ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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希望が多かったので、前回第10話をR18の方に書かせていただきます。R18ルートの続きは書かないかな。

その代わり、こちらでは紡君が誰彼構わず手を出すガチクズルートを書く予定です。もし興味があればどうぞ。今想定しているのは、小5くらいの時にガチクズ紡君にありとあらゆる手でいたずらされる坂柳です。

『ようこそガチクズヒモ男の教室へ』https://syosetu.org/novel/298749/




譲れないもの

 

 

 

 人間という生き物は、皆必ず心の中に1本の芯が入っている。もちろん物理的な意味ではなく、心を形成する精神的な支柱という意味だ。

 その芯が発達する過程において、幼少期の家庭環境、友人関係は大きな影響を及ぼす。例を挙げるなら、親から否定されまくって成長した子供は、自己肯定感が低く、自分より他人を優先するようになる。常に怒られないように他人のことを考え、周りの顔色を伺う子供になるのだ。かく言う俺もそのタイプだった。まあ、死んだことが気つけになったから良かったけど。

 

 話を戻そう。別に、その性格が悪いとは言ってない。時には周りの目を気にすることで、円滑に進む場面が多いだろう。なんなら日本ではその方が上手く行く傾向にある。ただ、その形成過程に問題があると言っているのだ。

 長々と語ったが、俺の言ったことに、特に深い意味は無い。この独白の目的はただの現実逃避だ。

 

「────あなた達を否定するつもりは無いけれど、余りに無知、無能すぎるわ」

 

 そう吐き捨てる堀北さんは、間違いなく鋼鉄の芯を持っていた。

 

 

 

 

 

 堀北さんと協力を結んでから、早一週間が過ぎた。

 その後色々あって後ろ向きな気持ちになってしまったが、一週間も過ぎれば大体元通りになるもので、俺は授業を真面目に受けるふりをしながら、この学校について思案していた。

 

「たうわ!?」

 

 前方から叫び声が聞こえてきた。声の主である綾小路君は、右腕を痛そうにさすっている。先ほどまでの舟をこいでいた様子とは大違いだ。

 クラス中から冷たい目で見られた後、綾小路君は涙目で堀北さんの方を向いていた。彼女の手に握られていたのはコンパス。誰がどう見ても堀北さんが犯人だ。大方眠りそうになっていた綾小路君に喝を入れたんだろう。

 

 話を本題に戻そう。この一週間で、俺はこの学校ひいては()()に対して一つだけ仮説を立てた。

 それは『この世界は何かしらの創作物の中である可能性』だ。何を頭のおかしいことを言っているんだと思うだろうが、これから提示する根拠を聞けば、簡単に吐き捨てていい仮設ではなくなる。

 

 根拠1────有栖ちゃんや俺、堀北さんや幸村君みたいに、学校についてしっかり調べたであろう人たちが、クラス間闘争について誰も知らなかったこと。

 いくら卒業生や退学した生徒に緘口令が敷かれていたとしても、インターネットが広く普及したこの世の中で、一切のヒントすら出てこなかったのはおかしい。こんな詐欺まがいな手法が十何年もまかり通っている時点で、ひとえに()()()()()()()()()()()()()()という可能性が高いだろう。

 そして、このシステムについて外部に漏れた場合、一体設立にいくらかけたのか分からないこの学校の設備も、全て無駄になるということだ。普通に考えて国が認可するかそんなこと? あり得ないだろう。

 

 根拠2────前世に比べて、髪色が特徴的すぎる人が多いこと。

 例えば有栖ちゃんは、紫がかった綺麗な銀髪をしている。因みに染めているわけではなく、ちゃんと地毛。中々珍しいが、物語のキャラクターだと考えると納得がいく。そして、こんな特徴的な髪の生徒がこの学校には大勢いる。須藤の真っ赤な髪だったりね。

 

 これらは転生+時間逆行という、この世界の一般人では想像もできないような体験をし、何処か俯瞰的な視点で過ごしてきた俺だから気が付けた違和感だ。そして前世についてや、この話を他の人にするつもりも一切ない。頭おかしい奴だと思われて終わりだからな……有栖ちゃん辺りは信じてくれそうだけど。

 

 まぁそうなると主人公は堀北さん辺りになりそうだ。兄に対してのコンプレックスを抱いた高校生の女の子が、実力至上主義の世界で、周りと協力することを覚えて成長していく。Aクラスに行くのが目的だとすると、ラスボスは有栖ちゃん辺りになるだろうか? 

