▼現代に還ってきた、閃忍サイカとリコリス。ある夜、真っ赤な打ち上げ花火に、ふと涙をこぼすサイカ。▼それは、かつて愛した頭領が夢見た未来と、死別を受け入れられないサイカにリコリスがもたらした、新たな希望の未来。▼赤、白、黄色…。新たな季節の始まりに、サイカを祝福する花々が、いま夜空に輝く…!

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※原作イベントストーリー「(素敵な)リコリス様の(楽しい)下僕生活(サイコー!)」および「夏に咲く雪月花~129940日目の告白~」に関するネタバレ内容が含まれます。ご注意ください。


~夜空に咲く花、三姉妹の未来を描く~

 第1節 遠き日、永き日、夢みた希望

 

長い夏の終わり。想破の名家・四方堂家に二人の養子・サイカとリコリスが加わった。

そして秋の始まり、チルカを加えた三姉妹はここまでの空白の刻を埋めるかのように、閃忍のお勤めの合間を縫い、一緒の時間を何かと作っては、他愛も無い一時をかけがえない宝物として重ねていた。

 

朝の鍛錬の手合わせも。

学園での学びの一時も。

帰り道で食べるクレープの味も、談笑の声も。

風呂上がりの石鹸の香りさえも。

日常の一時ひとときが、サバンナのひび割れた大地に注ぐスコールのように、乾ききったサイカとリコリスの心に沁みていった。

 

そんなある日。

文化祭の近づく学園。準備で遅くなり、帰路を急ぐ三人に降り注ぐ、打ち上げ花火。

 

ひゅ〜〜っ。

どんっ。

ぱらぱらぱらぱらぱらっ。

 

「あっ…!」

「わあ〜っ、キレイです! 

サイカさん、リコリス! チルカたちは、帰りが遅くなって、得しましたよっ!」

 

大小織り交ぜ、赤も白も黄色も、矢継ぎ早に夜空に彩られる同心円が、去りゆく夏を名残惜しむ。

しばしの静寂に、チルカもリコリスも固唾を呑む。

 

「あ…あの、お嬢様、チルカ様…あれは…?」

「えっ…? サイカさん、打ち上げ花火、知らないですか?!」

「…そうね。戦国の世には無かったでしょうから。あんなものを楽しむくらいなら、火薬は戦の大砲か、狼煙にでも使っていたでしょうしね。」

 

(…あっ…!!)

 

 

ひゅ〜〜〜〜〜っ。

 

…どんっ。

 

より長く響く笛の音に続き、一際華やかに咲く大輪は、鮮やかな紅の三尺玉。

 

 

「…、サイカ…!」

 

前触れも無く、サイカの頬を伝う涙。

 

それはかつて、サイカの生きる道標となった人…想破上弦衆頭領・戦部ヨシツグとの記憶の欠片。

そして、永劫とも思しき牢獄で、時間と想いを共にしたリコリスがくれた、新たな希望。

 

これは、花火に重ねた、サイカの2つの想いの物語である。

 

 

 

 第2節 頭領の夢、閃忍の愛

 

……

人の生命が今よりも遥かに儚く、軽んじられた戦乱の時代。

四方堂家に生まれ育ったサイカは、想破の教えに忠実に、不惜身命、乱世に潜む悪を討つことを誓う。そのため、その類まれな身体能力を閃忍の修行に、利発な頭脳を学問にと、一族の理想のためその才能の全てを捧げる日々を送った。

 

ある日、サイカは自ら改良した狼煙を、頭領にお披露目する。

煙だけでなく閃光を放ち、青空でも曇り空でも、そして夜空でも映える紅の光を放つ、逸品。

 

だが、当代の頭領・戦部ヨシツグは成果を喜ぶも、最後に顔を曇らせ、思わぬことを言う。

 

【サイカ…お前が血の滲む努力で完成させた、この狼煙。我らにとっては、敵を未然に討ちとり、秘密裏に平和を護るための、希望の赤き光だ。

だが、これを見た民草は、この美しい光をおぞましい戦の前触れと見て、逃げ惑うだろう。】

「…御意。」

 

【私は…それが悔しい。

お前が作った美しいものを、ありのまま美しいと感嘆することさえ許されぬ、この乱世を。

そして、想破を統べてなお、世を正し、民草に平穏をもたらすに至らぬ、我が不徳を。】

 

「頭領…そのようなことはございません!

頭領が民を…そして我ら想破の一人一人を思う御心、痛いほど私は…!」

 

【サイカ…いつか、主も民も分け隔てなく、この狼煙の紅き煌めきに誰もが歓喜し、その下で、明日を語り、平和を歌うことができる…そんな時代を作ろう。

そのために今は…その命、私に預けておくれ。】

「…御意…!」

 

サイカは頭領の…ヨシツグの卓越した先見の明に、主君として以上の感情を抱く。

(この方は、私の見る世界の、二歩も三歩も先を見越しておられる…!

