IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~   作:GASHI

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先週この話を投稿しようとしたら、ハプニングでデータが消えて絶望してたGASHIです。投稿数2話で挫折する羽目になるところだった。危ない、危ない・・・。何とか書き終わって安心しました~。では、どうぞ~。


第2話 「記憶の欠片」

SHRが終了し、教室や廊下が喧騒に包まれる中、1人の男が自分の机に突っ伏していた。彼・・・織斑 一夏は痛む頭を持て余しながら自分の今の状況をただ嘆いていた。

 

「入学早々、災難なことだな。」

 

労っている割には冷淡な調子の声に顔を上げると、もう1人の男子生徒・・・神裂 零が立っていた。態度といい目つきといい、普通の人なら誰でも軽蔑されていると感じるだろうが、流石はお人好しの一夏、全く気にせず気さくに返事をする。

 

「はは、全くだ。えっと・・・。」

「神裂 零だ。零で良い。」

「おう、よろしくな、零。俺のことも一夏で良いぜ。」

 

笑顔の一夏と無表情の零。かなりの温度差を感じる自己紹介を終えた後、一夏はふと思いついたように質問をする。

 

「あれ?零ってさっき教室出ていかなかったか?てっきり学園内を散歩でもするのかと思ってたんだけど・・・。」

 

一夏の質問に零は答えず、黙って廊下の方へ視線を投げ掛けた。廊下には女子生徒の群れ。学年に関係なく2人の男子を物珍しそうに見つめながらざわついている。

 

「いたいた、噂の男子2人。」

「あ、今こっち見た!」

「え、嘘!?」

 

零と一夏の視線に女子の喧騒が大きくなる。一夏はまだしも零の視線ははっきりと嫌悪を表したものだったが、廊下の群衆には関係ないようだ。どういう形であれ、意識されること自体が重要なのだろう。

 

「あはは、確かにあれじゃ無理か。」

「まるで博物館だ。まったく鬱陶しい。」

 

口に出した通りの感情を視線に乗せても無意味なことが分かったので零は視線を一夏に戻した。が、すぐにその視線は他に移ることになった。

 

「ちょっと良いか?」

 

廊下の喧騒とは完全に距離も感じも違う声に反応して2人が振り向くと、そこには1人の女子生徒が立っていた。ポニーテールに束ねた艶やかな黒髪、日本刀のような鋭さを思わせる凛々しい佇まい、不機嫌そうな目つき。しっかりと自己紹介を聞いていた零は目の前の女子をすぐに認識した。

 

「篠ノ之 箒で合ってるな?神裂 零だ。零で良い。」

「篠ノ之 箒だ。私も箒で良い。」

 

軽い自己紹介をしながら自分の護衛対象を観察し終えた零は、姉妹でこうも違うものかと少し驚く。性格、雰囲気、口調、何を取っても正反対である。

 

「それで、用件は何だ?」

「その、だな・・・、一夏を、少し借りてもいいだろうか・・・?」

 

箒はモジモジしながら言いにくそうに返答する。事前に一夏と箒が旧友であることを把握していた零は、箒の態度にすぐに事情を察した。他人の恋路に首を突っ込むことほど野暮なことはない。零の答えは決まっていた。

 

「どうぞ、御随意に。」

「そうか!よし、一夏行くぞ!」

「ちょっ、箒、引っ張んなって!」

 

箒は一夏をグイグイと引っ張って教室を出ていく。その迫力に押されたか、誰もそれを阻む生徒はいない。その後ろ姿を見送った零は小さくため息を吐いた。

 

「面倒な奴らだな・・・。」

「全くだ。先が思いやられる。」

 

突然聞こえた声に、それでも零は動じない。彼は傍に立つその存在に気づいていたから。彼は声の主・・・織斑 千冬とその傍らに寄り添うように立つ山田 真耶の方を向く。

 

「話がある。一緒に来い。」

 

千冬はそれだけ言うとさっさと歩いていってしまった。身に覚えのありすぎる彼は真耶と共に黙って千冬の後を追う。相変わらず面倒だなぁと思いながら。

 

