ようこそ恋愛に目覚めた綾小路がいる教室へ   作:炉鈴

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幼馴染系ヒロインは侮れない。

 

 

 

 

 

 

「ランチではとても愉快な光景を演出なされていたようですね、綾小路くん」

 

 

「⋯どうやら盗み見のセンスがあるらしいな。いや、正しくはお前の側近の方か?────坂柳」

 

 

 

 

夕陽の差し込む放課後。教室から続々と生徒たちが退出する中、オレは渦中にいる人物と対面を果たした。

銀髪、片手には杖。小柄でありながらも鋭く貫くような眼は計り知れない貪欲さを滲ませている。見目は愛くるしいと表現するには相応ではあるが、総じて強か。現状オレが解決しなければならない一件の張本人が単身で乗り込んできた訳だ。

 

 

「しかし⋯意外でした。あなたがまさか他人のために動くなんて」

 

「⋯助けて、と言われたからな。友達の力になってあげたいのは当然じゃないか?」

 

「友達のため、と。ふふ⋯それはまた」

 

「何も可笑しな話じゃない。お前の盗み見に比べればな」

 

「おや、それは褒められている⋯と。そう理解しても?」

 

「好きにしてくれ。生憎と今のオレは言葉遊びで時間を浪費する暇はない」

 

 

坂柳有栖。Aクラスの中でも一際目立つ雰囲気を纏った少女は、教卓前で臆することなくオレと対峙する。こういう場合に小説的な表現をするのであれば⋯火花が散っている状態、か?少なくとも、互いに好意的な態度とは呼べないだろう。

 

行動を以て示すかのように()()()()()()()()の坂柳は一歩と脚を踏み出す。対してオレはその場に佇み、ただ見つめるだけ。言葉はない、不要な遣り取りは省くべきだ。尤も坂柳も同じ考えらしく、愛嬌のある雑談や態度は取らないらしい。まさに悪意はあったが改める様子はない、といったところか。

 

やがてオレは彼女の真意を探る為にも、直接的な言い回しで問いかける方向へとシフトした。

 

 

「神室に感謝するといい。入学早々、クラス内で問題が起きるところだったぞ。あいつが少しでも感情的になっていれば()()()()()()に支障が出ただろう」

 

「ええ、もちろん。ですが⋯私はそれを見越して彼女の罪悪感を煽りました。結果として私の思う通り、あなたが現れてくれた。その点については彼女に感謝しておきましょう」

 

「オレに会うため、か。それなら教室で何度も顔は合わせていたはずだ」

 

「私はあなたと二人でお話がしたかった。相応しい場を整え、同時に私への印象を刻み込む。これはその手段に過ぎません」

 

 

昨日の一件。神室の万引きを知っていると告げた坂柳の目的は凡そ検討が付いていた。大前提として彼女が物を盗った現場を目撃しているのはオレ一人であって、証拠となる動画を握っているのもオレ。あの現場に於いて第三者が此方に意識を向けていた様子はなかった。となると、坂柳側は事実を知っているだけに留まる。

 

仮にそこから学校側へ訴えようとも、それが無意味であるのは坂柳自身がよく理解しているはずだ。であれば、単に神室を排斥せんとした動きとは別の目的があるとみて間違いない。

 

何にせよ、肝心なのはどのような方法で神室の一件を認知したのかだ。恐らくは──────

 

 

「初日からオレを尾行していたなんてな。さすがに盲点と言わざるを得なかった」

 

 

オレが神室の犯行を未遂で引き止め、モール内の個室がある料亭へ運んだ時。どの地点からかは不明瞭ではあるものの、坂柳は何らかの形でオレたちを尾行し隣の個室へと入ったのだろう。

 

たとえ料亭で個室と謳っている場所であろうが、そも学生が政治家宜しく広々した一室を使える訳もないのは道理。ましてや、完全に会話を遮断する外壁もなければ扉もない。意識すれば聞き耳でも立てられるのは想像に容易いことであって、決して有り得ないとも切り捨てられない手段だ。

 

迂闊にもオレはヒロインとの交流関係を築けた喜びに浸りきっていたらしい。反省しないとな。

 

 

「おや、あっさりバレてしまいました。さすがは綾小路くんです。やはり私の思い描くあなたはご健在のようで」

 

