僕のヒーローアカデミア〜頭平成ジェネレーションズForever〜 作:パラドクスのガシャットは俺が飲み込んだ
「うわー…でっかい“
新学年になってから少しして、登校途中に見かけた巨大な“敵”に対して思わず口をつく。
暴れまわる巨大な人に、周囲を取り巻く色とりどりのコスチュームを纏ったヒーロー達が対応している。
警察やヒーローも市民に被害が及ばないように注力しているけど、やっぱり、危機意識が薄すぎる気がする。
僕が見ているだけでも、危ういところがいくつかあった。その度にヒーロー達が注意を引き付けて事なきを得ているけど、その分の労力がかかってしまっている。
そうして眺めていると、シンリンカムイが現れて必殺技を放とうと構える。
「先制必縛…!ウルシ破牢!!」
伸ばされた木々が枝分かれし、“敵”の体に纏わりつこうとしたその瞬間。
「あ」
「キャニオンカノン!!」
突如現れたのは巨体が勢いそのままに“敵”を吹き飛ばした。
これで、この事件は終息した。犯行を働いた“敵”は警察に連行され、後は場に残ったヒーローが称賛を受けている。
「今のは任せておけば市街地の被害は防げていた…。デビューの花のためとはいえ、なんだかなぁ…」
Mt.レディは、巨大な“敵”を吹き飛ばすという華々しいデビューを迎えた。その見目の良さも相まって、インパクトや印象はすごいだろう。それに、巨大な相手こそが最も輝くというのは分かる。分かるんだけど…。
ちょっと欲が透けすぎいて生々しいな…。
そんな微かな落胆とも呼べぬ呆れを抱きながら、僕は全力で学校まで走った。
―――…
「くそう…かっちゃんめ」
僕は拾い直した鍛錬ノートを見つめながら、幼馴染の横暴さにため息をつく。
今日は進路の発表があり、みんなそれぞれヒーローを目指していた。爆豪勝己…かっちゃんが雄英高校を受けると知って一騒動が起こったのが印象的だった。…そこまでは問題なかったんだけど、あろうことか先生が僕の進路までバラしやがった。
“無個性”でヒーロー科を目指す僕はクラス中から嘲笑の視線を向けられた。更にこの学校唯一の合格者を目指すかっちゃんにとっては相当気に入らなかったようで、トレーニングメニューをまとめたノートまで爆破されてしまった。……まあ、写しだからいいんだけど。
「先生も先生だよなぁ…。言いにくい進路をわざわざみんなの前でバラしちゃって…」
個人情報の秘匿はどうなっているんだよ。教職員ならもうちょっと寄り添ってもらいたいものだ。
僕がかっちゃんに対して反論しなかったのは、もし余計な怪我でも負ってしまえば、修行にも影響が出ることを考慮してだ。
それに、もう一度ヒーローを目指すと決めたんだ。こんなことで暴力なんて振るっていては僕の思うヒーロー像とはかけ離れてしまう。
だから、僕にできる精一杯の仕返しはこの一年で力を身に着けて雄英高校に受かることだ。そうすれば、流石に文句は出ないだろう。
そう決意を新たにし、人通りの少ない高架下に差し掛かったその瞬間。
「…?」
何か、違和感を覚えて足を止める。日の照ってるこの時間帯の小さな影にビビっているわけでもあるまいし――。
「Mサイズの隠れ蓑ォ…!」
「“
マンホールの内から、ドロリと粘性のヘドロのような異形が現れる。
持ち上がった体は自然と握り拳を作るが、見た目からしてただの拳じゃ効果はなさそうだ。それに、こういう場合はすぐにヒーローに連絡をして…
「うわっ!?」
「チッ…、意外と動けるなガキ…。ヒーロー志望か…?」
触手状に伸ばされたヘドロを咄嗟に躱し、苛立ちを募らせる“敵”も次々と攻撃を繰り出すけど、その全てを何とか交わしていく。
「クソがぁ…、ちょこまかと逃げ回りやがって……!! 早くしないとアイツが…!」
「!」
いいことを聞いた。この“敵”は明らかに何かから逃げている。その焦りようから振り切れてはいないと推測。なら、僕がやるべきことは一目散の逃走。
でも、まだ筋肉痛とかも残ってる体じゃあ、こいつから逃げるのは難しい。左右を壁に挟まれているから、逃げながら避けるのにも限度がある。
「なら、隙をつくる…!」
軽く観察した感じだと、相手は全身が流動するヘドロで出来ている。内臓や骨なんかの器官は伺えないけど、今話している口には歯が並びたち、目は僕を捉えている。
多分だけど、目や口なんかの一部の部位は流動するヘドロじゃない?
