機動戦士ガンダム 水星の魔女 ターンA(エース)をねらえ! 作:ノザ鬼
07
** 月光蝶夫人 **
それから、地球時間で約一ヶ月…。
コーチにやり方に納得のいかない女学生達の白い視線を浴びながら、スレッタの猛特訓は続いた。
この頃には、一年生もド素人から、歩きはじめのパイロットへとレベルアップしていた。
シミュレーターでの、NPCモビルスーツとの疑似戦闘訓練。
それが、日々行われていた。
飛び交うのは、
「やったー!」
「二機撃破~。」
「私も撃破出来た?。」
歩きはじめのパイロット達の歓声。
そんな中で、女学生達を大型モニターの群れに釘付けにする存在。
異彩、鬼才…。
否…。
そんな形容詞は似合わないだろう…。
誰が言った…。
「その姿は月夜に舞う蝶の様だ。」
「宇宙の暗闇に美しく輝いている。」
「モビルスーツが虹の光を纏っている。」
「ああ、お近付きになりたい…。」
操縦テクニックと容姿を形容する言葉は、この世には存在しない…。
そんな彼女…。
ナーデーアに付けられた異名…。
それは、
【月光蝶夫人】
である。
言い出したの者が、不明なのはお約束であった。
月光蝶夫人が操る…。
と、言うよりは…。
手足…。
よりも…。
モビルスーツを自らの体の一部と同等に扱う。
それも華麗に…。
当然、引き立て役として祀り上げられるスレッタ。
コーチのやり方に不満を覚える女学生がグループを作り陰で、他にも聞こえる様に皮肉も込め面白可笑しく会話の話題にする。
「あんな動きで選抜メンバーですって…。」
「コーチに色目でも使っていたのかしら。」
「あれなら、家のペットを乗せた方が、ましってものですわ。」
スレッタの内向的な性格を見抜いた女学生達は、攻撃の手を緩めない。
だが…。
その性格故に、こんな事には慣れているとは、気付いていなかった。
月光蝶夫人だけは、
「お止めなさい!」
「みっともないとは思いませんか。」
「コーチの考えに不満があるのなら、直接言いなさい。」
目に付くと注意してくれた…。
それは、スレッタには嬉しかった…。
初めて出来た理解者のように思えていた。
08
** 不満 **
繰り返す毎日が、月日の感覚を麻痺させる。
そんな中で、イフレの増す苛立ち。
それは、ある特別な日が近付くに比例していた。
特別な日…。
それは…。
選抜メンバーによる学園対抗戦の大会が行われる日。
コーチのえこひいきが無ければ、自分が出場するはずだった大会。
それが、イフレの中で怒りに嫉妬等の負の感情を、心の闇の溶鉱炉で煮えたぎらせた。
そんな溶鉱炉に自らの意思で蓋をしていた…。
だが…。
火に油を注ぐどころか、火薬を投げ込む出来事…。
歩きはじめ達が、ひよっ子のパイロットへと成長を見せ始めた頃…。
学生同士によるシミュレーターでのモビルスーツの対戦が始められた。
シミュレーターの扉の開く勢いが、
「ヤッター!」
出て来る女学生の喜びを表す。
出迎える女学生達も、
「ヤッタネ。」
「すごーイ。」
「やるじゃん。」
自分の事の様に喜ぶ。
出迎える笑顔を、
「まさかね。」
受けて、
「スレッタを倒せるなんて…。」
出て来た女学生の一言。
そう、この女学生はスレッタと対戦していたのであった。
その対戦を、他の女学生達と共に、大型モニターで見ていたイフレの心が、
[もたもた。]
[まごまご。]
[トロトロ。]
スレッタの操縦技術を、そんな擬音が表現する。
そんな感情が、神経を逆撫でしながら導火線の如く、火花を上げ心の闇の溶鉱炉へ吸い込まれる。
直後…。
自ら閉めた蓋を、
『ドォォォォォン!』
煮えたぎる負の感情が吹き飛ばす。
そして…。
ドス黒いモノとなり、イフレの全身から黒き炎のオーラとなり立ち昇る。
自分では、
「コーチ!!!!」
冷静だと…。
腕組のままで、
「何だ?」
声だけ向ける。
だが、
「私とスレッタのどちらが選抜メンバーに相応しいのか…。」
発する声も、
「対戦で決めさせてください!」
ドス黒く塗られていた。
ゆっくりと行った瞬きの間を、
「よかろう。」
考える時間に変え答えるコーチ。
解いた腕組で小型端末を操作し、
「出て来い。」
スレッタを呼んだ。