 

 

 

「ここに連れてこられた理由は分かっているな?」

 

職員室に隣接する小さな部屋。高級そうなソファーやテーブルが置かれ、防音措置が施された応接室という名のスタイリッシュな尋問部屋。零はその部屋でソファーにふんぞり返りながら、千冬と真耶の2人と対峙していた。

 

「愚問ですね。」

 

口調こそ淡々としているが、千冬と零の間には形容できない迫力が感じられる。居心地悪そうな真耶を無視して、千冬は無表情のまま質問を続ける。

 

「束は今何処で何をしている?」

「答えられると思ってるんですか?」

 

零の方も仏頂面で応対する。しかし、千冬は零の冷淡な対応を気にしなかった。始めから答えなど期待していない、そう言いたげな態度である。

 

「お前は何故ここに来た?束の差し金なのだろう?」

 

先程の質問と違い、口調も視線も答えを促していた。返答次第ではただでは済まさない、千冬の態度がそう告げていた。

 

「・・・束さんから織斑 一夏、篠ノ之 箒両名の護衛を頼まれました。」

「護衛だと?あの束が?」

 

零の答えに千冬が珍しく驚愕を露にする。千冬は束のことをよく知っている。平素自分の興味本位でしか動こうとしない束がこのような気配りをすることに彼女は違和感しか感じなかったのだ。

 

「俺自身興味があったのも確かですけどね。」

「・・・そうか。」

 

千冬はそう言った後、立ち上がって深々と礼をした。予想だにしなかった事態に今度は零と真耶が驚いた。天下の世界最強が頭を下げる、それがどれだけ畏れ多いことかは千冬の実力を知る2人にはよく分かる。

 

「ちょっ、ブリュンヒルデともあろう人が何を・・・」

「ブリュンヒルデとしてではない。」

 

頭を下げたまま千冬は口を開く。戸惑った零が真耶を一瞥すると、真耶は既に千冬の意図を汲み取ったようでニッコリと微笑んでいた。

 

「一人の教師として、一人の姉として、篠ノ之と一夏を、よろしく頼む。」

 

その言葉を、一夏という呼称を聞いて零は目を見開いた。彼にとってここまで温かく大きな愛情を感じたのは束に拾われて以来だった。それ故に感じた、千冬の大きな覚悟。自分の矜持を形振り構わず捨て去り、大切な弟と生徒の安全を他人に委ねるその覚悟は、零の決心をさらに強固なものにした。

 

「・・・まったく凄い人ですよ、貴女は。」

 

そう言った零の瞳には強い決意が窺えた。彼は胸を張って宣言した。千冬の強さを、彼女の愛情を称えながら。

 

「全力を以て2人をお守りしますよ、千冬さん。任せてください。」

「・・・ふん。学校では織斑先生と呼べ。」

「はーい。では、失礼します。」

 

軽い返事をして零は部屋から去った。その背中を千冬と真耶は見送っていた。

 

「良い子ですね、彼。」

「ああ、そうだな。」

 

淡白な返事を返した千冬はポツリと呟く。その呟きが真耶に聞こえることはなかった。

 

「変わらんな、アイツは・・・。」

 

 

 

 

「ハァ・・・、ハァ・・・。」

 

額に脂汗を浮かべた零は、先程から止む気配を見せない頭痛に耐えかねて歩みを止めた。壁に背を預けて深呼吸をする。

彼からすれば、脳を内側から小突かれるような鈍痛はこの際問題ではなかった。これは彼の脳が失った記憶を取り戻そうとして足掻く兆候だった。

 

「織斑 千冬、ね・・・。」

 

彼女の名前を、彼女の面影を、彼の見た全てを彼は記憶の欠片を心に刻みつける。もう二度と、忘れることのないように。

 

「俺は何者なんだろうな・・・?」

 

頭痛が和らいだことを確認した彼は再び廊下を歩き出す。彼の小さな呟きは誰にも届くことはなく、校舎の窓から覗く青空に消えていった。




次も来週か再来週に投稿します。それでは、See you next!
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