なら――!
「おぉぉりゃあっっ!!」
「ぅがっ!?」
全身の力を込めて、カバンの中身を撒き散らせながら顔に向けて投げつける。ボチャボチャと体に沈む音が聞こえ、同時に目の前に張り付いたノートなんかのせいでこちらを視認できていない。
(どうせ消耗品! 命に比べれば安いもんだ!)
そう考え、一気に駆け出した。不格好でも走る。とりあえず、人の目の当たる場所まで逃げたらあいつも隠れることを選択すると思う。
だからこそ、ベチャベチャと地面を蹴りつけて………ベチャベチャ?
「うわぁっ!??」
「やってくれたな、クソガキ…」
しまった。敵は流動する液体だったんだぞ。なら地面に広がったこれですら体の一部と思うべきだった。僕は足を取られて、そのままヘドロの中へと沈んでいく。
「モガッ!?」
「いい着眼点だったよ。俺の目に実態があってもなくても目隠し出来るからなぁ…!」
これまで捕まえられなかった苛立ちからか、怒り心頭といった様子で、されど愉快そうに顔を歪める。
「っ、ぷぉはっ…!」
「だから、おまえも分かってんだろう? 俺の体は掴めないって。……ってそうだ。オマエ、逃げるときもひたすら個性使わなかったよなぁ? こぉ〜んな誰もいないところなのに」
もごもごと、藻掻いても藻掻いても口内を満たしていくヘドロに不快感と窒息感に苛まれる。その姿に優越感でも見出したのか、続けて放つ。
「もしかしてお前“無個性”なのか…? ハハハッ、こりゃいい。最高の人質だ…! ありがとう、君は俺のヒーローだ…。良かったなぁ…無個性でもヒーローになれたなぁ…! ギャハハハハハハ!」
「……! ンーッ、ンーッッ…!」
人の夢を笑うな! そう声を荒らげても、ヘドロのせいで敵には届かない。
ゴボゴボと声にならない抵抗を続けるが、すぐに頭は白んで意識が遠のいていく。藻掻きで体力も消耗し、ヘドロは呼気を妨げる。
肺に酸素が行き渡らない。肺活量を鍛えていようと、自ら意思を持ち入り込んでくるヘドロには無力だ。
(やば…これ…! 死…!)
呼吸を封じられ、死の迫る感覚と共に今までの光景がコマ送りになって浮かび上がる。これが走馬燈ってやつだろうか。
嫌に冷静な気持ちになって、諦観と無念さでいっぱいのまま、僕の意識は失われた。
(光を放つ、ベルト……?)
最後に、見覚えのない景色に頭を捻らせながら。
◆
「――Hey! Hey!!」
「ん……ぁ?」
ペチペチと頬を叩かれる。その勢いとかけられる声によって意識を取り戻し、薄っすらと目を開ける。
「ヘッ…あ。良かった――――――!!」
「お、オールマイトオォォぉぁぁぁっッッ!!?」
視界に広がる筋骨隆々のNo.1ヒーローの姿に、僕は絶叫を上げながら飛び起きた。
そんな僕にも構わず私服姿のオールマイトは告げる。
「いやあ悪かった!! “敵”退治に巻き込んでしまった!! いつもはこんなことしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」
「しかし君のお陰さありがとう!! 無事詰められた!!!」
そう言って掲げたペットボトルには先程のヘドロヴィランが詰め込まれており、無事解決したのだと確信した。
(本物だ。間違いない。 生だとやっぱり…画風が全然違う!!!)
