ようこそ恋愛に目覚めた綾小路がいる教室へ   作:炉鈴

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嫉妬か、あるいは興味本位か。

 

 

 

 

 

 

高校生の三年間は貴重である。ついぞ語られる言葉の通り、気が付くと四月も終盤に差し迫っていた。

 

この学校の特殊性を際立たせるシステム。ポイントの存在は確かにオレたちにとって不慣れではあったものの、今ではクラスメイトもそれに順応し日常を送っている。授業では真面目な姿勢を保ち、私語もなく、遅刻なども最低限。他クラスの様子は把握しようもないが、少なからずAクラスではオレの思い描いていた通りの学生生活が日常として広がっている。

 

 

「⋯では、これにてSHRを終了する。明日からは五月に突入する為、皆は気を引き締めていくように」

 

 

担任の真嶋先生が放った一言を皮切りにして、オレたちは学生の楽しみである放課後に突入。一気に張り詰めた空気感は抜け、教室は賑やかさを取り戻した。

 

喧騒を取り戻した空間ではクラスメイトたちは思うがままに雑談を交わす。カフェへ行こうと話していたり、和気藹々と教室を後にするグループがいたり。各々が自由を得て時間が流れ始めていき、オレは軽く窓の外を眺めながら意を決して立ち上がった。

 

よし、帰ろう。そうオレは意気込んで普段通りに帰り支度を整えるものの、それは前の席にいる一人の少女─────クーデレヒロインこと神室の視線によって制され、何事かと視線を上向かせた。

 

 

「⋯どうした?」

 

「今日、あんたの部屋に行くから。ついでに買い出しも手伝って」

 

 

未だ教室内にクラスメイトが残っている中、神室は平然と男子の部屋に向かうことを公言する。声量は控えてはいるようだが、すぐ近くの生徒たちには聞こえているだろう。

毎回思うことではあるが、神室は男子の心情というものを果たして理解しているのだろうか。こんな美少女ヒロインに部屋へ行くと言われて動揺しない相手は居ないはずだし、少なくともオレは現在進行形で魅力的に感じている。

 

これは計算しての発言か否か。入学してひと月、言葉をそのまま受け取れば仲の深さを周囲に知らせていると同義に思うがな。

 

まあ、こういう誘いはオレにとって歓迎するものではあることには変わりはない。誰かから仲を詮索されようが、噂されようが。ヒロインとの交流に支障を齎す行動さえ控えてもらえれば充分。むしろ、学生にとって恋愛話は何より楽しい時間であることは先日読了したラノベで学習済みのこと。話題の一助になるなら好きにしてくれ。

 

 

「分かった。普段通りポイントは折半で構わないか?あとで送ってもらえればいい」

 

「⋯ん」

 

 

相変わらずツンとした神室をしっかりと記憶に刻んだ後、オレは鞄を持って席を発つ。同時にオレの後を続くように彼女も椅子から離れ、ぴたりと隣を占拠。今や隣は神室専用となりつつある現実を噛み締め、オレたちは教室を後にした。

 

 

「ところで⋯最近はどうだ。仲の良い友達は作れたのか?」

 

「余計なお世話。ちゃんと⋯出来たわよ」

 

「そうか。ちなみにオレも友達作りには成功してな、ちょうど連絡先も⋯」

 

 

神室とは登校を一緒にする仲にまで進展してはいたが、下校についてはその限りじゃない。週に二日程度は彼女とこうして帰路につき、たまにモールで買い物などに付き合う男子の宿命を全うして過ごしている日常だ。

 

恐らくラノベや恋愛アニメに出会っていない、所謂過去のオレではここまで自然と世間話を振ったり行動に移すことは不可能に近いことだった。その点、今は大抵の雑談を深く考えずとも交わすことができる程にコミュニケーション能力は発達している。さり気なく休日で遊びに誘うだとか、そこまでは出来ず終いだが。何にせよ他人との関わりは重要らしい。

 

話を聞くに、どうやら神室は友人作りに成功した様子。クーデレヒロインに限らず、創作上では必ずといって良いほどメインキャラには親しい仲の友人が隣にいるのがお決まり。オレの認識上でテンプレに等しい設定ではあったが、中々どうして現実に倣っていたようだ。

 

 

「⋯もしかして、女子?」

 

「⋯⋯神室?」

 

「綾小路。今すぐ私に連絡先を見せて。ダメ、なんて言わせないから」

 

 

ぼーっと呆けて隣を歩いていたところ、唐突に神室はオレの腕を掴んで端末を差し出すよう要求してきた。咄嗟のことでつい聞き返してしまったが、何故連絡先を見せる必要があるのかとオレは思考する。

