咲-side story- A 作:小走やえ
奈良より遠く離れた地ー長野。そこでも、高校生雀士として覇を競い合う者たちがいた。そして、清澄高校麻雀部に所属する悩める少年が一人いた。
須賀京太郎は考えていた、己の弱さは今は考えないようにしようと。同部活の女子達は素人目に見ても強い、それも圧倒的に。俺の麻雀を始めた動機なんて安っぽい、安易なものだ。でも、他の人達は違う。真剣に、真摯に想いを乗せて麻雀を打っている。原村和や宮永咲は全国に出て勝つ理由があるという、部長の竹井久は最初で最後のインターハイである為に想いは一塩だ。部長のその二年間を見てきた染谷まこ先輩も同じである。片岡優希は仲間思いである、皆の為に頑張る姿が見て取れる。じゃあ、俺は?となる訳だ。
京太郎「俺は弱い、向上心も今はない。けど、楽しそうに打つあいつらを見て、俺も同じように楽しみたい。でも……」
部室内は京太郎一人である。独りごちても反応などはありはしない、だからこそ京太郎は誰にも言わない悩みを吐露していた。
京太郎「オカルトってなんだよ。東場で配牌やツモが良いとか、樌をしたら絶対有効牌とか悪待ちだと和了りやすいとかなんなんだよ。なんなんだよ!……俺にはそんな神様じみたもの備わってねぇんだよ、くそ。和も牌効率が出来て当たり前のように話してくる、いやそれは俺の不勉強か」
惨めだ。その一言に尽きる、何をどうしたら俺は強くなれるのだろう。そもそも、俺は麻雀が好きなんだろうか。ひたすら負けて、楽しめずにいるこの麻雀が俺は好きだというのか?
京太郎「咲の加樌に対して槍樌出来た時は楽しかった、東場吹いた優希を南場では逆にロン出来た時とかも。まこ先輩や和に良い手筋だと褒められた時は本当に嬉しかった。部長は構ってあげられないのを気にして二人きりの時は丁寧に教えてくれている。負けていても、俺はたのしんでいるんだな……けど」
やっぱり、あの領域で共に切磋琢磨しあうチームメイトでいたい。そう、強く思う。雑用やらで役に立てるのは確かに悪くはない、けどこと練習において役に立てていない。それが酷く歯がゆく惨めな気持ちにさせているんだろうな。
京太郎「上手く、強くなりてぇ……」
京太郎の言葉は静寂にまみれて消えたー。
場所は長野から奈良へと戻る。小走やえは訪問者から告げられた事実にショックを受けていた。
やえ「不沈不浮?」
桜「そう。やえちゃんのお姉さんのオカルト症状に名を付けるなら、ね。まぁ、そのまんまなんだけど」
良子「ただ、それは彼女のオカルトのほんの一端でしかない上にオカルトの毒みたいなものだ」
やえ「毒?」
桜「うん。お姉さんは元々、点数調整に起因した能力を持っていたんだと思う。けれど、何らかの理由があってそれは根底から否定された。恐らく圧倒的な力に屈服するという形でね」
やえ「つまり、どういう事なんですか?」
良子「早い話がこのままだと廃人になって小走一重という人間はこの世に存在しなくなる。まぁ、その危機を私らで防いだってわけさ」
やえ「一体どうやって……」
桜「オカルトにはオカルト。良子のオカルトで一重さんのオカルトを喰い、そのオカルトを私のオカルトで斬った」
荒唐無稽な話にも程がある、然しやえは有無を発せずに呆然としていた。
良子「まぁ、理解しろってのが無理ってもんだ。とにかく、お前の姉は無事でオカルトから解放された。まぁ、自ら想いを裏切ったんだ、蝕まれたのはその代償みたいなものだったんだろう」
桜「やえちゃん。もし、何か尋ねたい事やお姉さんに何かあったら私達を訪ねて来て。暫くは奈良の雀荘で麻雀打っているだろうから」
さ、行くよ。と桜が良子に促す。玄関へと向かう二人に向けてやえは声を絞り出す、待ってと。
やえ「ありがとうございます」
良子「あはは、礼はお姉さんが回復してからにしな。それにお姉さんの本当の回復はきっと君みたいな子が頑張らないと、ね」
桜「じゃあ、また縁があったらね」
玄関のドアが閉まる。やえは良子の言葉の真意を計れずにいた。本当の回復とは一体、なんだろうと。