【完結】都立西方浄土高校女子だらだら部部長にして華麗なるお嬢様崋山危懼子ならびにその他女子部員らの活動記録、あるいはなぜだらだらの日常はあっけなく崩壊したかということに関する簡潔な報告 作:ほいれんで・くー
「うう……ううう……」 地獄の底で鬼の獄吏に苛まれている亡者があげるような呻き声が背後から聞こえてきた。危懼子たちは振り返った。ちょうど天使がスワンボートから降りてきたところだった。天使は見るからに調子が悪そうだった。顔面蒼白で、足取りはおぼつかなく、目は潤んでいて視線は定まっていない。空になりかけた一升瓶を持っている。
天使は白い砂浜を数歩だけ進んで、立ち止まって口を開いた。「うう……完全に二日酔いだ……」 危懼子が冷淡な目つきで天使を見た。「まさに自業自得ですわね。一晩でおよそ10万円分も飲んだのですから」 天使は胸ポケットからシガレットケースを取り出し、煙草を一本取り出すとライターで火をつけ、吸い始めた。浜辺に吹き渡る微風が危懼子たちのもとへ仄かな煙草のにおいを届けてきた。天使はむせた。「おっ、おえええ……み、水……水が欲しい……」「天使様は放っておいて、先へ進みましょう」 危懼子がそう言うと、他の少女たちも頷いた。彼女たちは「群馬県 Gunma Pref」「立ち入り禁止」「遭難多発地域」などといった看板の向こうへと歩みを進めた。天使もふらふらとしながらそれについてきた。
「もう二度とお酒なんて飲まない」と天使が言った。「これからは断固として禁酒する。絶対禁酒するわ。今回の件でお酒の正体がよく分かった。あれだけ私はお酒を愛したのに、お酒は私を愛してくれない。あれだけ私はお酒を飲んであげたのに、お酒はこうやって私を苦しめる。なんて愛しがいのないやつ! もうお酒なんて大っ嫌い!」 その言葉は二日酔いに苦しめられている者全員が漏れなく口にするものであった。そして、朝にはそんなことを言いつつも、結局酒飲みは夜になると缶ビールとかチューハイを冷蔵庫から取り出し、プルタブを「カシュッ」とやるのである。天使は一升瓶を口につけて、そのなくなりかけている中身を口の中へと流し込んだ。「ああ、それにしても迎え酒っていうのは美味しいわね……」「これは駄目ね」と魔女が呆れたように言った。さくさくという耳に心地良い足音を立てて少女たちは砂浜を進んだ。時々、青い甲殻を身に纏ったカニが横歩きで通り過ぎた。数十メートルも進むと砂浜は途切れ、6月の美しい緑の土地が目の前に広がった。
そこは緩やかな丘陵地帯となっていた。少女たちの腰ほどの高さもある草が大地を覆っていた。メイドが手で先を示しながら言った。「道が一本通っているな。他に行くべきところも分からないし、とりあえずこの道を行くことにしよう」 少女たちは頷き、メイドを先頭に立てて道を歩き始めた。道は茶色の土が剥き出しで、まったく舗装されていなかった。幅は狭く、並んで歩くことはできなかった。少女たちは黙々と先へ進んだ。小鳥が控えめに朝の歌を歌い、さわやかな風が耳を掠めて新しい日のリズムを告げた。
マルタが言った。「なんていうか……その……ここ、確かに最終決戦の地なのよね? すごくのんびりとした空気だから今一つそんな気がしないんだけど」 命賭が静かに首を左右に振った。「ううん、シスター・マルタ。こういうのはけっこう『お約束』ってやつだよ。最近のゲームほどきれいな草原だったり、お花畑だったりを最終決戦のステージとして設定しているよ」 少女たちは30分ほど歩き続けた。生まれたての太陽は既に
やがて、視界が開けた。危懼子が疑問の声をあげた。「駅舎?」 なるほど、そこには駅舎があった。こじんまりとした駅舎であった。木造の平たい建物で、白いペンキが塗られている。双子が口を開いた。桜子が言った。「小さな駅舎」 薫子が続いた。「いかにも群馬っぽい」 駅舎からは軽便鉄道よりも狭い幅の鉄路が飛び出しており、丘陵地帯の更に先へと続いていた。