 ラスボスの有栖ちゃんか……自分で言っておいて何だが、すげぇしっくり来る。

 

「やって良いことと悪いことがあるだろ! コンパスはやばいぞコンパスは!」

「ひょっとして怒られているの? 私」

「腕に穴が開いたんだぞ穴が!」

「何のこと? 私がいつ綾小路くんにコンパスの針を刺したの?」

「いや、だって手に持ってるだろ、凶器を」

「まさか手に持ってるだけで刺したと決めつけたの?」

 

 ……この調子だと成長するのは大分先の話になるだろうけどな。

 

 

 

 

 

 そんなオカルトチックな仮説を立てたが、俺のやることは変わらない。いくらアニメの世界だろうと、俺にとってはただの現実で、宝物であることには変わりない。有栖ちゃんは大好きだし、Dクラスのみんなもそこそこ好きだ。人生初の高校生活も充実している。

 今俺がやるべきことは、目の前でごねる篠原さんや佐藤さんに頭を下げることだ。

 

「えー。紡君勉強教えてくれないのー?」

 

「ごめんごめん。ヤバい奴らの勉強見ないと行けなくなっちゃってさ」

 

 どうしてこんな状況になっているかというと、洋介君が主導で開催している、放課後皆で勉強頑張ろうの会に参加できなかったからだ。

 クラスで一番成績の良かった俺は教師役として誘われたのだが、残念なことに先約が入っているため叶わない。

 

「私もそっち行こうかなー」

 

「須藤君、池君、山内君達と一緒にちゃんと勉強できるならいいけど」

 

「……やっぱやめとく。今度土日一緒に勉強しよ?」

 

 非モテ男子が聞いたら血の涙を流すような提案だったが、俺はなあなあな返事を返した。休日を約束で縛られるのはあんまり好きじゃないんだよ。暇だったらこっちから誘うからさ。

 そんなクズさながらの思考を巡らせながら、俺は約束の場所である図書館へと向かった。

 中に入ると、端の方の長テーブルのところには綾小路君、堀北さん、須藤君、池君、山内君、櫛田さん、沖谷君が座っていた。後半二人に関しては予定外だが、まあ何とかなるだろう……堀北さんが我慢してくれればだけど。

 

「お! 斎藤じゃん。お前も平田のとこ嫌だからこっち来たのか?」

 

「……遅いわよ。早く座って頂戴」

 

 上から池君、堀北さんと続いて声がかかる。そう、何を隠そうこの勉強会を主催したのは堀北さんなのだ。

 この前の話し合いが良い方向に向かっている事を喜びながら、俺は不機嫌そうに無表情を貫いている堀北さんの肩を、後ろから両手で軽く叩いた。

 

「……何かしら?」

 

「勉強教える人がそんな堅苦しい顔してちゃダメでしょ? ほらもっと笑顔で」

 

 その白くきめ細かい頬をムニムニと指の腹で揉む……癖になるなこれ。フニフニと柔らかい有栖ちゃんとは違って、少し硬めの引き締まった感触が手に伝わる。

 しかし、いつまでも調子に乗らせてくれるような堀北さんではない。感触を楽しんでいた俺の鳩尾に鋭いエルボーが入った。その余りの衝撃に膝をついてしまう。痛ってぇ……格闘技経験者か? 死ぬほど良い一発を貰っちまった。

 そんな俺に対して、綾小路君と堀北さんの冷ややかな目が向けられる。

 

「紡……お前って、時々ホントにアホになるよな」

 

「調子に乗ってるだけよ。さて、時間もないしさっさと始めましょう。起きなさい、斎藤君」

 

「はい……」

 

 そんなアホな俺の様子を見たおかげか、張り詰めていた場の雰囲気が緩む。よし、勉強会するんだったらこれくらいの空気感が一番いいだろう。

 

「今度のテストで出る範囲はある程度こちらでまとめてみたわ。テストまで残り2週間ほど、徹底して取り組むつもりよ。まず最初に解いてみて、分からなかったら都度私と斎藤君が教えるから」

 

「……おい、最初の問題から分からないんだが」

 

 須藤君は半ば睨みつけるように堀北さんを見た。堀北さんが解けないような難しい問題持ってくるわけないだろうし、これは思ってたよりも重症かもな。

 ……ふむふむ、『A,B,Cの3人の持っているお金の合計は2150円で、AはBよりも120円多く持っています。また、Cの持っているお金の5分の2をBに渡すと、BはAよりも220円多く持つことになります。Aは始め何円持っていましたか』 

 連立方程式の問題か。何となーく数学やってきた人は嫌いだろうな、こういう問題。

 