私も…ヨシツグ様の夢見る世界を…共に叶えたい…!)

 

……

この日から、サイカは閃忍としての研鑽と、失われし想破の技を蘇らせる研究に没頭する。

そして、幾多の想破の頭脳が挑んでは阻まれてきた、秘具・時渡りの鐘の研究を決意する。

 

【頭領…私に、サイカに最上の智慧と、事を成し遂げるまで挫けぬ勇気をお与え下さい…。

この鐘も、乱世に踏みにじられる民草の悲しみを救うため…そして、誰かの幸せをもたらすために鳴らす日を、必ずや…。

それが、頭領の請い願う未来ならば、私はその全てを捧げます…!】

 

……

だが。

志半ば、ヨシツグは病に侵される。

保って数ヶ月の身体を押し、想破上弦衆頭領として決死の覚悟で戦に赴くヨシツグを、サイカは止められなかった。

 

やがて届くヨシツグの訃報。

だが、受け入れられぬサイカは、あろうことか、時渡りの鐘を自らの心の支えとし、これを何としても完成させてヨシツグを取り戻し、遂には自らの世界で永遠の伴侶とならんがために、その身を狂気にやつす。

 

真の悲劇は、あまりにも深く痛ましい慟哭と、幾百年もの時の流れが、サイカの願いをねじ曲げていたこと。

既にヨシツグはこの世になく、頭領は何代も後の戦部トキサダ…。

それでもサイカは嘆きの残渣をトキサダへ差し向ける。

しかも幽閉に成功したのはトキサダに非ず、その身代わりとなった、後世の想破七閃が五位、自らと同じ四方堂家の末裔・チルカであった…。

 

 

 

 第3節 繋がりし、二人の陽だまり

 

「チルカは…チルカは、頭領をお護りして、この場にいるのです! 後悔など、あるものですか!」

 

…そう言っていられたのも初めのうち。

一日が二日、二日が四日、やがて九重、五百十二日…それでも、頭領は来ない。

「う…ううっ…」

 

さらに倍折り、千二十四日。

実に三年が過ぎんとしても、頭領は来ない。

「……!」

 

数えて十ニ折、四千飛んで九十六日、干支で一廻り。

遂には言葉も出なくなり、稚児の如く豊かだったチルカの表情は能面のそれとこわばり、日々の全ての営みを無為と費やす。

 

……

サイカは、とある秘伝の一節を思い出していた。

いわく。

 

人の喜怒哀楽は、不確かな存在への働き掛けが生むのだと。

儚き存在を護り抜けば、喜びとなり。

か弱き存在を脅かす者へは、怒りを覚え。

散りゆく存在を失えば、哀しみを。

明日ある若さを育むことに、楽しみを。

 

ならば。

自らも周りも何一つ移ろうことなく凍り続けるこの牢獄では、この世のあらゆる感情は、喪われることだろう。

チルカがこの世界のあらゆる物質に何を働きかけても、反応は搔き消され、変化は及ばない。

チルカは自らの無力に日々虚しく向き合い。

やがて自らも変化することを止めた。

 

 

…だが、さらに一折り、一万日ももはや間近と迫るある日、サイカは思う。

チルカの心はこのつづれ織りの日々で、幾度も砕けたはず。

それが今なお、潮騒にたたずむ貝のように閉ざした心の中に、強くしなやかな芯を宿す。

 

もうこの子には、頭領の面影も、声も、記憶に残ってはいないだろう。

だのに、この子はしたたかな心の支えを未だに抱き、その瞳の奥に僅かな残り火を焚き続けている。

 

〘…もう、止めなさい。

貴女は既に、閃忍が頭領に尽くす以上の歳月を…少女が子を成し、母となるほどの歳月を、この檻で費やしたのですよ。

貴女の忠孝は、十全に示されました。ここで音を上げても、頭領も他の上弦衆も、貴女を未熟と誹ることも、恨むことも無いのですよ…!〙

 

遂にサイカは、悪魔の囁きをチルカに向ける。

トキサダを閉じ込め、自分が助かる取引である。

 

だが、抑鬱のまま、決してチルカは首を縦には振らなかった。

再び一折二折、三万二千七百六十八日。

それでも脱牢を拒むチルカ。

 

〘…何故です。何故なのです。

貴女をそうまで縛るものは何なのでしょう。

忠義ですか。矜持ですか。只の意地ですか…?〙

 

「…頭を、撫でて、貰ったんです…。」

〘…?〙

 