 

どうやらオレの回答に満足したのか、坂柳は意味深な微笑みを浮かべて視線を巡らせた。まずは脚先、流れて胸部から顔へとオレを観察していく。そうして今度は自身の杖へと意識を向け、弾む声色を放つ。

 

 

「ご覧の通り、私に尾行という手段はありません。ですが⋯幸運にも入学初日から()を──────いえ、友人を得ることに成功しまして。私がお願いしてみたところ、喜んで引き受けてくださいました」

 

「それは良い友人関係とはいえないな。少なくとも、他人を尾行させる友人は信用ならない」

 

「ご尤も。ですから、今後はお願いの方向性を変えようと思います」

 

 

まるでゲームでも嗜んでいるのかと思えるほど、坂柳は愉快そうに口にする。オレから友人を作る過程をどうこう指摘する気は無いが、少なくとも入学初日でクラスメイトを尾行させるような奴は不気味に映るはずだ。

 

しかし、それでも坂柳の友人とやらは尾行を引き受けた。

 

恐らく姿が見えない坂柳に近しい人間は、何らかのメリットを提示されたのだろう。果たしてそれがポイントか、はたまた情報かは定かではないが。考えとして理に叶っている。

 

 

「それで?こうして懇切丁寧に種明かしをするためにお前はオレを待っていたのか」

 

「ふふ、三割は正解です。長らく真相を話さないままでは綾小路くんの不信感を着々と募らせるだけでしょう?」

 

「当然だな」

 

「ですから、残りの七割をお話しようかと」

 

「⋯聞かせてもらおうか」

 

「もちろん。これは私からの意思表示⋯いえ、宣戦布告とでもお考えください」

 

 

やがて坂柳は淡々と、当然の権利を行使するように言葉を零す。たった二人が残る教室で、さも焦がれた相手を口説く口調で。その瞳には確かな意思が宿り、オレの身体を射貫く。

 

 

「綾小路くん、私は今でも鮮明に思い起こせます。あの無機質で何もない部屋(ホワイトルーム)で過ごす、退屈そうなあなたのことを」

 

 

靴音を鳴らす。ゆっくりと互いの距離感が迫り、それに呼応して杖が床を弾いた。

 

 

「チェスの駒を片手に相手を圧倒する姿。表情一つの変化もなくカリキュラムを遂行し、己が天才であると証明してみせる能力。ええ、まさしく綾小路くんは最も天才に近い存在でしょう」

 

 

それは愛おしく吐き出す、坂柳の根幹にある感情だろう。オレへの意識か、或いは対抗心か。どちらにせよ、坂柳は知っている。あいつが作り上げた部屋、白に染まった空間を。

 

やはり、学生生活には問題がつきものらしい。そうオレは己に言い聞かせつつも、歩みを止めない坂柳を見下ろす。

 

青春とは何も平穏が続く訳じゃない。時に波乱万丈で、荒々しく波が立つ。たとえあの部屋から抜け出そうと、オレに根ざすものは変わらない。

 

 

「⋯怖い顔。いえ、それがあなたの根幹でしたね」

 

 

このままオレがあと半歩でも歩み寄れば衝突するほどに狭まった間隔。身長差から坂柳はオレを見上げ、そうして口端を吊り上げた。

 

オレの根幹─────ああ、やっぱりか。

 

どうやら坂柳にはオレの表情、その機微を感じ取れるらしい。決して後退する素振りもなく、堂々と一貫する態度。なら、折角だ。坂柳、どうかオレに教えてくれないか?

 

 

「ホワイトルームが作り上げた最高傑作。偽りの天才を葬る役目は私にこそ相応しい──────そうは思いませんか?」

 

「⋯坂柳。お前に、オレが葬れるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞ、神室」

 

「⋯綾小路っ!」

 

 

坂柳との邂逅を終えて数十分後。言論の戦地から帰還した英雄が如く、オレはゆったりとした足取りで自室の玄関を開いてみれば、心配を全面に押し出した雰囲気で駆け寄るヒロインがお出迎えしてくれるご褒美が舞い込む。

元々、この学校の寮は男女別に階が違う。上階は女子、下階は男子といった風に分けられているからか異性が訪れれば目立つのは必然。その上で敢えてオレは神室を自室に招き、半ば保険を掛けた形で待たせていた。

