【名物】
二年生が修学旅行から帰ってきた桜才学園。
その翌日の生徒会室にて。
「おかえりなさい会長、七条先輩」
「おかえりなさい。旅行どうでした?」
二年生の帰りを迎える一年生コンビ。
「ただいま」
「うむ、なかなかに楽しかったな」
二人の満足そうな笑みを見れば、修学旅行はいい思い出となったのだろう。
「それで、二人に修学旅行のお土産だ」
「あっ、どうも」
シノが鞄から修学旅行のお土産を出す。
スズに手渡されたものは京都の老舗の箱入り八橋だった。名物として有名なものである。
結構大きな箱だが、どうやら一年生二人用ではなくスズ一人用のものらしい。
その証拠にまだ鞄から何かを取り出すシノ。
今度は津田に向き合ってその取り出した包みを手渡そうとする。
紙袋に包まれているのは、触った感覚からしてどうやら本のようだ。
「それで、津田のなんだが……その……
異性に物を贈るというのが初めてで……君の好みに合うかどうか……」
自信なさげにもじもじとするシノ。
どうやらお土産とはいえ、異性に物を贈るという行為に照れているらしい。
「別に気を使わなくても、気持ちがこもっていればなんでもいいですよ?」
「そうですよ会長。こいつにそこまで気を使う必要ありません」
逆にシノを気遣う津田の言葉と、フォローしているのか貶めているのか分かりにくいスズの言葉。
「そうか、気持ちがこもっていればいいか……よかった。
ではこの『舞妓のおしろいは白濁液 第二巻』という小説を……」
彼女が包みから取り出したのは、京都の名物である舞妓をモチーフにした官能小説だった。
しかもいきなり二巻である。一巻はどうしたというのか。
「悪意こもりまくりじゃないですか」
スズの久々のツッコミが飛んだ。
その言葉にどこか安心する二年生組。
「ああ、萩村のツッコミを聞くと生徒会室に帰ってきた実感がわくな」
「ええ、そうね」
「嫌な実感の仕方しないでください」
【あなたのきもち】
受け取ったお土産を眺めていた津田。
表紙では黒髪のきれいな舞妓が、顔を何かで白く染めてうっとりとした絵が描いてある。
彼はその本から込められたメッセージを読み取った。
「会長、俺、会長の気持ちしっかり伝わりました!」
「お、おお、そうか」
なんだか目をランランと輝かせた津田にちょっと慄くシノ。
「異性への初めての贈り物、官能小説、そしておしろいは白濁液……」
「ちょ、ちょっと待て!? なんでズボンのチャックを降ろす?」
「この小説の舞子は会長自身、そして俺の白濁液で化粧をしたいという心、確かに伝わりました!!」
「ひぃ!?」
シノに近づきながら己の分身を取り出そうとする津田。
ちょっとしたいたずらのつもりが思わぬ展開になって後ずさるシノ。
彼女は自分から下ネタ展開に持っていくのが好きな思春期だ。
だが、異性からそういう展開に持っていかれるとなれないために慄いてしまうという初心さをもつ。
エロスに興味深々のくせに変態になりきれない、難儀な思春期である。
「そんなワケないだろうが」
「おうふっ!?」
津田の勘違いをスズが恒例の股間への蹴りで止める。
いつも通り股間を押えてうつ伏せに床へと沈む津田。
「ふふ、スズちゃんのキックも久々に見たわね」
「そ、そうだな……」
アリアの言葉に同意しつつも助かったことに安堵するシノだった。
やはり津田へのツッコミはスズの蹴り技が一番しっくりくる気がする面々。
しかし、しっくりくるだけあって多様したせいか、津田もそのダメージに慣れてしまっている。
急所への攻撃にも関わらず5秒で復活する。
「はーぎーむーらー!!」
「な、何よ?」
いきなりガバリと床から顔をあげて絶叫する津田。
彼女は彼の豹変にたじろぐ。
なんか日に日に復活までの時間が短くなってきているというか、逆に大丈夫なのかと心配してしまう。
彼はスズに顔を向けると無駄に白い歯をきらりと光らせサムズアップした。
「届いたぜ、おまえの気持ち」
「はぁ?」
「やきもち……なんだろ?」
「ち、違うわこの馬鹿!!」
「ぐぶ!?」
再度彼女の足が振るわれ、そのつま先は四つん這いの彼の顎にきれいにヒットした。
【ナニもなかった?】
「ところで私たちがいない間なにもなかった?」
顎にいい一撃を受け失神する津田を放置したままの生徒会の面々。
アリアがスズに何か問題がなかったか確認する。
その言葉を聞いて、萩村家でのあの一日を思い出すスズ。
一緒に生徒会の仕事を彼女の家ですることになった。