「たとえ、今の何倍も時が巡って…。

呼ぶことも無くなったお名前も。

あの方が頭領であることも。

 

あの方だけじゃない。

この身が何者であるかも、

呼ばれることも無くなった、自分の名前も。

 

全部…全部、この手から零れ落ちたとしても。

あのとき感じた胸の熱、陽だまりの香りは…

いつか私が消える日、その一瞬まで…。」

 

〘……!!〙

その言葉に衝き動かされたかのように、サイカの胸にもサイカの陽だまりが去来する。

 

龍の者と、閃忍。

そんな二人でなかったとしても、私にはかけがえのない人なのに。

もう、その姿もおぼろげで。

その思い出すら、五感全てから流砂と消えた。

 

…それでも。

 

心を熱くたぎらせた。胸を高鳴らせた。

こんなにも私は、命の全てを捧げた。

そのときめきを与えてくれた人が、確かに居た。

 

思い違いかもしれない。

この記憶さえも、妄想の果ての蜃気楼かもしれない。

それでも私は…熱くなった私は…確かに在った…!

 

〘貴女にも…居たのですね。

熱い思いを授けた人が…。〙

……

 

だから、サイカは願った。

十六折、六万五千五百三十五日。

さらにもう一折を重ねようという、十三万日が目前。

 

遂にトキサダ達が時渡りの鐘の真実を解き明かし、チルカの心を撫でた、あの日。

限界をとうに越し、消えゆくチルカに。

 

〘…生きて、ください…っ!〙

 

私の陽だまりは、胸の中だけに生きる人。

でも、貴女の陽だまりは、今を生きる人。

望めばこれからも、何度だって…!

 

……

果たして、リコリスとサイカは、新たな生を授かり、奇縁あってチルカと姉妹となり、今日に至る。

 

 

 

 第4節 紅き祝福、サイカの道は再び

 

「何よ、サイカってば泣いてるの?」

「ええ…花火…って言うんですか?

…その、お嬢様みたいだな、って…!」

 

「…あんた、わかって言ってるの? リコリスが空から降ることの意味…。」

 

「…あっ…。」

 

ある、仏道の説話。

人が道を求め、しかし悟れず迷い苦しみ、自らの煩悩の醜さにもがくとき。

お釈迦様は救いの教えをもたらし、そのとき天は祝福の花を空から振り撒き、人を迷いから救うと言う。

 

その花の名は、曼珠沙華。

リコリスの別名である。

 

非業の死別とは言え、嘆きのままに罪を冒し。

生きる道を求めて鳴らした鐘で、自他を苦しめ、その贖罪で更に自らを苦しめた、サイカの原罪。

 

だが、その罪を解き放ち、サイカに新たな命の標を示したリコリス。

彼女は確かにサイカの新たな道を祝福する、紅い輝きであった。

 

「…ふぅ〜…」

呆れとも、決意ともつかない溜息を一つ。

「…いいわよ、サイカ。

赤い打ち上げ花火はリコリスね。

じゃ、白いのがあんた。はい決定。」

 

「…はい?」

「あっ、あーーーっ!! 

じゃあ、じゃあ、チルカは、チルカのはーっ?」

「あら? …ふふっ、じゃあ、チルカのは黄色。お似合いよ。」

 

「…、あーーーっ、もしかしてチルカのこと、チューリップみたいに子どもっぽいとか、思ってますねっ! 

うわーーん、チルカはチルカは、リコリスの姉なのにーーーっ!!」

 

まるで、おままごとの役割を取り合うような応酬ののち、三色のリコリスが夜空の下にひっそりと咲いた。

 

「元気な心」の、黄色いリコリス。

「情熱」の、紅きリコリス。

そして。

「想うは貴方一人」の、白きリコリス。

 

(…頭領…。貴方様の作らんと願った未来…。

少しだけ、叶いましたよ…!)

心に生きる想い人に、サイカは今を告げた。




こんばんは。いかがでしたでしょうか?
作者の環 藍河(たまき あいか)より、お読みいただきました御礼を申し上げます。

今週の特設イベントで登場し、何かと話題のリコリス様とサイカさん。
環もストーリーを読み返しては、じんわりと噛みしめております。
あまり急いで執筆して、粗だらけでも困るのですが、旬のうちにお届けしたいと挑戦し、結果、イベント開始から4日での投稿となりました。

原作が濃厚なこともあって、二次創作側が補う余地が少ない(?)こともあり、今回は4節構造ながら、短編で一気にお読みいただけるスタイルでお届けです。

ご感想、評価等お寄せいただければ、励みになったり、次作にフィードバックしたり、と迷える環(作者)が助かります。
またお目にかかれますように。お読みいただきありがとうございました!

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