「少しは頭を使って考えろ。最初から考えることを放棄していたら前に進めないぞ」

 

「んなこと言ってもよ……俺は勉強の方はからっきしなんだ」

 

 そう語る須藤君だったが、池君、山内君も同様に頭を抱えている。あのテストで赤点を取る辺り流石と言っていいだろう。

 

「正直言って、この問題は中学1、2年生でも、やり方次第で十分に解ける問題よ。ここで躓いていたら先には進めないわ」

 

「俺たちって小学生以下……?」

 

「でも堀北さんの言うように、ここで躓くのはやばいかも。小テストに出た数学の最初の問題はこれくらいの難度だったけど、最後の方の問題は難しくて私わからなかったもん」

 

「いい? これは連立方程式を用いて簡単に答えを求めることが出来るの」

 

 堀北さんは迷うことなくペンを走らせていく。気持ちは分からなくもないが、相手が理解している事を前提としたこの教え方では、彼らが理解する日は一生来ないだろう。

 

「そもそも連立方程式って何だよ……」

 

「……本気で言っているのか?」

 

 引いてやるなよ綾小路君。流石にこのレベルはヤバいと思うけど。

 

「ダメだ、やめる。こんなことやってられるか」 

 

 勉強を始めて間もないのに、リタイアを宣言する須藤君たち。ここまで嚙み合わないのは逆にすごいぞ。

 

「ま、待ってよ皆。もうちょっと頑張ってみようよ。解き方を理解すれば、後は応用だからテストでも生かせるはずだし。ね? ね?」

 

「……まぁ、櫛田ちゃんが言うなら、頑張ってみてもいいけどさ……と言うか、櫛田ちゃんが教えてくれたら、俺もうちょっと頑張れるかも」

 

 堀北さんじゃダメなのかよ。俺は堀北さんに教えてもらった方が良いけどな。

 そんな池君の言葉に動揺する櫛田さんだったが、ここで勉強を放棄させるわけにはいかないと意を決してペンを手に取った。

 

「ここはね、堀北さんの言うように、連立方程式を使った問題なの。だから、私がさっき口にしたのを一度式として書いてみるね」

 

 途中式をしっかり解説していて分かりやすいと思うが、これで理解できるようなら彼らは苦労していないだろう。

 

「で、答えが710円になるの。どうかな?」 

 

「……え、これで答え出せるのか? なんでだ?」

 

「う……」

 

 しょうがない。助け舟を出してやるか。

 

「よし、じゃあ俺が説明しよっか。とりあえず、櫛田さんの説明で分からなかったのはどこ?」

 

「……全部だ」

 

 少し間をおいて、須藤君は目を逸らして答えた。正直でよろしい。

 

「まず最初に確認なんだけど、100+X=150だった時、Xの答えは何になるかは分かるかな?」

 

「100にある数を足して150になるんだから、50じゃねぇのか?」

 

「そう、答えは50。それさえできれば後は簡単だ」

 

「……ホントかよ?」

 

「まずA、B、Cそれぞれが持ってるお金をA円、B円、C円とするよ。これはXとかと同じ意味だ」

 

 訝し気に首をかしげる須藤君達を尻目に、俺は堀北さんの問題に線を引いた。

 

 

「そしてこの問題を箇条書きにして出してみると

 ・A,B,Cの3人の持っているお金の合計は2150円、

 ・AはBよりも120円多く持っている

 ・Cの持っているお金の5分の2をBに渡すと、BはAよりも220円多く持つことになる

 ・Aは始め何円持っていたか って感じになると思うんだ。ここまでは良いかな?」

 

「……おう」

 

「まあ、何となくわかるぜ」

 

 既に怪しくなってきているが、段階を踏めば大丈夫。

 

「じゃあまず1行目から式を立ててみよう。3人の合計が2150円だとするとこれで一つの式を立てられる。どうかな、分かる人いる?」

 

「……A+B+C=2150円?」

 

 池君が不安そうに呟いた。よし、反応的に須藤君と山内君も大丈夫っぽいな。

 

「そう、それで一つの式が立てられる。じゃ後は同じように式を立ててみると────」

 

 1行ずつ式の導き方を教える。なるべくゆっくり、焦らせないようにするのが大事だ。

 

「────って感じで、一個一個地道に求めていくと解けるようになるんだけど。分かった?」

 

「……凄ぇな。俺でも行けそうだ」

 

 もはや関心を通り越して感動すらしている須藤君。どんだけ勉強苦手だったんだよ。

 まあ、やってることはパズルみたいなもんだからね。こういうのはゆっくり対面で教えるのに尽きる。

 