僕の原典。僕がヒーローを目指す最初の憧れになった人。一度は折れかけたけど、再び目指すと決めた道の頂点が今、僕の目の前にいるんだ。
「ああ、それと」
そこで、オールマイトがくるっと向き直る。
「“個性”の発動は原則禁止されている。いかに正当防衛であっても、相手を倒してしまうのは過剰防衛だ!! 今回は私の落ち度もあまり偉そうな口を叩けたものではないが、以後、慎むように!!」
「へ…? ど、どういうことですか…?」
自分にはあまりにも覚えのないことを注意されて困惑の声が出る。僕はてっきり、オールマイトが助けてくれたものだと思っていたんだけど…。
「Why? 自分でやっといて覚えてないのかい? 無意識にやってしまったってことかな? 私が駆けつけたときには地に伏せたこの“敵”と、君が今の姿に戻って倒れるところだったんだけど…。変身型の個性かな?」
今の姿に戻って? 変身型の個性? いや、そんなのありえない…。だって、僕は無個性で…。でも、周りに人の気配もないし、オールマイトが倒れる姿を見ているのだからそれは事実なのだろう。
なら、可能性は一つ。本当に信じられないことだけど…“鬼”に成ったのかもしれない。たった一週間そこらで成れるような代物ではないのは知っているけど、こう、生命の危機に陥ったことで何かしらのリミッターが外れて力を宿すことができた…。そんな可能性もないとは言い切れない。
「…まあいいさ! じゃあ私はこいつを警察に届けてくるので! 液晶越しにまた会おう!!」
「え! そんな…もう…? まだ…」
「プロは常に敵か時間との戦いさ」
考え事をしていた僕を他所に、オールマイトは足早に去ろうとする。
でも、待って…!! まだ、聞きたいことが……!!
そんな思いで跳び立とう力を溜めているオールマイトの足に、僕は全身全霊でしがみつくのだった。
あるマンションの屋上に降ろされて、僕はようやくまともに息を吸った。
「はぁ、はぁ…。危なかった」
「それはこっちのセリフだ少年! 全く!! 階下の方に話せば降ろしてもらえるだろう。私はマジで時間ないので本当これで!!」
「待って! あの…、聞きたいことがあるんです!」
「No!! 待たない」
流石に僕の行動に危うさを覚えたのか、聞き分けのない子供に言うように叫ぶ。
「“個性”がなくても、ヒーローは出来ますか!?」
オールマイトの動きが止まる。
「“個性”のない人間でも、あなたみたいになれますか?」
これは決別だ。かつての僕が、掲げていた理想への最後の一撃。僕の最後の未練を断ち切るための問いかけ。きっとオールマイトは情けではなく、真に思って否定してくるだろう。でも、それでいいんだ。
それでこそ、僕はただ“個性”がない“無個性”のデクじゃなく、“無個性”でも“鬼”の力を研鑽する緑谷出久としての道を駆け抜けることが出来る。
返す言葉を待ち構えようと顔を上げた僕の目の前には、ムキムキマッチョマンのオールマイトではなく、ガリガリのゾンビみたいな姿の男性が立っていた。
「ぇぇええええええ――――!!?」
萎んでるうー!!! え!? さっきまで居たオールマイトは!? まさかニセ!? ニセモノ!? 細ー!!」
急な出来事に頭の中が真っ白になり、てんやわんやとしていると、目の前の彼が血を噴きながら答えた。
「私はオールマイトさ」
「わー!!! って、もしかして声に出てました?」
「うん、『さっきまで居たオールマイトは!?』の辺りからガッツリと」
嘘だ! と言いかけるも、その声から本人だと認識し直す。
「な、なんでそんな姿に…? それとも、そっちが本当であっちは“個性”の力に拠るもの……?」
「当たらずとも遠からずだ少年。元々は切り替えなんかも無かったんだがね…。まあいい。見られたついでだ。間違ってもネットに書き込むな?」
「何を…」
ダボダボの服を捲るオールマイトに、何をするのかと尋ねようとしたが、その先の言葉が繋がらない。
「うっ…!?」
「これまで、敵の襲撃や怪人たちによって私が負ってきた傷だ」
そこには歪に抉られ、縫われた脇腹の巨大な傷跡に、右腹部を矢で貫かれたような傷跡、左胸には重なるように大きな火傷痕が痛々しく残っており、その他、大小様々な傷がこれでもかと刻まれていた。
「呼吸器官半壊、胃袋全摘、度重なる手術と後遺症。それに続けざまに重症を負ったことで憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や一日2時間もないのさ」
そのセリフに僕は言葉を失った。何せ平和の象徴で、僕の憧れのヒーローで、いつでも笑顔を絶やさない絶対的なヒーローが、ここまでの壮絶な傷跡を携えているなんて…。
それに、活動限界というのも恐ろしく短い。本当に、必要な時にしか個性を使用できないということだ。
「その火傷…! もしかして22年前の…!」