 

オレの事が好きなあまりに異性が気になる、いわば嫉妬ではない。そこまでの好感度を稼いだつもりはないし、だとすると単に興味本位か?ともかく、ここで拒んだりすれば彼女の反感を買うだろう。現に神室は鋭い目つきでオレを見ているしな。

 

連絡先程度ならチェックされるのも問題ない。そう判断すれば、オレの懐に入れていた端末を取り出して素直に手渡す。神室はすぐさま端末を手に持ったかと思えば、慣れた手つきで連絡先の一覧を表示した。にしても、いつ神室は端末のパスワードを把握したのか不思議だ。しっかりとロックは掛けていたはずなんだが。

 

 

「⋯これ、誰なの」

 

「ああ⋯それはDクラスの櫛田だな。先日ばったりと廊下で出会ったタイミングで交換したんだ」

 

 

まず目に入ったのは櫛田の連絡先だったらしい。クラス問わず親しみやすい明るさから人気が高く、たまに放課後で彼女の姿を遠目から見つけても常に誰かと交流している。あの人に好かれる才能はとても貴重だろう。

 

オレと彼女の出会いでいえば入学初日のことだ。そこから暫く会話をする機会はなかったものの、一週間ほど前に偶然遭遇したことで貴重な連絡先をゲット。神室をクーデレヒロインとするならば、櫛田は愛嬌あるクラスの人気者ポジション。見事に属性は被っていない。

 

 

「あとは⋯一之瀬?あんた、何処で知り合ったのよ」

 

「つい昨日になる。といっても、軽く会話をした仲くらいなものだ」

 

 

続けて神室が目に付けたのはBクラスの一之瀬。櫛田とはまた別ベクトルの、人目を惹く綺麗さから正統派な優等生ヒロインになり得そうな生徒だ。これは昨日、彼女が階段で躓いたところを助けたことで新しく生まれた縁、偶発的に起こった出会いに起因する。

 

そこでは軽くお礼と連絡先の交換を申し出てもらっただけで、特に話をした訳でもない。一之瀬自身、噂から聞いてもあの社交的な性格だ。オレは学年に多くいる男子生徒の一人、認識としてはそんなものだろうな。

 

と、まるで浮気でも確認する勢いで根掘り葉掘りを聞かれて数分。廊下で立ち止まって周りの迷惑にならないかと視線を巡らせていた間際、オレは神室の声が険しくなっていくのを身に味わっていた。

 

 

「⋯ねぇ。どうして坂柳との連絡先を交換したの?」

 

「どうして、ってなんだ」

 

「あんたたちは中間テストで勝負する。しかも、坂柳が勝ったら私たちは手足になるも同等。普通に考えたら⋯敵でしょ?そんな相手と仲良く過ごすなんて有り得ない。ましてや連絡先なんて交換するとか⋯」

 

「そもそも、だ。オレと坂柳はクラスメイトだろ。連絡先を交換するのは自然だし、何より勝負だからといって敵とは限らない。言ってしまえば─────オレが坂柳に()()する未来なんてないからな。今後とも仲良くするためには早めに連絡手段を得ておくのが得策だと思った」

 

「綾小路の自信はどこから来てんのよ。坂柳も相当頭はいいみたいだけど」

 

「だからなんだ?⋯少なくともオレは坂柳に負けるつもりはない」

 

 

察するに神室は中間テストの勝負について不安が残るんだろう。先日、成績へは反映されない小テストはあったものの────結果はオレと坂柳が同率一位の満点。

勉強できる男子は話しかけられやすい、などと所在不明のジンクスを信じた結果としては良い方向に働いたか。その時点でクラス内平均の点数に調整していたら神室の不安をより煽っていたはずだ。

 

一般的に見れば横並びの点数。百点という上限があればこそ同等に見えるが、本質はその先にしか見えてはこない。

 

オレの断言に等しい言葉を聞き、神室は眉を下げて視線を巡らせていった。⋯靴先が当たりそうな至近距離なのはこの際指摘しないでおこう。役得だからな。

 

 

「本当に⋯勝てるの?」

 

「問題ない。今のオレに勝てるやつは坂柳を含めて一人もいないだろう」

 

「⋯分かった。綾小路を信じる」

 

 

心配を胸に宿した神室からの一言に明確な返事を送ってみれば、そこから先に不安を広げることはなくなった。

神室はオレが思う以上に芯が強い。坂柳との勝負に半ば巻き込んだ形となっても、最終的には此方へと身を委ねた。初日の利害関係が下地としてあったからかもしれないが、高校一年生での判断力としては上出来だ。

