理想のシチュ   作:モン娘好きの勿忘草

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小さな町工場で家族と暮らしている主人公が色々な不幸に見舞われていきその中で1人のスキュラと出会う…
スキュラは思い入れが強い種族なので精一杯書きました!
スキュラの触手で全身巻きつきハグをしてほしい…


スキュラとのシチュ

 波に揺られて客船は進む。潮風が肌を撫でてカモメ達は賑やかに鳴いている。甲板では楽しそうなグループがワイワイと走り回っている。そんな人達の中で俺は1人でいた。どこか遠くへ行きたい…。地元から出来るだけ離れたい。そんな気持ちで俺はこの船に乗っていた。

 きっかけは両親の死だった。家は決して裕福とはいえない町工場だったけど家族でなんとか切り盛りしてきた。ある日、父が作業中に事故を起こした。腕が上がらなくなる結構大きな事故だった。3人で仕事を回すだけでもカツカツだったのに何を思ったかメディアが取材に来た。事故のことだと思った俺たちはその時の経緯と後遺症が残っているが仕事は大丈夫だと伝えた。

これが大きな間違いだった。取材の目的は事故のことではなく俺たちの様な小さな工場などの実態というドキュメントだった。その内容は俺たちの話などほとんどカットされていて色々な工場がいかに大変で休み無く働いて怪我をしてもお構いなしな奴隷の様な現状と伝えていく…。慌てて取材に来た局に電話をしたが部署が違うだのとたらい回しにあった挙句、申し訳ないが報道したものは取り消せないと言われた。そしてテレビに取り上げられた結果、請負先のほとんどが仕事を回してこなくなった。そんな環境で色々なことに厳しい昨今では難しいとの話だった。

そして事件は起きた。俺は色々な企業に売り込みに行って帰ってくると両親は天井に首を括っていた。なんとも言いがたい異臭が漂っている。そこからはあまり覚えていない。警察と救急隊が駆けつけてきて説明をして…。その中で俺の頭の中は何故両親は俺を置いていったのだろうかしかなかった。

 

 葬儀が終わり、色々な知り合いやかつての請負先が挨拶に来た。皆悲しいでしょうと慰めに来たが俺の中には悲しんでいる暇もなくこれからどうしようかといっぱいいっぱいだった。そこへ彼らが現れた。かつて取材に来たメディアの奴ら、彼らはお悔やみ申し上げますと一言言うと現代の闇、町工場の現実として特集を組みたいと言い出した。何を考えているんだ…。お前らのせいで、お前らが来なければ、殺してやる、色々な考えで頭がぐちゃぐちゃになる…。もう嫌だ、人間は嫌だ、どいつもこいつも好き勝手に言いやがって…。両親もだ、俺も一緒に死ぬことを申し訳なく思っていて残したのかもしれないがこんな世界にいたくなかった。

何処か遠くへ行こう…。

俺は通帳の残高を全て引き出し客船の予約を取った。場所はどこでも良かった。うんと遠い所、自分を誰も知らない所…。そのあとのことなんて何も考えていなかった。

 

 船は優雅に進んでいく。水平線の端で鳥が群がっている。魚の群れがあるのだろうか…。ぼんやりと眺めていると大きく船が揺れた。ドンという衝撃が背中にくる。一瞬振り返ると先程からにぎやかだったグループの1人がバランスを崩してぶつかったのだとわかるが俺の身体はそのまま甲板から投げ出され冷たい海の中へと落ちていく。水のでは服がどんどん重くなっていきもがけばもがくほど底へ沈んでいく。鼻の中と喉に海水が入ったのだろう、ヒリヒリすると共に息苦しさに呼吸をしようとして水を飲み込んでしまう…。

…そうだ、何を足掻く必要があるんだ。俺にはもう何も無い。このまま死ぬならそれでもいいじゃないか…。次第に身体を動かすことを止めて底へ底へと沈んでいくことを許していく。意識が次第に消えていく…。お迎えって本当にあるんだな。ぼやけた景色の中でまっすぐに女性が近付いてくる。それが暗い海の中で最後に見た光景だった。

 

