そして卒業後、μ’sをやりぬいた穂乃果には心にぽっかり空白ができてしまって……。
こんにちは!穂乃果だよ。
え~~、今日からまた、新たな日誌を書いてみようと思います。って言っても、今度の日誌はμ'sのために書いてるのじゃありません。
その理由はなんと、だって穂乃果この春でμ’s卒業しちゃったからなんだよ~~~!
つまり音ノ木坂学院も卒業したってこと。だから今度は自分のための日誌、学校を卒業してそれからの生活とこれからの目標を、日々つづっていければいいなぁって思います。
まぁ穂乃果のことだからすぐ3日坊主になっちゃうかもしれないけど……。エヘヘ。
とりあえず報告までに言っておくと、今年度も音ノ木坂学院の生徒数は順調に定員を満たしてくれたみたいです。
妹の雪穂の話だと入学希望者が多くて倍率が2.5だったとか。それって多いの?ってつい口にしたら「何言ってるの、多いに決まってるじゃん!新入生のクラスは4つになるんだよ!」って、穂乃果の目の前に指を4本突き立てて言われちゃった。
やっぱり穂乃果は数字が苦手。もっと具体的に言ってくれなきゃ分からないよーっだ。
でもでも、これってμ’sが廃校を阻止しようってみんなで頑張った結果なんだよね!
いやぁ、全部が全部μ’sおかげだっていったらきっとバチが当たっちゃうんだろうけど。ことりちゃんのお母さんは理事長さんで頑張ってたし、生徒会だって絵里ちゃんという土台があったからこそしっかり運営できてったんだよね。
3年生になって生徒会長やって穂乃果つくづく思ったもん、絵里ちゃんってやっぱすごい人だったんだなぁって。
会議に書類に目が回りそう。海未ちゃん・ことりちゃん・真姫ちゃんが近くにいてくれなかったら穂乃果ぜんぜんやってけなかったのは間違いなし!!
あ、ここは力説するところじゃないか。しっぱいしっぱい。
それでも、穂乃果たちは頑張ったもん。
μ’sを初めて、スクールアイドルになって、絵里ちゃんと希ちゃん、ニコちゃんが卒業していなくなっちゃったあとも、せっかくここまでやってきたんだからこの流れを崩さずもっともっと学校を盛り上げていこうって。雪穂も入学したらμ’sに入ってくれて、姉妹でスクールアイドル。あれはあれで楽しかったなぁって今でも思います。……うぅ、やば、思い出したらなんか涙がうるってきちゃった……。
あんまり偉そうなことは言えないけど、音ノ木坂の学校存続にμ’sが少しでも貢献できてたなら(いや、本音ではかなり貢献できてたら)嬉しいなぁって思う穂乃果でした。
さてさて話は変わるけど、今は4月の下旬、卒業・入学のお祝い事も終わって静かになって、世間的にもちょっと一休みって雰囲気。
実は穂乃果、4月はだめだめでした。
高校卒業して最初の2週間は「μ’s終わっちゃったよ~~」ってずーっと泣いてたし、その次の週はなんだかぼーっとしちゃってさ、何をやっても失敗ばかり。お店の商品落とすわあんこ作るのに砂糖とお塩を間違えて入れちゃうなんいうベタなことやっちゃったり、終いにはお父さんも我慢できなくなって、しばらく厨房には入るなぁ~!って怒らせちゃったの。グスン。
別に、ワザとやったわけじゃないんだよ。穂乃果てきには一生懸命やってるつもりだったんだけど……。でもそういう時ってあるじゃん、何をやってもうまくいかない場合っていうのかな。あの時は本当、材料が入ったボウルもひっくり返しちゃったり、こうして思い返してみても普段の穂乃果からは考えられないミスばっかり。最初は「覇気がない」って呆れてた雪穂もしだいに本気で心配しだしちゃったりして。
辛かったなぁ~卒業しちゃってからの2週間から3週間のあいだは。
でもね、そしたらね、μ’sのみんなが助けてくれたの。まず最初に幼馴染みの海未ちゃんとことりちゃんが様子を見にお店に来てくれて。それから真姫ちゃん花陽ちゃん凛ちゃんが学校での練習が終わった後やってきてくれたり、そうしたら「聞いたわよ、落ち込んでるっていうじゃない」「ほんまやなぁ、そんなの穂乃果ちゃんには似合ってへんで」「ま、気持ちは分からなくないニコ」なんて言いながら絵里ちゃん希ちゃんニコちゃんまでお見舞いに来てくれたの。それでみんなに励ましてもらって、穂乃果はまたたくさん大泣きして。たぶんこれまで生きてきた人生の中でビッグスリーに入るぐらい泣いた大事件だったと思う。
