Lycoris Recoil 花守のうた 作:RoLeRuLiRA
高速道路でのカーチェイスが起こるより10分ほど前。高速道路を2台のバイクが走っている。RideBackと呼ばれる可変式バイク、正しくは乗用脚式二輪自動車両だ。ハンドルの左右に腕を備え二輪のタイヤは走行中にも脚の形に可変が出来る。従来の二輪車でなしえなかった三次元的な動きを実現し運動能力は従来のバイクと比べて優れている。
操縦者を背負うように走行しているように見えることからRide on Backが略されてRIDEBACKとなった。
日本でもまだ珍しいそのバイク2台は高速道路を進んでいく。もう少しで次のインターチェンジが合流してくる。
《見つけた。このまま本線で合流だ。》
車を見つけた相方の声がして左手を見る。あの軽自動車か、上空のドローンは尾行されてるのか?そう考えていると相方が再び叫んだ。
《あいつら入る場所間違えやがった!冗談だろ!》
どうやら逆方向に行ってしまったらしい。これは
《制御を盗られたな。》
《ハッカーを護衛してるのにか?》
《だがこの状況はそういうことだろ》
《どうする?》
《決まってる。こういう時のためのコイツだ。》
そう言って二人はライドバックを変形させる。突如バイクが立ちあがるかのような挙動をして二輪から二脚へと一瞬でトランスフォームした。手近で対向車線との距離が一番近い地点で道路の端まで移動すると、レールガードを腕部で掴んでそのまま跳躍。くるりと空中で一回転するようにして綺麗に対向車線へと着地した二台は再びバイク形態に変形して加速する。リコリスの車は、もうすぐそこだ。
Forth Session Double Team
車の制御を取り戻したはいいが依然として状況は悪い。そもそもこんな高速道路で白昼堂々の銃撃戦を演じた時点で大分まずいのだがそこは上の人間になんとかしてもらう他無い。そう千束は判断して接近してくる謎のバイクを見据えた。両腕が付いている特異的なバイクはそのまま自分たちの車と並走する形を取った。ライダーが手を振ってくる。どうやら敵ではないらしい。千束はホッと息を吐いた。
「ありがとう!助かった!」
大声で言ったが高速を車で移動していて届くはずもなく相手は被ったヘルメットの耳のある辺りを人差し指でトントンと叩く。意図を理解した千束とたきなはインカムを着けて起動する。
《車の制御は取り戻したのか?》
男の声だった。
《さっきね!あなたが協力者のリリベル?》
《ああそうだ!高速を降りて下道で戻れ!残り一台は俺たちが片付けておく!》
《ありがとう!イカしたバイク乗り!》
並走していたバイクは減速して後方で撃ちあっているハイエースとバイクの方へと戻ったが。程なくハイエースは発砲を止めて減速し途中のPAへと入って行った。
《どうする?追うか?》
《あいつらをやるのは仕事じゃない。放っておこう。リコリスと合流するのが優先だ。》
二台は加速し千束たちの車を追ってインターチェンジから出た。
無事に高速を降りた千束たちは一度車を変えるべく指定された地点へと向かっていた。制御を奪われて高速を通る地点まで戻ってきたが高速は諦めた。また制御を奪われたら次は無い。下道の方がマシということになりそのまま下町を進んでいくが、今度は車の方がダメだった。
土手の傍まで来た辺りで車が制御を失った。盗られたのではなく先ほどの銃撃戦でどこかをやられていたのかブレーキが利かなくなったのだ!
