ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
改行が読みづらいと感じたら教えてください。初心者なので、書き方を模索している最中です。よろしくお願いします。
「明日どうすっかな」
有栖ちゃんとの夜食を終え、俺はベッドの上に寝転がってスマホをイジっていた。口から出てきた言葉は堀北さんへどう謝罪するかについて。
精神が不安定になっている自覚はある。恐らくこの一週間での出来事に記憶をほじくり返されているのが原因だろう。
「はぁー……」
落ち着いて考えると、あの場で堀北さんを落ち着かせられるのは多分俺しかいなかった。彼女は櫛田さんのことを嫌ってるし、綾小路君もそこまで面倒ごとに首を突っ込んで来ないからな。
そんなことを考えていると、自ずと眠れなくなってくるもので。気分転換に飲み物でも買いに行こうと思った俺は、体を起こして部屋を出た。
「まだこの時期は冷えるな」
羽織ったパーカーに手を突っ込みながら、ロビーに置かれた自販機でお茶を購入した俺は、先ほどまで乗ってきたエレベーターが7階に止まっている事に気が付いた。
割と有名人である自覚があるため、この時間帯に誰かと会ったらあらぬ噂が立ちそうだ。特に意味は無いが、俺はエレベーター内の映像を映したモニターを見る。そこに映っていたのは制服姿の堀北さん。
「マジかよ」
今一番会いたくない人だ、流石に気まずすぎるため、俺は自販機の影に身を潜める。
そのまま一階に降りてきた堀北さんは、やけに周りを警戒しながら寮の外へと出て行った。その様子に違和感を覚えた俺は、後を追うことに決めた。
そして寮の裏手の角を曲がった辺りで、堀北さんは突如足を止めた。
「鈴音。ここまで追って来るとはな」
辺りは暗く、相手の顔は見えないが、俺はその声に聞き覚えがあった。
「もう、兄さんの知っている頃のダメな私とは違います。追いつくために来ました」
話し相手は生徒会長の堀北学。やはり俺の見立て通り、兄妹の関係だったようだ。これは……あまり首を突っ込むべきじゃないな。引き返すか。
「Dクラスになったと聞いたが、3年前と何も変わらないな。ただ俺の背中を見ているだけで、お前は今もまだ自分の欠点に気づいていない。この学校を選んだのは失敗だったな」
「それは……何かの間違いです。すぐにAクラスに上がって見せます。そしたら────」
「無理だな。お前はAクラスにはたどり着けない。それどころか、クラスも崩壊するだろう。この学校はお前が考えているほど甘いところではない」
「絶対に、絶対にたどり着きます……」
2人に背を向けて歩き出したが、余りにも悪辣な生徒会長の言葉に、ただ事ではないと足が止まる。
「無理だと言っただろう。本当に聞き分けのない妹だ」
そう言って、生徒会長がゆっくりと距離を詰め、その姿が電灯に照らされる。彼は冷酷な瞳を堀北さんに向け、そのまま彼女の手首を掴んで壁に押し付けた。
「どんなにお前を避けたところで、俺の妹であることに変わりはない。お前のことが周囲に知られれば、恥をかくことになるのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」
「で、出来ません……っ。私は、絶対にAクラスに上がって見せます……!」
「愚かだな、本当に。昔のように痛い目を見ておくか?」
「兄さん────私は」
「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ」
堀北さんの体がぐっと前に引かれ、宙に浮いた。危険だと判断した俺は、後で堀北さんに謝ろうと思いながら駆けだす。
一瞬で2人の後ろに到着した俺は、生徒会長に気づかれる前に彼の右手を掴み、動きを制限した。
「何だ? お前は」
突然の来客に驚くことなく、ゆっくりと俺に鋭い眼光を向ける生徒会長。説明会の時にも思ったが、やはり只者ではない。
「さ、斎藤君!?」
「盗み聞きしたことは謝ります。ですが、今本気で投げようとしてましたよね? 怪我したらどうするつもりですか」
「これは俺たち2人の話だ。部外者が口を突っ込まないでもらおうか」
「ざけんな。目の前で友達が暴行を受けてんのに、見過ごすわけ無ぇだろ。いいからその手離せよ」
「それはこっちのセリフだ」
どんな理由があろうと、無抵抗の子供、それも妹を殴るのは間違っている。それは虐待と同じだ。
口調が荒くなっているのを自覚しながらも、俺は一切引くことはせず、互いに睨み合う。
「やめて、斎藤君……」
そんな俺達の沈黙を破ったのは、何と堀北さんだった。いつもの凛とした様子の彼女からは想像もつかない絞り出した声に、俺は反射的に手を緩めてしまう。
その瞬間、とてつもない速度の裏拳が、俺の顎に向かって飛んできた。何とか反射的に避けたが、あと少し遅れたら脳震盪で立てなくなっていただろう。息つく暇もなく、小振りの前蹴りが急所に向かって飛んでくる……戦い慣れてるな。
「危ねぇな」