 

それだけで友好関係を結ぶ価値は大いにある。まあ、最たる理由は現実でお目にかかれないだろうクーデレ枠ヒロインを手離したくないからだが。

 

 

「とりあえず⋯ごめん、連絡先を見て。無神経だったとは思ってる」

 

「別に見られても問題ないし、気にするな。だが⋯どうしてオレの連絡先を確認したいと思ったんだ?」

 

 

素朴な疑問。オレからすると、登録されている連絡先を確認する必要性が分からなかった。最近の若者はこうして友人に交友関係をオープンにしていくのが普通なのか?少なくとも、オレの読んでいたラノベにはそんな描写はなかったんだが。

 

首を傾げるオレに対して、神室は硬直したまま動かない。正確には息を呑んでいる、そんな雰囲気だった。

 

 

「悪い。オレの方こそ無神経だったかもな」

 

「⋯違うわ、よ」

 

「⋯⋯神室?」

 

「だから、そういうのじゃなくて⋯」

 

「言い難いことか。なら答えなくても⋯」

 

「そうじゃなくてっ!あんたが、その⋯友達ができたって言ってたから。どんな女子と知り合ったのか⋯私が、知りたかっただけで⋯」

 

「⋯なんで女子限定なんだ?把握するなら男子の方も────」

 

「うっさい。とにかく行くわよ、綾小路。⋯あんたのせいだからね」

 

 

どうやら今の一瞬で神室は機嫌を損ねたらしい。オレはその後も機嫌を直そうと試みたが、ついぞ原因も分からず時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神室の機嫌を損ねる失態を犯しながらも、咄嗟の機転でケヤキモール内の和菓子屋よりチョコ入りいちご大福という絶品スイーツを奢り、どうにか首の皮一枚繋がった翌日。月が変わった感覚は未だにないものの、実感としてオレの端末は確かな数字を刻んでいた。

 

七万程度残っていたポイントに加算して、おおよそ九万五千ものポイント追加。どうやら五月に振り込まれるといった話は正確だったらしいが、予想通り十万という初月の数値には及んでいない。

 

オレは片手に端末を弄び、学生寮の入口で今一度情報の振り返りに務めていく。そんな所、制服の袖が緩く引かれ待ち合わせていた彼女と対面した。

 

 

「おはよ。⋯早いじゃない」

 

「普段はお前を待たせているからな。早起きをして頑張った」

 

「⋯そう」

 

 

相変わらずツンとした雰囲気は平常運転なものの、オレの返答を聞いて神室の表情は柔らかくなる。一見クールな雰囲気に見えても時折見せる笑みが堪らないのはオレだけじゃないだろう。

眼福、なんて安易な言葉を使うには憚られる。常々恋愛ラノベやアニメの先人たちが残してくれていた物語に興味を抱いたオレにとって、これほど理想の挨拶はない。

 

 

「ところで⋯振り込まれたポイントは確認したか?」

 

「当然。ちゃんと確認したわ」

 

 

他の生徒と同じ通学路を共に歩きながら、世間話ついでにオレはポイントの話題を口にする。神室には初日から今日に至るまで何度か説明していたが、この学校においてポイントというのは絶対的な意味を持つのは知ってのこと。

 

一つの指標であり、実力の証明。入学当初には十万もの大金が振り込まれていたが、それが今後も続くなど常識的には有り得ない。

 

とすれば、自ずと結論は絞ることが可能。幸いにもAクラスの生徒はその事実に薄々気付いているのか、真面目に過ごしている印象だった。というよりも、あれが普通の学生生活だろう。

 

 

「あんたの言ってた通り、ポイントには色々使い道があるのかも。しかも初日に振り込まれてた額から下がってる訳だし」

 

「ああ。たかが高校生に十万の大金、そんなものを毎月配るなんて有り得ない。それに⋯お前も気付いてるかもしれないが、学校には至る所に監視カメラがあるだろ」

 

「⋯普段の生活態度も見られてるってことでしょ」

 

「その通りだ。授業中の私語や居眠り、遅刻。学生としての面を評価された上だと仮定すればポイントの減少にも納得がいく。まあ、うちのクラスに限っては然程心配も要らないだろうが」

 

「でも、どうして?坂柳とかはポイントの仕組みを公に説明するタイプには思えないし、他の生徒が気付いた様子も感じられない。なのにAクラスはこれだけのポイント減少に収められてるじゃない」

 

「仕組みに気づいた誰かが皆にそれとなく教えたんだろうな。オレは放課後になるとすぐ帰宅するし、その後にクラス内の⋯リーダー候補、か?そいつが人頭に立って発言した。こういうケースが一番腑に落ちる」