「なんとか止まれないの?」
『だめだ、完全にイカれてる。どこかにぶつけて止めよう』
「そこの土手!そこ登って速度落とそう!」
千束の提案に乗りウォールナットが道から出て河川敷の土手を登る。いくらか減速したが不十分だしここで止まれなければどの道下り坂で加速してしまう。土手を越えて下り坂に入る前にウォールナットが車を斜面に対して横向きにしてギアをニュートラルにしてサイドブレーキを上げる。
「そっちが最初だよ普通!」
千束のツッコミも後の祭り。車はそのまま横滑りで河川敷へと下っていく。千束とたきなはドアを開けて足で止めようかと本気で考えたが、幸いにもその必要は無かった。見覚えのあるバイクが車の行く手に立ちふさがっている。何をする気だとたきなは思ったが千束は何となくわかった。千束はたきなに助手席側に寄るように言って自らもそっちに移った。
「ウォールナットさん衝撃に備えて!」
『わ、わかった!』
見ればさっきまでバイクだったそれは人型ロボットに変わっていた。両腕を突きだして手の広を見せている。
「受け止める気ですか!?」
「そうっぽい!」
たきなの驚く声に千束が応える。
次の瞬間、車とライドバックが衝突しギギギギギと金属の軋む音と火花が散って車内が揺れた。遅れてきたもう一台のライドバックも更に後ろから受け止める姿勢を取って車とライドバックにぶつかる。だが変形が間に合わなかったのかバイク形態のままなのでドライバーは降りて自分の手でライドバックを押しとどめようとした。鉄と鉄の擦れる音と地面との摩擦から出る音、ゴムの焼ける匂いが漂う中、なんとか車は止まった。
『よくやってくれた』
ウォールナットはスーツケースを車から引っ張り出して千束たちに言うと今度はライダースーツの協力者たちに向かい、君たちも、と付け加えた。
「気にするな。任務だからな。」
そう言うとバイクに乗って駆け付けた内の一人がヘルメットを脱いだ。現れたのは黒髪と額に巻かれたバンダナが特徴的な少年だった。
「CAの花守京輔だ。君たちの任務に協力するよう言われて来た。こっちはデイビッド。俺の相棒だ。」
彼が指した先でヘルメットを外した金髪と碧い眼をした少年が名乗る。
「デイビッド・スタンリーだ。デイビッドと呼んでくれ。」
「花守?」
「それは後でにしましょう。」
千束が聞き覚えのある名字に反応するが今気にすることじゃないとたきなに遮られる。
「京輔でいい。名字は呼ばれ慣れてないし苦手なんだ。」
「分かった、京輔とデイビットね。私は千束、彼女はたきな。ウォールナットさんは・・・知ってるか。」
「聞いている。君たちについても腕利きのリコリスだと。よろしく」
京輔が肯定した。
「これからどうします?」
たきなが千束に聞く。敵はまだ残っている。追っ手は確実に来るだろう。
「とりあえず、場所を変えよう?ねえ?あれ・・・あのバイク!あれで移動出来る?」
千束が車の横で倒れているライドバックを指差す。
「無理だな。少なくとも一台は完全に動かない。そっちの車が使えない状態じゃ歩きしかない。」
デイビッドは渋面を浮かべて答えると千束は後頭部を掻いて困ったような顔をした。安喜と同じ癖だなとたきなは思ったがどうでもいいので黙っておく。すると
「!」
急に千束が明後日の方向を見るので皆彼女の視線を追った。その先の自動車道に止まった車が二台。誰かがこっちを見ている。敵の増援か、今まで隠れてたのかどちらにしろすぐにここに来る。
『近くに潰れたスーパーがある。身を隠せそうだ』
ウォールナットがそう言いタブレットに移った地図を示す。
「一旦そこに移動して、迎え撃とう」
京輔の提案に皆頷いて移動を始める。着ぐるみのせいかウォールナットがノロかったので京輔とデイビッドが交代で担いで移動した。
「はい、今はそのスーパーに退避してます。協力者の2名とも合流出来ました。はい、けが人はいません。」
たきながミカと連絡を取っている。
《わかった。気をつけて行け。》
「移動しよう。」
花守がそう言いデイビッドがおう、と応じる。二人も拳銃をホルスターから抜いて初弾を確認し準備を完了した。
「ついて来て下さい。」
千束がそう言って先導する。デイビッドとウォールナットが続きスーツケースを持つたきなが京輔と共に後ろを警戒する。千束、デイビッドとウォールナット、たきなとスーツケース。最後に京輔の順番だ。
たきながスーツケースを引いて移動しようとした瞬間にライフルを構えた敵が現れたのはほぼ同時。
銃撃がたきなを襲う。咄嗟にスーツケースを遮蔽物にしたたきなは事無きを得ているが危うい状態だ。スーツケースにライフル弾が降り注ぎ耳障りな音を発している。
京輔が拳銃で応射しながら叫ぶ
「無事か!」
「どうにか!」
たきなの声。仰向けに伏せた状態で器用に身体をスーツケースに隠して拳銃で応戦していた。
「よっと!」
