理想のシチュ   作:モン娘好きの勿忘草

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久しぶりの投稿になります。
少しリアルが忙しすぎて心身共に崩していました。
今回、前、中、後と三部作の予定なので読んで下さると嬉しいです。


悪魔とのシチュ(前編)

「ごめん!さっき連絡があって叔母さんが熱を出してすぐ帰らなきゃいけないの!だからお願い、掃除と日直変わって!」

「すまん、ちょっとこの書類をまとめる人がいなくて頼めるか?」

「最近、花壇の手入れをするはずの園芸委員が部活を優先で全然しないんですよ。申し訳ないが君が代わりにしておいてくれますか。私から言っておきますので…」

 

僕は二つ返事で了承する。昔から何かあった時に頼られることは多かった。小学生の時はクラスの皆や先生からも「何でも屋」と言われていた。

中学ではそんなこともあって生徒会長に就任、高校に進学した今でも学級委員として色々な頼まれごとをされている。

もちろん断ることはしない。頼んでくるという事は困っているということだ。困っている人を助けるのは「いいこと」なのだから…。

 

今日も色々なお願いを終わらせて帰る。下校時刻は過ぎて外はすっかり真っ暗だ。急いで帰らなければ…。

ふと校舎を出ようとすると奇妙な違和感を感じる。

門の前の電線いっぱいにびっしりカラスが集まっているのだ。まるで一つの黒い塊の様なそれらは校舎を出た途端に一斉にこちらを見る。そしてその塊は一つの意志を持ったみたいに鳴き始めると僕に向かって飛び交ってくる。思わず身構え目をぎゅっと閉じた僕をいくつもの鳴き声が通り過ぎていく。早く終わってくれ!なんなんだこれは⁉︎

色々な考えがぐちゃぐちゃになりながら縮こまっていると鳴き声は後ろの方で響いてくる。

恐る恐る後ろを振り返ると黒い塊は一つの形を作りまるで大きな球体の様になっている。そして次の瞬間には一斉に四方八方へ飛び立っていった。

黒い羽が紙吹雪の様に舞っていくその中にはさっきのカラスよりも黒いフードとマントを着た人が立っていた。

 

「我は悪魔、貴様の願い、欲望を叶えにやってきた。」

 

 

なんなんだ?なんなんだこの状況は⁉︎

理解が追いついていない僕を無視して目の前の人物は言葉を続ける。

 

「今日一日貴様の動向を見ていたがあれはなんだ?なんでもかんでも押し付けられてはわかりました、やっておきますなどと…。」

 

見ていた…?どこで?ここの生徒?会ったことがある?

そんなことを考えているとまるでそれに返事をするように

 

「ここの生徒な訳がないだろう?我は悪魔だ。貴様から見えていなくても我には全て見えている。信じられないというなら証拠を見せよう。」

 

そういうと目の前の人物はフードを外す。

腰まで伸びた銀色の髪の毛が勢いよく降りていく。

それよりも目を引くのが髪とは対照的な真紅の角、白目の部分は真っ黒でその中に光る金色の瞳、そしてどの人間でもあり得ない様な青い肌。

しかしそんな人とはかけ離れながらもどこか蠱惑的で美しさを感じる女性が現れた。

 

「どうだ?これで信じる気になったか?まぁいい。信じようと信じまいと話を続けるぞ。」

 

 

目の前の女性は驚いて口が開きっぱなしになっている僕などお構いなしに話し出した。

 

「我は見た通り悪魔だ。我は貴様の心から望む願い、欲望を満たしてやりに来た。心当たりがあるだろう…?なんでもかんでも押し付けられて不満や憤りはないか?我の力を使えば今まで虐げてきた奴らを今度は自分の思うがままだ。殺すもよし、欲望の捌け口に使うもよしだ…。もちろん代償は頂くがな。死後は貴様の魂は私のモノとして貰い受ける…。」

 

そう言うと目の前の悪魔はクックと笑いながらこちらを見ている。

 

「いえ、結構です。特にそんな願いとか無いですし。」

 

「そうだろう、そうだろう…っておい!何故だ?何故あれだけ虐げられて何故我慢できる?」

 

「いえ、そもそも僕は虐げられていないですし、お願いごとも無理矢理ではないですから…。」

 

僕の答えに悪魔は面食らった様な顔をしながら信じられないものを見るように僕を見る。

 

「何ということだ…。あれだけ好き勝手押し付けられてそれを好んでやっているというのか…。」

 

何やらぶつぶつ言っている悪魔を尻目に僕は

 

「そういうことですので願いを叶えるのでしたら他の方に…。それではこれで。」

 

