ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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第一章
冷たい男と天才少女


 

 

 

 突然だが、この話を聞いている皆さんは『鉄は熱いうちに打て』ということわざを聞いたことがあるだろうか? 聞いたことがないって人はあまりいないだろう。

 元々は西洋で使われていたものが、江戸後期頃にオランダから入って広まったという珍しいことわざなのだが、そこは置いておくとしよう。

 

 意味をざっくり説明すると、「すべての物事にはチャンスがあるから、それを見逃しちゃだめだよ」とか「勉強や鍛錬は若いうちにやっとけよー」みたいな意味になる。

 もう少し詳しく知りたいと言う人が居たら、wikiかなんかがあるだろうからググってくれ。

 

 さて、こんな誰でも知っていることわざの話をして、一体コイツは何が言いたいんだと思われてそうなので本題に入る。

 

 まずは俺の自己紹介から始めよう。俺の名前は斎藤(つむぎ)()()年は15歳だ。ここに含みを持たせた理由は後にテストに出るから覚えておいてくれ。

 そう、15歳。紆余曲折あったが無事中学校を卒業し、これから高校生になるというピチピチボーイだ。さっきのことわざで言うなら真っ赤っかな鉄だろう。

 しかし、俺には生まれた時から()()()()()()()()()()()()。ただあるのは『いかに楽して人生を充実させるか』これだけなのだ。

 

 サッカー選手? 医者? 宇宙飛行士? ノンノンノン。確かに良い夢だ、だが勝手にやっててくれ。

 一度完全に冷めてしまった鉄は、もうその形を変えることは無いのだ。今まで一切希望などない環境で、泥水を啜りながら生き長らえてきた。今更そんなにピュアな人間には成れっこない。

 

 

 

 だったらお前の夢は何だって? そりゃあ────可愛い女の子のヒモになること以外ないだろ。

 

 

 

 自らは社会の歯車として身を粉にして働かず。帰ってきた美人の嫁さんの足と肩を揉んだ後抱き合いながら寝る……何と夢のある生活だろう。これ以上の幸福はあるだろうか? いやない。

 

 そしてその為に俺は、生まれた時から自分磨きを欠かさなかった。運動をやればモテるという旧時代的偏見を前面に押し出し、地域の様々なスポーツクラブ等に通った。

 サッカー、野球、バスケ、水泳etc……幸い前世から他人に寄生して飯を食らっていたため、コミュニケーション能力に関してもさして問題なかった。

 

 そして小学校に入学して少しが過ぎたころ、俺は唐突に気が付いてしまったのだ。()()()()()と。

 何という由々しき事態だ。ヒモになるために自分磨きをしてきたばっかりに、いつしか俺の周りには男ばかりが集まっていたのだ。

 

 これでは可愛い幼馴染を自分色に染め上げて、そのままの流れでゴールインするという夢が達成できなくなってしまう! 

 

 

 

 こうなればヤケだ。周りから孤立している女の子を片っ端から落としていこう。現代の光源氏に、俺はなるっ!! 

 

 

 

 ……と思って行動したのが運の尽きだったってわけで────

 

 

 

「何ですか紡君。死んだ魚のような目をこちらに向けないでください」

 

 ……ちょっと理想の嫁さんには遠いかなぁ。おっぱい小っちゃいし……って痛!? 

 

「ちょ!? 俺なんもしてないんだけど!?」

 

「失礼なことを考えていましたよね。一体何年の付き合いだと思っているのでしょうか? そのくらい手に取るように分かります」

 

 

 

 ────俺の光源氏計画は、最終的に天才幼女1人を釣り上げるという結果に終わることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────朝。斎藤紡は、バスの心地よい振動に身を任せていた。

 窓の外で流れるのは、今ではすっかりなじみとなってしまった第二の故郷。

 歩道に等間隔に植えられていた街路樹には、美しい桜の花が咲いている。

 そんな春を思わせる窓の外を見て、斎藤は言い知れぬノスタルジーを感じていた。

 

(あの時からもう13年か……早いもんだよなぁ)

 

 窓際に肘を置き、外をぼんやりと眺める斎藤。

 そんな彼の隣に座っていた銀髪の少女が、ため息を吐きながら声を上げた。

 

「これから入学するって時に、一体何ですか? その辛気臭い顔は」

 

 少女・坂柳有栖は、呆れているという心の内を隠そうともしない。

 そんな見慣れた彼女の表情に、斎藤はそのまま動かずに返答する。

 

「いや、なんか……この景色とも3年間お別れかーって思って」

 

「そんなこと思う質じゃないでしょうに」

 

「まあ、確かに」

 

 その言葉を最後に、バスの中には沈黙が流れる。

 2人とも積極的に会話を進めるようなタイプではない為、仕方のないことだろう。

 

 混雑を避けて早い時間の便に乗ったため、彼ら以外の乗客は1人もいなかった。

 

「それにしても、こんなに早い時間帯に乗らなくても良かったのでは?」

 

「もしギリギリの時間帯に乗って座れなかったら大事でしょ?」

 

 そんな坂柳の言葉に、斎藤は目線を左下に向けて答える。

 彼の目線の先には、坂柳が右手に持っている杖があった。

 

「あら、紡君がそんな気遣いを見せてくれるだなんて。成長を感じますね」

 

 口に手を当てながら、わざとらしく語る坂柳。

 

「有栖ちゃん、テンション高くない?」

 

「昔のあなたほどではありませんよ」

 

「……頼むからそこは蒸し返さないで」

 

 頭をポリポリと掻きながら目線をそらす斎藤。

 そう。今でこそ静かな彼だったが、昔からそうではなかったのだ。

 黒歴史を思い出した為か、それをかき消すようにため息を吐いて上を向く斎藤。

 

「ジタバタと動かないでください。狭いんですから」

 

「えぇ……他の席に座ればいい所を、隣が良いって言ったのは有栖ちゃんでしょ?」

 

「私と隣は嫌でしたか? ……残念です」

 

「別にそうとは言ってないって」

 

 一見すると、本当に悲しそうな表情を浮かべている坂柳だったが、斎藤にその手は通用しない。

 彼が否定した途端に、その暗い表情は一転して挑戦的な笑みへと変わる。

 

「そうですか。安心しました。まさか、釣った魚をそのまま放置するのかと心配しました」

 

「釣られたのは俺の方な気がするけど……」

 

 そうボヤく斎藤に対して、痺れを切らしたように告げる坂柳。

 先ほどまでのからかうような表情は鳴りを潜めて、真面目な口調で言い放った。

 

「ほら、あなたがそのままだと私まで調子が狂います。これから生活の門出を迎えるんですから、いつもの調子に戻ってください」

 

「…分かったよ。そんなに楽しみ? 『高度育成高等学校』に行くの」

 

 斎藤のテンションが異様に低いのと同時に、坂柳はいつもに比べてかなり饒舌になっている。

 その理由の当たりをつけた彼は、心底理解出来ないと言った様子で坂柳に問いかける。

 

「ええ。なにせ日本の未来を支える優秀な人材が揃うところですから。一体どんな方たちが居るのか、凄く楽しみです」

 

「……ま、そういう事なら俺も切り替えてくか。何時までも後ろ向いてたら始まらないからね。有栖ちゃんもその小っちゃい胸を弾ませてるs……痛ァ!?」

 

「私、紡君のそういう所はホントに嫌いです」

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 ────この物語は、最低のヒモ男と、それに釣られた天才少女が、紆余曲折ありながらも幸せに結ばれるお話である。

 

 

 

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