「と、いう訳でイム、引っ越すぞ」
「すいません、シャナさん。という訳での意味が分かりません」
訓練場から城の応接室に連れて来られた私はシャナさんの唐突な提案に戸惑っていた。
「いや、お主学校に通うことが決まったじゃろ? それで学校は王都にある。後は分かるじゃろ?」
なるほど。確かに王都に引っ越さないと移動が大変だ。だから引っ越しの話をしていた訳か。
「話は分かりました。でも次からはもう少し前提から話して下さい」
「はは、すまんすまん」
「んー、でも引っ越しと言われても家を買えるほどのお金はないのですが」
「んふふ、安心せい。既に手配しておるし金も払わなくてよい」
「え?」
あの?シャナさん?それは助かるのは確かなのですが、あまりにも話がよ過ぎないですか?
「ん? ああ、安心せい、別に後で面倒ごとを吹っ掛けるとかでもないからの」
「いや、むしろ吹っ掛けて頂いた方がましな気すらします」
「ん?」
「条件がよすぎてちょっと無条件に飲めないといいますか」
「んふふ、そこは問題ない。ちゃんと理由がある。この国は軍事に力を入れておるのは知っているじゃろ?」
「ええ、もちろん」
「だから優秀なものを集めるための制度が存在するのじゃ、その中に優秀なものを学校に無償で通わせる制度もある、もちろん寮もちゃんとある」
「つまり、手配したのは、寮の部屋という訳ですか」
「そうじゃ、丁度部屋が空いておったからそこを手配しておいたわい」
よかった。それなら安心できる。
私がほっとして息を吐くとシャナさんは私をじっと見てきた。
「改めて思うがお主、本当に無欲じゃのう」
「はい?」
「いや、第六院で生まれた者は大体性格破綻者が多いと聞いておる。だからお主が第六院出身と知って正直驚いておる。キュリエ・ヴィルステインと仲がよいのも納得じゃ」
「……まあ、あそこではちょっと居心地悪かったですね」
「本当によい拾い物をしたものじゃわい」
「それは光栄です」
ふふ、とシャナさんが笑った。
「改めてよろしくな、イム」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします、シャナさん」
「イム、朗報じゃ。キュリエに会えるぞ!」
「急ですね!?」
引っ越すための荷物をまとめ宿でゆっくりとしていたところをいきなり押し掛けてきたシャナさんが言った。
「キュリエがいるルノウスレッドの学校で聖武祭という剣術大会が開かれるのじゃが、そこにうちの王子も紹介されての。それに儂とローズが護衛として同行するんじゃが、お主もそれに着いてきてよいことになったのじゃ」
「え? それは……よろしいのですか? まだ学生ですらないのですが」
「大丈夫じゃ、ちゃんと王に承諾取ったわい」
「それならいいの……ですかね?」
「お主は考え過ぎじゃ」
「いや、私が同行中に何かする可能性とかはあるのではないですか?」
「自分からそんなこという奴は大抵やらんわい。それに大抵から外れていても儂とローズが居るのに何かできると思うかの?」
「ああー、なるほど」
そうだった。シャナさんとローズさんいるなら大体の問題は対処できたのだった。それは王にも了承されるはずだ。
「それに」
「それに?」
「お主がそんなことをするようには見えないからの、儂、見る目はあると自負して居るわい」
……凄いことをさらっと言ってくるな。この人。
そんなこんなで決まったルノウスレッドへの訪問。それがまさかあんなことになろうとはこのときはまだ誰も思っていなかった。
ルノウスレッドへは馬車で向かうことになっていたことは知っていた。ならばかなりの高級馬車だろうと。襲えば国から制裁を食らう特許印を使った馬車とは知らなかったが、まあそこまではよかった。
問題は……。
ゴトンゴトンという音をたてる馬車の軽い振動に身を任せる。
「……」
「……」
「……」
「いやあ、是非ともお会いしたかったんですよ、シャナが最近よく話す白の亡霊さんに」