二人ともなんだかテンぱってしまって、暴走してしまった一日。
津田に押し倒され、自分もたいした抵抗もしようとしなかった。
初めて異性に体をまさぐられるという経験。
もしあそこで母親がビデオを隠れて録画しているのを見つけなければ彼女は正気に戻らなかっただろう。
そうなればどうなっていたか。
おそらく行くとこまでいっていただろう。
あのことは二人とも冷静じゃなかったとして、無かったことにした。
しかし例え無かったことにしても記憶は消えてくれないのである。
「べ……別に……何も無かったです」
赤面しつつも、特に何もなかったと主張するスズ。
しかし、正面からアリアを見ようともせず、顔を赤く染めつつ何かを思い出してもじもじしていれば感づいて当然である。
「な、な、何があったの!?」
当然ただならぬことがあったのではと勘繰られる。
「だ、だから!! 何もありません!!」
スズの両肩を掴んで問いただすアリア。
しかし頑なに何があったかを言おうとしないスズ。
彼女としてはあんな恥ずかしいこと、人に言いたくないし知られたくもない。
「何にも……何にも……無かったんです―!!」
【津田君のナニ】
「う~ん……」
「「!?」」
その時、津田が目を覚ました。
「津田君!?」
「はい?」
「ちょ、ちょっと先輩!?」
何もしゃべろうとしないスズから標的を津田に変更するアリア。
気絶していたために津田は現状が読み取れていない。
スズは焦った。しかし無理に引き止めては怪しいことこのうえない。
「津田君っ、私たちがいない間スズちゃんと何があったの!?」
「えっ……?」
その問にどきりとする津田。
思い出すのは彼女の家での出来事。理性が彼方へと飛んで押し倒してしまった。
スズの美しくも淫媚な生足。
彼女の小ぶりながらも柔らかい尻。
さわり心地のいい太もも。
甘い香りのする首筋。
結局最後まではいかなかったが、危なかった。
そういえば、スズの希望で無かったことにしたのだったかと思いだす。
「べ……別に……何も無かったです」
結果、津田のした反応はスズと全く一緒であった。
生徒会の一年生コンビは演技が下手なようだ。
「嘘!! 何かあったんでしょう!?」
「うっ……まぁ、萩村の家には行きましたが……」
「~~~~~~っ!?」
アリアの押しに負けて一部白状してしまう津田。
まだ肝心のことは言っていないが、ばれるかもしれないと思って声にならない声をあげるスズ。
彼をアリアから引きはがすことも、割って入って会話を邪魔することも出来ない。
そんなことをすれば何かあったのを自分から認めるようなもの。
スズは、今現在心の葛藤を表わす不思議な踊りを踊っていた。
実に彼女らしくない行動、いかに混乱しているかがわかる。
「スズちゃんの家ぇ!? な、何をしたの!?」
「いや、その……何も」
「ナニをしたの!?」
「ナニもしてません!!」
正確にはナニもできませんでした……である。
「くっ……じゃあ質問を変えるわ。津田君は童貞なの?」
「くっ!?」
直球から変化球への質問。
これは、童貞を認めれば何もなかったと言える。しかし男としては屈辱的だ。
童貞でないといえば、彼女らが修学旅行へ行くまでは童貞だったのだ。
では相手は誰だという話になる。
「……ちくしょーー!! どうせ俺は童貞だよーーー!」
夕暮れに染まる校舎に、彼の慟哭が響き渡った。
「そっか、よかったー」
それに安堵してみせるアリア。
その様子に何気にひどいなと思うシノとスズ。
「私たちの知らない間に、津田君の童貞だれが奪うかのレースが終わってるのかと心配しちゃった」
「そんなくだらない心配してたんですか? てかまだそのレース続いてたんですか?」
呆れかえるスズ。さっきまでの私の焦りを返せと言いたい。
その時、急に部屋の扉がひらいて誰かが顔をのぞかせる。
「まだまだレースは終わってないわよ……じゅるり」
「副会長は童貞……と」
そこには舌舐めずりをする横島先生と、メモに大きく童貞と書いている畑がいた。
「……頑張れ津田」
初めて少し彼に同情したスズであった。
ちなみにこの2日後に学園中に彼が童貞であると知られることになるのは言うまでもない。
【微笑限界突破】
「記事用の写真が余ったんで献上にきました」
修学旅行から約一週間後の生徒会室。
新聞部の畑が旅行中に撮った写真を携えてやってきた。
「見せて見せて」
「俺にも」
「どうぞ。お二人の写っているものを持ってきました」
差し出された写真の束を机の上に広げて皆で見る。