 俺の部屋に眩しい朝日が差し込む。1日の始まりの合図だ。さぁ着替えて準備をしなければ。

居間では父さんが新聞を読みながらお茶をすすっていて母さんが朝食を並べている。俺は軽くおはようというといつもの場所に座り箸を取ろうとするがおかしい。箸が無い、それどころか食事も俺の分だけ用意されていない。俺は母さんに俺の朝飯はと聞こうとするが母さんがいない。さっきまで新聞を読んでいた父さんも消えている。並べられていた朝食も何もない。次第に身体が居間からどんどん離れていきまるでトンネルの向こうみたいに小さくなっていく…。待ってと走り出そうと立ち上がった瞬間に俺の肺と腹部にドンッという重い衝撃がきて思わず目をつぶって顔をしかめる。なんだこれはと言おうとする間にまた衝撃がくる。堪らず声をあげそうになり口を開けるが声の代わりに大量の水がゲボッと出てきた。精一杯の力で目を開くと満天の星空と長い髪を俺の顔に垂れ下げた女性がこちらを見ていた…。

 

「あら、お目覚め?」

 

どこか棘のある冷ややかな声。

何か喋ろうとしても息が苦しく言葉にならない様な声が絞り出る。

 

「元気そうね、良かったわ。ここで死なれても困るもの。」

 

これが彼女との最初の会話だった。

 

 しばらく息も出来なく動こうにも力が入らないし何かが身体に巻き付いて離さない。冷えた身体に熱が戻るまではこの巻き付いているものから熱を貰おう。少しヌメッとしているが温かい。ところでこれはなんだろう。俺は精一杯頭を上げて目線を下げる。

長いタコの触手のようだ。だが太さは俺の脚よりもあり長さは俺を簀巻きにできるほどにある。そしてその触手は俺の身体から更に伸びていてその元には…先程の彼女?

彼女の腰から下から伸びていて本来あるはずの脚が無く代わりに同じような触手が何本も生えている…?

つまり彼女は人間ではなく…

 

「何をじろじろ見てるのよ。穢らわしい。」

 

俺の思考がまとまる前に彼女が喋った。

彼女の顔を見るとその長い髪の中の整っているだろう顔を嫌悪でしかめている。

 

「この脚がそんなに不気味?気持ち悪い?この脚はあんたが変なことしない様に縛り上げてるのよ。」

 

だんだんと彼女の脚の力が強くなってくる。それと同時に少し震えているのを感じる。震えているのは何故だろうか、怒り、悲しみ、それとも…。

再び薄れていこうとする意識の中で掠れた様なそれでも今思っていることを絞り出した。

 

「ありがとう…。怖くない…。温かい…。」

 

 身体を締め付ける脚の力が少し緩んだ気がしたところで俺の意識は再び途切れた。

 

 再び目を覚ました時は小さな部屋だった。小さな窓からは砂浜と海が見える。内部を見るにここはかつて座礁した船なのだろう。所々に航海に使われていたであろう物がある。扉を開くと眩しい日差しが目に差し込む、小さな島だなと思っていると海面から大きな音が、そして反射した水面から勢いよく水飛沫と共に彼女が飛び出してきた。

彼女の脚には網がぶら下がっていてその中には何匹もの魚が入っている。

 

「あら、目が覚めたの?てっきり死んだと思ってたわよ。」

 

船に登ってきた彼女はそう言うと網を俺に渡す。

 

「あんたを私の家まで連れて来て疲れちゃった。厨房は案内するからそこにある野菜とか調味料で何か作ってよ。」

 

彼女はスタスタと俺が出てきた所とは違う扉を開けて船へ入って行く。俺はそれに何も言わず着いていった。

厨房の中は綺麗だ、というより船の中自体が綺麗だった。船時代は昭和の日本のものだろうし劣化自体は所々見られる。しかし掃除が行き届いているようで不潔さはまるで感じられない。

更に驚いたのは厨房に米があり、塩と醤油…いやこれは魚醤だろうかそれにしては臭みがない。あと乾燥させた昆布と卵まであり野菜、油とありそれなりに充実している。

食器や鍋も全然使えるものばかりだ…。

 

「昔に魚醤?ってやつを作っていた奴がいたから色々教えて貰ったのよ…。野菜や卵はもう一つ別の所に家があってそこから獲ってくるの。場所?教えるわけないでしょ。」

 

そう言って彼女は座りながら早く作れと促す。とりあえず拾ったというガスコンロがいくつかあるのでそれでご飯を炊きながら昆布と魚醤と卵でスープを作る。その片手間で先程の魚を塩焼きにする。母さんと交代で料理も作ったりしていたので簡単なものなら出来る。…母さんか。

俺は何かが頭の中を覆っていく感覚がしたが振り切って料理に集中した。

出来上がった料理をテーブルに並べる。米に焼き魚に卵スープ…。彼女は目をキラキラさせてこの簡単な料理を見ていた。

俺は自分の部屋に帰ろうとすると彼女が脚で俺の身体を引き止める。

 

「何処に行こうとしてるのよ?」

 

「いや、作り終わったから俺は自分の部屋に戻ろうかなと…。」

 