 

 

オレは表立って動くことはなかったし、そもそも放課後の大半は神室と過ごしていたのも大きい。教室には残らず初日にクラス内で自己紹介をしようなんて恒例イベントがなかったことからも交流の機会は減っていたからな。

 

その間に誰かが指揮を取っていた。もしくはそうなるように誘導した、か。オレの知る限りでは坂柳が手を引いていても可笑しくないと考えている。

 

 

「具体的には?」

 

「坂柳が言っていた駒を使ってそれとなく流した可能性が一つ。ポイントは一律ではないこと、学生としての生活態度から逸脱すれば減点されること。あいつも同じクラスとして窮屈な思いはしたくないだろうし、軽く流す程度ならするだろう。もしくは仕組みに気付いた他の生徒が呼び掛けた、これも有り得る」

 

「まさか。⋯あんたも坂柳もそこまで考えてるの?」

 

「坂柳は優秀だ。頭脳においてはオレの次にあたる、そのくらいに思っておいた方がいい。坂柳の立場で考えるのなら⋯そうだな。あいつ自身、クラス内における主導権を握るための布石を敷いていても不思議じゃない」

 

「⋯まぁ、あの意地悪い性格ならね」

 

「ひと月という期間を使い、まずは生徒の質を確認。その中で特に自主性の高い生徒を見極め、振るいにかけ、必要であれば排除する。今はその様子見として、敢えて噂程度の話を流して反応を窺う様子見段階だろうな」

 

「⋯ほんと、あんたたちって優秀すぎるっていうか。私には理解できないことばっか」

 

 

神室の言う侮れない相手として坂柳が一番に挙がることは想定済み。先日あった小テスト最後の二問は高校一年では学ばない範囲、明らかに意図して作問されたものだった。そこを満点となれば警戒するのは必然のこと、あいつが性格や思考回路含め一般的な学生に比べ飛び抜けているのは否定しようもない。脅威とも感じられるはず。

 

だが、神室の表情は曇ることはなかった。落ち込むでもなく、不安を募らせるでもなく。そこにあったのはオレへの期待と確信に他ならない。

 

 

「まあ、中間は少し先だ。それまでは普通に過ごせばいい。ひとまず目先のことに集中すべきだろう」

 

「分かった。⋯信じてるから、綾小路」

 

 

歩幅を合わせ、教室へ向かう。男女二人の登校は日常的な風景となり、オレの恋愛観を固めていくだろう。そして今日、神室はほんの少し距離を縮めた。

 

信じてるから、と。指先が微かに触れ合って手の甲を撫でる。それが果たして偶然か、あるいは意図したものか。オレは問い掛けることはなく、心地好い時間を堪能した。

 

神室真澄。彼女がオレにどんな恋愛を齎してくれるのだろうか、そんな遠い未来を想像して。

 

 

 

 

 

 

 

 

/////////

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────今月のポイント配布について説明する」

 

 

教室は静まり返り、喧騒を霧散させる。一限目を費やして語られる真実は、やはりクラス内でも動揺を生んでいる様子だった。

 

 

「皆も気付いている通り、今月は9万5000ポイント。今から説明するクラスポイントを反映した形となる」

 

 

ホワイトボードに書き出される文字列。クラスポイントという表記の下に、それぞれのクラスが獲得したポイントが羅列されていく。

 

Aクラスは950cp、下のBクラスでも600cp後半とあって他とは圧倒的な数字だ。

 

 

クラスポイント(cp)とは、その名の通りクラスへと与えられるポイントのことだ。1cpごとに100プライベートポイントが支給される。入学時点では全クラスに1000cpが支給されていることからして、この結果は最高の滑り出しといっていい」

 

 

成程、どうやらオレの予想は全て当たっていたようだ。となればポイントの減少についても把握しておきたいが─────

 

 

「先生。質問の許可をいただけますか」

 

「葛城か。なんだ、言ってみるといい」

 

 

いっそのこと他人が聞いてくれればなと淡い希望を抱いた直後、オレの意図を汲んだかのようにベストなタイミングで一人の男子生徒が手を挙げた。

名前は⋯葛城か。屈強な体格にして授業態度も真面目。姿自体は何度も後ろの席から見えていたし、実際小テストでは上位に入り込んでいる。恐らく実直なタイプと見えるな。

 

そんな人間観察を続けていた所、ふとオレに向けられる意識に気づく。斜め右、銀髪を微かに揺らして微笑む坂柳の姿が視界の端に映った。

 