同時に千束とデイビッドも動く。千束は手近にあった棚を踏み台に跳躍し発砲。敵一人に命中させ怯ませるがもう一人は依然たきなに銃撃を加えている。
「敵を発見、銃を持ってる!」
『ちょ、え?え?ちょっと!盾にするのはナシだ!!』
ウォールナットが今日一番の叫びを上げている。よほど大事なものが入っているようだ。
「ちょダメですって!たきなーそれなんかダメだらしいよー!」
「無茶言わないでください!」
たきなは依然として移動出来ずスーツケースの影から応戦している。まずは右手に見える敵からと判断して素早く狙って、発砲。一発が相手の肩あたりに命中して銃撃が一つ減った。
それでも拳銃とライフルでは火力差は大きい。京輔とたきな二人が正面から撃ちあう中デイビッドは廊下を挟んで別の敵をどうにか抑え込んでいるが彼のショットガンの弾が切れたら押し切られる危険があった。すぐにスーツケースとたきなを移動させる必要があると判断した京輔は左手にマウントされているギアに何やら入力して拳銃の弾倉を交換した。
「おいリコリス!たきなとかいったな!俺が前に出る!撃つなよ!」
「何を言って!?」
たきなの戸惑いを無視して京輔が遮蔽物から飛び出すなり左腕にマウントされていたギアが起動して展開し、彼のほぼ全身を覆う盾になった。そのまま拳銃で牽制射を入れつつ自分の身体をスーツケースの前に出すと銃撃が彼の盾を激しく叩く。
「スーツケースを引いて俺に合わせて動け!」
「はい!」
状況を理解したたきなはそう言って中腰になるとスーツケースを引いて千束たちの方へと移動する。それに合わせて京輔が自分をスライドさせるように移動する。敵の射線を外れて遮蔽物まで移動した時には何発か盾を貫通していた。間一髪だった。
「ナイスアシストー!すごい盾だね!」
「もう使えん!このままじゃジリ貧だ!一気に移動したい!手はあるか?」
盾を格納した京輔が言う。後ろの方でデイビッドの残り4発だ!という叫びがした。後ろからも敵は寄ってくる。
「思ったより多いなー」
どこか緊張感の無い声で千束が言うが、状況はよくは無い。護衛任務ではなく純粋に敵の殲滅であればやりようはあるが、そんな仮定の話に意味など無かった。
京輔とたきなが遮蔽物の影から応戦して正面の敵が一旦引いて行くのを見た千束が指示を出す。
「あたしが前に出て安全なルート見つけてくるからウォールナットさんとその荷物守ってて」
そう言うと千束は駆けだしていった。
「待ってください!」
たきなも千束に続く。
「あ、おい!畜生!」
じゃじゃ馬だな意外と、などと愚痴るとウォールナットにスーツケースを引かせて一緒に後を追う。
「デイブ!そこはもういい!移動だ!」
「あいよ!こいつで丁度カンバンだ!」
弾切れになったショットガンを肩にかけてハンドガンに持ちかえたデイビッドが背後を警戒しつつ京輔に追従した。
千束が壁の影から廊下を窺うとAKを持った敵が一人だけ。さっきまで撃ちあってたやつと違うなと思っていると敵が遅れて千束に気付いた。瞬時に頭を引っ込めて射撃を回避した千束に今度は敵が手榴弾を持ちだす。
瞬間、千束は影から身を躍らせ敵に肉薄、手刀で敵の手榴弾をはたき落とす
「とう!」
転がった手榴弾を蹴って横で開いていた扉の隙間に入れるとそのまま敵にひじ打ちを入れて反撃を封じて相手のプレートキャリアーの肩のストラップ部分を掴み身体の回転に任せて投げる。
「ハイっ!残念!」
先ほど蹴ってどかした手榴弾の爆発で吹き飛んどきたドアと激突した敵はその場で気絶した。
たきなが続いて出てこようとした瞬間、千束の背後からもう一人の敵。廊下と言う一本線上でライフルの銃口を前に遮蔽物無し。しまったとたきなは思ったが千束は飄々と敵へ振り向く。
直後にAKライフルのフルオート射撃が千束へと迫る。が一発も当たらない。千束がどこかに隠れたわけでも何かを盾にしたわけでもない。ただ当たらない。千束はわずかな体軸移動のみで銃弾を避けていた。
敵が驚愕して目を見開くがたきなも同じだった。見えている光景を脳が処理仕切れない。何だ今のは?
千束が敵に銃を構えると敵が再度構えなおして射撃。千束はただ前進しつつ発砲。
千束には一発も当たらず、敵には全弾が当たった。常識外れもいいとこな状況にたきなも驚きを隠せないでいる。千束は倒れた敵に留めなのか1発撃ちこむと弾倉を交換し、終えたと同自に腰だめに構えた状態で横から来ていたのだろう敵に弾をお見舞いした。敵の叫び声が命中したことを伝えてくる。
敵は戦意喪失こそしていないが銃を落とした上、肩に被弾しておりもう戦える状態ではなかった。
それを見た千束は突然、今撃ったばかりの男に話しかけた。
「そのまま、手当する」
敵が驚いたように顔を上げる
「なにを!?グッ!」
敵の男が出血の痛みに呻く。
「血ぃ出てるでしょお!」
そのままダクトテープとガーゼで止血をする千束。その背後でたきなに追いついてきたウォールナットにリリベルコンビが状況を飲み込めず聞く?
