鬼の娘の角を撫で撫でして照れさせたい…!
ゆらゆら揺れる体と目に隈が出来た気だるそうな顔が窓ごしに見える。
もうここ何週間も乗り続けている終電で俺はボーっと自分の情けない顔を見ていた。
おそらくというか間違いなく俺の会社はブラックだ。この後は帰りにコンビニで適当な酒とアテを見繕い家で飲みながら煙草を吸ったら仮眠をとって4時間後には出勤の準備だ。辞めたくないかと言えば嘘になるがもうこの生活が身についている。今更全てをガラッと変えるにはやっぱり踏ん切りがつかない。なんだかんだでこのままなんだろうなと一種の諦めすら感じていた。
家に着き荷物を投げて酒を出そうとしていると留守電のマークがチカチカと光っていることに気が付いた。一体誰だろうか、交友関係は会社に入ってから疎遠になっていった。連絡きても碌に返せないし飲みにも行けない。自分から連絡もしなければ当然のことだ。いかんいかん、つい物思いに耽ってしまった。留守電を再生すると母親からだった。要件は簡単だった。
「お爺ちゃんが今日亡くなった。田舎で葬式を行うから帰ってこれる?」
お爺ちゃんか…とうとう死んじゃったんだ…。
俺は田舎のことを思い出していた。
子供の頃はお盆と正月にはお爺ちゃんの住む田舎へ帰って遊んでいた。と言っても畑と山と川しかないし同年代が全くいなかったので適当に探検と言って散歩してたくらいだ。それも中学に上がるにつれて地元の友達と遊ぶ方が楽しくなり留守番することが増えていき受験なども控えだした頃からは全く行かなくなっていた。
お爺ちゃんとの思い出を一生懸命に記憶の引き出しから探してみる。
「おぉ!それはな、鬼さんだ!鬼さんと遊んだのか。」
ふとよぎった言葉…
なんだっけ、お爺ちゃんが俺に教えてくれた、そうだ、俺は田舎では最初は1人だったけどある日を境に2人で遊ぶようになったんだ。何故忘れていたんだろう。
俺は田舎での出会いと楽しかった日々を少しずつ手繰り寄せていった。
小さい頃、小学2、3年位だったかな、暑い夏の中俺は山の中で虫取りをしていて奥の方まで行ったんだ。綺麗な蝶を捕まえようとして小さな崖から足を滑らして泣いていた。捻挫してたんだと思う。立てなくてここが何処か分からない、助けてと叫んでも聞こえる筈がない、そんな絶望感から動けなくなっていたんだ。その時
「やあ、こんな所で何をしてるんだい?」
からかう様なくすくす笑いと一緒にそいつがいたんだ。
歳は同じ位、髪は真っ黒で肩までの長さ、着物姿が周りの景色の中で一際浮いている。でもそれでも何より目が行くのが額から伸びた2本の角だった。
彼女は笑顔を崩さずに、こんな所で泣いていると大きな熊に食べられちゃうよと俺の元へ近寄ってきた。俺は逃げようとして立ち上がろうとするが足が痛くてうずくまってしまう。
「おやおや、こんな足じゃ歩けないね?ならしょうがない。」
そんなことを言うと俺をおぶり始めた。俺は恥ずかしくて離せ、離せと喚いてもがいたが彼女は一言、舌噛むよと言うと凄まじい速さで走りだした。それはもう走るというより滑って行くような感覚だった。横から風の音が聞こえる、下駄なのに何故こんなに速いのか、この子は一体何なのか…
そんな疑問を残して彼女はまた一言、着いたよと言って俺を下ろした。確かに山の入り口だ。口をぽかんと開けている俺を余所に彼女はじゃあねと笑顔で山の中に消えていった。
俺は家に帰ると早速山で会った女の子の話をした。
しかし、当然というか両親は全く信じなかった。そういう遊びか、そんな危ない所に行ったら駄目、それよりズボン破いちゃってるじゃない、そんな返事だけで誰も聞いていない。そんな時にお爺ちゃんが
「おぉ!それは鬼さんだ!鬼さんと遊んだのか。」