えへへへ、お恥ずかしいかぎり。こうして日誌にまとめてみると本当に泣いてばっかりの穂乃果だったんだなぁ~って分かっちゃうね。
でもそのおかげで穂乃果も元気を取り戻して、しだいに売り物も落とさない元の穂乃果に戻れたんだよ。今じゃもうお父さんから厨房に入って良しっていうお許しも出たし、こういうとき友達って本当に凄いなって思ったの。
穂乃果が一番つらい時に支えてくれたμ’sのみんな、これだけでもスクールアイドルやってて良かったなぁ~って今も感謝してます。
最近の穂乃果の日常はね、まず朝起きたらお店の前の掃除でしょ、それが終わったら朝ご飯食べて。あ、これは今までと変わらないか。そしたらご飯食べ終えたら厨房に入って和菓子屋『穂むら』の味と技術を伝授してもらってるの。
穂乃果は『穂むら』の後継ぎ娘だからこうなるのは必然で、道具の扱い方からあんこの作り方までもう一度イチからお父さんに確認してもらってる感じ。特にあんこのこだわりはお父さんの職人魂が光ってて、教えてもらってる穂乃果も真剣です。まさに一子相伝、この時ばかりは親子っていうより師弟って感じでやってます。
うわぁ~ん、でもお父さん熱が入り過ぎるとちょっと怖くなるからもうちょっとカミナリを落とす回数は少なくしてほしいよ~!
あ、でも夕方になるとことりちゃんがやってきてくれるんだよ。ことりちゃんは学校を卒業してから被服科の専門学校に通ってるんだけど、それが終わってから穂むらにやってきてちょくちょくお店の手伝いをしてくれるの。「こんにちは、お邪魔しまぁ~す」って言いながらことりちゃんがお店の引き戸を開けて入ってくる瞬間が穂乃果は大好きで、いつも「いらっしゃ~い!」って笑顔で出迎えるの。
もともとは穂乃果がだめだめになってて、それを心配したことりちゃんがお店の店番を手伝ってくれたのがきっかけだったんだけど、それを機に穂乃果が元に戻ってからも一緒にお店をやるようになってくれたんだよ。
うちは老舗だけどコンビニチェーン店みたいにお客さんがいつも混雑してるわけじゃないから、お給料だって気持ち程度しか出せないんだけど、ことりちゃんはそれでも自分も楽しいからって。ううぅ、ありがとうことりちゃん!穂乃果もことりちゃんが穂むらに来てくれるおかげで本当に楽しくお店をやっていけてるよ!
ことりちゃん大好き!
……ああ、書いてしまった、穂乃果の心の叫び。ことりちゃんがこれを見たらなんて思うだろう。でもでも、全部本当のことだから、やましいことなんかこれっぽっちもないし、感謝してるんだもん。
あとね、穂乃果が大学にも製菓学校にもいかずお家に入ったように、海未ちゃんも自分の家の家業を継ぐよう、本格的にお稽古を始めたんだよ。だから海未ちゃんも穂乃果と一緒。進学じゃなく高校卒業と同時にお家に入ったの。弓道に剣道に日舞の練習にとこれまでやってきたけど、今までみたいに空いた時間だけってわけじゃいかなくなったから、けっこう大変みたい。習い事もさらに増えて、着物を着て出かける姿も見かけたし、園田家の後継者ってことで挨拶回りなんかもしてるみたい。
でも普段から何事にも動じず初志貫徹を貫いてきた海未ちゃんだから、その持ち前の突貫力でズバッて切り抜けちゃうと思います。だからね、頑張ってね海未ちゃん。穂乃果は応援してるよ。疲れたらいつでも穂むらに来ると良いよ、我が家には糖分補給のお菓子だけはたっくさんあるんだから。海未ちゃんが穂乃果に会いに来てくれるなら大歓迎で迎えちゃいます。
あーあぁ~、穂乃果が立ち直ってからというものの、海未ちゃんは一回もお店に来てくれてません。最近海未ちゃん成分が足りてない穂乃果です。
他のμ’sのメンバーはどうしてるかってことなんだけど、これはまたおいおい書いていこうと思います。なにしろ家には現役スクールアイドルの雪穂がいるから意外と情報が筒抜けで入って来るんだよねぇ。でも逆に、穂乃果がおっちょこちょいみたいなことをするとそれが真姫ちゃんや花陽ちゃんたちに伝わって、そこからさらに拡散しちゃうから……、ほんと携帯電話って怖いよねぇ~。便利なんだけど便利すぎて怖い!
