ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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新たなる出会い

 

 

 

 前回の独白で何となくわかったと思うが、俺は転生者だ。と言ってもアニメでよくあるようなトラックにひかれたわけでも、召喚されたわけでも、神に会ったわけでもない。自らを自覚したのは3歳の時。

 とある調査によると、人間の記憶で最も古いのは、大体3歳前後の記憶らしい。その点で言えば俺はいたって普通の子供だ。前世の記憶が無ければ、だけども。

 

 思い出した当時はかなり錯乱した。体が思うように動かず、なおかつ死んだと思ったら別の子供の記憶が混じっているのだ。誰だって泣きたくもなるだろう。階段でうずくまって泣いていた俺を見た親が、階段から落っこちたのかと勘違いしたのは幸いだった。

 輪廻転生……本当にあるとは思わなかった。しかし、そんなスピリチュアルな現象を到底信じられなかった俺は、親のパソコンを借りてこの世界について調べた。その結果として分かったのは、俺が死んだであろう時間と、今の俺が生まれたであろう時間が被っていたのだ。

 

 その時は正直ゾッとした。だって時を遡ったんだぜ? 輪廻転生なんかよりもよっぽど気味が悪い。そして同時に判明した事実として、『俺の元居た世界とこの世界は違う世界』だったという事。大まかな歴史の流れとかは同じだが、戦後の総理大臣や、歴史に名を残す大災害なんかも微妙に変わっている。

 そこで俺が考えたのが、よくあるテンプレ通りで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そうなるとかなりめんどくさいことになる。大体転生した人間はロクなことにならないからだ。戦わされたり、最近は主人公がひどい目にあう系の作品が増えてきたと前世の友人から聞いたが、そんなのごめんだね。

 

 ……とは言ってもどうしようもないため、俺はちょっと要領の良い子供として生活することに決めた。昔から諦めるのは得意だったからね。

 幸い今世の家庭環境はかなり良い。公務員の父に、専業主婦の母。一人息子という事もあって、かなり大事に育てられた。というか温かい飯が出るだけでもう100点だ。

 そんな両親に報いたいと言う気持ちがないわけでもないが、今の俺は俗にいう燃え尽き症候群に陥っていた。まあ一回死んでるからね。燃え尽きるきっかけには十分でしょ。

 

 とまあ、そんな幼少期を過ごした俺は、前述の通りスポーツを趣味としている。前世では全く触れてこなかったが、意外と楽しいんだなこれが。勿論、ただ楽しむためにやっていたのではない。運動神経というのは幼いころにどれだけ体を動かしたかで決まるのだ。俺の夢はヒモになる事なので、そのためにはまずモテなくてはいけない。

 都合よく中々のイケメンに産んでもらえた為、顔は大丈夫。勉強も別に苦手じゃなかったし、残るは運動というわけだ。

 

 しかし地域のスポーツクラブに入り浸っていると、当然女の子との接点は無くなってくる。そこで、なけなしの恋愛小説の知識で、孤立している女の子に話しかければ惚れてもらえると確信した俺は、いつも1人教室で難しそうな本を読んでいた女の子に声を掛けた。小1の時点で滅茶苦茶可愛かったし、これでも頭脳は大人なので本の話もできるだろうと思ったからだ。

 

「────それ、ダーウィンの『種の起源』でしょ? 随分難しい本読んでるんだね?」

 

「……はい。あなたもよく知ってらっしゃいますね」

 

 そんな丁寧な言葉で返されたが、表情を見れば滅茶苦茶驚いていたのは一目瞭然だった。今だからこそ分かるが、たった今話しかけた少女・有栖ちゃんはまちがいなくギフテッド(平均より著しく高いIQを持つ子供)だ。これを持つ子供は、周りとの知能の差に苦悩すると聞いたことがある。そもそも小1に『種の起源』って漢字読めないしな。

 

 それから定期的に話しかけた。しかし態度がそっけなく、打てど響かずといった感じだったためターゲットを別の子に変えた。その辺りだろうか? 彼女の様子がおかしくなったのは。

