咲-side story- A 作:小走やえ
朝練がある為にやえの朝は早く、家族の誰とも基本的には一緒に朝食を取れない。けど、その日は違った。
一重「おはよう、やえ」
やえ「おはよう姉貴…珍しいね」
一重「たまには、ね」
何気ない会話が嬉しい、いつもない会話だから。この時間を続けていたい思いはあるが、時間がそうさせてくれない。
やえ「それじゃあ、そろそろ行ってくるね」
一重「うん、行ってらっしゃい」
笑顔で手を振り、やえのことを見送る。当たり前の事だったことが今再び起きている、それが心から嬉しくてしょうがなかった。元気に返事をして玄関を出て行く。
………晩成高校、麻雀部部室。
やえ「良子、今年こそはI.Hのあの壁を越えて頂きへと足を踏み入れよう。私達にはもう、今年しかないんだから」
やえの神妙な顔から何かを察した良子は黙って、重く頷く。
日菜「大丈夫、私達は誇りを持って驕る事なく練習を続けてきた。簡単には負けない」
眼鏡を掛けた木村日菜が自信のある表情で語る。それにやえを始め、晩成レギュラーの面々が往々に頷く。
やえ「取り敢えずは、放課後の新入生歓迎会だな。そうだ、由華喋ってみるか?」
由華「む、無理です!先輩方の代わりなんて私にはとても出来ません」
やえ「代わりになる必要などないが、次代を背負うのは由華だろう。少しは人前に出て喋らなきゃだぞ」
由華「先輩方の代は、まだまだ終わりませんから」
が細く、弱々しい声、けれど由華の瞳には自信が充ち満ちており、少しはやえ達三年生を安心させる事が出来たみたいだ。
良子「さぁ、あと一回東風を打とう。それぐらいで丁度良い時間になるだろう」
良子がそう言って卓に着くと、やえ、由華、日菜が席に着き紀子が採譜を始める。こんな時間もいつかはなくなってしまうのか、と由華は思うのと同時に終わらせないと心に誓った。
東二局 7順目 ドラ 4萬
親 小走 やえ
一一四六七⑤⑥⑦⑧⑨ⅳⅵⅸ 引→ⅷ
やえ(配牌から手があまり進んでないな、ドラが邪魔になっているな。なら)
打→四
三四五六七八②②③⑤西西発
由華(この順目でのドラ切り、シャンテン数の優先か手役優先のどちらか、やえ先輩に好牌先打なんて薄っぺらい考えはない…つまり、ここは鳴く!)
「チー!」→四三五 打 発
ⅰⅰⅱⅲⅲ⑥⑧⑨中中中発白 引→白
日菜(仕掛けるの早いなぁ…でもおかげで面白いの引いたね。発は今の一枚切れ。チャンタを目指すのにも⑥は要らない、だから勿論)
打→発
(仕掛けが入ってるからね、日よったっんじゃないよ)
良子「ポン!」→発発発
東東南南南四四五六七⑨
打→⑨ テンパイ(四-東待ち)
やえ(テンパイ、か…高いな) 引-八
打→ⅸ
由華(来ましたね、あと1シャンテン。ただ良子先輩の牌姿が不穏な空気を醸してますねぇ) 引-④
打→西
日菜(鳴けば手が痩せていくだけだよ、良子ちゃん。見せてあげるよ、リーチの恐怖を!!) 引→⑦
日菜「リーチ!」 打→⑥ テンパイ(ⅱ待ち)
良子(チャンタの捨て牌にしか見えない…だが、リーチを掛けたって事は和了れると思ってるってことだよな。満貫張ってるんだ、降りる事はない!)引→ⅰ
打→ⅰ
やえ(ⅰをツモ切りしたって事は満貫以上、そして索子に目が瞳が普通でない動きをした日菜は索子テンパイの可能性が高い、引いてきたのは赤いⅴ…面白い)引→ⅴ赤
打→⑧
由華(⑧は日菜先輩にも良子先輩にも厳しい牌、つまりやえ先輩も好手。…私のこのテンパイは何を意味するのでしょうか)引→②
打→西 テンパイ(四待ち)
日菜(誰の目も打牌も諦めてないなぁ…一発ならず、か。やえがどうするのか)引→⑦
打→⑦
良子(一発はなかったがまだ中盤、ツモは誰にでも数がある…ドラでなくて良いから私の所に東がいてくれれば良しとしよう)引→北
打→北
やえ(ふふ、来たか。だが、最大の邪魔があるな…経験と観察眼を信じれば良子はドラと役牌のシャボ待ち、リーチを掛けた日菜はチャンタ本線の索子下待ち、由華は一矢を報いろうと待ちは悪いが他の二人には振ろうとは思ってないな。東風でこんな事をするのは私ぐらいかもしれないな、王者は魅せる姿勢を崩さない!)引→五
打→⑨ テンパイ(ⅶ待ち)
由華(分からないや、でもやえ先輩は多分出遅れてる。だからこのまま)引→⑥
打→⑥
日菜(あ、ここでこれ引くんだ…と、盲牌してるとばれちゃうよ)引→ⅴ
打→ⅴ
良子(ⅴね、また匂いが鼻をくすぐってくるぜ。待ちは上の三牌か下の三牌のどれかですってな)引→南
打→南
やえ(待ってろよ、お前たち。王者の道筋というのがどういうものが見せてやる)引→ⅲ
打→ⅷ
由華(!やえ先輩が攻めてる、これは不味いよ。待ちが悪い上に下手に動けないのに)引→八
打→八
日菜(あれ、私ってリーチを掛けたんだよね。おかしいなぁ…誰も降りてくれないし。恐怖を感じてるのが私になっちゃってる)引→七
打→七
良子(やえが来る前に!引け、私!…まぁ、厳しいか)引→③
打→③
やえ(だろうなぁ…ツモると思ってた、だからこそ私ぐらいだと感じたんだ、私だけの手順。親だからと言って手を緩める事はしない、それが私の打牌の意味だ)引→ⅶ
「リーチだ!」ゴッ! 打→ⅸ テンパイ(ⅱ-ⅴ-ⅷ待ち)フリテン
由華(来ちゃったよ、私には来てくれないのに…ううん、諦めないよ!)引→ⅷ
打→ⅷ
日菜(由華ちゃんがまっすぐ攻めてる、私はリーチを掛けてるから動きようもない、だから勝負だよ!やえちゃん)引→⑨
打→⑨
良子(さて、降りてしまえば東風だそのままズルズルと負ける事もある。満貫で親を蹴れたら最高だよな)引→六
打→六
やえ「一発は出来過ぎだな…ツモ!リーチ一発ツモピンフ三色赤裏1。8000オール!」ゴォッ!
良子「はは、フリテンリーチを一発かよ。やり過ぎだぜ」
由華「索子の上は大丈夫って確信があったのと、ドラを引かないと思い至らないと無理ですよね、そんなの」
日菜「私の和了牌…ずるい」
やえ「やっぱりか。まぁ、まだ二局だ終わりまでは半分の道のりだ、気を抜くなよ」
朝の麻雀はそのままの勢いもあって一位を取ることが出来たが、やり過ぎ感は否めない。あのⅶは和了るべきだったろうな…私も気分で打牌がブレるのは直さないとだな。
※小走やえ 最終手形 ドラ→四 裏ドラ→⑥
一一 五六七 ⑤⑥⑦ ⅲⅳⅴ ⅵⅶ ツモ→ⅱ
ただまっすぐ、魅せる姿勢の打牌。
それが今の小走やえの思う最高の打ち筋-!!