 

万が一にも坂柳がオレを教室に引き付け、その間に駒を使って神室へと何らかの接触を図った場合は対処が難しい。あいつの性格を考慮すれば可能性は低いものの、絶対にないとは言いきれないだろう。

 

故にオレは保険として神室を部屋に入れた。こうすれば坂柳からのアプローチを避けると共に、絶対的な安全を確保出来る。まさかオレが部屋にまで招いているとは思わないことだろう。この様子を見るに、どうやら神室は大人しくオレの言いつけを守ってくれていたらしい。

 

 

「誰から連絡が来ても返信せず、あんたの帰りを待つ。⋯私、ちゃんとできたでしょ⋯?」

 

「ああ。お前はオレの言いつけ通り、ここに居てくれた。感謝するぞ」

 

「それで⋯その、坂柳とは⋯どうなった、の?」

 

「解決した。今後、坂柳があの万引きをネタに直接揺さぶることはないと見ていい」

 

 

玄関で靴を脱いで中へと入っていくと、神室も続けて後を追う。まるで子犬みたいだなと内心独り言ちるのも束の間、オレは寮への帰宅途中に買っておいたペットボトルの紅茶を彼女に手渡し寝具へと腰を掛けた。

 

 

「どうやら坂柳はオレにご執心らしくてな。その点を利用してお前との一件を解決しておいた」

 

「ご執心…?あんた、坂柳さんと⋯」

 

「初対面、オレからすれば初めましてだ。まともに会話を交わしたのも今日だしな。とはいえ、あいつは昔からオレを知っていた様子だった。言い換えれば──────」

 

 

多少なりとも表情の和らいだ神室はオレの隣へと腰を掛け、静かに耳を傾ける。距離が近いんじゃないか?と思ったりもしたが、オレからすると嬉しい誤算なので黙っておこう。

横目でクーデレヒロインの半ば無自覚な接近を堪能しつつ、ゆっくりとオレは数十分前の記憶を呼び起こしていった。

 

 

『─────幼馴染、とでも言い表しましょう。強ち間違いでもありません』

 

『生憎とオレには真っ向から宣戦布告するような幼馴染を作った記憶はないぞ』

 

『それもまた良いではありませんか。少なくとも、中間テストであなたを負かすのは私です。その頃には⋯可愛らしい幼馴染の忠告だったとご理解いただけるでしょうし』

 

『⋯ちょっと悪くないと思ったオレがいるのに驚きだ』

 

『ふふ、でしたら尚更⋯あなたには敗北を刻んで差し上げないと。むしろ、こんな可愛い幼馴染に負けるのであれば本望では?』

 

『残念なことに、坂柳がオレを負かすことが出来るとは思えないんでな。その未来は想像できない』

 

『余裕な態度も今のうちです。⋯では、真澄さんには宜しくお伝えください。中間テストまで私からは手出しをしないこと、その結果次第で綾小路くんと真澄さんには私の駒になっていただくことを』

 

 

今思えば、オレには決して得られない幼馴染属性のヒロインがすぐ近くにいたんじゃないか?あの部屋で過ごしていれば当然、幼馴染なんてものはいない。同期だった、僅かながらにでも友人になれたはずの存在を全てオレが蹴落とした。

であれば坂柳は正しくヒロインの素質を備えた女性ということになる。予想以上にオレへの執着が強かっただけで。

 

 

「⋯という訳で、今後起こるだろう一学期の中間テストでオレは勝負をすることになった。負ければめでたくオレと神室は坂柳の駒、勝てば自由。分かりやすい勝負だな」

 

「ねぇ、それを聞くと私が巻き込まれた感じがしない⋯?」

 

「少なくとも中間テストまでは平穏が手に入れられるぞ。まぁ、その後はオレの努力次第か」

 

「⋯そう」

 

 

オレと坂柳が勝負するにあたって、運動系はまず排除するだろう。となれば、学生にとって最も分かりやすく結果が出せるものといえばテストの他にない。

友人とテスト勉強でわいわいしたり、相手の部屋での勉強会でドギマギしたりと。若干、こういう展開はオレ得でもあるなと感じた。しかしまぁ、惜しむらくはオレ自身が勉強に時間を費やす意味がないという点か。本当に惜しいところだな。

