ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
昼休み。昼食を終えた俺、綾小路君、堀北さんの3人は、それぞれのやるべき事のために準備を始めていた。
「斎藤君、続けて申し訳ないのだけど、次はここからここまでの範囲のプリントを1枚のプリントにまとめて頂戴」
「ん、おっけー」
堀北さんから渡されたプリントには、科目と教科書のページが書かれていた。
つまりこの範囲の内容を1枚のプリントに、須藤君達にも分かりやすく纏めなければいけないということだ。
「……お前も大変だな」
一言感謝を述べ、図書室へ向かった堀北さん。そんなやり取りを見た綾小路君は、同情の目を向けてくる。
「いいや、楽しいよ。堀北さんがあんなに頑張ってんだから、俺もやるべき事はやんないとね」
「そうか」
俺の仕事、それは放課後、家で須藤君達が復習するための問題、解説を作ることだ。堀北さんは今習っている授業の内容の解説を作っている。
『不安定ではあるものの、基礎が出来つつある須藤君達の解説に、あなたを当てるのは非効率だわ。教えるのは私達に任せて、あなたは問題作りに専念して』
なんて一丁前に語ってた堀北さんを思い出し笑みがこぼれる。実際にこれで上手く回っているのだから凄いもんだ。
そんな俺を見た綾小路君は、フッと笑って俺の肩を叩いた。
「まぁ、お前が焚き付けたんだから頼んだぞ。あと、この前の恨みも少しあるし」
この前の恨みというのは、堀北さんに脅されて綾小路君が櫛田さんの元へ行かされたことだろう。
「あはは……今度俺の奢りで、死ぬほどおもろい場所連れてってあげるよ。ほら、さっさと行った。堀北さんに怒られるぞ?」
「? 分かった」
不思議そうに顔を傾け、図書室へ向かった綾小路。まぁ箱庭タウンのこの学校に、そんな娯楽施設があるのかって話だよな。まぁ、それは行ってからのお楽しみだ。
「よし、じゃあやるか」
期限は明日の放課後まで、それまでに5問程度の問題と回答を作成すればいいため、余裕はかなりある。
とりあえずスマホに入れてあるファイルを開き、そこに記載されている問題を参考に同系統の問題を作る。解説はその後だ。
「紡君。勉強中にごめんね、ちょっといいかな?」
「全然大丈夫よ、どしたの? 洋介君」
昼休みも終盤に差し掛かったところで、最近あまり話せていなかった洋介君が声を掛けてきた。
「もし良ければなんだけど、放課後の勉強会にもう一度参加できないかな? 君が来れば皆もっとやる気が出ると思うんだ」
「良いよー。どうする? 今日からでも行けるけど」
問題作りは家で1時間ちょいやれば完成するため、協力を惜しまない手はない。
「助かるよ……君には助けて貰ってばっかりだね。過去問の件も、皆すごい喜んでたし」
「気にしない気にしない。先輩が親切で助かったよマジで」
一緒に飯食ってて、クラスの成績がヤバいみたいな話をしたら貰ったんだよね。マジ感謝。
因みにこの過去問にはとある
「────欠席者はなし、ちゃんと全員揃っているみたいだな」
特に問題もなく……いや、テスト範囲が変更されるというトラブルもあったが、偶然有栖ちゃんとテストの話をしたことにより何とかなった。
そしてやってきたテスト当日。できる対策は全て行ってきた。これでダメなら端から無理、そう言い切れるほど全力を尽くした。
「お前ら落ちこぼれにとって、最初の関門がやって来たわけだが、何か質問は?」
「僕達はこの数週間、真剣に勉強に取り組んできました。このクラスで赤点を取る生徒は居ないと思いますよ?」
「随分な自信だな平田」
そう語る茶柱先生だが、Dクラス全体に広がるやる気を感じ取ったのか、一言笑うとそれ以上語ることはしなかった。
「茶柱先生。あなたの言ってた秘策、ちゃんと理解出来ましたよ」
「……なんの事だか分からないな。まぁ自信があるのはいい事だ。そんなお前らに、更にひとついい知らせをしてやろう」
……そう言っていい知らせだった思い出なんか無いんだが、その口から語られたのは確かに素晴らしいニュースだった。
「もし、今回の中間テストと7月に実施される期末テスト。この二つで誰一人赤点を取らなかったら、お前ら全員夏休みにバカンスに連れてってやる」
「バカンス、ですか」
「そうだ。そうだなぁ……青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」
そりゃ良い。浜辺でパラソルを立て、有栖ちゃんと本でも読もう。
そんなことを想像する俺だったが、クラスの男子達は違うようで、皆目をギラギラに輝かせて雄叫びを上げていた。
……水着が見たいならプールとかに誘えばいいのに。
「変態」