「あっ! 自販機!」と天使が叫んだ。自販機が駅舎の脇にひっそりと立っていた。天使は自販機に走り寄ると素早い動きでミネラルウォーターのボトルを一本買った。「
飲み物を飲み終えると、少女たちは駅舎の中に入った。薄暗い建物の中には誰もいなかった。薄く埃が被ったベンチが並び、色褪せたポスターが壁に無秩序そのものといった形で貼られていた。ひび割れた黒板が掛けられており、そこには「本日の天気」と書いてあった。「どれどれ」とメイドがそれを読んだ。「本日6月10日金曜日(仏滅)の天気は晴れ、ところにより『たま』と書いてあるな」「『たま』? なにそれ?」 魔女が疑問の声をあげた。メイドは首を振った。「分からない。まあ、ここは未開の地群馬県だ。『たま』なるものが降っても槍が降ってもおかしくはないな」
少女たちは建物の中を通り抜けると、プラットフォームへと進んだ。そこには小さな列車が止まっていた。小さな機関車が先頭で、その後ろに天蓋のない箱のような貨車が連なっている。魔女が言った。「これ、動物園とか遊園地とかにある、『おサルの列車』そのままじゃない」 メイドが指をさした。「誰かが機関車に座っているな」 少女たちは機関車へと向かった。操作盤にもたれかかるようにして誰かが眠っている。どうやら女性のようで、白衣を身に纏っており、その背中は大きく膨らんでいた。
先ほど水分を補給したことで幾分か表情に生気を取り戻した天使が、驚きの声をあげた。「あっ! 天使
白衣の女は言った。「みんな、遅かったですね。まったく、待ちくたびれたわ。昨晩はカピバラと戦い続けていたからちょっと寝不足なのよ。ふわぁ……」
天使は白衣の女の肩を掴んだ。「自分からここまで出向いてくるとはなかなか殊勝なやつ。さあ、神妙にして、さっさとお縄につきなさい!」 しかし白衣の女は動かなかった。女は胸元から一本の煙草を取り出し、火をつけて、その煙を天使に向かって吹きかけた。天使は途端に激しくむせた。「ゴホッ、ゴホッ……! うえっ!」 二日酔いの者にとって何が一番つらいかと言えば、他人の吸う煙草のにおいである。それが自分が普段吸わない別銘柄の煙草であれば、効果はなおのこと顕著である。しかも白衣の女の煙草はものすごいにおいがすることで名高いドイツの煙草ゲルベゾルテであった。天使は脆くも無力化された。嘔吐をしなかっただけマシであった。
「まあ、飲んだくれの二日酔い天使なんてこの程度なものよ」 地面に
しかし危懼子は決然たる口調で言った。「しかし、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とも『墓穴に入らずんばミイラを得ず』とも言いますわ。皆様、ここはこの白衣の天使様に従いましょう」 少女たちはしばらく顔を見合わせていたが、やがて貨車へと進み、座席に身を収めた。双子はなおも地面に転がったままでいる天使を両脇から抱き抱えると、最後方の貨車に押し込み、自分たちはその前の貨車の座席に仲良く座った。白衣の女は嬉しそうな声で言った。「みんな、席に座りましたね? シートベルトは締めましたか? はい、それじゃあ出発!」
先頭の機関車が電子音の汽笛を鳴らした。鈍いモーターの回転音が響き、電気駆動の機関車が前進を開始した。各車両の連結部が「がちゃん」という音を立てた。列車は自転車ほどの速さで狭い鉄路の上を走り始めた。白衣の女がマイクを手にし、明るい口調で言った。「皆様、本日は『神の列車』に御乗車いただきまことにありがとうございます。本日の天気は晴れ、ところにより『たま』となっております。頭上にご注意ください。本列車は安全運転を心がけておりますが、事故防止のため急停車する場合がございます。シートベルトをお忘れなく。時々線路の上にカピバラが飛び出してくることがございますので」
やがて、列車はゴロゴロと重い音を立てて丘を登り始めた。白衣の女は言った。「当アトラクション、『神の列車』の最終目的地は『