「敵を治療してるのか?」
「命大事に、だそうです。今のうちに移動しましょう。敵の増援が来ます。」
「ちょっと待って!」
「囲まれますよ!」
敵はまだどれだけいるかわからないのだ。実際情報より敵は多いしやることも過激だ。ここで包囲されれば今度こそ守りきれない。
「死んじゃうでしょ!それに大丈夫。そろそろ安喜も来るし。」
千束の言う安喜の名前に京輔は一瞬反応したが今は気にすることではないと頭から打ち消した。
『脱出ルートはまだ敵にマークされていない。今ならまだいける。』
「私もすぐ追いつくから」
「分かった。おい、いくぞ青リコリス。」
京輔がそう言ってたきなに言うとたきなは憮然とした表情でウォールナットについていく。
3人とウォールナットはスーパーの裏の搬入口まで移動間に敵に出くわすことはなかった。奇妙なのは進む節々に戦闘の痕跡があることと時折銃の連射音が聞こえること。千束の言ったとおり安喜が来ているのかもしれないとたきなは思ったが今合流する必要はない。今は一刻も早くここを出なければ。そう思い外の様子を確認しようと京輔に手が無いか尋ねた。
「さっきの盾みたいな道具ってまだあるんですか?」
「もう無い。単独で起動させられるギアはあれだけだった」
諸事情により使えないということで直接外の様子を確認する必要があるのでその手順を確認していた傍でウォールナットがタブレットを持っておもむろに扉を開ける。
「待って!」
たきなが気付いて制止するがそのまま行ってしまう。後ろからは千束の声と走る音。
「たきな!でちゃだめ!」
タァン!
直後に銃声。ウォールナットが持っていたタブレットを取り落とす。中心が貫通され風穴が開いていた。
最初の銃声に続くようにライフル銃の斉射がウォールナットに降り注ぐ。鉛玉の嵐によってズタズタになった着ぐるみが赤く滲んでいく。ウォールナットがその場に崩れ落ち地面を赤く染めた。
「ウォールナット!」
たきなが叫ぶがもう手遅れだった。敵の別働隊が待ち構えていたのか。
《失敗です。護衛対象は死亡です。》
《すぐに緊急車両が到着する。遺体と荷物を回収して、現場を離脱しろ。》
たきながミカに報告し指示を受けている。
「車輛がくるそうです。遺体を回収しろと」
「うん、聞いてた。」
「しくじっちまったな。」
デイビッドが呟くが京輔は何か説明のつかない違和感を感じていた。何かおかしい気がしていたがどこだかわからない。そんな中で千束がおもむろに呟いた。
「まだ何かいる。」
皆が千束を見た。
「さっきのやつらか?」
京輔が確認する。ウォールナットの銃撃後にパタリと物音が止んだ。撤収したものと思っていたが。
「あいつらは帰った。別の、もっとヤバイのだと思う。4人かな。」
千束の答えは予想外のものだ。さっきまでとは違うと第3勢力となると情報がない。知っていた可能性のあるウォールナットはもうあの世だ。
「分かるんですか?」
たきなが半信半疑で問いかける。
「安喜ほど正確じゃないから人数まではちょっと分からないけど。何かが、いる。こっちに来てると思う。」
千束は断言した。誰もそれを否定は出来なかった。事実ここに来るまでに自分たち以外の戦闘の痕があったのを全員が見ている。あれがそうならもうすぐそこに敵がいることになる。
「任務は失敗してる。相手にする必要はない。遺体を回収して撤収だ。」
デイビッドが言うが千束はすかさず返した。
「駄目だよ。車輛が来た時に鉢合わせたらまずいし遺体を抱えての移動じゃ追いつかれる。」
「どの方向から来るとかはわかるのか?」
「この建物にはいない。多分向かいの建物からこっちを見てる。」
「やりましょう。」
そう言ったたきなを千束が見る。
「避けられないなら戦うまでです。最悪、命大事にはそぐえないかもしれませんが。」
納得できないながらも気にしてくれていたのが嬉しくて千束は笑って言う。
「その時はしょうがないよ。あくまで私の方針だからね。」
「命大事にってさっきみたいなあれか?」
京輔が言うと千束が肯定する
「まあ、うちの店の方針だから。あなたたちにまで強要はしないよ。」
リリベル二人はお互い顔を見合わせて頷く。