ああそうだ、一応書いておくけど、穂乃果は進学できなかったことに何の不満も持ってないんだよ。もともと勉強だって出来る方じゃなかったし、受験勉強っていうセリフを耳にしたらまた高校受験のあの苦しみが……。「いえ、穂乃果ならきっと間違いなくそれ以上の苦しみです」って海未ちゃんに宣言までされちゃって、背筋がひぃぃって震えあがったんだもん。
高校3年生はμ’s最後の学年だったし、絶対に手は抜きたくなかったから、卒業と同時に穂むらで修行っていう選択肢は穂乃果にはぜんぜん有りだったんだよね。ううん、中途半端に受験勉強なんかやってたら二兎を追う者一兎も得ず。穂乃果には海未ちゃんやことりちゃんみたいな優秀な頭はないから両立なんて無理だよ。生徒会だってあったし。だからそれらをみ~んなこなしてた絵里ちゃんと希ちゃんは凄いなぁ~って感心しっぱなし。超人、いや、超人アイドルだよ。
でもね、だからって家で稼業の修行っていうのは決して妥協してるわけじゃないの。もしかしたらいつかこれから先、あぁやっぱり大学いっとけば良かったなぁ~って後悔する日があるかもしれないけど、今の穂乃果にはどうしても大学生活っていうのが想像できなくて。なんだか似つかわしくないっていうか、分不相応っていうか。私、地元が大好きだし、μ’s以外に海未ちゃんとことりちゃんと離れてまでやりたいことなんてぜんぜん思いつかないし。それならここで穂むらをやってたい。
海未ちゃんの家は目と鼻の先だからいつでも会えるし、ことりちゃんだってお手伝いにきてくれてる。
……それにね、ここだけの話、穂乃花、お父さんに大学も専門学校も進学はきっぱりあきらめてくれって頭下げて言われちゃったの。
もぉ~びっくりしちゃった。夕食の席でさ、雪穂も隣に居るのにお父さんがいきなりちゃぶ台に手をついて、すまんって大声で頭を下げるんだよ。いったい何事?って雪穂と2人で目を白黒させてたら、お父さんは穂乃果の進路について急に話だしたんだよね。
もし本当に穂むらの後継ぎをやってくれるんなら卒業後はそのまま家に入ってほしい。技術なら製菓学校とかに通わなくても俺が教えられる、それに本格的な修行を始めるなら早い方がいいって言うの。
そしてこれがお父さんが突然頭を下げた一番の理由なんだけど……、どうやら家のお店には娘を2人も進学させてあげられるほどの余裕はないみたい。
穂むらにはありがたいことにお得意様がたくさんいてくれて、家族で食べていくぶんにはいいけど大学進学のお金とかになるともう話しは別。もし穂乃果が何百万もお金をかけて大学に行って、そしたら2年後にまた何百万なんてお金とても用立て出来ない。だから進学させてあげれるのは、可哀そうだけど2人の内どちらか1人。
お母さんが途中から話してくれたんだけどお父さんは穂乃果が高校3年生になってからもうずっとこの問題に悩んでたみたい。夫婦で何回も話し合った結果、今日正直に話そうって決心したんだって。
我が家は家族での隠し事は出来るだけなしっていう方針だけど、まさか夕食の席で娘に頭を下げるなんてお父さん裏表無さすぎだよ~。さすがに能天気な穂乃果も開いた口がふさがらないっていうか、ぽけーってなっちゃったもんね。でもお金のやりくりの大変さは穂乃果もμ’sやってたおかげで多少は分かってたから。衣装を作るための布代とか、チラシの印刷にかかるお金、あとステージの飾りつけにかかる費用とか、そういうの全部みんなで出しあいながらなんとか出来る範囲でやりくりして、楽しかったけどお金は大事なんだなぁっていうのはすっごく勉強させてもらった。