そんな堀北さんの呟きに、隣で同じく叫んでいた綾小路君が挙動不審になる。おもろいなコイツ。
そして英語以外の科目が終わり、休み時間となった俺達は、1番の不安材料である須藤君の席へと向かった。
「おっす、どうよ須藤君。あの後寝落ちせずに勉強出来た?」
「ああ……マジで助かったぜ、お前が電話掛けてくれなかったら、俺は今頃必死こいて過去問を見てたかもしれねぇ」
「お前、まさか寝落ちしそうになってたのかよ!? せっかく斎藤のやつが過去問持ってきてくれたのによ……」
そんな俺達の間に割って入ってきたのは、同じく勉強会を行った池君だった。信じられないといった様子で糾弾する池君に対し、須藤君は不貞腐れたように呟く。
「うるせぇ、眠いのは眠いんだ。結局起きてちゃんとやったんだからいいだろ」
「そういう問題じゃないでしょ」
いつの間にか、勉強会を開いていた面子が全員集合している。ここまで心配されるのも才能だな? 須藤君。
「いやー、にしてもお前凄ぇよやっぱ! 俺じゃ過去問使うだなんて考えも浮かばねぇし!」
「たまたまだよ。たまたま」
池の声に反応した他のクラスメイトも、同じように感謝を告げてくる。
ただの過去問なら、ここまで英雄扱いされないだろう。そして、ここまで感謝されているのは、前述した『秘密』が関係してくる。
「いや、たまたまでも凄いと思うけどな。オレも点数が心配だったから助かった」
なんとこの過去問、今回のテストと全く同じ問題が出題されるのだ。先輩に『絶対に役に立つ』と言われて渡された為何かあるとは思っていたが、まさか一字一句同じだとは思わなかった。
「ま、感謝はテストを乗り越えてからって事で。最後に確認だけしちゃおうぜ」
流石にむず痒くなって来たため話を逸らす。
そして迎えた英語のテストは、特に問題もなく最後まで解き切ることが出来た。
教室に足を踏み入れた瞬間、茶柱先生は驚いたように俺達を見回した。生徒達が、中間テストの結果発表を固唾を呑んで待っていたため、そこには只ならぬ気配が蔓延していた。
「先生。本日採点結果が発表されると伺っていますが、それはいつですか?」
「お前はそこまで気負う必要もないだろう平田。あれくらいのテストは余裕のはずだ」
「……いつなんですか」
そんな冗談も、退学がかかった生徒の前では通用しないようだ。
茶柱先生は肩を竦めて大きな紙を取り出す。小テストと同じ様に、一斉に張り出す形式だろう。
「正直、感心している。お前達がこんな高得点を取れるとは思わなかったぞ。数学と国語、それに社会は同率の1位、つまり満点が10人以上もいた」
100と言う数字が並び、生徒達からは喜び、歓喜の声が上がる。心配だった須藤君ら三バカの点数も、平均70点台後半と中々健闘した方だろう。
「最低点数は須藤の英語で60点だな。喜べお前ら。この時点で退学の可能性は無くなった。どんなに赤点が変動してもな」
「あ、やっぱり変わるんですね」
「ど、どういう事だよ。赤点は31点じゃなかったのか?」
俺と茶柱先生の会話を聞いて、困惑した様子の池君が呟く。
「お前にこの学校の赤点の判断基準を教えてやろう」
茶柱先生は黒板に簡単な数式を書いていく。 そこに書かれたのは、84.2÷2=42.1という数字。
「前回、そして今回の赤点基準は、各クラス毎に設定されている。そしてその求め方は平均点割る2。その答え以上の点数を取ること」
「じゃあ、32点以上を取れば大丈夫って訳じゃなかったのかよ……」
下手をこいたら退学だったという事実に、震えながら声を上げる池君。やっぱこの人説明足りてないよな、マジで。テスト範囲の話も、俺が伝えてなかったら多分詰んでただろうし。
「まぁ過去問なくても大丈夫だったとは思うけどね。俺の予想だけど50位は取れたんじゃない? 最低でも」
「そっかなぁ……」
そんな池くんの声がこだましたが、俺たちDクラスは、無事に最初の定期テストを乗り切ることに成功したのだった。
「待ってください。茶柱先生」
皆が喜びを分かち合う中、俺は1人教室を後にし茶柱先生を追い、声を掛けた。教室から離れた場所のため、他に生徒は見えない。
「どうした? 何か聞きそびれたことでもあったか。まぁ、最も全教科満点の男なら、そんなことする必要もないと思うがな」
ニヤニヤと揶揄うようにこちらを見つめる茶柱先生。いつもなら冗談の一つや二つ返すつもりだが、生憎今回は真面目な話だ。
「ええ、一つだけ。
「突然どうした。目的も何も、私は教師としての仕事をしているだけだが」
嘘だ。一見すると、無気力で生徒に関心が少ない先生という印象だが、その裏側には大きな野望を抱いている。さて、俺の予想が当たるといいんだが。
「これは先輩に聞いた話なんですが、卒業時のクラス評価は、そのまま担任にも反映されるそうですね?」