列車は丘を登り切り、そして下りに差し掛かった。線路の右手に開けた大地が広がっていた。大地のそこここで人が寝転がっていた。それは群馬県民たちであった。あらゆる年齢層のあらゆる男女がそこにいた。群馬県民たちは眠たげな目をしてポカンと口を開けており、弛緩した表情を空に向けている。白衣の女が言った。「『神の列車』では、『来るべき世』のモデルケースがご覧になれます。私こと大天使
マルタが隣に座っている命賭に言った。「ねえ、『ジョーフク』ってどういう意味?」 後ろから双子が答えた。「『浄福』とは」「信仰によって到達した至福の境地のこと」 白衣の女が言った。「そのとおりです。彼らは私の力によって
白衣の女が改まった口調で言った。「人間の不幸とは、いったい何でしょうか。病気でしょうか。戦争でしょうか。老いることでしょうか。それとも死、あるいは生そのものでしょうか。いいえ、それらは表面的な現象に過ぎません。根源を見極めなければ、人間は不幸な状態から脱することはできないのです。万病を癒し、戦争を根絶し、不老不死になったとしても、人間から不幸は決して消えはしません。なぜなら、人間は常に『今よりも良い状態』を望み続けるからです。『今よりも良い状態』が叶えば、また人間は『さらに良い状態』を望み始めます。これでは際限がありません。
命賭の言葉を気にも留めず、白衣の女は話し続けた。「パンドラの壺に最後に残った希望、それは人類を生かすものではありましたが、しかし『苦しめつつ』生かすものでした。私は断言します。
横になっている中年男性の群馬県民が口を開いた。「ビールが飲みてぇ」 そのとなりに横たわっている女の子の群馬県民が言った。「わたし、アイス食べたいなぁ」 老婆の群馬県民が言った。「わたしはコーラが飲みたい!」 青年の群馬県民が言った。「いつまでここに横になっていれば良いのかなぁ?」 魔女がそれを聞いて言った。「なんか、あの人たちが物質的に満たされているようにはまったく思えないんだけど」
白衣の女が運転席から叫んだ。「コラ! 我慢しなさい! 演技を忘れないで、演技を!」「はぁ~い」というふにゃふにゃとした返事が戻ってきた。マルタが小声で言った。「『いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である』 希望って、そんなに悪いものなのかしら?」 双子が補足した。「『コリント人への第一の手紙』第13章第13節」 命賭が言った。「まあ、この程度のことなら今までいろんな作家がいろんな創作で言っていることだよね。『希望は人類の敵』だって。こんなに大袈裟な展示をしなくても分かりきったことだよ」
「そうね、このまま頭のおかしい天使
その瞬間、空から何かが降ってきた。それは天使の頭部に直撃した。「ぐええ!」 ゴロンと音を立てて、天使の頭に当たったものが貨車に落ちた。それはボウリングのボールだった。16ポンドの玉だった。「なるほど、本当に『たま』が降ってきたな」とメイドが言った。天使は貨車と貨車の連結部に引っかかるようにして落ちた。魔女が心配そうに言った。「大丈夫? 死んでない?」 メイドが身を乗り出して天使を見た。「死んではいないな」 その直後、空からバラバラと小さな何かが降ってきた。それは硬式のテニスボールだった。「うわ、痛い!」と命賭が叫んだ。少女たちは両腕で頭をガードした。右手の平原を見ると、今まで横になっていた群馬県民たちが起き上がり、「うわー!」と泣き叫びながら右往左往していた。白衣の女が「ちっ」と舌打ちするのが聞こえた。「群馬は良い土地なんだけど、たまに『たま』が降ってくるのが『
列車はまた丘へと差し掛かり、登った後、坂道を下った。線路は巨大な建物の中へと続いていた。やがて、列車は建物の中に入った。建物の中は薄暗かった。白衣の女が言った。「さて、私の力によって浄福なる境地に辿り着いた人々は一切の物質的な課題から解放されましたが、しかし希望の形が分からずに苦しみ続けていました。私は新たなる神として、彼らに希望の形を示す必要がありました。私は上位の世界に属する高次精神体として、この下部世界の精神体を導かねばならないのです。ですが、やはりそれは簡単なことではありませんでした。人間とは生意気なもので、Aにとっての希望がBにとっての絶望であり、またその逆でもある。人間にとってのあるべき希望の形を考えるのは非常に面倒くさい……いえ、困難なことだったのです」