「あのねぇ、私が魚や材料を持ってきた。あんたがそれを料理した。だからこれは2人の報酬なの。あと昨日から何も食べてないでしょ?あんたに私の家で死なれたら気分悪いわよ。」

 

そう言って俺をテーブルへ引っ張ってくる。俺は何にも言えず彼女の前に座った。

彼女はスープを口にして目を開く。

 

「何よこれ、私が作るより遥かに美味しいじゃない…。私のは塩辛いだけなのに…。お米もこんなにふっくら…。」

 

何かをぶつぶつ言いながら一心不乱に口に頬張る彼女。俺も同じくスープを口に入れる。うん、よく出来てる。魚醤なんて初めて使ったけどなんとかなった。しかし誰かと食事をするなんて久しぶりだな…。そんなことを考えていると今朝見た夢が頭によぎった。次の瞬間胃の中のものが一気に逆流してくる。料理中に頭の中を覆った何かがドス黒くネットリとした塊になって暴れ回る。

痛い、痛い痛い!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い‼︎

 

「ちょっと何してるのよ!」

 

彼女の声が遠く聞こえる。俺はうずくまって吐いてしまっていた。と言っても胃の中には何もないので血が混じった胃液くらいだ。そして何かに縋るように自分の腕を血が滲むほど握りしめていた。

 

「ごめんなさい…。大丈夫です…。すぐに片付けますから…。」

 

俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を見せない様にしながらなんとか言葉を紡ぐ。

 

「そういうことを言ってるんじゃなくて…。とりあえず片付けとかはなんとでもなるからさっさと部屋に帰りなさい。」

 

俺は彼女に言われた通りよろけながら部屋に戻った。

 

 次の日も、次の日も食事は出来なかった。彼女の獲った魚や野菜なんかを料理して自分の部屋に戻る。食事はする気にならない…。彼女はしなくていいと言ってくれるがこれくらいしないと自分の存在意義が無くなってしまうと感じていた。

そもそも料理自体が自己満足でしかないのか…。

彼女の私の家で死なれたら気分が悪いという言葉を思い出す。

…この家を出よう。今日の夜にでも家を出てこの島の何処かで隠れて死のう。そんなことを考えながら俺は夜まで待った。

日はすっかり暮れて辺りは真っ暗で何も見えない。

そろそろ行こうか。そう思い立ち上がろうとすると部屋の扉にノックの音。俺は反射的にビクリとしながらも扉を開けると彼女が立っていた。彼女が部屋に入ったことはない。もしかして今日居なくなろうとしたことに気付いて乗り込んできたのか。

そんな疑念を抱きながらも彼女を部屋に入れる。

彼女はあっちこっち見ながらあー、うーと言葉に詰まらせる。

 

「俺が何かしてしまいましたか?」

 

そう尋ねるも彼女の耳には届いていないようだ。

彼女がいなくならないとここを出られない。お互いに硬直状態が続いていると彼女が唐突に何かを突き出してきた。彼女の手には皿と…これはおにぎりだろうか、形が崩れてしまっている。これを食べろと言うことだろうか。俺は前の様に吐いてしまうんじゃないかと恐る恐る口に運ぶ。おにぎりは塩が効きすぎているのかむせてしまう程塩っ辛い。しかもお米はベチャベチャで食感も何もない。

 

「…不味いでしょ?あんたが来るまではこれが当たり前だったのよ。私1人なら所詮こんなもの。あんたが作った方が美味しいけどあんた食べないから…。」

 

彼女は少し恥ずかしそうに言いながら続ける。

 

「あんたのことは私は知らない。でもあんたのその暗い目とか食べられない状態は知ってる。でも食べなきゃ駄目。どんどん考えが悪い方へいくわよ。」

 

俺はおにぎりを黙々と食べる。辛すぎて食感がグニュッとなるが吐き気は来ない。それは人生で一番美味しいと感じる料理だった。

自然に涙が溢れてくる。でも気持ちが温かい。これはそんな気持ちから出てくる涙だ。

彼女は俺が食べ終わるのを確認すると静かに部屋を去っていった。

 

 次の日、俺はベッドから起き上がる。結局俺はここを出ていかなかった。

彼女にこんなにしてもらってまだ何も返せていない。それに彼女ともっといたいと思っていた。

俺は厨房へ向かう。彼女に何か食べてもらいたい。いや、彼女と一緒に食べたい。卵と野菜を炒めながら塩と魚醤で味付け、ワカメがあったので米と一緒に炊いて…。

そうしていると彼女が厨房へ来た。手には何やら瓶をいくつか持っている。

 