そこには楽しそうに笑う女生徒の姿が多数写されていた。
仏像を眺めるアリアと黒髪の生徒のツーショット。
鹿を撫でるアリア。
鹿に乗られる黒髪の生徒。
タヌキの焼き物の下半身を撫でるアリア。
金閣寺をバックにコマネチのポーズを取る黒髪の生徒。
色々な写真が撮られている。
「あの、会長はどこに写ってるんですか?」
「ここにいるじゃないか」
そういってシノが指さすのは黒髪の女生徒。
確かに似ているといえば似ている。
だがどうみても津田にはそれがシノに見えなかった。
「どこ?」
「ここ」
写真の中のシノはいつもの微笑ではなく、まさに満面の笑みといった表情。
子供のように笑う彼女は雰囲気がまるで違って、本人とは思えなかったのだ。
【焼き増し可】
「あっ、会長見つけた」
やっとシノだと一目でわかる写真を見つけた津田。
その写真の中ではシノが浴衣の胸元をはだけさせて寝ている写真だった。
「会長寝てる……ふふ、寝顔可愛いですね」
「こ、こら津田! 人の寝顔勝手に見るな!」
恥ずかしそうに写真を彼から取り上げるシノ。
それに同意したのは畑だった。
「そうよ、それは有料よ?」
「え?」
有料と聞いて驚く津田。
「ちなみに今までの写真が無料のもの。ここにあるのが有料のものです」
畑は懐から10枚ほどの写真を取り出した。
裏を向けられているためにどのような内容のものかわからない。
「なんでそんなに有料のものがあるんだ……」
「というよりも畑さん私たちと部屋違ったわよね?
なんでシノちゃんの寝てる写真なんてあるの?」
「私、記者ですから」
「……答えになってねえ」
彼女たちの素朴な疑問を一言で切って捨てる畑。
しかし彼女の言葉は問いかけに対する答えになっているようでなっていなかった。
まぁ、先ほどのような写真を撮るには同じ部屋のなかにいる必要があるわけで。
シノとアリアの部屋に夜中彼女が忍び込んだのは考えるまでもないことだが。
「ちなみに他には簡単に言ってどのような内容の写真があるんですか?」
なんとなく聞いてみた津田。
別に買うつもりはない。単に気になっただけだ。
「そうですね……津田君のオカズになりそうな写真とでも言っておきましょうか」
「買った!!」
「よし売った!!」
【この感じ耐えられないのぉ!!】
色々と写真を見ていて旅行の思い出を語る二年生たち。
シノが観光の名所で撮った写真を手に、少し残念そうに話す。
「短い日程だったが色々回ることができたな。
しかし……やはり清水寺にいけなかったのは心残りだったな」
清水寺といえば、~の舞台から飛び降りるという言葉が使われるくらい有名な場所である。
京都の名所と聞けばほとんどの人間が思いつく場所だろう。
今回、シノとアリアは残念なことにその清水寺には行っていないのであった。
「シノちゃんは高いところ駄目だからね」
「そういえば、以前屋上でも怖がっていましたね」
どうやら行かなかった理由はシノの高所恐怖症にあるらしい。
アリアの言葉にスズがかつて校内を案内された時のシノの様子を思い出す。
「会長ってそんなに高いところ駄目なんですか?」
津田の素朴な疑問は無理もないだろう。
別に清水の舞台は高くとも、行くだけならそこまで怖くはないはずなのだ。
ようは怖いなら舞台の端に行かなければいいのだから。
「そうだな……高い場所に行くと全身の力が抜けて震えが止まらなくなってしまうんだ」
「そんなにですか」
自身は高所に恐怖を覚えずとも、幽霊などが苦手なスズは共感する。
怖いものを見れば、想像すれば……それだけで体が震えて足がすくむ。
「そう、それはまるで……常に絶頂状態!!」
「あらあらシノちゃん。それじゃ結局好きみたいに聞こえるわよ?」
さきほど感じた共感はまやかしだったと気づくスズ。
畑は何やら隣でメモに書き込んでいた。
「会長は常に絶頂状態……と」
「いや、畑さん?そんなのメモらなくていいですから」
この数日後、学園に「生徒会長は常に絶頂状態」という意味不明な噂が流れることになるが、それはまた別の話。
【会長の絶頂写真】
「それで畑さん」
「何かな津田君?」
「会長の絶頂状態の写真はないんですか?」
どうやら先ほどのシノの高所での絶頂発言を聞いてムラムラときてしまった津田。
彼は一縷の望みをかけて畑に聞いてみる。
彼女たちは清水寺には行っていないというのに。
「こらこら津田、私たちは清水寺には行っていないと言っただろう?」
「もう津田君ったらエッチなんだから」
