悪役が最後に笑顔で死ねる物語 作:あう
『ミトストッカに女王現れたり!遂に開戦か?』
ラピュセルが村を襲った次の日、多少の差異はあれど同じような見出しをつけた新聞が続々と発行された。…うん。不安を煽ろうとする魂胆が見え透けているね。
あ、ミトスカットはラピュセルが襲った村の名前である。一応村という体を取っているがその自然豊かな環境から観光客が大勢訪れており、その経済規模と広さも相まって村というには些か疑問符がつく。まあ何故か人口はそれ相応なので仕方ないか。兎に角、国内ではかなりの知名度を誇っていて、見出しを飾るには申し分ないと言える。…不名誉ではあるが。
で、肝心の内容はと言うと。
各紙内容は多少違うが、誤差のようなものなので要点だけまとめるとするならば。
1.昨日ミトストッカに魔族が現れ、村を蹂躙。詰所に控えていた衛兵が聖騎士団へ応援要請をする。
2.要請を受けた聖騎士団が村へ到着。敵は初めは地に着いていたので近距離武器で戦闘を試みるが、途中から翼を出し空からの攻撃に切り替えた敵に苦戦。一時撤退を余儀なくする。
3.作戦を変更。弓や魔法を使った攻撃に切り替える。すると敵は逃げ出した。
4.逃げ出した魔族を追いかけると女王に遭遇。騎士団は全滅。
とまあ、まとめるならこんな感じだろう。…一切纏められている気はしないが。まあ分かればいいんだこんなもの。
ここで言う『敵』とは無論ラピュセルのことである。箱入り娘だから敵としか書かれてないのは仕方ない。知らんけど。
まず一つ思ったのは「タイトル詐欺じゃないか?」という事。深追いしたら偶然女王に遭って全滅した、という話なだけで女王は別に何にもしてなくない?風評被害も甚だしいと思うね。うん。…私が言える立場ではないが。
というかこれ一旦引かなかった聖騎士団(笑)が悪いよね。完全なる自業自得だ。
だというのに新聞には『女王が悪い』だの『人類の危機』だの、まあ疑問符がつかざるを得ない事を尤もらしく書いてある。
これは何故だろうか?
それはまあ、女王の日頃の行いの所為だろう。
◇◆◇
此処でニンゲン界と魔族の間での女王への認識の擦り合わせをしておくとしよう。
君も知っているように、女王は気が荒い。大抵のことは拳で解決できると思ってる典型的なバカだ。
…バカなだけなら御し易いのに。ああだけど、タチの悪いことにアイツはバカではあるが愚かではないのだ。何か下心を持って近づけば普通に御陀仏*1だし、利用しようとすればどうなるかは想像するに容易い。かくいう私も一度死にかけた。
兎に角。アイツは自分の持つ影響力と立場をちゃんと理解しており、それに伴った…伴った?振る舞いをしている。
家臣では仏頂面を保ち続けるが、民衆の前では胡散臭くならないくらいの笑顔を貼り付けている。まあそれだけではその暴力性は隠し切れないし、現に民の間であんな*2噂が広まったんだ。まあそれでもアイツは支持されているのだが。…何故だ?
そんなんだから娘——ラピュセルに本当か?って怪しまれるんだよ(理不尽)
今度こそ纏めるとするならば、彼女は同族の中では何かカリスマ性のあるすっげー王って認識になっている。語彙力は既に筋肉に置き換わっているのが魔族クオリティらしいので仕方な…くはない流石にアホっぽい。此れだから脳筋どもは…。
此処までは同族、魔族の間での話。
では他の——敵族相手ではどう認識されているのだろうか。
そうだな。一言で述べるとするなら。
クッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ…(深呼吸)……ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッソ恐れられている。
途中で深呼吸入れなきゃいけないぐらいには恐れられている。
其れは敵側の大将という漠然としたものもあるが、それだけではない。此れにはちゃんと理由があるのだ。
アイツは性格が悪い。
だから怖いのだ。
例えば、私が魔王に仕えてからまだ間もない頃、こんな事があった。
◇◆◇
ある男は人知れず、誰にも別れを告げずにとある城を目指して旅に出た。
その男は人間界では名の知れた——それこそ救国の英雄と謳われた存在であった。
彼には愛するべき妻も子も、頼れる仲間達もいた。そんな人々に彼は、何も告げずに姿を消したのだ。
———これも全てはアイツらの為。
だって、彼には負ける気などさらさら無かったから。
嗚呼だけど現実は非情かな。直ぐに彼は自分の考えの甘さを悟る事となった。
道中に現れるのは何もモンスターだけでは無い。傭兵崩れの山賊も居た。嘗ての仲間が敵に回ったこともあった。彼に休む暇など無かったのだ。自分の甘ったれた正義が崩れていく気がした。天は彼に味方しないのか?