白衣の女はまた口を開いた。「ここで私は希望について、わが身に引き比べて考えてみました。私は神となりました。私はこの新しい世界の秩序であり、法であり、
「あっ!」とメイドが叫んだ。列車の左側には、工房が広がっていた。群馬県民たちが椅子に座り、机に向かい、何かを一生懸命作っている。それはカタツムリのぬいぐるみだった。いやにリアルな造形だった。触角が飛び出しており、レース地で粘液が表現してあった。端的に言えば、悪趣味そのものと言えた。
白衣の女は言った。「ここで皆様のご覧に入れるのは、手芸室です。見てください。人々は一心不乱にぬいぐるみを作っています。そう、私にとっての希望とは、ふわふわな手縫いのぬいぐるみに囲まれて暮らすことでした。私の大好きなカタツムリのぬいぐるみに囲まれて、終日何もせずゆったりと過ごす。終わりの見えない仕事に従事している最中、私はずっとそう望んでいました。私の希望は人間の希望です。私の希望を叶えることは、人間の希望を叶えることになるのです。カタツムリのぬいぐるみを作ることは、人間にとって最も望ましい希望の形なのです」
自信に満ちた口調で白衣の女は言った。「かくして私の力によって不老不死となった人間は、この世が終わるその日その瞬間まで、カタツムリのぬいぐるみを作り続けることになります。そして、この世が終わることは決してありません。なぜなら私は神で、神である私はこの世が終わることを望まないからです。彼らは疲労を覚えることもなく、意識を保ったまま、永遠にカタツムリのぬいぐるみを作り続けるのです。なんという幸せな人々でしょう! それが彼らの希望の形なのです!」「地獄かな」と命賭が言った。「地獄の方がマシじゃないかしら」とマルタが言った。イエスの教えを奉じるマルタがそのように言うのはよほどのことであった。
メイドは手作業をしている群馬県民たちの顔を見た。その目は一様に落ち窪み、生気がなく、疲れ切っていた。誰かが溜息まじりに言った。「ああ、俺もうカタツムリのぬいぐるみ作るの、飽きちゃったよ」 その声の主に向かって、机から生えているノズルから煙が吹きかけられた。それは白衣の女が吸っている煙草、ゲルベゾルテとまったく同じにおいだった。「ぎゃっ!」とその人間は叫び、卒倒した。白衣の女は首を傾げた。「おかしいわね。私のもっとも好きなにおいをかがせて気分をリラックスさせてあげようと思ったのに」
メイドは言った。「作りたくもないものを作らされるのは手芸ではない。それは単なる強制労働だ。自分の好きなものを好きなように、自由に作るのが手芸ではないのか」 メイドは、自分が最も好むところの手芸によって人間が苦しめられている光景を見て、そのノーブラの大きな胸を痛めていた。
しかし白衣の女は言った。「いいえ。『作りたくない』と思ってしまうのは、つまるところ人間の低劣な精神的能力のせいです。人間は愚かなので、自分にとって最も望ましい希望の形を理解することができません。確かに彼らのうちの何人かは、『作りたくもないものを作らされている』と感じているかもしれません。ですが、それが彼らにとって最もためになるのならば、私は心を鬼にしてでもそれをさせなければなりません。なぜなら私は神だからです」 メイドが言った。「神なのか鬼なのか、どっちかにしたらどうだ。この欲張りめ」 しかし白衣の女は何も言わなかった。
