ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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紡視点→綾小路視点です。

原作から少しづつズレが生じてきましたね。ある程度先の展開は想定できていますが、完走できるように頑張ります!


第二章 
大切なもの


 

 

 

 他者とのコミュニケーションを取る事を苦手としている生徒は多いだろう。

 そりゃそうだ。俺みたいに幼少期から他人と接してきた人はともかく、小中とあまり話す人がいなくて、そこから全く知らない人だらけの高校に入学するとなると、何を話していいか分からないなんてことはざらにある。

 現に綾小路君なんかは、俺にめちゃくちゃ感謝してるらしいしな。

 

 そんな皆にヒモ男から1つアドバイスを送ろう。他者とコミュニケーションを取る上で、最も大切なのは『共感』だ。

 教師の愚痴、バイト先にいる横暴な社員の愚痴、嫌いな奴の悪口でもいい。とにかく同じく辛い状況にいて、私はあなたの味方ですよ〜っていうアピールが出来れば満点だ。

 否定から入る人間が、嫌われやすいと言われる理由はここにある。愚痴を聞いて欲しいだけなのに、正論をかましてくる様な人もこれに含まれる。

 だから、もし友人が助けを求めて来たのなら、これを見ている皆は是非協力してあげて欲しい。

 

 

 

「────ねぇー、有栖ちゃんー。いいじゃん、どうせこの事件が終わったら沢山お小遣い入るんでしょ?」

 

「ダメです。食費と作ってもらうお礼としてお小遣いも渡してるんですから、それでやりくりしてください」

 

「うわ。有栖ちゃんのケチ」

 

 開いた足の間に、ちょこんと座っている有栖ちゃんに抱きつく。体が小さいからなのかは分からないが、程々に高い体温は、中々に抱き心地がいい。

 彼女の丸々とした柔らかい頬に頬擦りをかますと、有栖ちゃんは鬱陶しそうに唸りながら、呆れたようにため息をついた。

 

「どうしたんですか? そんならしくも無い駄々を捏ねて。そんなにDクラスの問題は深刻化してるんでしょうか?」

 

「そうだよ。マジでさー、須藤君何してんのよ……」

 

 バグったテンションを指摘されてしまった。いや、これはしょうがないんだよ。

 ────6月に入って、俺たちDクラスには95クラスポイントが支給された。本当なら9500円の小遣いが支給されるはずだが、『とある問題』が発生したため、現状その支払いはストップされている状態だ。

 

「それにしても面倒な相手に目をつけられましたね。わざと()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて」

 

「須藤くんの証言を信じるならね」

 

 そう。その問題とは、須藤君とCクラスの生徒3人による喧嘩だ。高校生にもなって殴り合いの喧嘩かよとも思うが、どうやらただの喧嘩として済ませていい問題では無いらしいのだ。

 

「監視カメラのない特別棟に呼び出すあたり、相手も中々頭が回るようですね」

 

「この騒動の中心である石崎君たちには無理な芸当だよ。多分裏で指示を出している奴がいるはずだ。今もDクラスの皆は、無実を証明するために聞き込みを行ってる最中だよ」

 

 一足先に事件現場の特別棟へ行ったが、特に成果らしいものもなかったからな。あとは地道にやってくしかないが、どうも気が乗らない。

 

「酷いお方ですね。今頃その生徒の無実を証明するために奔走しているというのに、紡くんは涼しい部屋で私と語り合うだけですか?」

 

 だらーんと伸ばした俺の手を取り、ふにふにと楽しそうに握る有栖ちゃん。……なんというか、随分とご機嫌だな。テストとかのバタバタで、最近ちゃんと話せてなかったからだろうか? 

 

「『ほぼ』と言う辺り、不可能という訳では無いのでしょう?」

 

「まぁね。パッと思いついたのは騒動が起きた部屋にダミーカメラを置いて、最初から録画されてたぞーって言って、相手の訴えを取り下げる方法なんだけど……これも難しいよなぁ」

 

 出来ないことは無いだろう。ただ、相手が引くに引けなくなる所まで追い詰める必要がある。そう事が上手く運ぶとも限らないし、リスクだって大きい。

 

「一番の問題はお金だよ。電気屋に行ったら高いんだなぁこれが」

 

 皆で出せば何とかなるだろうが、それでパッと解決するのもまた違うと思うんだよね。

 

「……なるほど。だから私にお金を集ろうとしてきたんですね」

 

「いや言い方」

 

 間違ってないけど。

 

「別に、そういう事情があるなら言ってくれれば貸しますよ? あなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですけど」

 

「あ、バレてた?」

 