 

簡潔にオレが勝負の内容を口にすると、隣にいる彼女は明確な反論をすることなくすんなり事態を呑み込む。やはり、神室は冷静に物事を判断出来る側らしい。

 

動揺せず、受け入れる。不安げに息を吐く様子は窺えるが、未来を憂う様子がないのはさすがだな。

 

 

「綾小路。遅くなったけど⋯ありがとう。それと⋯⋯」

 

「なんだ、改まって。何か気になることでもあるのか?」

 

「⋯そういうわけ、じゃ…ないけど…」

 

 

ひとまず事態は収束に向かいつつある。それには一安心と立ち上がる寸前、オレが着ている制服の袖に細い指が絡んだ。その力は弱々しく、けれど意思が籠っている。神室は言い淀みながら、しかし緊張した面持ちでこちらを見上げた。

 

こんな場面、恋愛アニメであれば総じて告白のシーンしかあるまい。とは言え、彼女がオレに惚れ込む要素はまだ無いだろう。精々、助けを求められて応えた。それだけだ。

 

となれば別の要件か?⋯オレはもう、クーデレヒロインの感謝だけでお腹いっぱいだぞ。これ以上恋愛波動を受け取ったら明日には胃もたれしてしまいそうになる。

 

 

「その、ね。もし⋯あんたが嫌じゃなければ⋯」

 

「⋯嫌じゃなければ?」

 

「本当に嫌だったら断ってもいい。だから⋯」

 

 

煮え切らないな。そこまで緊張する言葉を伝えるつもりなんだろうか。神室の心情を察することがオレには難しく、ただ意識を注いで言葉を待つ。

どんな時でも主人公はヒロインの勇気を後押ししなければならない。焦って事を運ぼうとすれば仲違いだとか、結局言えず終いでなぁなぁになるケースもある。

 

そうして、神室は口を開いた。言葉はたどたどしく、けれど明確な意志を持って。オレの予想を微かに上回る()()を、照れ顔のまま言い放った。

 

 

「私へのお願い、三つに増やすから。いま⋯一つだけ、何か言ってみなさい、よ⋯っ!」

 

「⋯まじかー」

 

 

その日、オレは改めてラノベと恋愛アニメに出会えたことを感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレが幼馴染属性のヒロイン獲得とクーデレヒロインの供給過多なデレを受け取って翌日。今日は金曜日ともあってか土日への期待感が高まる一方、オレはらしくもなく別の意味での期待が胸に募っていた。

 

何せ、これはオレにとって初めての経験。最早創作上にしか起こりえないだろうとばかり考えていたシチュエーションが実現するのだから、緊張も人一倍。まぁ、それが表情に出る心配がないのは一安心だな。ガチガチに緊張してる男なんて周りから見れば滑稽そのものであるのは俯瞰せずとも分かる。

 

精々、内心でドキドキを表現しよう。そう意気込みながら神室とのチャット欄を見返し、制服を丁寧に着込んで行った。

 

 

『綾小路、本当にこんなお願いでいいの?』

 

『ああ、これでいい。オレにとってはこの経験が何より重要なんだ』

 

『変な奴。てっきり私は別のお願いでもされると思ってた』

 

『別のお願いってなんだ?』

 

『⋯何でもない。とりあえず、下で集合。分かった?』

 

『五分前行動で行く』

 

 

オレと神室らしいやり取りだと思いながら、諸々の準備を終えて靴を履き。今一度時刻を端末で確認し、本来の登校時間から数十分か早く家を後にする。

寮となればすれ違う人間も多い。友人と話をしていたり、眠たそうにしたり、三者三様で雰囲気も変わる。そんな微かな人の波にオレも混ざってエレベーターを使い、間もなくして一階へと到着した。

 

そこには予想通り、彼女がいる。ツンとしたオーラを放ちながらそわそわとした一人のクラスメイト────もとい、ヒロインが。

 

だが、オレの予想をひと回り飛び越えた光景があったのもまた事実だった。

 

 

「あんた、綾小路の幼馴染って本当?」

 

「ええ。それも数年単位、真澄さんとは比べるまでもない時を彼と過ごしてきました」

 