下手に距離を取るのはマズいと思った俺は、飛んできた右足を弾き、距離を詰め肘の内側で顎を巻き込むように殴打する。通称ラリアットと呼ばれるプロレス技だが、体格で優っている俺の攻撃はかなり有効なはずだ。
「……!」
俺が詰めて来るとは思わなかったのか、生徒会長は驚きの表情を浮かべる。しかし、その上できちんと両腕でガードする辺り流石の反応だ。
しかし片足を上げていたせいか、防ぎきれずにバランスを崩して後ろ向きに倒れ込む。体勢を立て直すのは無理と判断したのか、後ろに両手をついて倒れながら横蹴りを入れてきた。
「痛った……よくその体勢からその蹴り打てますね」
辛うじてガードしたが、当たった腕からはジンジンとした熱さを感じる。
「まさか三度も防がれるとはな。とっさの判断も目を見張るものがある。何か習っていたのか?」
「……昔付き合ってた子の親に習いました。流派は知りません」
顔出すたびにブン殴られてたこと思い出した。正直あまりいい記憶ではない。
油断せずに構える俺に対し、生徒会長は殺気を抑えて堀北さんに話しかけた。
「鈴音、お前に友達が居たとはな。正直驚いた」
「……彼とは、そんな関係じゃありません。ただのクラスメイトです」
「相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。それからお前。斎藤といったか? 情報通り、なかなか面白い生徒だな」
先ほどの攻撃的な様子から一転、何故か友好的な態度で接してくる生徒会長……機嫌がコロコロ変わるのは、兄妹でよく似ているのかもしれないな。
と言うより、俺としてはその『情報』というのが気になるんだけど、まさかバレてないよな? 俺の経歴とか。
「上のクラスに上がりたかったら、死にもの狂いで足掻け。それしか方法は無い」
そう語った生徒会長は、そのまま俺の横を通り過ぎ、闇の中へと消えていった。はぁ……何というか、最近疲れる事しかしてない気がする。
今すぐにでもベッドに飛び込みたいが、まずは堀北さんを何とかしないとな。さっきからずっとジト目で睨んできてるし。
「とりあえず、ちょっと話そっか。冷えただろうしコレ着なよ」
「……ちゃんと説明してもらうわよ」
背負っていたパーカーを堀北さんにそっとかける。有栖ちゃん曰く、俺の服とか部屋は落ち着く匂いがするらしいので、これで怒りを収めてもらえればラッキーだ。
後ろをちょこちょこっとついて来る堀北さんに萌えを感じつつ、数分ほど歩いた後部屋に到着した。
「まさか一週間で二回も部屋に上げるなんてね。奥行ってていいよ」
いつもより覚束ない足取りで部屋に上がる堀北さん。話を聞いた感じだと、恐らく入学して初めて会ったはずだ。二年ぶりに話した相手にあれだけボロクソに言われれば流石の堀北さんでも凹むか。今日の勉強会のこともあったからなぁ……つくづくタイミングが悪い。
「大丈夫? 堀北さん」
「ええ、問題な……きゃっ!」
言った傍から何もない所で転ぶというフラグを回収した堀北さん。転びそうになる彼女を正面から抱き止める。いつもなら言葉か手が飛んでくると思うが、彼女は特に抵抗しようともしない。
「あはは、駄目そうだね。今温かいスープ出すから、ゆっくりしていって」
「……ごめんなさい」
謝罪の言葉が出る位、超が付くほど気弱になっている。うーん、逆にやりづらい。
どう慰めるか考える時間が欲しかったため、インスタントのコーンポタージュにお湯を入れる。
「はい、これ飲んで元気出してよ。インスタントだけど」
2人分のスープを机に置き隣に座る。それを無言で一口飲んだ後、堀北さんはぽつぽつと語り出した。
「……最初に謝らせて。須藤君の一件は、私にも非があったわ。ごめんなさい」
「意外だね。何か心変わりでもあったの?」
「茶化さないで。元々私はあなたとここで話した時から、須藤君達の有用性を理解した。ただ納得することが出来なかった、それだけよ」
「あれは俺のために怒ってくれたんでしょ? 俺に教えてもらって投げ出すなって言ってくれてたし」
そんな俺の言葉に、どこかばつが悪そうに視線を下に向けた堀北さん。クラスポイントのシステムが明かされた時も庇ってくれてたし、彼女はなんだかんだ言って俺を認めてくれているのかもしれない。
「……兄さんにはああいったけど、この一か月、あなた達と話した時間は悪いものではなかった。そんな相手がコケにされたら誰だってそうなるわよ」
いつもだったら聞けないであろう発言。心が弱っている中付け込むようで申し訳なく感じるが、こればっかりはしょうがない。
その言葉を最後に、辺りには沈黙が走る。そして意を決したように喉を鳴らし、堀北さんは小さく呟いた。
「────私がAクラスに行きたい理由。分かったんじゃないかしら」
「えっと、お兄さんのことだよね?」
堀北学は三年Aクラス。そして追いつくと言う発言からも、何となく予想が付く。