と言ってやってきた。母さんは子供の遊びに付き合わなくてもと言っていたが気になった俺はお爺ちゃんに詳しく聞いてみた。お爺ちゃんが言うには、お爺ちゃんのお爺ちゃんが子供の頃に鬼の一族がこの田舎に追われて逃げてきたそうだ。不憫に思った村の皆は山に鬼達を匿ってやがて山に集落を作って暮らし始めたがいつしか姿を見せなくなったそうだ。
「鬼さんは不思議な力をいっぱい持っている。例えば山から家まではどうやって帰ってきた?」
そういえば驚いていた俺は呆然としながら歩いて帰ってきたが足を痛めていた筈だ。でも今は全然痛くないどころか山に入る前より調子がいい。お爺ちゃんはハッハと笑いながら驚いている俺に
「助けてもらったらお礼をせんとな。明日、お盆で作ったおはぎがあるから持っていってやんなさい。」
そう言って部屋に戻って行った。
次の日、俺はおはぎと水筒にお茶をたっぷり入れて山に向かった。両親からは呆れられながらも無茶なことはしない様にと釘を刺されたが俺はワクワクしてそれどころではなかった。あの走った時の怖いながらの爽快感、鬼というファンタジー、そして何よりあの子と遊べるかもしれない。
そうして山へ入った俺は誰もいないだろう場所へ大声で昨日はありがとう、家の手作りおはぎ良かったら食べて、と力一杯叫んだ。
「そんな大声じゃなくても聞こえるよ。昨日は泣いていたのに今日は凄い元気だね。」
振り返ると後ろに昨日の彼女が立っていた。昨日と同じくすくす笑いながら近付いてくる。
俺は改めて昨日はありがとう、と言っておはぎを渡す。でも1番言いたい言葉が出てこない。一緒に遊ぼう、その一言でいいのに彼女の笑顔の隙間に見える綺麗だけど吸い込まれそうな瞳に息が詰まって喋られなくなる。そうしていると
「美味しそうなおはぎだね。甘いものは好きだけどこんなには食べられないなぁ…。一緒に食べてくれないかい?」
と彼女は変わらない笑顔で俺に言って手を引いて歩き出した。無邪気な様子だけどどこか考えを読まれたようでドキリとしながら俺は黙って彼女に着いて行った。
それからは毎日山で彼女と遊んだ。彼女は相変わらず着物なのにひょいひょいと森の中を駆けていく、でも俺が見えなくなる所には絶対に行かない。
ある日は綺麗な湧水がある場所を教えてくれた。君の足を治したのはこの水の力なんだよと教えてくれた。鬼の集落はどこにあるのと聞くとこの山色んな所に入り口があるよ、でも人間が見つけるのは無理じゃないかな、特別な術で隠してるしと笑っていた。俺が気になっていた角も触らせてくれた。彼女いわくむずむずするが悪い気分ではないそうだ。
そして俺は毎年のお盆と正月が楽しみになっていった。冬の山は危ないよ、と彼女は言うが俺は知ってる。集合場所になっていた湧水の所までの道だけ雪が綺麗に避けられているのを。彼女も一緒に遊ぶことを楽しみにしてるんだ。そう思うと嬉しくなって彼女の角を優しくなでると
「な、なんだい?全く君は泣き虫なのに懲りないねぇ…。角の撫で方だけは上手くなったけど。」
と悪態をついてくるのだった。
でもそんな楽しい日々に終わりが突然きた。
「もう君とは会えなくなってしまった。」
6年生の夏、彼女の口から突然告げられた。
突然の言葉に驚きが隠せない。どうして、何故、そんな言葉を聞いても彼女は何も答えない。
俺が鬼の集落の場所を聞いたから、それとも不思議な湧水の場所を教えたから、だからなの、必死の問いかけに彼女は背を向けたまま少し掠れた様な声で絞り出す様に話し始めた。