 俺の返答に、上品に笑いながら胸を張る有栖ちゃん。

 心の奥底を見透かされたという事実が小っ恥ずかしいので、とりあえず彼女のちっぱいを揉むことでお茶を濁しておく。

 

「ひゃっ!? きゅ、急に何するんですか!」

 

「ん? 照れ隠し」

 

 顔真っ赤じゃん、かわいいー。

 

「……変態」

 

 俺の膝の上で、拗ねたように呟く有栖ちゃん。そんな可愛いお嬢様の機嫌を頭を撫でることで取りながら、俺はこの事件に対するスタンスを説明する。

 

「この件に関しては、俺は積極的に須藤くんを無実にする気は無いよ。嵌められたとはいえ、そんな簡単に手を出した須藤君にも問題があるし、何より本人が全く反省していない。それに、これは俺が勝手に解決していい話じゃないからね」

 

「あくまで他の生徒が解決するか、罰を受けて反省するべきだと?」

 

「そゆこと」

 

 俺はこの世界にとってただの『異物』だ。現在リーダーとして大きく成長しつつある堀北さんや、心に空いた穴を埋めようと努力している綾小路くん。その他にもDクラスの皆は、Cクラスを目の敵にすることで一致団結している。

 皮肉な事だが、彼らDクラスは問題を目の前にして成長を続けているのだ。

 

「そこに俺が入り込む余地は無いんだよ」

 

「……そう、ですか」

 

 本当はこの中途半端な関係も良くないんだけどね。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「あっついな……」

 

 紡はこんな所に一人で来てたのか。よくやるなぁほんとに。

 

「悪いな堀北。こんな所に付き合わせて」

 

 隣に立つ堀北は汗をかいているような様子もなく静かに廊下を見渡していた。

 

「あなたも変わってるわね、綾小路君。自分からこの件に首を突っ込むなんて。目撃者は見つかったし、もう打つ手がないことも判明した。これ以上何をしようというの?」

 

 そう、オレこと綾小路清隆は、須藤とCクラスのいざこざを解決しようと奔走していた。その一環として、事件現場である特別棟へと赴いたという訳だ。

 

「須藤は最初に出来た友達だからな。多少の協力はするさ」

 

「ならあなたには、彼を無罪にする方法があると思ってる?」

 

「まだ何とも言えないな。それにオレが一人で動くのは、平田や櫛田たちと大勢で行動するのはちょっと苦手というか、得意じゃないからだ。紡みたいに上級生との関わりがある訳でもないし、今日も皆で校舎や教室を色々回るかもと思ったから、逃げただけとも言う。事なかれ主義らしいだろう?」

 

「本当にね。それで友達だから協力するって、相変わらずの矛盾ね」

 

「友達は要らないって言ってたのに、オレや紡のことを友達と言って照れてるお前と同じだ「うるさいわよ」……イテッ!」

 

 ここぞとばかりに弄るオレに対して、堀北は怒りのチョップをかましてくる。

 

「今どき暴力系ヒロインは流行らないぞ……」

 

「あら、暑さで頭がやられたから直してあげただけよ」

 

「オレは昭和のテレビか!」

 

 そんなやり取りをしながら廊下を歩くと、堀北はなにかに気がついたように立ち止まって考え込む。

 

「……やはり斎藤くんが言ってた通り、ここには無かったのね。残念だわ」

 

「え? なにが」

 

「教室にあるような監視カメラよ。もしカメラがあれば確実な証拠が手に入ったのに。この特別棟の廊下には見当たらない」

 

「ああそうか。監視カメラか。確かにそんなのがあれば一発解決だったな」

 

 

 天井付近にコンセントは設置されていたが、それが使われている形跡はなかった。 廊下は遮蔽物が何もないから、もしその位置にカメラがあれば、一部始終記録が残っていた可能性は高い。

 初日にその可能性にたどり着いた紡は、流石オレの親友と言ったところだろう。

 

「そもそも、学校の廊下にはカメラは設置されてなかったよな?」

 

 特別棟じゃなくても、教室前の廊下なんかにはカメラは無かったはずだ。

 一瞬でも期待した自分を恥じるように首を振る。

 それから暫くの間うろうろしていたが、得るものなく時間だけが無駄に過ぎていく。

 

「それで、須藤君を救う策でも浮かんだ?」

 

「浮かぶわけないだろ。策を講じるのは堀北や紡の役目だ。須藤を救ってくれとは言わないが、Dクラスにとって良い方向に転ぶ手助けをしてほしい」

 

 呆れたように肩を竦める堀北。物も言い様だと思われているだろうな。

 そして数秒ほど何かを考えた後、彼女はポツポツと語り始めた。

 