「くわしいな。そうさ、この火傷はかつて現れた未確認生命体第0号によってつけられたものだ。流石の私も原子単位まで干渉されちゃあ溜まったものではなかった、ということさ」
力無く項垂れるオールマイト。無念そうに見えるのはその姿のせいだけではないだろう。
「人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は、決して悪に屈してはいけないんだ」
その今にも折れてしまいそうな腕をぐっと掲げて、力強く言い放つ。その言葉にはこれまで平和の象徴たらんとしてきた経験が籠もっている。
「私が笑うのはヒーローの重圧、そして内に湧く恐怖から己を欺くためさ」
僕がその勢いに圧倒されていると、オールマイトは続けた。
「プロはいつだって命がけだよ。「“個性”を使わずとも成り立つ」とはとてもじゃないがあ…。口に出来ないね」
この言葉だ。他のみんなのような憐憫や下に見ているのとは違って、誰よりも現場を知って、オールマイトほどの力の持ち主であっても、あれ程の傷を負っているからこその言葉。
「というか君、そんなことを聞くってことは何か個性を使うことにデメリットでもあるのかい」
「あ…? え、あいや、僕、無個性なんです」
もう一度自分を指し、「無個性?」と尋ねるオールマイトに首肯する。
「色々とひっかかる部分はあるが、それなら余計にそうさ。引き出しを開けられないのと、そもそも引き出しがないのじゃあ意味が違う。……夢見るのは悪いことじゃないが、相応に現実を見なくてはな」
「…はい。ありがとうございました。―――僕、諦めません!」
去ろうとしていたオールマイトがズッコケた。
「ちょっ…!? 君話聞いてた?」
「はい。“無個性”には厳しいどころじゃないのは判ってます。僕は前まで何の努力もしないで、“無個性”だから弱いんだって信じ込んでました」
語り始めた僕に何かを察したのか、オールマイトの歩みが止まる。
「“無個性”だから仕方ないって、“無個性”だから僕はヒーローになれないって、そう思ってたんです。どれだけ努力したところで“無個性”は“無個性”なんだって、自分で否定していた癖に一番分かってたんです」
「でも、そんな僕の夢を応援してくれる人がいた。その人は僕なんかよりずっとすごくて、ずっと辛い経験をしてきた人でした。その人は、誰かの笑顔を守るために戦ってたんです。それまで、僕は強くてかっこいいヒーローになりたいって思ってたんですが、でも、今は違うんです。強いからとかじゃなくて、誰かの笑顔を守れるヒーロー。かっこ悪くても、自分に恥じないヒーローでありたいんです!」
何だか最近、啖呵を切ってばかりだな…。
そう胸の内で零すが、吐いた唾は飲めない。現場のプロに打ち明けるにはまだまだ未熟で、到底敵わないことかもしれない。
でも、やっぱり胸の内がスッキリした気分だ。これまでの悶々とした何かをやっとすべて吐き出したらしい。
オールマイトの沈黙にも不思議と緊張はない。
「…そうかい。そこまで堅固な意思なら私にも止められないな。だがそれは茨の道だぞ?」
「承知の上です」
「即答か…全く、最近の子供ってのは―――」
BOOOOOOOOM!!
オールマイトが何かを言いかけたその瞬間、ここから見渡せるある位置、田等院商店街の方から爆炎があがる。
「爆発系の個性……!?」
そのド派手な個性に目を奪われていると、オールマイトは「まさか…」と腰に手を伸ばしたが、そこに存在していたはずのものはさっぱり消え失せていた。
「ホーリーシット…ッ!」
「あ…!? も、もしかして僕がぶら下がったから…!」
その考えが脳裏を過ぎ去った瞬間、ほぼ同時に僕とオールマイトは駆け出した。
「おいおい少年! 君まで来なくていい!」
「でもっ…、僕のせいで誰かが…!」
この返答にはオールマイトは疑問符を浮かべる。そうか、オールマイトはあの“敵”が人を取り込むことを知らないんだ。
「あの“敵”、僕にあった時にも体に取り込んで来たんです! 息もできなくてすっごい苦しくて…! 僕のせいでそんな思いをしてるのを静観なんて出来ません!」
「その志は素晴らしいものだが……! ええい! 分かった! 着いてきてもいいけど対処はプロに任せる。これでいいね!」
「はい! ありがとうございます!」
そう言って、再び僕たち二人は爆心地目掛けて全力の疾走を続けたのだった。
「ゼェ…ゼェ…! 随分と、スタミナがあるね…!」
「鍛えてますから!」
鰓呼吸出来たらあのヘドロでも息できるんかな?
それはそうと返せよぉ!俺の
これからのヒーロー達(出久やライダーも含む)の難易度は?
-
Hard 難しい
-
Easy 簡単
-
Intermediate 中級
-
Standard 標準
-
Excite 宝生永夢ゥ!
-
Impossible 不可能
-
↑頭文字を取って……