「絶対に嘘。綾小路、初対面って言ってたし」

 

「彼の照れ隠しですよ。私が想像以上の女性に成長していたから、素直に幼馴染であると認めるのが恥ずかしくなってしまった。男子にはよくあることです」

 

「ふーん。⋯まぁ、坂柳には綾小路のことが分かると思えないけど」

 

「あなたこそ、綾小路くんの何を知っているのでしょう。少なくとも付き合いの長さで言えば私に軍配が上がるでしょうに」

 

「⋯ていうか、なんであんたまでいる訳?誘った覚えはないし」

 

「昨日、幸運にも彼の連絡先をゲットしまして。私から学校への登校をご一緒したいと申し出た所、断られてしまったんです。もしや⋯と思い、こうして駆けつけた次第ですよ」

 

 

明らかにあの場所で雰囲気が違う。これが入学二週間ちょっとの光景か?見てくれ、他の生徒たちが噂をしてるぞ。

神室も坂柳もヒロインとしての属性を多く兼ね備えた生徒だ。片やクーデレヒロイン、片や幼馴染系ヒロイン。容姿も整っている上に人目を惹き付けやすい立ち振る舞いも相俟って、主に男子が釘付けになっているな。

 

というか、少し待ってほしい。オレはいまからあそこに合流しなきゃいけないのか?仮にも恋愛に於いてヒロインたちから言い寄られるのは悪い気分じゃないが、今の二人がオレに対して恋心を抱いてるとは思えない。加えてあまりにも目立ちすぎている。

 

あくまでこっちからは神室に『無理のない範囲で一緒に登校したい』と貴重なお願い事の一枠を使ったんだがな。まさか軽く事が大きくなるとは露知らず、呑気に朝の準備に時間を使ってしまった。

 

 

「主人公とヒロインたちが登下校を一緒にするシーンはあった。だが、こんなにも近寄り難いオーラだったとは」

 

 

オレはエレベーターから降りてすぐ横で傍観者のフリをしつつ、入学前に学んだ恋愛の一コマを振り返る。が、第三者視点はここまで混ざりにくいオーラはなかった気がする。

 

 

「⋯それで。いつまであんたは傍観者気取りのつもり?そろそろ坂柳をどうにかしてほしいんだけど」

 

「綾小路くん。たった数週間の仲よりも可愛い幼馴染である私と登校した方が良いとは思いませんか?これを機に、お会いできなかった時間を取り戻しましょう」

 

 

まじかー。思わず口に出しそうな言葉を閉口し、二人がオレの方へと歩み寄る姿を静止して見つめる。

 

ある種の幸運で、別の意味で不運。このままバチバチな雰囲気を如何に平穏な方法で解決するかを悩んでいれば、半ば図ったように声が掛かるとは。まだオレは有効な打開策を練っていないというのに、時間は残酷にも前へと進んでいく。ヒロイン二人に迫られる感覚は悪くないと思いつつどのようにして両者の仲を保つかに苦心しそうだ。

 

神室からすれば天敵の一人、坂柳からすれば獲物の一つ。昨夜までほとんどの会話がなかったにしては言葉のドッジボールが繰り広げられていたのは意外だ。

 

 

「綾小路は私をご指名。分かる?ぽっと出の自称幼馴染に用はないから」

 

「数週間程度で彼を理解していると思い込むあなたの傲慢さには脱帽しました。一度、メンタルケアを受けた方が宜しいのでは?」

 

 

誤解しないためにも確認するが、別にオレと坂柳は完全に敵対しているとかそういう関係じゃない。元はと言えばクラスメイトであって、普段ならオレも友好的に接するつもりでいる。ホワイトルームを知っていようが、障害にならなければ手出しはしない。そもそも、坂柳は貴重な幼馴染属性だしな。

 

しかし、昨日の今日で行動に移す胆力には恐れ入った。やはり坂柳は只者では無いらしい。色々な意味で。

 

 

 

「互いの主張は理解した。だが、ひとまずは二人とも仲良くしてくれ。ここで言い争っても意味はないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

よし、これが妥当かつグッドコミュニケーション。なお、無難に二人の仲を取り持とうとしたオレの試みは─────数秒後に神室のひと睨みと坂柳の暗黒的な微笑によって打ち砕かれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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