「……この件に関して、多分斎藤くんはあまり積極的じゃないわね」

 

抽象的な話だったが、話の流れからして何が言いたいのかは分かる。

 

「須藤を救うことに関してか?」

 

「正確には、『須藤くんを無罪にすること』でしょうね」

 

 恐らく堀北の想像は合っているだろう。

 テスト対策をした際の、紡の先手を読んだ行動には驚かされたものだ。しかし今の彼には、その積極性が見られない。池や山内、須藤は気がついていないだろうが。

 

「まぁ、ともかくこれ以上ここにいても意味ないだろうな。堀北も暑いだろ? とっとと帰ろう」

 

「……斎藤くんの物真似かしら? 似合わないわよ」

 

 ……どうやらオレが早く帰りたいのはお見通しの様だ。慣れないことはするもんじゃない。

 

「悪かったな。愛しの紡の真似事なんかして」

 

 拳が飛んでくることを予想しながら揶揄ったが、堀北の反応は意外なものだった。

 

「……別に、そんなんじゃないわよ」

 

 伏し目がちになり、指をモジモジと動かす堀北。正直言ってかなり可愛い。一体何時コイツをオトしたのか聞きたい所だが、余計な事に首を突っ込む気はない。

 

「そうか。だが行動に出るなら早めの方がいい。お前が想像しているより、何倍も紡はモテるぞ」

 

 先輩と思われる女子生徒数人と、そこそこ値が張る飲食店に入っていった所を見てしまったからな。末恐ろしい光景だった。

 

「余計なお世話……分かってるわよ。そんなこと

 

 紡の幼なじみらしいAクラスの生徒も、彼の口ぶりからして恐らくは女子生徒なんだろうな。

 全く、まるでハーレムアニメの中から出てきたような男だ。これじゃいつ刺されてもおかしくない。

 

 それから佐倉や、Bクラスの一之瀬という生徒と出会うというハプニングがあったが、問題なくオレは寮に帰宅した。

 

 

 

 

「はぁー」

 

 制服のまま、備え付けられたベッドにダイブする。外に出る時もエアコンをガンガンつけているため、冷たいシーツの感触が気持ちいい。電気代を気にしなくていい寮様々だな。

 そんな科学の恩恵を受けていると、ポケットにしまったスマホがふと振動した。通知を見るとチャットアプリの名が表示されている。

 

『こっちで先輩に聞き込みしてみたけど、特にめぼしい情報は無かったかな。ただ、こういう問題が発生した場合、やっぱり結構重いペナルティが課せられるみたいだね』

 

 どうやらグループチャットで紡がメッセージを送ってきたらしい。メンバーは勉強会を行ったオレ、紡、堀北、池、山内、須藤、櫛田の7人だ。

「ありがとう」と、メッセージを送ろうと思ったが、寸前で取り消す。毎回疑問に思うのだが、こういう時って返事した方が良いのだろうか? 

 

『そっか……じゃあ、私たちがもっと頑張んないとね! ( •̀ᄇ• ́)ﻭ』

 

『おう! これが解決してポイントが入ってきたら、須藤に飯おごってもらおうぜw』

 

『いいけど、安いとこで頼むぜ。この人数は流石にキチィ』

 

 上から櫛田、池、須藤と返信が続く。

 皆でご飯を食べに行く妄想をし、自然と口角が上がってしまう。こんな些細なやり取りでも、俺にとっては憧れだったのだ。

 トーク画面を閉じると、履歴の1番上にはグループのアイコンが表示された。

 

「……まだ変えてなかったのかよ」

 

 そのアイコンに写るのは、肩を組んだ俺と紡のツーショット。入学して1ヶ月経たないくらいに撮った写真だ。

 満面の笑みを浮かべる紡とは対照的に、オレはぎこちない笑顔で小さくピースしている……恥ずかしいから変えて欲しいと言ったはずだが、どうやら紡はこの写真を変える気は無いみたいだ。

 

「友達か……」

 

 オレが高度育成高等学校へ入学してから早2ヶ月。今まで『あの場所』で過ごしてきた15年間に比べたら、塵のように短い時間だ。

 しかし、この短くも濃密な2ヶ月は、それまでの俺の価値観に少しだけヒビを入れた。

 

「オレはどちらを取るんだろうな」

 

 無意識にそう呟いてしまったが、答えなんて最初から決まっている。三つ子の魂百までという言葉がある通り、人間の本質なんて、そう直ぐに変わるものでもない。

 

 

 

 ────だが、確かにあの場所では得られなかったものが、オレの手の中にある。

 それを手離したくないと思える位、オレにもまだ人間らしさが残っている。そう思いたかった。

 

 

 




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