「本来はね、人と鬼はあまり関わってはいけないんだよ。だから内緒だったんだ。鬼のことは皆に知られてはいけない。そんな掟だったんだけど君を見つけた。私は放って置けなかったんだ。それだけなら良かった。でももっと君といたい。君が来るのが楽しみで、君と話をするのが心地よかった。私の1年の楽しみは君だけだったんだよ。でもバレちゃった。君はそんなことしないと言っても大人達は秘密がバレる。人が押し寄せる。会うことをやめるか君を殺すかの2つだと言われた。こうするしかないんだよ。」
そう一気に早口で告げると言葉が出ない俺に振り返り
「君は私のことなんて忘れて、人間と楽しく遊びなさい。」
そういつもの笑顔で、でも目を腫らした顔で告げると去って行った。
過去のことを思い出しながら俺は燃えて小さくなった煙草を灰皿で潰しながら新しい一本に火をつける。
そうだ、彼女に別れを告げられてから次の日も次の日も湧水の場所に向かおうとしたがどうやっても辿り着けずそうしてるうちに田舎へも行かなくなってしまったのだ。そして中学生になった時には彼女のことを完全に忘れて地元の友達と連む様になっていったんだ。何故今まで忘れてしまったのだろうか…
彼女の不思議な力か、いや違う、彼女に二度と会えない悲しみから自分の記憶に蓋をしたのだろう。
…お爺ちゃんの葬式に帰ってこいと母さんは行っていた。もう一度田舎へ行こう、あの湧水の場所に行けるかはわからない。それでももう一度彼女に会えるなら可能性に賭けてみよう。そう思うと居ても立っても居られなくなり急いで上司に初めての有給申請の電話をかけた。
朝早く走る新幹線の中、俺は昨日の正確には今日の夜中だが行き当たりばったりで無鉄砲な行動の自己嫌悪に頭を抱えていた。
昨日思い立ったがと勢いで電話を掛けしばらくのコール音の後、さっきまで寝てたようなぼんやりした声の上司が出た。お疲れ様ですと俺、馬鹿野郎、今何時だと思ってると上司。時計を見ると午前2時過ぎ、なるほど確かに電話をするには遅すぎる。もっともいつもの俺はこの時間にようやく一息ついて風呂に入って寝るのだが。祖父が亡くなった知らせがあったので明日田舎へ向かいたいので有給を申請したいのですがとやや萎縮しながら伝える。すると上司は先程の眠そうな声から一変、猛烈な勢いで捲し立てた。何を寝ぼけたことを言っている、仕事を舐めてるのか、祖父が死んだ位で申請が通ると思ってるのか甘えるな、申請は受けんし会社には来い、嫌なら辞めろ代わりはいくらでもいる…
激昂した言葉の散弾銃に思わず謝って撤回したくなる、もういいだろうか、別に子供の頃の思い出だ、そもそも本当にあったのか…
頭の中でぐるぐる色々な言い訳が巡る。その中で彼女の腫れた目の笑顔がはっきりと甦る。今、行かなければ一生後悔する。俺は上司に伝えましたので、と告げると話を強引に終わらせてスマホの電源を切った。そしてその足で駅まで走ってきたのだった。
…今思えばなんて無謀なんだろうか。お爺ちゃんの葬式にかこつけてあるかもわからない場所のために会社を休むなんて。もう怖くてあれからスマホは電源を入れていない。もう腹を括れ、そう思ったと同時に目的の駅のアナウンスが流れた。
それからは電車に揺られ、1時間に1本来るか来ないかのバスに乗り懐かしい田舎へと帰ってきた。
ここは何も変わらないな、まるで時間が止まっている様だ。そんなことを考えながら歩いているとやがてお爺ちゃんの家が見えてきた。記憶通りだがこんなに小さかったかな、いや俺が大きくなったのか。
そんなことを考えていると扉が開き母さんが出てきた。母さんは来るなら電話しなさい、少し痩せたか、しっかり食べてるかと色々聞いてきたがまずは上がってお茶でもと中へ入れてくれた。
家の中は親戚やご近所さんやらが一杯集まっていたが、皆ばたばたとしていて俺も何かしなければいけないのかとソワソワしてしまう。母さんはあんたに出来ることは今は無いよ、お爺ちゃんに挨拶してきなと言うと棺のある部屋へと連れてきてくれた。