「「はっはっは」」
「……いや、笑うところじゃないだろ。会長も今のは怒ってくださいよ」
津田のセクハラを笑って流す先輩二人に呆れるスズ。
無いと分かっているからこその余裕なのかもしれないが。
普通はここいらで怒るところだろうに。
しかしここで新聞部のホープ、畑さんは懐から一枚の写真を取り出す。
「ありますよ?会長の絶頂写真」
「マジで!?」
「何ぃ!?」
無いと思って余裕こいていたところに畑のこの発言。
これには津田も大興奮だ。
それとは逆に今度はうろたえることになるシノ。
「な、なんでそんな写真があるんだ!?」
「そうよ畑さん? 私たちは高いところには行ってないわよ?」
「……いや、そのまえに何でそんな写真撮ってるんですか?」
「ほら」
津田が先ほど写真を買うと言ったためか、今度はためらいもなく全員に見えるように写真を見せる。
その写真には、おそらくトイレの個室の中と思しき場所。
浴衣をはだけさせてだらしなく舌を突き出し、若干白目のシノの肩から上の姿が写っていた。
「あらあらシノちゃん……完全にア○顔ね」
「な、なななななななななな……!!」
「会長のア○顔キターーーーーー!!」
「……」
そこに写るシノの顔の、普段とは違い淫媚な表情にそれぞれの反応をする面々。
困ったような嬉しいような表情のアリア。
顔を真っ赤にして壊れたレコーダーのように「な」を連呼するシノ。
大いに喜び天にむかってガッツポーズをする津田。
さすがのスズもこのシノの表情がどんな時のものか分かってしまって赤面する。
これは、女性が性的に気持ちよくなったときにする表情の一つである。
性的な関心があまりないスズでも、この程度の想像はついた。
「な、なな、な……なぁああああああーーーー!!」
「ああっ、写真が!?」
らしくもなくキレたシノが、畑の手から写真をもぎ取ってびりびりと細かくちぎってしまう。
写真の残骸を目の当たりにし、がくりと膝をつく津田。
「もう、シノちゃんたら ……でもなんでこんな写真があるの?」
「ああそれはですね。
旅行中の禁欲が我慢できなくなった会長が、夜に部屋の人間が寝静まった後にトイレで自慰行為をしていまして。
その時のア○メの瞬間をばっちり撮らせてもらいました」
びしりと胸を張ってサムズアップする畑。
彼女の顔はどこまでも誇らしげであった。
「それ、明らかに盗撮じゃねぇか」
さっきの寝顔の写真よりもっと悪質であった。
ちなみに、この場は写真はもう焼き増ししないということで畑は釈放される。
しかし事前に数十枚焼き増しされていて、そのうちの一枚は津田の手に渡るのだった。
【どうだった?】
旅行後、廊下にて。
シノがスズにお土産の感想を聞いていた。
「萩村、この間のお土産の八ツ橋どうだった?」
「おいしかったですよ。
家族でおいしく頂かせてもらいました」
「そうか、喜んでもらえたみたいで何よりだ」
職員室にて。
顧問の横島先生にお土産の感想を聞いているシノ。
「お土産の木刀?よかったよ。プレイの幅が広がった」
「プレイですか……?」
ちょっと大人な香りがしだした会話に胸をどきどきとさせるシノ。
興味を刺激されている少女の様子に面白そうな顔をする先生。
「ああ……木刀で○○を××にしたり……固いから直接○○にーーーしても気持ちいいし……
むしろ相手の××に~~~でも……」
「ふむ……ふむふむ……なるほど」
楽しそうに感想を語る先生と、嬉しそうに聞く生徒。
しかし内容が完全に成人指定な、しかもかなりアブノーマルな内容だった。
どう考えても昼間の、しかも職員室でする会話ではない。
同日の違う時間、廊下にて。
見知らぬ生徒と話すシノ。
どうやらまたお土産の感想を聞いているらしい。
「先輩からもらったストラップ、いつも身につけてますよ!」
「そうか、気にいってくれてなによりだ」
「はい!! もう朝も昼も夜もお風呂もトイレにもいつも一緒です!!」
「そ、そうか?」
「ほら、今も結んで身につけてるんですよ!」
そう言ってスカートをまくり上げる女生徒。
彼女のパンツの隙間からは「京都戦隊八つ橋レッド」のストラップがぶら下がっていた。
「ちなみにそれはどこに結んでいるんだ?」
「えっ……そんな……言わなくちゃ駄目ですか?……いやん」
「……」
そんなやり取りをいつも偶然目にしていた津田。
今回はなんだか怪しい雰囲気を女生徒が醸し出していたのでなんとなく壁に隠れてみていた。
(もしかして俺も感想とか求められるんだろうか?)