何処までも切っても、何処までも倒しても出てくるのは敵、敵、敵、敵———
何処までも絶望的な旅だった。命を落としかけることもあった。だけど、彼は生き延びたのだ。
だって——
———これは大いなる使命の為、そして何よりアイツらの為。
——彼は諦めなかったから。絶対に戻って帰ると、自分に誓ったから。
そして数ヶ月の旅の末、行き着いたのは魔王の城。
彼は静かにその門扉を叩いた。
内心怯えているんじゃ無いかって?まさか。
彼は己が負けるなどとは微塵も考えていなかった。
何故って——
———主人公はいつだって、最後には勝つだろ?
——彼は何処までも英雄に相応しかったから。
そして彼は——
◇◆◇
いや、あれは酷かった。だってあのニンゲンは明らかに主人公かなんかだったでしょ?まずオーラから違ったもん。そこらの凡夫とは訳が違った。
敵城の門扉に律儀にノックをする馬鹿ではあったが。…あれこそが騎士道なのか?なら、ラピュセルを追いかけた蛮族はあながち間違いじゃなくて…?いや、そんな事あってたまるか。
だから流石に女王も危ういかなぁって思ったんだけど。
いやあ。蹂躙蹂躙。
敵なのに応援したくなっちゃった。
まずさ。女王なんだか堂々と玉座で待っていればいいものを。
面白そうだからって玄関で出待ちしてたんだよ、アイツ。エンカウント率壊れてるって。ニンゲンも死にそうな顔してたし。
それからニンゲンの出してくる技を全部真正面から潰していったんだよね。ニンゲン泣きそうな顔してた。
それを5分ぐらい続けてたら急に『飽きたー』なんて言ってさ、首チョッキン。グロい。
そして極め付けには“女王より愛を込めて”とか狂った文字が書かれた紙を顔に貼り付けて、その男の国の首都の広場に晒しものにしたの。
マジで頭可笑しい。
そんな事が何回かあったから今では女王は恐怖の存在、というか恐怖の権化みたいな扱いをニンゲン界では受けている。一度もニンゲンの前には姿を現していないのがより一層恐怖を煽っているのだろう。
それを知った女王は悲しそうな表情を浮かべてた。いや、は?
◇◆◇
だからまあ、ちょっと姿を現しただけで大袈裟にとりだたされるし、こうやって有る事無い事書かれるのだ。
脚下照顧、みんなも日頃の行いに気をつけよう!
後はなんか政府のお偉いさんの息子とやらも聖騎士団に入ってたからかな?それについての見解やら何やらも書かれていて、新聞の一面どころかほぼ全面が魔族や女王についての特集だ。こういうのは週刊誌やらの仕事ではないか?ボブは訝しんだ。まあ週刊誌がないんだけど。
兎に角、
だとしても現状ニンゲン界は荒れに荒れていて、今日の午後から政府が声明を出すようだ。まあ大方予想はついているが、果てさて、何て大義名分を持ち出してくるのか。
…如何したのかい?そんな腑に落ちないというような顔をして。
…ああ。女王が人前に姿を現したことは無かったのに、何故女王だと分かったのか?とかサキュバスから逃げ切れたのか?って事が気になってるのかな?
簡単な事だよ。だって私が———
「ちょっとヴィル?サボってないで仕事して!そろそろ政府からの声明が届くんだから、夕刊に記事として出すわよ!」
「はーい!ちょっと待ってー!」
「そう言ってもう1時間サボったのを知らないとは言わせないわよ?ん?」
「………ぁぅ」
———…まあそれはまた別の機会で話すとしようか。
結論。なんか始まるぞ!断じて急展開ではない。ええ決して。
この世界はナーロッパが多少近代化した感じで、通信機や新聞もどきは有るけどテレビとかはないです。なので情報源は噂話か新聞のみ。そこが大衆の恐怖を煽るような見出しをつけたら…。
地の文…?知らないです。はい…。