棺の中ではお爺ちゃんが眠っている。こんなに皺多かったかな、こんなに小さかったっけ、そんなことを考えていると後ろから
「あら、もしかしてお孫さん?」
と若い女性に尋ねられた。誰だろう、親戚ではないのは確かだ会ったことがない、するとその人は自己紹介をし始めた。自分は介護士で訪問介護でよくお爺ちゃんと話していた。本当はこういう場には来ないのだけれどお爺ちゃんのどうしてもしてほしい事のお願いのため参加したことを話したあと手元の鞄から幾つもの封筒を取り出し俺に
「あなたのお爺さんがね、ここに帰ってこない孫が唯一帰るとしたら俺が死んだ時くらいだ。その時にこれを渡してやってくれってだからこれはあなたに。」
お爺ちゃんが、俺に封筒を渡すように頼んだ。どういうことだろう、色々気になりながらも封筒を開けて中を確認していく。中には紙、紙、紙どれも紙だけだが中には文が書いてある。試しに一つ読んでみる、え…これってもしかして、それからは次の紙、また次の紙次々読んでいくうちに俺は動き出さずにはいられなかった。その沢山の封筒を鞄に詰め込みバタバタしてる母さんにちょっと行ってくると告げると返事も待たずに走り出していく。今行かなくちゃ、いや今行きたいんだ。俺は長旅で疲れていることなんて忘れて山へ駆けていった。
山の中は昔と変わらず木々が鬱蒼と茂っている。枝や葉がチクチク当たって煩わしい。でもそんなことどうでもいい、絶対に湧水の場所を見つけてやる。無いならあるまで探すだけだ、何処かにあるはずなんだ、いっそ大声で呼んでみようかそんなことを考えていると目の前を大きな風が通り抜けた。思わずめろをつぶってしまうその一瞬にそれはあった。
湧水の場所だ。彼女と別れてから一度も見つけられなかったあの場所だ。
俺は見つけた喜びと安堵にヘナヘナと座り込む。
そういえば昨日仕事から帰ってからねてなかったっけ…。
今更になって追いついた疲れに起き上がれなくなっていると懐かしい、それでいて待ち焦がれた声が聞こえてきた。
「やあ、こんな所で何をしているんだい?」
俺はバッと振り返る、見た目は大分変わったが間違いない、彼女だ。
肩までだった髪は伸びて腰くらいまである、身長も大分伸びていて着物と相まって落ち着いた雰囲気だがあのくすくす笑いと吸い込まれそうな瞳、何より額の角が証明している。
俺は精一杯の力で立ち上がると絞り出す様な掠れた声で言った。
「君に、会いたくて、来たん、だ」
そういうとまた力が抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。
彼女は一瞬驚いた様に目を開いたがすぐに落ち着いた様子で
「そうなんだ。でも生憎だけどね、私は君のことなんて知らないし知ってたとしても会いたいとも思っていないかも知れな…」
嘘だ…。俺は彼女が最後まで言い終わる前に遮った。彼女が言葉に詰まっているうちに鞄に入れた封筒を見せる。
「これは…」
この封筒は手紙だった。彼女がお爺ちゃんに毎年夏と冬に送っていた手紙だった。内容は俺が元気にしているか、俺と別れたことが辛い、俺に会いたいと言ったことがずっと綴られていた。
「ごめんね。遅くなって、俺、帰ってきたよ。」
彼女の笑顔の仮面が剥がれて大粒の涙が溢れ出した。
それからはお互い会わなくなってからの話を沢山した。彼女は俺の話をずっとそうかい、そうだったんだと聞いていた。彼女はお爺ちゃんからの手紙からある程度のことは知っていたそうだ。田舎へ来なくなった時は自分が原因じゃないかとずっと自分を責めていたらしい。お爺ちゃんはそんな彼女にずっとこんな田舎より一杯物がある地元の方が楽しいんだろうから気にするな、帰ってこないのが元気な証だと励ましてくれていた様だった。