【完徹しました】
翌日、目の下にクマを作っている津田。
どうやら眠たそうなところを見るに昨夜は寝ていないようだ。
「津田君、シノちゃんが呼んでるよー」
「わかりました」
彼に声をかけるアリア。
どうやら生徒会室でシノが彼を呼んでいるらしい。
彼は、おそらく皆と同様にお土産の感想を聞かれるのだと予想した。
(昨日ちゃんと読んでおいてよかった……)
彼は感想を聞かれると思い、お土産にもらった官能小説を徹夜で読んだのだった。
もともとあまり読書を好かない彼はそれまでその本を読んでいなかったのだ。
まぁ、いくら官能小説といえども一巻もないのに二巻から読む気がしなかったというのもあるが。
しかしこれで今すぐにでも感想を求められても応えられる。
「おまたせしました会長」
「おお、呼び出してすまないな」
生徒会室に入れば、一人で作業をしているシノがいた。
彼は疲れているのを感じさせない足取りで彼女に近づくと、朗らかに笑いかけた。
「会長からもらったお土産よかったですよ」
「む?」
「特にいきりたった肉助が舞妓にぶっかけるとことか」
「な、なんだいきなりセクハラか!? 次の会議の話をしようと思ったのに!!」
「あれ?」
そこでお互いに意思の疎通が上手くできていないことを悟る。
シノは彼がこの間のお土産の感想を求められるのだと勘違いしていることに、
津田は彼女が次の会議の話をしようとしていただけで感想は別に聞いていないことに気づいた。
「なんだ、ちょっとしたいたずらのつもりだったのに……
一巻もないのにわざわざ二巻から読んでくれたのか?」
「ええ、せっかく会長が俺にくれたお土産ですからね」
読書ってあまり得意じゃなくて徹夜しちゃいました、と照れ臭そうに頬を掻く津田。
彼女としては、あのお土産はなんで官能小説なんだとか、なんで二巻からなんだとツッコませるための小道具だった。
故にボケのやり取りの一環としての小道具にすぎなかったのだ。
それなのに真面目に受け取ってもらってなんだか悪い気がする。
彼は彼女のボケの小道具のために徹夜までしてくれているのだから、ちょっと罪悪感がある。
「悪いな、私に感想を聞かれると思ってわざわざ読んでくれたのか」
「ははは、別に構いませんよ。途中からでもそれなりに俺は楽しめましたし」
「そうか?そう言ってもらえると助かる……津田は優しいな」
彼なりの優しさと、シノのことを慕ってくれていることを少し嬉しく思う。
おもわず口元がほころび、くすりと小さく笑ってしまった。
「クス……それで? あの本はどうだった?」
改めて本の感想を聞くシノ。
これで何も聞かずにその話題を流してしまえるほど、彼女は冷酷ではなかった。
「そうですね、なんだかヒロインの舞妓の特徴が会長に似てましたね」
「わ、私か?」
「ええ、だからかもしれませんがヒロインが会長みたいに思えて……なんか新鮮でした」
「そうか……官能小説のヒロインが私とか……ちょっと恥ずかしいな」
「なんていうか、主人公の肉助がいきりたって舞妓にぶっかける時なんかこう……
もし会長だったらこんな反応するだろうなぁって反応を舞妓がするんですよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ、思わず肉助みたいに会長の写真で抜いちゃいましたよ。
あんなに出たの初めてです。気付いたら朝になっちゃってて……」
「お前読書じゃなくてオナ○ーで徹夜したのか!?」
「そうですよ?」
ちなにみ彼が使ったのは以前畑から買ったシノのア○顔写真である。
「いや~、結局6発も抜いちゃって……あはは」
「……絶倫か(ごくり)」
彼の告白に思わず息をのむシノであった。