そう言ってその場を去ろうとする。すると僕の肩に痛いくらいの力が込められる。見ると彼女の青い手ががっしりと掴んでいる。その指の黒い爪は肩に刺さるくらいに食い込んでいる。

 

「まぁ待て!悪魔は一度決めた獲物はほいほい鞍替えはしてはいけないのだ…。それに貴様の魂はそう簡単に逃すには惜しい程美しい。そこでだ!貴様の願いが叶うまで一緒にいようと思うのだがどうだろうか?」

 

なんてむちゃくちゃだ…。そう思うが頭を下げられては嫌だとは言い辛い。それに何より話すにつれどんどん手の力が強くなる。正直かなり爪が痛い。

僕ははぁ…とため息を吐き仕方なく了承するのだった。

 

 家族にどう話そうか迷っているうちにとうとう家に着いてしまった…。後ろから着いてきている悪魔は一緒にいれることが嬉しいのか呑気に鼻歌を歌っている。さっきまでの恐ろしい雰囲気は何処へ行ったんだ。

 

「なぁ…。今から家に入るけど姿が俺にだけしか見えないとかそういうのってあるの?」

 

そう尋ねると悪魔はあっけらかんとした顔で

 

「そんなものあるわけないだろ。まぁ大丈夫だ。安心して家に入れ。」

 

…何てことだ。そのまま家に入って家族に青肌の怪しい女性を連れて一緒に暮らす事になったなんて言ったら間違いなく大騒ぎだ。

中々玄関を開けられない俺に痺れを切らしたのか悪魔はもういいと言うと勝手に勢いよく扉を開けてただいまと大きな声で言い放った。

頭を抱える僕の前に母さんがやってくる。

 

「おかえりなさい。あら、メアちゃんも一緒だったの。今日からよろしくね。」

 

…え?メアちゃん?誰だそれ?理解が追いつかない僕を余所に悪魔はさっきまでとは全然違うお淑やかそうな声で

 

「お久しぶりです〜。今日からお世話になりますね。おばさま。」

 

と返事をする。えっと、どういうことだ?

蚊帳の外の僕に悪魔がそっと耳打ちする。

 

「まぁ、後で詳しく話してやる。」

 

そう言うと母さんにさっきみたいな口調で

 

「すみませんおばさま。私、ちょっと久々に来たので疲れてしまって…。お部屋で休んでもよろしいですか?」

 

そう言うと二階の僕の部屋に向かって行った。僕は何もわからないまま後に着いていくことにした。

 

「あれはのう、いわゆる認識改変と言うやつだ。お前の母親だけじゃない。お前の周りの奴等の我のことは従姉妹で進学をきっかけにこの家に厄介になっているメアちゃんとなっているのさ。」

 

そんな馬鹿な…。そう思ったがさっきの母さんの様子は絶対嘘じゃない。

改めて目の前の存在が只者じゃないことを思い知らされる。

 

「それじゃあ、お母さんそろそろ出かけるからー!メアちゃんに迷惑掛けないでよー!ご飯は自分で作ってメアちゃんと食べてねー!周りにも迷惑掛けたら駄目だからねー!」

 

下から母さんの声が聞こえる。

僕はわかったと返事を返すと玄関の開く音と共に一階は無人になった。

 

「なんだ?貴様の母親は今から仕事か?もうすぐ夜だぞ。」

 

悪魔は僕のベッドに腰掛けながら尋ねてくる。ベッドからこちらを上目遣いで見てくる姿に少しドキッとしながらも僕は平静を装い

 

「違うよ。母さんはいつも夜に男の人と会ってるんだ。多分父さんが出て行って離婚もしたから新しい彼氏じゃないかな。」

 

悪魔は質問しながらも興味なさそうな様子でふーんと返すとまた何か気になった様で

 

「そういえば貴様の母親は随分と貴様が迷惑をかけることを気にしていたな?なんだ、さてはなんでもはいはい言うのは学校だけでそれ以外では実は結構やりたい放題なのか?」

 

「それも違うよ。父さんが結構自分勝手な人で母さんが苦労しっぱなしだったからそれで過敏なんだよ。僕が周りに迷惑を掛けたりしないか心配なんだよ。」

 

そう…。だから僕は「いい子」でいなければいけない。誰も不快にさせたり迷惑をかけないのは「いいこと」なんだから…。

その返答にも興味がない様でふーんと生返事をするとそれっきり何も聞いてこなくて一日は終わった。

 

 それから1週間が過ぎた。悪魔は一緒に学校に着いてきて当然の様に同じクラスにいた。クラスの皆も「メア」が初めからいた様に接していたし何人かの女子は昔から友達だったと言っていた。