あの日から彼女は自分の集落に戻ってもずっと俺のことを気にかけてくれていた。でも集落の皆は人に追われたことをずっと忘れずにいて人間は恐ろしい、人間には近付くなと言われ続けてきた。その度に俺と遊んだ思い出がよぎり、そんなことは無いと言い続けてきたそうだ。そして彼女は孤立してしまった。今では集落では腫れ物扱いの様だ。
お爺ちゃんが亡くなったのを風の噂で聞いてせめて遠くから見送ろうとしていた時に俺が山へ入ってきて慌てて隠れたら叫ぼうとしていたので急いでこの場所へ連れてきたらしい。
つい昨日まで忘れていたのに俺はなんて都合がいいのだろう。気が付けば彼女を力一杯抱きしめていた。
最初は驚いた様子で固まっていた彼女だがすぐにそっと背中に手を回し優しい声で囁いた。
「おかえり。ずっと会いたかったんだよ。」
…そろそろ戻らなければ。俺はそう告げると、彼女は名残惜しそうに俺から離れてこれでもうお別れだね、と言って背を向けて去ろうとする。
そんなことにはならないよ、とその背中に伝えると山を降りた。
お爺ちゃんの家ではやっぱりというか想像はしていたが親戚同士で話し合っていた。この家をどうしようか、売りに出すにもこんな田舎じゃねぇ…、取り壊すにも費用が…、俺はその話の中割って入って誠心誠意の土下座で頼み込んだ。この家に住まわせてくれ、俺はここに住みたい、ここじゃなきゃ駄目なんだ。親戚一同は騒然としながらここに住むってどうするんだ、仕事はどうするんだ、そもそも孫は相続できないぞ、当然の容赦の無い現実が突きつけられる。しかしそんな中、母さんは俺の顔を上げさせ目を見ながら聞いた。
中学からお爺ちゃんの家に来ない、一人暮らししてからは何も連絡もしてこないあんたがこんな我儘をいうんだ、よっぽどの事があるんだね。住んでて後からやっぱり辞めるなんて言わないね。
その問いに俺は迷いなく力一杯頷く。
母さんはわかったというと俺の横に並んで土下座し始めた。
普段は仕送りすら要求しない息子が精一杯のお願いをしてるんです。どうかここを預らせて下さい。
俺は涙を堪えながら一緒に頭を下げ続けた。
それからの話をしよう。
土地は名義としては娘の母さんの物になった。その際の手続きや面倒な書類などが沢山あり申し訳なくなったが母さんはいいんだよ、老後はここで面倒見てもらうからと言い、冗談だよと笑っていた。
職場には退職願を叩きつけた。上司はふざけるなと怒鳴りながら破り捨て圧をかけて来るが気にしない。上司は電話でお前の代わりはいくらでもいると言ったが俺には彼女の代わりはいない。
俺はスマホの録音機能を見せて着信履歴と合わせて労基と弁護士に相談されたくなければ退職を受理しろと言った。上司は殺してやると言わんばかりに掴みかかる寸前だったが気にせず俺は会社をあとにした。
今は彼女と2人、お爺ちゃんの家で暮らしている。
本当に驚いたのは俺が来なくなった後のお爺ちゃんの行動力だった。近所や母さん、親戚に鬼がいることを言い続けて俺が鬼と暮らすと言ったら許してやってくれと頼み続けていたそうだ。話半分だった周りもその通りになったので驚いていたがすぐに理解してくれた。お爺ちゃんには本当に頭が上がらない。
でもそのおかげで俺たちは離れていた長い時間を取り戻すんだ…。
彼女がふとこっちを見て何考えてるんだいと尋ねてくる。俺は何でもないよと優しく角を撫でる。
すると彼女は恥ずかしそうにしながら教えてくれた。
「子供の頃から君は私の角を撫でるけどね、本来はね、鬼の角を触るのは婚姻の儀なんだよ…」