「……あの、さんではなく呼び捨てで構いません。ギアス王子。……シャナトリス様、王子もお乗りになることは事前に教えて頂きたかったです」
「いや、それは本当に申し訳ないと思っているわい。急に決まったから伝えるのが遅くなってのう」
申し訳なさそうに俯くシャナさんを見て私はため息を吐く。
「分かりました。信じます」
「いやあ、すいません。シャナのよく話している人が同行すると聞いて無理矢理お願いしたんですよ」
ははは、とギアス王子は爽やかに笑う。
王子というから偉そうな人かと最初は思っていたのだがギアス王子は人柄のいい好青年であった。
正直意外だった。
「話をお聞きしたいです。どんな話でもいいですから」
「そうですね、例えば――」
この後めちゃくちゃ話をした。
「おおー、ルノウスレッドの建造物は相変わらず素晴らしいですね!」
ルノウスレッドの関所の前に着いたギアス王子の第一声がそれだった。……テンション高いなあ。
「シャナさん、ギアス王子は建造物がお好きなのですか?」
「ああ、そうじゃ。美術関係、特に建造物には目がないみたいでの、……ほら内の国はシンプルな建物が多いから余所の国に行くと大体こうなる」
「なるほど」
目を輝かせて建造物を観察しているギアス王子を見て私は頷いた。
「もし余所の国に、王家に生まれていなければ生まれていれば芸術の道に進んでいたかも知れんの」
「……それは同意していいのですかね?」
「別に侮辱罪にはせんよ。安心せい」
「安心しました。まあ別の国なら別のことに興味を持っているかもしれませんから一概には言えませんが、概ねシャナさんと同意です」
「そうか」
私がそう言うとシャナさんはふっ、と微笑んだ。
「おーい、ギアス、そろそろ行くぞ」
「分かりました」
「……王子を呼び捨てにしていいんですか?」
「シャナはいつもこんな感じなので問題ありません。父上にもこの調子ですから」
……シャナさん、どれだけ王家から信頼得ているんですか?
「ほら、行くぞ。儂の友が待っとるからの」
「シャナさんの友達ですか」
「ほら、そこにおる奴じゃ」
そう言ってシャナさんが指を指した先にはかわいらしいゴスロリの服を着た女性がいた。身長はシャナさんと同じくらいだろうか。
ツカツカとその女性にシャナさんが歩いていくので私たちもそれに着いていく。
「紹介するわい、儂の友人のマキナ・ルノウスティア」
……マキナ・ルノウスティア、どこかで聞いたような。ルノウスティア?え?ルノウスレッドの四公爵の内の一つ、ルノウスティアの方?……なんで最近こんな偉い人ばかりと会っているんだろう?私。
「ようこそ、ギアス王子、シャナトリス殿、ローズ殿、……えっと」
「……イム・アルカディアと申します、以後お見知りおきを」
「イム殿ですか、よろしくお願いします」
「お主ら固いのう」
呆れたようにシャナさんは口を開いた。
「……シャナ。いや、王子がいらっしゃるのだから固くて当然でしょう」
「そうですよね」
「ほっほっほ」
「アルカディア殿
「イムでよいですよ、ルノウスティア殿。
「私もマキナで構わないですよ。お察しの通りです」
マキナさんも苦労しているんですね。
「むう、なんじゃ二人して」
シャナさんは腕を組んで睨んで来る。
「「いや、だってねえ……ふふっ」」
「……お主ら、なんか色々似とるのう」
「あ、そういえばマキナさん」
「何?」
「あれが有名な聖樹ですか?」
私はルノウスレッドの城の方を指さす。その先には巨大な樹があった。ただの樹ではない。雲にも届きそうな樹だった。樹齢何年なのだろうか。あの樹は
「ええ、見るのは初めてかしら」
「はい」
「そう、なら目に焼き付けておくといいわ。この国以外で見ることはできないでしょうかな」
そりゃあそうでしょうね。私はマキナさんの言葉に頷いた。
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