいし、偶に聞こえる吐息エッッッっ!!!! バイノーラルだろこれ。あれ? 俺DLsiteで買ったんだっけ?)

 

 さほど残っていない前世の記憶を使ってR-18ボイスに改竄するのはやめろ。

 

 魅了には抵抗できているのに本人の耐性が低すぎた。グランは優しくされれば、すぐ絆されるぐらいにはチョロい。そんなチョロ男が女神の破壊力に抗えるわけもなく、見るに堪えない無様を晒していた。

 

「貴方の腕、逞しいわね。これから先、その腕で私を包んでくれないかしら?」

「…………申し訳ないが、御免蒙らせてもらう。俺も命が惜しい」

 

(は──ー声良すぎだって。本当に好きになっちゃうからやめて欲しい…………いやガチで揺らいでるんだけど!!)

 

 こいつ、これで明日から遠征って信じられるか? 

 

 

 

 

 

 

 

(良い、本当に欲しくなっちゃった)

 

 グランの腕の中で、フレイヤは思考を回していた。

 考えているのは、今も輝くグランの魂。

 魂を侵食しようと蠢く黒炎に魂は揺らぎ、しかしその恒星のような白光は陰りを見せず、煌々と極光を放っている。

 

 ただ、その輝きに目を焼かれた。

 不屈の精神と、未知に溢れたその全てが、自分の手元にあればどんなに良いだろうと思えた。

 高鳴る鼓動は『恋』の始まりにも似て、フレイヤの体を火照らせる。

 

(どうやってこの子を落とそうかしら───)

 

 熱に浮かされたように浮かべた笑みは、極上すら容易く塗り替えるほどに、美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日、月明かりがオラリオに静寂を伝えた頃、廃教会の地下にて、神───ロリ巨乳女神(ヘスティア)は眷属のステイタスを更新する裏で唸っていた。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 力:G105→G116

 耐久:I67→I79

 器用:H134→H147

 敏捷:H174→H189

 魔力∶I0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

(トータル50超え……!? 一週間ぐらい前から感じてたけど、【経験値】の質と量が跳ね上がってる……?)

 

 更新したステイタスに描かれる、一週間前とは比にならない上昇値。

 目を疑わずにはいられない不自然な増加に、ヘスティアは眉をひそめる。

経験値(エクセリア)】とは、その眷属が経験した事象であり、成し遂げた軌跡、その質と量の値である。それは即ち、同じ内容でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ヘスティアは知らないが、グランの指導により鍛えられ、日々の探索でその教えを反復するベルの【経験値(エクセリア)】は見違えるほど上昇している。

 グランの教え、能動的な戦闘思考と戦闘後の再思考はベルの経験を通常よりも上質な物へと変えていた。

 

(それに、なんかスキルになりそうな【経験値(エクセリア)】もあるし…………なんだか怪しいぞぉ?)

 

 感じた違和感。

 ベル個人だけでの成長と言うには、いささか急すぎる。何か、それこそ外的要因によるものだと言われた方が納得ができる。

 

「はい、更新内容。…………さてベル君」

「ん? なんですか、神様?」

 

 こてん、と首を傾げる白兎に胸がキュンとし、抱きしめたくなるが我慢し疑問をぶつける。

 

「いやなに、最近良いことでもあったかい?」

「え、えーと…………特に何もないですよ……?」

 

 (ダウト)! 

 動揺からか声は軽く震え、目も泳いでいる。そして、何より、神に嘘は通じない。

 ミョンミョンとヘスティアの髪が被告人(ベル)を咎めるように叩く。

 

(なんだ? 何か怪しい奴らに騙されてるんじゃないのか……? ベル君、めちゃくちゃ純粋だからな…………)

 

 そんな模範的な神としての思考の裏側に広がるのは、メラメラとした嫉妬の熱。理由が定かではないがベルの急成長の裏には自分ではない『何か』がいて、その存在はスキルに現れかけるほどベルに影響を与えている。

 

 その事実だけでもう十分だった。

 

(き〜〜〜!! 誰だ、僕のベル君に手を出したのは!! 僕以外にベル君が染められてるのが我慢ならないねっ!)

 

 そんなNTRれたみたいな感じで言わなくても…………。

 

 ヘスティアの邪念に似たオーラを感じ取ってか、ぶるりとベルの体が震える。

 本能的に、この状況はマズイと理解できる。

 鍛えられた思考回路が行動を弾き出すのは一瞬だった。

 

「ぼ、僕素振りしてきます!? 更新ありがとうございます!」

「あ、ちょ! ベルくーん!?」

 

 一瞬の隙を狙って上に乗るヘスティアから逃れ、素早くインナーを着込み、短刀を掴んで地下から出る。

 

 月明かりの下に逃げれば、夜の冷気が肺に吸い込まれ身を引き締めた。

 息を吸って、吐いてを数度繰り返した後、体に叩き込まれた軌跡の後を追うように刃を振るう。

 上書きするように描かれた自分の軌跡は理想のそれと程遠く、何度も繰り返すことで僅かに理想に近づいていく。

 

 ベルの中には、二つの願望があった。いや、一つから派生したと言うべきか、『英雄になりたい』という願望と『可愛い女の子との出会い』という願い。英雄色を好む、と祖父から教えら(洗脳さ)れたせいで、ベルの中でその二つの願望の比率は『出会い』に傾いていた。

 

 そんな中で出会った、英雄(グラン)

 その強さに、絶望するほどに遠いその姿に、心を揺さぶられた。

 子供の戯言のように、英雄みたいに強くなりたいと、そう思った。

 

(でも…………)

 

 短刀を振るう腕を止め、空を見上げる。

 

(強くなりたいって、思った)

 

 運命のような出会いでは無くても、鮮烈に刻まれた。

 

(でもそれは…………)

 

 果たして。

 その思いの矛先は、暗闇に隠されていて。

 

(僕は、どうなりたいんだろう)

 

 見上げた夜空に、答えは見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

(ああああああああああああ!!!!!!)

 

 ホームの自室で荷物を纏めていたグランは、内心で絶叫と共に頭を抱えていた。

 

(この一週間、ベル君の育成とアイズの睨み目に心持ってかれてたけど、椿んとこ行ってねぇじゃん!)

 

 手元にある黒鉄の大剣もかなり長いこと使った愛剣だが、Lv.6に至るため倒した漆黒の木竜の素材を、グランは椿に預けていた。

 

(預けてから結構経つけど、まだ作ってるぽかったし。そろそろ顔見せとこうと思ってたのに、俺完全に忘れてんじゃん!? この剣もそろそろガタが来始めてるし、主武装交換考えてたのに!)

 

 まだ完成してないにしろ、完成度合いの確認をしたかったと、心の内で咆哮する。

 現実ではじっと固まり、心では荒れに荒れる姿は、どちらも観測できれば混沌に相応しいだろう。

 

(…………もう知らね。寝よ)

 

 現実逃避。

 明日の自分に、荷造りの途中も悶々とした思いも放り投げて、ベットに倒れ伏す。

 こんな男が美の女神に鮮烈に刻まれてるって、信じられるか? 

 

 




次回からやっと本編(ソード・オラトリア) スタートです。
テコ入れベル君はかなりめちゃくちゃなテコ入れですけど僕の低IQじやこれ以上は思いつきませんでした。

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