「いいえ、あいつは神でも鬼でもないわ。悪魔よ」 いつの間にか意識を取り戻していた天使がそう言った。「そういえばあいつの社宅の部屋、ものすごい数のぬいぐるみがあったわね。ちょっと恐怖を覚えるくらいのぬいぐるみがあった。悪趣味なカタツムリのぬいぐるみばっかり、しかもゲルベゾルテのにおいが沁みついていたわ」 白衣の女はにっこりと笑った。背筋が凍るような笑みだった。「良いにおいでしょ? 今、ここで作ってるぬいぐるみも同じにおいがするようにしてあるの」「最悪だ」とメイドが言った。「煙草のにおいが沁みついたぬいぐるみほど悲しいものはない」
何部屋か手芸室が続き、そして列車は新しい部屋に入った。そこには「検品室」という札が下がっていた。群馬県民たちは浮かない顔をして机に向かい、ゲルベゾルテの濃いにおいがするカタツムリのぬいぐるみを持ち上げてはチェックリストに従って各部をチェックしていた。殻の中央部分を押すと、ぬいぐるみが声をあげた。至極耳障りな声だった。「好き!」「好き!」「大好き!」「『Never Let Me Go.(わたしを離さないで)』」 双子が言った。「カズオ・イシグロか」 白衣の女が首を傾げた。「えっ、なにそれ? ファッションブランドか何かの名前?」 双子は返事をしなかった。白衣の女は言った。「でも、素敵でしょ? 大好きなぬいぐるみが私を囲んで、私にずっと『好き』とか『大好き』とか言い続けてくれるって」
やがて列車は速度を上げて建物から出た。天使が言った。「最後にお見せするのは聖像です。右手をご覧ください」 少女たちは視線をやった。巨大な像が建造されていた。像はカタツムリを
「もちろん、ただの像でありません」と白衣の女が言った。「あの像にはちょっとしたギミックが仕込まれているんです。ほら」 そう言って女は手元の操作盤のボタンを押した。その途端に、巨大な像から「バリッ! バリッ! バリッ!」という大きな異音が断続的に発せられた。強力な音圧を受けて、像の近くで働いていた群馬県民の何人かがぶっ飛ばされるのが見えた。少女たちは思わず手で耳を塞いだ。「何あれ、何の音?」と命賭が言うと、白衣の女はうっとりとした表情をして言った。「あれはカタツムリがキャベツを齧る音を10万倍に増幅した音です。ああ、なんて美しい音なのかしら! ありとあらゆる音楽をも超越した、無上の喜びをもたらす妙なる響き! 私が作り出す新しい世において、音楽はすべてあの音に倣ったものとなるでしょう!」「その世では、音楽家は最も邪悪な職業になるだろうな」とメイドが言った。
ちょうどその時、空からまた「たま」が降ってきた。無数の16ポンドのボーリングの玉が建造中の像に降り注ぎ、像はあっけなく破壊された。「ぎゃあ! バリッ! 痛い!」 崩壊していく像が悲鳴をあげた。「死ぬぅ! バリッ! いたいよぉ! バリッ!」 像の触角の先の目から大粒の涙が地面に降り注ぎ、群馬県民たちが「うわー!」と泣き叫んで右往左往している。「うーん」と白衣の女が頭をかいた。「聖像に意志を持たせたのは間違いだったかしら」 しかし女は気を取り直したように言った。「でもまあ、時間と
「少なくとも」 危懼子は言った。「まったくだらだらできそうにありませんでしたわね」「それはつまり?」 白衣の女がそう問うと、危懼子はきっぱりと言った。「
列車は速度を緩め、やがて停車した。そこには綺麗な白い家が建っていた。危懼子の首から下がっているネックレスが、密かに言った。「ここは、間違いなく私が生まれた
「そう、そしてここがあんたの
「どう? 勝てそう?」とマルタが天使に訊いた。天使は薄く笑った。「勝てるわ。まだちょっと昨日の酔いが残ってるけど、なにせ私は柔道三段、剣道初段、合気道二級だからね。瞬殺よ、瞬殺」
「へえ、言うじゃない。飲んだくれの
そう言って白衣の女は白衣を脱ぎ捨てた。大きな白い胸が揺れている。その下はやはり全裸であった。
「大した変態だねぇ」と命賭が感に堪えないように言った。
(つづく)
次回もお楽しみに!
※ゲルベゾルテはもう生産停止されていて吸えないようです。残念。凄まじいにおいだったとは年配の方から聞いたことがありますが、実際はどのようなものだったのか……