「よし、じゃあ同じような連立方程式の問題解こっか」

 

 数値と条件を少し変えた問題を再度書き写す。習った瞬間は大概何でも解けると思い込むからな。ここで調子に乗らせると後で痛い目見るから、ちゃんと定着させとかないと。

 

「何で解けねぇんだよ……おんなじ問題じゃねえのかよ斎藤」

 

 ほらね。少し変えただけでこの有様だ。勉強が得意な奴だって何回か繰り返して定着させてんのに、たったの一回で覚えられるわけがない。

 

「あなたたちを否定するつもりはないけれど、あまりに無知、無能すぎるわ」

 

 イライラした様子で貧乏ゆすりをしている須藤君に対して、堀北さんは冷たい眼差しを向けた。

 

「こんな問題も解けなくて将来どうしていくのか、私は想像するだけでゾッとするわね」

 

「っせえな。お前には関係ないだろ」

 

 さすがに堀北さんの言い方が癪に障ったのか、須藤君が机をたたいた。静かな図書館に、バンという音が響き渡る。

 

「確かに私には関係ないことよ。あなたたちがどれだけ苦しもうと、影響はないから。ただ憐みを覚えるだけ。今までの人生、辛いことからずっと逃げて来たんでしょうね」

 

「堀北さん、須藤君達は今必死に問題解いてるんだから、それは言いすぎじゃない?」

 

 流石に黙って見ているわけにはいかないので、二人の間に入って仲裁をはかる。

 

「それは違うわ。彼らは真剣に取り組んでない。分からないところがあれば都度聞けばいいのに、その安っぽいプライドのせいでそれもしない」

 

「言いたいこと言いやがって。勉強なんざ、将来なんの役にも立たないんだよ」

 

「勉強が将来の役に立たない? それは興味深い話だわ。根拠を知りたいわね」

 

 ……ダメだな。両者ともに聞く耳を持たない。どうすっかな……一旦解散して頭冷やさせるか。

 そんなことを考えている最中でも、二人の口論は続いている。そして、決定的な一言が堀北さんから投下された。

 

「今すぐ勉強を、いいえ、学校をやめて貰えないかしら? 斎藤君に説得されて一時は納得したけど、やっぱりあなたはDクラスにとってマイナス、()()()()()()()()()()()。 バスケットのプロなんてくだらない夢は捨てて、バイトでもしながら惨めに暮らすことね」

 

「堀北さん!」

 

 その言葉だけは言っちゃいけない。()()()()()()()()()は、容易に人を殺す刃となる。

 

「はっ……上等だよ。やめてやるこんなもん。ただ苦労するばっかりじゃねえか。わざわざ部活を休んで来てやったのに、完全に時間の無駄だ。あばよ!」

 

「あ、待って……!」

 

 須藤君がそう吐き捨て、速足で図書館を出ていく。その場に残った生徒達の間にも、地獄のような空気が流れていた。

 

「おい、いいのか?」

 

「構わないわ。やる気のない……ここまで勉強の出来ない人間に構うだけ無駄よ。退学がかかっているというのに。学校に対する執着心なんて、欠片もないんでしょう」

 

「お前さ……「一度頭を冷やしたらどうかな? 堀北さん」さ、斎藤?」

 

 綾小路君と堀北さんの会話に入り込む、その際池君の言葉を遮ってしまったが、今はそれどころではない。

 これは俺自身の感情だ。決して誰か他人のために怒っているわけではない。それを自覚して、俺は溢れ出る激情を押さえつけながら、あくまで冷静に言葉を発した。

 

「気持ちは分かる。だが超えてはならない一線を、君は越えてしまったんだ」

 

「居ない方がマシという発言かしら? あなたにあれだけ丁寧に教えてもらって、その後すぐ投げ出すような人を、私はどう活用すればいいのかしら?」

 

「それが分からないなら。未来永劫、君の夢がかなう事はない。今の君に、人の上に立つ器なんて一ミリもない」

 

 そんな言葉を残しながら、俺は図書室を後にした。

 ……またやっちまった。最近どうも余裕が無くなって来てるな。

 

「あー……胸糞悪ぃマジで」

 

 帰ったら有栖ちゃんに癒してもらお。

 

 

 




前世で主人公は高校に行ってません。高卒認定試験を受けて独学で勉強して大学に行きました。

ぶっちゃけ原作(小説・アニメ・漫画)見てます? 見てない方多かったら、試験の説明詳しく書きます

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