「あら、目が覚めたの。」

 

そうそっけなく言う彼女だが機嫌がいいのか脚がリズム良く動いている。

 

「そういえば今日新しい船が沈んでいて中を探ってたらこんな瓶があったの。中には白い粉やら茶色の粉がいっぱいあったのよ。これ何かしら?」

 

船が沈んでいたの言葉にドキリとするが彼女は俺の顔を見て中に人はいなかったから避難したんじゃない?と続けた。安心した俺は瓶を預かり開けてみる。匂いはしないが白い粉には見覚えがある。一口舐めると甘い味が口いっぱいに広がる。もう一つの瓶も舐めてみる。少しの辛さがくる。

 

「これ、間違いありません。砂糖と胡椒ですよ。」

 

俺は早速野菜炒めに少量の胡椒をかける。彼女はキョトンとしながらもこちらを見ている。構わず俺は続けて卵に魚醤と砂糖で卵焼きを作る。やっぱり卵焼きは甘くないと。

出来上がった朝食を彼女の前に並べる。彼女は恐る恐る口に野菜炒めを入れる。次の瞬間信じられないと言った笑顔で

 

「美味しいわー!食べたことない味だけどどんどん食べたくなる!この卵焼き?っていうのも甘くてでもしっかり美味しいわ。」

 

そう言いながら夢中で頬張っていく。彼女の食べてる姿はとても可愛らしい。

 

「一緒に食べなさい。冷めたらもったいないわよ。」

 

そういうと彼女は脚で向かいの椅子を引く。

正直、一緒に食べていいのか迷っていた俺にはありがたかった。

 

「ありがとうございます。それでは俺もいただきます。」

 

そう言い座ると彼女は脚で俺の口をそっと閉じて

 

「私相手に敬語は禁止。むず痒くなるのよ。」

 

と忠告した。俺はわかったと言って卵焼きを口に入れた。

食事中色々なことを話してくれた。この辺は船が難破しやすく沈みやすいこと、そんな船から人がいなければ色々な物を拝借していること。この島には今は俺と彼女しかいないこと。

 

「そんな泥棒の食材は嫌かしら?」

 

そう少し圧をかける彼女に俺は首を横に振った。

彼女だって生きる為だし仕方ない。それにそれを使って料理して食べている俺も同罪だ。

 

 食事を終えると俺は彼女に自分も何かしたいと提案した。彼女は海やもう一つの家から色々な食材を持ってきてくれる。ここで料理だけは申し訳なかった。彼女は首を傾げていたが俺の目を見て諦めた様にため息ながらに言った。

 

「それなら、森の中で果物でもとってきて。でも奥には入らないで。これが条件よ。」

 

それからは料理の時間までは果物探しが俺の日課になった。森の果物にはあまり手をつけていないのか色々な種類があった。ある時は砂糖漬けにしたりある時は彼女が船で拾ったというブランデーにつけた果実酒を作ったりした。

どれも彼女は喜んで口にした。俺は彼女が食べる姿が好きになって気がつけば彼女の笑顔の為に散策と料理をする様になっていた。

今日はどんな料理を作ろうか。何を作ったら笑顔になるかな。俺の心は満たされていった。

 

 ある日事件が起きた。いつもの様に果物の散策をしていると茂みの向こうに甘そうで大きな果実が見えた。思わず身を乗り出して取ろうとしていると足に痛みが走る。目をやると大きな蛇が足に噛み付いていた。俺は急いで振り払う。噛まれた所は次第に紫色に腫れあがっていく。あの蛇、毒があったのか。意識が朦朧として頭がガンガンと痛くなっていく中でなんとか船が見えてきた。あと少し…。そこで倒れてしまった。

目を覚ますと彼女が部屋まで運んでくれている途中だった。息を切らしながら懸命に走ってくれている。脚で巻き付けずに腕でしっかりと支えてくれているので揺れも少なく吐き気もない。

 

「ありがとう、血清とかは無い…よね?」

 

俺が尋ねると彼女は必死の形相で

 

「そんなのあるわけないでしょう!迂闊だった!私には野生の生き物は近付かないから…」

 

そう言う彼女に俺は心配させまいとなんとか笑顔で

 

「気にしないで…。短い間でも楽しかった。誰かとご飯を食べたのも、誰かに必要とされたのも久々で本当に生きてるって感じたんだ…。」

 

そう言うと体の力が抜けていく。もう終わりなんだ。あれほど死にたいと思っていたのに彼女の顔を見ていると生きたいって思ってしまうなんて勝手すぎて自分でも笑ってしまう。

