機動戦士ガンダム 水星の魔女 ターンA(エース)をねらえ! 作:ノザ鬼
11
** 格納庫 **
格納庫…。
そこは、モビルスーツと呼ばれる巨人が、その巨体に見合うハンガーデッキ並ぶ場所…。
整備のやり易さからか、大抵は無重力ブロックにある。
そこに向う通路を専用の移動設備で、
『スィィィィィ。』
進むスレッタは、
〔もしかしたら…。〕
重い気分で、
〔負けたら、特訓終りにならないかな…。〕
甘い考えを浮かべる。
が…。
今までの流れから、
〔そんな事は無いだろうな…。〕
自らの考えを否定する。
左手首の機能で、
「まだ、時間は大丈夫…。」
確認するスレッタ。
扉の前で、
『トンッ。』
軽い着地。
開閉スイッチを、
『カチッ。』
押し、
『ウッ…。』
開くまでの、
「はぁ…。」
溜め息で、
『ィィィィィン。』
覚悟を決めた。
軽いキックで、
『スーッ。』
格納庫に身を踊らせ中へと入る。
後ろで、
「人を…。」
扉が閉まるよりも、
「待たせるなんて…。」
早く、
「何で失礼な人なんでしょう!」
前から声が飛んでくる。
出処は、パイロットスーツ姿に、ヘルメットを小脇に抱えた女子学生…。
言わずと知れたイフレである。
当然、
「本当に…。」
「うんうん。」
「失礼な人…。」
取り巻き達も賛同する。
身体を、
『クイッ。』
捻り、
『トッ…。』
足を、
『ン。』
床へと付ける。
まだ残る慣性力を、
『グ…。』
下半身の筋肉で、
『ッ!』
吸収させ、
『ストッ…。』
イフレの前に立つ。
残る上半身の慣性力は、
「ごめんなさい!」
振り子運動の如く、
『ペッ!』
大袈裟な、
『コッリィ!』
お辞儀に換えた。
格納庫内の全ての人に見えた謝罪は、
「うっ…。」
イフレの出鼻を挫き、これ以上の追撃を止めた。
それは、スレッタの予期しない出来事であった。
12
** アドバイス **
そんな二人のやり取り…。
いや、攻防など無かったかの様に…。
何処吹風とばかりに、
「揃ったようだな…。」
二人に視線を、
「では、これより実機による模擬戦を行う。」
送りながら話始めるコーチ。
偶然か、
「はい!」
二人の、
「はぃ…。」
返事が揃う。
が…。
それぞれの意気込みは込められた力が物語る。
二人に、
「アドバイスをしておこう。」
先ずは、
「自分の戦いをしろ…。」
イフレに…。
表情まで、
「えっ…。」
驚く。
そして…。
心の奥から湧き上がるのは、恥ずかしさの感情。
密かに…。
ひた隠しにしていたもの…。
それは…。
月光蝶夫人への憧れ…。
初めて戦いを見た時の衝撃は全身を駆け巡り、憧憬(どうけい)へと昇華された。
戦い方を、機体の細部まで見落とさず観察し、自らのものとする…。
それは、近付こうと努力すればする程に、その距離が離れると思い知る事でもあった。
でも、本人はそれでも良かった…。
自分の目指す先に輝きを持って君臨する月光蝶夫人が居るだけで…。
そんなイフレの思いを、コーチは見透かしていた…。
恥ずかしさの感情は、イフレの胸から駆け上がると…。
首から順番に顔を桜色に染め上げた。
そして…。
怒りが恥ずかしさを覆い隠す。
顔を染めていた、
「そ…。」
桜色は濃さを、
「そんな…。」
増しドス黒さを、
「言われる筋合いはありません!」
秘める赤となった。
驚いたのは、
「イ!」
彼女の、
「イフレさん!」
取り巻き達。
慌て、
「お…。」
烈火の如く激昂するイフレを、
「落ち着いて!」
体をはって制する。
そんな取り巻き達との攻防を一瞥だけは興味…、関心を持つが…。
次へと、スレッタに向く。
向けられた鋭い視線が、
『ギロリ…。』
スレッタに、
「ひっ…。」
口の中だけで悲鳴を上げさせた。
語り始めは、
「お前は…。」
ゆっくりと、
「自分を…。」
続く言葉は、
「広げろ…。」
無感情。
何故か…。
その謎の言葉は、
「?」
スレッタの奥深く入り込むと、
「どういう…。」
心の中で反響し、
「意味だろう…。」
次第に大きく膨れ上がって行った。
それは…。
『パン!!!』
コーチが両手を打ち合わせて作った区切りの音。
先ずは…。
少し落ち着いたイフレに視線を送り、謎の言葉に考え込むスレッタでしめる動作。
口を次の、
「模擬戦…。」
声の形にする間(あいだ)を、
「開始だ。」
間(ま)に変えた。
二人は、
「は…。」
互いに、
「はい!」
一瞬遅れ、
「コーチ!」
返事。
直後…。
床を蹴り、
『トンッ。』
体を無重力に、
『スーッ。』
舞わせる。
目的地は言わずもがな、二人が乗るモビルスーツのコックピット。