「俺たちへの依頼はあくまで君たちの支援だ。可能な限り従うさ。」
京輔の言葉にデイビッドも頷く。
「ありがとう。でも本当に危なくなったら逃げて。」
千束が感謝してそう言ったが二人とも鼻で笑う。
「冗談、仕事投げ出して帰ったら飯食えなくなっちまうよ」
デイビッドがそう言うと自分の拳銃をリロードし背中のバックパックからハンドアックスを取り出してのベルトにマウントした。京輔も武器をチェックして戦う準備を済ませる。
「まずはあの遺体と荷物を隠そう。」
デイビッドが手元の端末を起動させてマップを映す。
「伝説のハッカーとまではいかないがそれなりのことは出来る。」
そう言って懐から小さな円形の機械を出す。彼が端末を操作すると円形の機械が起動、4本足が音も無く出て4足歩行で動き出す。
「バグ、俺らのドローンだ。こいつでまず周辺の状況を探る。」
「デイビッドはそっちに専念しろ。俺たちで遺体を回収して隠す。」
そう言うと京輔は背負っていたリュックに括りつけられていたヘルメットを被る。防弾性なのかなと千束が思って見ていると
「なにも着け無いよりはマシってだけだ」
そう言って京輔が外に出ようとした時に千束たちのインカムに音が入る。
《千束!今どこだ!》
安喜からだった。どうやらこちらに合流しようとしているようだった。
「先生に送った位置にまだいるよ。敵がまだ残ってこっちを狙ってる。気をつけて来て。」
《ウォールナットは?》
「やられちゃった。これから遺体を回収するとこ。」
《リリベルの二人、悪いがまだ付き合ってもらうぞ。そっちに合図として煙幕張ってやるからそれまで待ってろ。》
「誰だか知らんが時間がない。1分でも惜しい。」
デイビッドが反対するが安喜は続けた。
《1分もかからんから回収に出る準備しとけ。》
デイビッドが京輔を見やる。ただ頷く。それで彼には伝わった。わかったと言ってため息を吐いた。
《そっちの位置を掴んだ。30秒くれ。》
「うん。安喜も気を着けてね。」
《おう。》
そこで一旦安喜からの音声が切れる。
「見つけた。」
デイビッドはそう言って端末の画面を千束に見せる。
「こいつが今の安喜ってやつか?」
見慣れない車がスーパーの隣の廃工場に入って人が下りる。安喜だ。
「うん。」
と頷いた瞬間に千束は首筋がそば立つ感覚に襲われる。敵が近付いてきた。もう時間が無いという焦りが出てきた所に本人の声が聞こえた。
《行くぞ!》
安喜の合図が来たのは彼がそう言ってから本当にきっかり30秒後だった。
ウォールナットの死体の傍にどこかから煙幕弾が飛来して辺り一帯を煙が包み込む。
京輔は何も言わず走り出した。それにたきなと千束が続き銃を構えて援護する。遺体はすぐそばなので移動させる距離は殆ど無いが着ぐるみの重量が如何せん重いためすぐにとはいかない。京輔は両手をウォールナットの胸元で組むようにして抱きかかえそのまま後ろに下がる。それにたきな、千束が警戒しつつ続くが何も隠れる場所のない開けた広場。安喜の煙幕だけが頼みだった。
ポンと言う音と千束たちの前方で煙の噴き出る音。安喜が追加で送ってくれたのを理解した千束だったが煙幕の向こう。ゆらりと影が動いているのを見た。敵は遠くから狙わずにわざわざ目の前まで来たのだ。理由は分からないが千束は視界で影を追いつつたきなに小声で指示をだす。
「たきな、目の前に敵がいる。見えたら撃って。」
《はい》
たきなの返事。煙幕の中で味方と自分の位置が自分の認識通りか、千束は安喜との訓練で慣れていてもたきなは違うかもしれない。目に見えるようにはっきりとではない、それでも今はたきながすぐ横にいるという感覚が千束にはあった。今はそれを信じるしかない。
京輔は建物の中ににウォールナットを投げ込んで叫ぶ。
《いいぞ!》
「たきな!戻って!」
千束の声がした時、ふと視界にレーザーポインターの光が動いているのが目に入る。それが自分の胸元に来てピタッと止まったのをたきなはたしかに見た。
そして次の瞬間、銃声が鳴った。
第二話はもう少し続きます。中途半端な所で終わってしまいすいませんが広い心でお付き合いいただければと思います。次は来週を予定しております。