彼女は立ち止まり、何かを考えような様子のあと彼女の脚を自ら口に運んで…。もう目が開けていられない俺が最後に感じたのは唇に柔らかい感触と何かが喉を通っていく感覚だった。

 

 目が開く。身体が軽い。毒どころか今までの疲れすら感じない。ここは天国だろうか。そう考えていると一瞬で生きていることを察知した。ここは俺の部屋でベッドだ。端にはベッドにもたれかかる様に彼女が寝ている。ずっと看病してくれていたのだろうか。彼女の髪を思わず撫でる。ありがとうと言う気持ちと抱きしめたい気持ちが湧いてくる。

…でも何故俺は生きているのだろうか。

そう考えていると彼女が目を覚ました。彼女は起きている俺からすこし目を逸らし

 

「あら、起きたのね。痛みとかはない?」

 

と聞いてくる。俺は大丈夫と伝えると彼女に聞いた。

 

「どうして俺は生きてるの?毒も酷かったし…。それにどうしてこんなに助けてくれるの?」

 

彼女は少し困ったような戸惑うような最後に覚悟をした様な顔でこう言った。

 

「わかったわ。全てを答えるから明日は私ともう一つの家に行くわよ。」

 

 

 俺と彼女は森の中を進んでいく。なるほど、前に言った通り彼女がいると森の中は静かで鳥の鳴き声すらしない。そうしていると森を抜けて広い場所に出た。いくつかの小屋の様な家がある。ここは村…だろうか…。それにしてはボロボロで人がいる気配が無い。しかし小さな畑や鶏がいて水路の近くには田んぼもある。ここで収穫をしているのだろう。その中でも比較的綺麗な家へ彼女は入っていく。俺も釣られて入る。中は簡素な造りで必要以上の物は何もないという感じだった。

その中で彼女は話し始めた。

 

「実はね、この島は元々私たちの種族が暮らしていてこの村で生きていたの。人間は来ようにも船は沈んでしまうから会うことは無かったわ。」

 

「ある日船が座礁してきた。それが私たちが今暮らしている家。中からは色々な人間が出てきたわ。私たちは手厚く歓迎した。外から来ることなんてまず無かったし彼らも最初は驚きこそすれ優しかったから…。色々なことを教えてもらったわ、言葉もそうだし、田んぼや畑の耕し方とかね。魚醤や昆布だしなんかもそれよ。私たちは色んなことが知れて嬉しかった。だから…。」

 

そこまで言うと彼女は息を詰まらせながら続けた。

 

「私たちは何かお返しがしたかった。だからある日この島を調査している人が足を滑らせて大怪我をしたの。その時にその人に脚を食べさせた。私たちの脚は怪我や毒みたいなものを治す力があるのよ。あなたが元気なのもそのためよ。」

 

なるほど、だから俺は生きてるのか。でもそれは…。

 

「あなたの思っている通りよ。彼らはこの脚の力に目をつけた。船で帰った時に売り捌くと言っていたわ。あんなに優しかった人たちが次々襲ってきた。子供なら捕まえやすいと友達も狙われた。沢山死んだわ。でもね、この脚の効力は私たちが生きてる時だけだったみたい。それに気がついた時にはもう子供だった私しかいなかった。」

 

俺は黙って聞き続ける。だから最初あんなに敵意があったのか。

 

「彼らは残った私を巡って殺し合った。その時にはもう色々教えてくれた優しい人たちの顔は無かったわ。欲に眩んだケダモノだった。結局最後に残った1人も傷が深くて死んだわ。それからは私はずっと1人だった。家族も友達も皆死んだ。死にたいとすら思ったわ。でもやっぱり死ねなかったのよ。」

 

「あなたを見た時すぐにわかったわ。かつての私と同じ目をしてた。だから放っておけなかった。それにもう1人は嫌だった。あんたが脚を狙ってもいい位にね。」

 

彼女は話終わる。目にはうっすら涙を浮かべて。俺は口を開く。

 

「ありがとう。そんなことがあったのに人間の俺を助けてくれて。」

 

彼女は辛い過去を話してくれた。今度は俺の番だ。

俺も全て話した。かつての両親の自殺とそれを食い物にしようとした奴らの話。そして誰も信じられなくなった話。

そして最後にこう尋ねた。

 

「俺はこの島にずっといたい。君と生きていきたい。君のおにぎりがきっかけで俺は生きたいって思えたんだ。君の居場所が俺の居場所でもいいかな?」

 

彼女は目から涙を零しながらも笑いながら言った。

 

「バカ、あんたがいなきゃ美味しいご飯を誰が作って私は誰と食べるのよ。」

 

 


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