ああ、そういうことか。またもオレの予想は的中していたらしい。坂柳の取捨選択、もといクラスでの地位確立。その第一歩として発言力のある生徒を見極め、やがて手中に収めること。もしくは徹底的に排除するのも視野に入れているか?周囲を見渡すに葛城を羨望の眼差しで見つめたり、信頼を向ける瞳を宿した生徒が何人かいる。尋ねるまでもなくはこの男はクラスでも無視できない存在になりつつあるようだ。

 

 

「ポイントの仕組みについては理解できました。ですが、どのような事例でポイント自体が減少するのか。その条件をお聞かせください」

 

「残念だが明確に答えを伝えることはできない。此方からはノーコメントだ」

 

「そうですか。分かりました、お答え頂きありがとうございます」

 

 

どうやら学校側はポイントの減少について明言することはない。そう捉えて問題なさそうだ。とはいえ、葛城ほどの有能な人間なら推測は立てられているはず。

 

 

「他に質問はあるか?」

 

 

質問を終えた葛城が沈黙し、真嶋先生は周囲へと視線を移す。そうして間もなく、緩やかに坂柳が挙手をした。

 

 

「質問、宜しいでしょうか」

 

「ああ」

 

「ポイントが減少するということは⋯逆に増やす手段もある、と。そう解釈しても?」

 

「もちろんだ。直近で言うと中間テスト、そこが肝になるだろう」

 

「成程、把握しました。とすれば、所有するcp次第でクラスの順位が変わってしまう。そのような事態も今後起こりえるのでしょうか」

 

「無論、可能性としてはある。保有するcpがBクラス以下になれば、このクラスはBへと繰り下げ。対してBクラスだった者はAに繰り上がる」

 

「⋯とてもよく分かりました」

 

 

坂柳はクラスの生徒らが思っている不安、疑問を全て口にする。ポイントの重要性が先程の説明で上がったことから、認識はより強いものへと変化していくはずだ。

葛城、それから坂柳。オレの視点から考えるに、二人がこれからのAクラスを率いていく可能性が非常に高い。

 

堂々と質問し、発言する。学生にとってはそれだけで頼もしく見え、同時に縋りたくなる姿勢があるのだろう。

 

しかし、現状では坂柳の方が若干有利か?クラスメイトの大半が納得した様子を浮かべているのは、まさに彼女が根幹に至る質問を投げかけたから。一抹の不安や疑問ですら代弁してくれる人間がいる。ちっぽけにも思える事実こそ人を惹きつけるんだろう。

 

 

「最後に、期末や中間といったテストで赤点を取った生徒は──────退学となる。そのことを覚えておくように」

 

 

張り詰めた時間に小さな歪み。退学の二文字を投下し終え、真嶋先生は教室を後にした。

 

 

「退学って⋯本当なの?」

「赤点一発でか」

「実力で測るってそういう⋯」

 

 

その歪みはゆっくりと伝播していく。退学とはそれほどに大きく、学生の人生を左右するもの。たとえ優秀なAクラスの人間だとしても中身は変わらない。いくら他クラスよりも勉強ができ、テストで高得点を取れるとしても。決して最悪の未来を想像せずにはいられない。

 

人間とはそういう生き物であると、オレはよく理解しているはずだ。

 

 

「心の準備はしてたけど⋯こう聞くと現実味が起こってくるものね」

 

 

前方の席から振り返り、神室は瞳を揺らしてオレへと語りかけていく。まあ、気持ちは理解できる。いざ退学なんて言葉を聞いて動揺せずにいられるメンタルを持つ人間は少ないからな。

だが、オレに限ってその現象は決して実現しない。故に憂う必要も、不安に駆られ勉強漬けになることもない。

 

ただ、オレは。他人に無関心だったあの頃とは違う。目の前のヒロインが不安げに見つめているのに、さぞ無愛想に接することは決してありはしない選択肢。

 

坂柳との勝負は重要だ。しかし、その前にまずは彼女を助けることにしよう。万が一は要らない、確実な結果を得るためにも。

 

 

「神室。お前に限っては有り得ないだろうが、念の為だ。一緒に勉強するか?」

 

「⋯する。一緒にしたい」

 

「やけに乗り気だな。もし難しそうなら断ってもらっても⋯」

 

「するって言ったのが聞こえないの?とりあえず今夜から数時間は綾小路と勉強するから。⋯毎日」

 

 

そうして、オレは何を仕掛けるでもなく自然にヒロインとのドキドキ勉強会を過ごす機会を手に入れる。ちなみに今日の晩御飯はハンバーグらしく、一緒に作る時間を今かと待ち侘びるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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