「ええ。私がAクラスに行きたかったのは、兄さんに認めて貰うためだったの。もちろん進路のこともあるけれど……そして、私一人の力では無理だって事も、さっきうんと教えられた」
「堀北さん……」
そんな彼女の様子を見て、俺は名前を呼ぶことしかできなかった。言いたいことが全て飛んでしまったためだ。
「……少し、疲れたわ」
そして、堀北さんは肩を震わせ、懺悔するように呟いた。彼女が今まで溜めていたものが、涙として出てきている。
たった1人の肉親に認めて貰いたくて、ただひたむきに努力し、それが叶わないと知った時の絶望を、今彼女は理解してしまったのだ。
「……ごめん、なさい。私はあなたに嘘をついて、協力してもらった上で全てを無駄にさせてしまった。友達として接してきてくれたあなたに、私は酷いことをしてしまった、最低な人間よ……」
────嫌になるくらいそっくりだった。やることなすこと全部空回りして、絶望の中で人生を終えた俺と。
「え……」
それを自覚した瞬間、俺は反射的に彼女の頭を抱きしめていた。後でいくら怒られてもいい。殴られたって甘んじて受け入れる。
ただ、俺はこのどうしようもなく不器用なこの女の子を、放っておくことはできなかった。
「君は最低なんかじゃない。そんなのは俺が絶対に認めない」
「斎藤君……?」
困惑の声が俺の胸元で聞こえて来るが、それに構うことなく彼女の頭を撫で続ける。
「もし君を最低と罵る人が居たら、俺がやり返してやる。もし他の人が君を認めなかったとしても、俺だけは堀北さんの味方だ。だからもっと頼ってよ、寂しいじゃん?」
「何で……どうしてそこまで」
震える声を隠そうともせず、しゃくり上げながら語る堀北さん。きっとこの子は、俺のことを
もちろんそこで驕るつもりは一切ない。何なら前世というアドバンテージを持った俺に、この年で追いつける人の方が異常なのだ。堀北さんもそこに追随している秀才である。一体どれほどの努力を重ねたらここまで来れるのか、俺には想像もつかない。
「君は凄い人だ。Aクラスに上がるのだって余裕だよ」
「私は……! そんな「いいから、そのまま深呼吸して」」
言い返そうと顔を上げた彼女をもう一度抱きしめ、顔の真横に収まった頭に手を置いた。まるで母親が泣いている子供を慰めるように……俺が20年近く切望したモノを再現するように。
血のにじむような努力も、きっと兄に認めて貰いたかったから頑張れたんだろう。一年待てば再会できるのに、わざわざこの学校まで追ってきたことからもよく分かる。
そして、彼女は学力や運動以外に価値を見いだすことが出来なかった。そこで俺の話を聞き、兄の話を聞き、理解してしまった。自分が今まで見下し、磨いてこなかった要素が、
「これを乗り越えた時、君は本当の意味で成長することができるんだ。助けだったらいくらでもするからさ。もう一度、君の夢の手伝いをさせてくれないか?」
堀北さんの肩を掴んで起こし、彼女の目を真っ直ぐに見つめて問いかける。
綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。そこにはいつもの堀北さんの面影は一切なく、まるで幼い子供のような姿を見せていた。
「ほら、明日からまた頑張らなきゃいけないし、一度すっきりしても誰も怒らないよ? ここは防音だし、思いっきり泣いたって受け止めてあげるから────今までよく頑張ったね。堀北さん」
「────っ……うぅ……!」
一度俯いた後、溜まっていたモノ全てが決壊したように、堀北さんは大きな泣き声を上げる。
大粒の涙を流す彼女を、俺はもう一度無目に抱き止め、その声が聞こえなくなるまでひたすら頭を撫で続けた。
「落ち着いた? 堀北さん」
そして数分の時が経ち、静かに俺の胸に顔をうずめる堀北さんに声を掛けた。
しかしいくら待てど、彼女から反応が返ってくることは無かった。
「……堀北さん? って、マジか」
一度離れようと体をスッとずらすと、俺の膝に堀北さんの頭が乗った。
口元に耳を近づけると、規則正しい呼吸音が聞こえて来る。恐らく泣き疲れて寝てしまったのだろう。
「ふふっ。ホントに子供みたい」
仕方がないので、制服だけ脱がせ、ワイシャツ姿のまま寝かせて毛布を掛ける。しょうがない、今日は床で寝よう。ベッドに座り、彼女の乱れた前髪をサッと指先で撫でる。
……子供かー。前世で死んだのが27くらいだったはずだから、合わせると43くらい。年齢的には堀北さんくらいの子供が居てもおかしくないだろう。
「作るなら元気な女の子が良いなー……ん?」
その様子を思い浮かべ、無意識のうちに呟いてしまう。
掛けた毛布がピクリと動いた気がしたが、堀北さんは目を閉じている。気のせいか。
「おやすみ堀北さん。ゆっくり休んでね」
何時かの様にポンポンと頭を撫で、俺は部屋の電気を消した。
何となく彼のトラウマが分かった人いるんじゃないでしょうか?
皆さんの考察を聞かせてくれると嬉しいです!
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