「そうだな。それが何だ、その為に私がわざわざお前ら不良品を、必死こいてAクラスに連れていくとでも?」
「ええ。そして不思議に思ったんです。どうしてそこまで
俺の言葉に、一瞬だが目を見開いた茶柱先生。
ビンゴだ。彼女はAクラスに並々ならぬ執着を抱いている。それも評価の為という俗物的な理由ではなく、もっと奥深くの『ナニカ』だ。
「……テスト終わりで気が大きくなっているようだな。今だから許すが、次教員を侮辱するような態度をとった場合、然るべき対応を「俺は────」……」
煙にまこうとする茶柱先生の言葉を、俺は意図的に遮る。
自分でも驚く程の底冷えした声が、誰もいない廊下に響き渡った。
今までのひょうきんな態度とは正反対の俺の様子に、驚きと畏怖を交えた視線が突き刺さる。1度呼吸を整え、俺はもう一度ここに来た目的を果たす。
「俺はあなたのやり方が、心の底から気に食わない。庇護すべき生徒の地雷を踏み抜き、あまつさえ退学という剣を振りかざすあなたのやり方が」
大人は子供を慈しみ、守るべきだ。クズでどうしようも無い俺だって、その芯は変わらない。絶対に揺らいでは行けない。
「あなたが本当にAクラスに行きたいのであれば、そのやり方はやめた方がいい。そうしないと、取り返しのつかないことになる」
「それは脅しか? 随分と大きく出たようだが、今のお前が要注意人物としてマークされていることくらい自覚してるだろう? そしてその評価、報告は私に任されている。この意味がわかるか?」
「そういう所だと言っているんだ茶柱佐枝。今は掌握できているだろうが、牙を剥くのが俺だけだと思っているなら、その認識は改めた方がいい」
俺の脳裏に浮かぶのは、Dクラスで最も仲がいいと言っても過言では無い1人の男子生徒。この2ヶ月弱関わってみて分かったが、あれは化け物だ。そして同時に、
なぜ茶柱先生がそこまで執着するか、俺は知る由もないし知りたくもない。ただ、無理やり堀北さんとの話を聞かせた茶柱先生なら、退学を振りかざして彼に協力させるのは容易に想像がつく。
「貴方は知っているんでしょう? 彼──『綾小路清隆』の過去を。教員には生徒の過去情報が開示されますからね」
そして俺は、綾小路君の過去にひとつの仮説を立てた。それは、『綾小路清隆は親から虐待を受けていて、それから逃げるためにこの高度育成高等学校に来た』というものだ。
「……以前、お前は私に言ったよな? 『一体何に執着しているのか』と」
「聞いてたんですね」
結構大きな声だったしなぁ…… 。
そうげんなりする俺に構わず、茶柱先生は吐き捨てるように言い放った。
「確かにお前の言う通り、私はAクラスに上がることを強く切望している。だが、お前は何だ?」
「……何が言いたいんですか?」
なるほど、確かにムカつくわこの言い方。茶柱先生が不機嫌なのもよく分かる。
「これは私の勘だが、お前はまだ本気を見せていないな? 少なくとも他者とのコミュニケーションにおいては」
「別に友達は沢山居ますけど」
「クク、そうか。だが1つ言っておくぞ」
先程と違い、強い意志を込めた瞳でこちらを見つめる茶柱先生。形勢が逆転したことを感じ取りながも、俺はその言葉を甘んじて聞くことにした。
「────手を抜いて……いや、お前の場合は隠し事か? どちらでもいいが、そんな状態で綾小路の手網を握れると思わない方がいいぞ。あいつは他人なんか根本的に信用してないからな」
「……それはあなたが決めることではない」
何か勘違いしているようだが、俺は別に綾小路君を奴隷にしたいだなんて1ミリも思っていない。
……ただ、高校生になって初めて出来た友達が、周りの大人の都合で振り回されるのを見ていれなかったという、それだけの話だ。
「話は終わりか? では失礼するぞ。私は忙しいんだ」
そう言って踵を返す茶柱先生。
彼女が去った後の廊下は、まるで先の暗雲を示すかのように昏く、淀んだ空気が立ち込めていた。
そのまま出るという情報を隠して過去問をやらせていたため、Dクラスは原作に比べてグンと成績を伸ばしています。
クラス間闘争の件もあり、あまり自らのクラスメイトの話をしなかったのが仇になりましたね。紡くんはまだ綾小路清隆とホワイトルームの関連性に気がついていません。
しかし出会った時の印象もあってか、紡くんは綾小路くんに勝手にシンパシーを抱いています。過保護なのはそれが理由です。
次はキャラクター設定でも書こうかな。主人公の紡君はもちろん、原作と変更点の多いキャラも解説する予定です。
ぶっちゃけ原作(小説・アニメ・漫画)見てます? 見てない方多かったら、試験の説明詳しく書きます
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