悪魔も母さんの時の様にお淑やかな女の子として振る舞っていたが僕と2人になると

 

「いい加減願いは決まったか?」

 

「今日、放課後の掃除を頼んできたあの女子が用事

とか言っていたがあれはデートだぞ。」

 

「なんでもほいほい聞くな!いつまでも帰られんだろうが!」

 

と言いたい放題だった。

そして事件は起きた。

 

 今日は予約していた漫画が届く日、実は悪魔も僕が読んでいるのを見てから読み始めて今ではすっかりハマっている様で横でソワソワとしながら急かしてくる。

用意も終わり帰ろうとすると突然声をかけられた。違うクラスの男子だ。

なんとなく見たことはあるが話をしたことはない。

 

「悪い!突然なんだが俺のクラスの掃除を変わってくれないか⁉︎母ちゃんが病気で寝込んでいるんだよ…?」

 

え、でも今日は本が…と思ったが目の前で必死に頭を下げているのを無視も出来ない。

…そうだ。「いい子」でいる為にも「いいこと」をしないと…。

 

「わかったよ。お母さんお大事にね。」

 

そう言うと頭を下げた彼はその姿勢のままフルフルと震え出し

 

「あ〜はっはっは‼︎やっぱり引き受けると思ったよ‼︎流石何でも屋‼︎」

 

盛大に笑いだした。

そこに教室の扉から隠れていたのか同じクラスの男子が2人程来て笑ってる彼と一緒に笑い始めた。

 

「な?やっぱり俺の言った通りだっただろう!頼んだら他のクラスでも行くって‼︎」

 

「くそー!賭けはお前の独り勝ちかよ⁉︎っていうかお前の母ちゃん元気じゃねーかよ!」

 

「そうだよ!今日も朝挨拶したじゃん⁉︎」

 

「こんなもん言ったもん勝ちなんだよ!ま、そういう訳なんだよ。あ、掃除はマジでよろしくなー。」

 

いきなりの事で頭が付いていかない。え?つまり僕が引き受けるか賭けをしてたってこと?

そうだ、悪魔は?さっきから何も言わないけど…。

僕は振り返るとそこには誰もいない。

あれ?何処に行ったんだ?そう考える間もなく僕の中にどろっとした何かが生まれる。いや、これは生まれるというより入ってきている…。

次の瞬間、僕は目の前の頼んできていた男子を思いっきり蹴り飛ばしていた。

 

 咄嗟のことに周りで笑っていたクラスメイトが固まる。でもきっと誰よりも驚いていたのは蹴った僕本人だったと思う。何故ならその突き出した脚は自分の意思は全く無く勝手に動いていた。更にそこから身体を動かそうとしてもピクリとも反応はしない。どうなってるんだ…!意味がわからなくてパニックになっていると

 

(少々ムカついた!貴様の身体を少し借りるぞ…)

 

悪魔の声が頭に響く。

そうか…!さっきいなくなっていたのは僕の中に入ったのか!

そんなことを考えているうちに今度は口が勝手に動きだす。

 

『黙って聞いておれば好き勝手なことをさえずりおって…。我はお前ら如きの玩具に成り下がるつもりはない。とっととそのゴミを連れてこの場を去ね‼︎』

 

クラスメイト2人はまるで機械の様に蹴られた彼を抱えて教室を走って出て行った。

そして少しの静寂のあと

 

「これでよし!さぁ、漫画を買いに行くぞ!」

 

後ろから悪魔の明るい声が聞こえた。

 

「あれは一体どういうことだよ…。」

 

僕が尋ねると悪魔は少し申し訳無さそうに

 

「突然ですまなかったな。我はこうして人の心に入って身体を動かせるのだ。よく言うだろう?魔が刺したと…。あれは偶に悪魔の1人が入ってることが「そういうことじゃない‼︎」

 

最後まで話そうとしている所を僕が遮る。

 

「あんな風に誰かに暴力を振るっちゃ駄目じゃないか!喧嘩なんてしたことないのに…。いい子でいなくちゃいけないのに…。」

 

僕はこんなことをしちゃいけない…!そんな気持ちで一杯になっていると悪魔はイライラとした様子でこう言った。

 

「貴様が何をそんなにいい子にこだわっているかは知らん。だがな、人は誰しも馬鹿にされたら怒ってもいいしやられたらやり返すもんだ。それに我は悪魔だからな!腹が立ったら殴ってやる。」

 

最後にそう言うとニカっと歯を見せて笑ってさぁ漫画だ!と教室から出て行った。

僕は何も言い返すことが出来ず悪魔の後をついていった。

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