だって音ノ木坂が廃校になりかけた理由だって、生徒数が減少して維持できなくなったから、つまり資金が足りなくなっちゃったっていう台所事情でしょ。学校で穂乃果が猪突猛進でスクールアイドルやってた裏でお父さんがそんなに悩んでたなんて知ったら、しかも目の前でこうして頭まで下げて……。何だか胸がいっぱいに詰まっちゃったからすぐに言葉なんか出てこなかったよ。
雪穂は奨学金とかそういうの使えばいいんじゃないって言ってくれたけど、お母さんが奨学金はいずれ返さなきゃいけないものだからって。進学先を卒業後、そこから何百万っていう返済金を背負ってまでやりたことって穂乃果にはあるのって訊かれたら、正直ぜんぜん思いつかなかったんだよねぇ……。
「そんな選択今決めろっていうの、お父さんとお母さんはずるい!これってお姉ちゃんの一生にかかわる問題だよね、だったらお姉ちゃんにも考える時間が必要なんじゃないの」
「もちろん、雪穂の言うとおりだわ。だからね穂乃果、この話はちゃんと考えてからでいいから」
それからお母さんと雪穂はケンケンガクガクの話し合いをしてたけど、でも返済金が何百万とか、全部返し終わるのに十何年かかるとか言われても穂乃果にはまるで実感がわかない。5万円のお金が集まっただけでやったー!新しい衣装が作れるー!って喜んでるぐらいなんだよ。それなのにウンビャクマンエンって……何語?
それにね、さっきも書いたけど穂乃果には進学先での生活っていうのが全然想像できなくて、見知らぬ土地で新しい生活っていうのもなんか違うなぁーって思ってたし、海未ちゃんとことりちゃんがいる地元から離れたくなかったし。
これまで学校の進路指導でも先生から高坂さんはどうするのってさんざん訊かれたんだよ。もう3年生なんだからって。だからこうしていきなりお父さんに頭を下げられる前から穂乃果なりに、自分の今後っていうの、真剣に考えたりもしてたの。
でね、結果として穂乃果の頭にいつも思い浮かべることができたのが、進学して新しい生活を送る自分っていうよりか、割烹着を着て頭に三角巾を巻いてる自分なの。お餅をちぎってお団子作ったり、顔馴染みの近所のお婆ちゃんに出来たてのお菓子を渡したり、そういう穂乃果の姿なら思い浮かべることができたの。
お餅をこねる穂乃果ちゃんの手つきはいつもの不器用な穂乃果ちゃんとは別人みたいやなぁって、たしか希ちゃんにも褒められたことあるし。エヘヘ。
うん、μ’s以外で、唯一自分が人に胸をはれるっていったらやっぱり穂乃果には和菓子だったんだよね。だからね、
「うん、いいよお父さん。穂乃果、卒業したらそのまま穂むらに就職する」
って言ったらそこでお父さんが下げていた頭をようやくガバッてあげて、よく言った穂乃果、それでこそ穂むらの娘だって穂乃果のこと褒めてくれたんだ。
雪穂は信じらんないって頭を抱えてたけど、穂乃果はこれで良かったって思ってる。
μ’sが穂乃果にはとっても大事だったけど、それと同じぐらい老舗和菓子屋『穂むら』のお店も大事なの。他の選択肢なんてどんなに時間をかけても結局思いつかなかったんじゃないかな。
だからね、穂乃果はこうして毎日お父さんから穂むらの味の修行を受けてることに後悔なんてしてません。ことりちゃんも来てくれるし、海未ちゃんも近くにいるし、まだまだ未熟だけど穂乃果は頑張ってま~す!