咲-side story- A 作:小走やえ
新入生歓迎会や仮入部期間も終わり、晩成高校麻雀部は一年生の本入部を受け集会を開いていた。
やえ「一年生の諸君、私が今司会の良子から紹介された部長の小走やえだ。私ら晩成は奈良の頂点として君臨し続けている、それゆえ意識の高い者が多く層も厚い。レギュラーとなるには困難な壁がいくつもあるだろう、然しだ諸君。実力主義であるうちでは実力を示せば誰にでもレギュラーの座を勝ち取る事が出来る、諦めなければ栄光を掴み取る事が出来るのだ。我々、先輩は勿論死に物狂いでレギュラーを勝ち取りに行く、守る。一年生の皆には是非、我々を追い詰めて頂きたい。以上だ…共に頑張ろう!」
部員一同が大きい声で返事をする。壇上に立つやえには壮観であり、その迫力たるや凄まじいものでる。
由華「先輩、お疲れ様です。一年生のみならず、2.3年生の士気もあがりましたね」
やえ「あぁ、今回は噛まなくて良かった……本当に」
苦笑しながらやえは思い出す。二週間前の新入生歓迎会の部活動説明で思い切り噛み、一年生の失笑や同部員達の喜色満面の笑みを。今でも良子や紀子にはネタにされ笑い者にされている、それがプレッシャーとなっていた。正しく話せた事への安堵感からか、肩を落とし溜息を吐く。
由華「あはは…」
良子「さぁ、部員の皆で今日より一週間を掛けて部内大会を開く。運も実力の内とは言うものの牌譜を採る、一打一打に説明が出来ない打ち筋をするものを皆の代表とはしない。それを考え、自分の実力を発揮するように!よし、皆割り振った卓に着いてくれ」
良子の指示を受けて一斉に動きだし、合図で各卓で戦いが始まった。
やえ「ふむ、良い打ち方をする。名前は?」
???「は、はい!岡橋初瀬って言います!」
やえ「そうか、初瀬」
初瀬「はい!」
やえ「二週間後に選考メンバーでの合宿をする、参加しないか?自分でも分かるだろうが、レギュラーはおろか補欠に入る力量は今のところない…だが、鳴きとオリの判断は目を光るものがある。今年は無理かもしれないが、来年以降の晩成を背負う一人として合宿に参加してほしい」
初瀬「あ、ありがとうございます!ぜひ、頑張らせていただきます!」
良子「やえの目に止まるってことは必然的に私らの目にも止まる、プレッシャーはそれなりに掛かるけど大丈夫か?」
初瀬は友の顔を思い出す、共に晩成で戦おうと誓った新子憧の事を。今は憧と変わらない実力、もしかしたら下かもしれない、そんな思いが初瀬に掛かる重圧を和らげていた。
初瀬「認めて頂いたのに、それを拒否することは出来ません。今、自分が出来ることを必死にします」
初瀬の瞳には強い意思が宿っていた。それは良子や紀子、由華と日菜…そしてやえを頷かせる。
やえ「決まり、だな」
そして、初瀬を含めた晩成高校の合宿が始まる。
※※※※※※※合宿の始まる六日前の事。
家に帰って来て、煙草の匂いが鼻につかないのは久しぶりかもしれないな。……、だが遅い。いつもならもう帰って来ていてもおかしくはない時間のはずなのに。
「一人だけの静かな時間というのは、寂しくあり退屈なんだなぁ…いつも姉貴がいたから気づかなかった」
やえが気を紛らわせる為に着けた、テレビの音が響くリビングの中独りごちた。ふと、テレビの音量を下げる。玄関の方から複数の声が聞こえる。両親に頼まれていた、新聞の支払いだろうか、それとも町内の募金の話だろうかと思案巡らせながら玄関へと向かう。
「誰だ?」
ドアの覗きガラスから外の人を見た。いつも来る新聞の配達員でも、町内の人でもない。会ったことがない人間が二人立っていた。インターホンが鳴る、やえは訝しみながらディスプレイ横のボタンを押す。
「はい、小走ですがどちら様でしょうか?」
「お届け物をお届けに参りましたぁ!」
冗談っぽく笑みを浮かべながら喋っている、声からは勿論表情を見て相手が女性だと気づき、やえの警戒心が少し和らぐ。
「うちは頼み物は何もしてないも思うのですが」
「いえ、お届け物に頼まれてお届けに上がった次第なんで、心当たりがないのは至極当然だと思いますえー」
そう言って、女性はカメラの前にお届け物と称したものを移させる。それは、やえの知ってるものだった。
「姉貴…?」
「そうでーす、小走一重さんですー。お部屋までお運びするんで開けて頂いても宜しいですか?」
その言葉を聞く事なく、やえは玄関の鍵を開けて訪問者を招き入れる。額には冷や汗が垂れて来ている、何か悪い物を思い出したかの様な表情をしながら。
「町の雀荘でな、この女の人が凄い気を撒き散らせてたから、うちと桜でちょちょいと気を削ったらこうなってしまってなぁ」
「あまり宜しくない説明だよ。それじゃあ、私達が彼女に危害を加えた様に聞こえるでしょうに」
「もし、そうだとしたら家まで連れて来る理由は…まぁ、色々有りそうですけど、他意はなさそうに見えますね」
「良いねー、下手にオカルトに憑かれているより全然良い理解の早さだね。それに警戒心もあり、洞察力もありそうだ」
「芳香ちゃん、話が飛びすぎて何を言ってるか分からない。エトピリカになりたいペンギンもそこまで無闇に飛ぼうとしないよ」
「姉貴のいつも感じる嫌な感じがしないのは、あなた方がどうにかしてくれたという事ですか?」
「あっはっはっは!好意的に言ってる様に聞こえるけど、そうは見えない瞳だねー、素直は美徳だけど隠した方が良い気性もあるんだよー……特に、憎悪や憤怒なんてものはね」
「芳香ちゃんに話をさせると進まないし、わからないだろうから私が説明するね。その前に、一重さんを休める所に運んで、落ち着いて話をしようか」
一重の寝室まで三人で協力して運ぶ。やえの見立てでは理知的で話がしやすいのは桜と呼ばれた方だろうなと決め。話の切り出し、会話の展開は良子と呼ばれた女性は少し遠くに置いた方が良さそうだと考えた。