 話しかけなくなってから1週間ほどたったあたりで、俺は有栖ちゃんに呼び出された。

 

「何故最近私を避けているのでしょうか?」

 

「え、いや、避けてるつもりはないんだけど……」

 

 体育館裏に向かった俺を待っていたのは告白の言葉などではなく、誤魔化しは許さないという様な強い視線だった。

 呆気にとられる俺を尻目に、有栖ちゃんは続けて話す。

 

「私の記憶が正しければですが、あなたの機嫌を損ねるような事をしたつもりはありません。ですが、もし知らず知らずのうちにやってしまったのなら謝ります」

 

「いや、別にムカついたから避けてるとかじゃないよ?」

 

「では何故?」

 

「いや……その、あんまり俺と話してても楽しそうじゃなかったから、嫌いなのかなって」

 

 突然だが、嘘を吐くときのコツを知っているだろうか? 相手にばれずに嘘を吐くときは、100%嘘で塗り固めるのではなく、そこに少しの真実をブレンドすると効果的なのだ。

 この場合は『別のヒモ候補を探すため』という嘘の中に『俺のことが嫌いだと思った』という真実を1滴たらす。

 どうせそんなに好かれてないだろうし、ここで自然消滅すればいいかななんて……そんな甘い考えが良くなかったのだろう。

 

「私がいつあなたのことを嫌いだと言いましたか? 憶測で判断するのは愚か者のすることですよ」

 

「……ごめん」

 

 そう強い言葉で怒られてしまったが、小学一年生の美幼女に言われても全く怖くない。だが、その言葉の裏にある感情が俺の胸を強く締め付けた。

 多分だが、この子は寂しかったんだと思う。他に誰も話す人が居ない状況で突然避けられたのだ。いくら賢いとはいえ、まだ幼稚園を卒園したばかりの子供。大人の尺度で勝手に近づいて、勝手に離れていったのだ。最低と罵られても文句は言えない。

 しかし、俺の謝罪に対しての彼女の言葉は、なんとも予想外の物であった。

 

「今度私の家に遊びに来てください。それで許して差し上げます」

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「私はAクラスで、紡君は……Dクラスですか」

 

 バスに揺られる事数十分。予定よりも大分早く到着した2人は、エントランスに張り出されている紙から自分たちの名前を探していた。

 

「あーあ。有栖ちゃん俺とクラス違くて寂しがんないでよ?」

 

「紡君こそ、飼い主が居なくなったら散歩もできないんじゃないですか?」

 

「誰がペットだ」

 

 目が覚めたのか学校に来たからなのかは分からないが、スイッチを切り替えたかのようにテンションを上げる斎藤。そんな彼の様子に呆れながらも、売られた喧嘩は必ず買うのが坂柳有栖という少女である。

 斎藤が噛みついて、坂柳がカウンターで沈めるというこのやり取りは、親しい者からしたらもはや様式美になっていた。

 

 

 

 それから十数分ほど校内を散策した彼らは、教室の前へと戻る。もうすでに新入生と思われる人混みが、エントランス前に立ち込めていた。

 

「では、もう人も来ている事ですし戻りますね」

 

「おっけー。入学式終わったら教室寄るから待ってて」

 

「分かりました」

 

 坂柳と別れた後、斎藤はそのままDクラスの教室へと向かった。横開きの扉を開けると席は半分ほど人で埋まっており、それぞれが話に花を咲かせていた。

 

(もうちょっと早めに来ればよかったな。有栖ちゃんが気になるって言うから付き合ったけど……まあいいや。俺の席は……お、窓際後ろか。いいじゃん)

 

 黒板に張り出されていた座席表で机を確認する斎藤。一般的に当たりと言われる席に座れてご機嫌のようだ。

 席についた斎藤は、周りを見渡して1つ前の席に座る男子生徒の肩をちょんちょんと叩いた。

 

「な、なんだ」

 

 話しかけられて驚いたのか、おどおどしながら振り返った男子生徒。

 

「いや、席近いから挨拶しとこうと思ってね。俺の名前は斎藤紡。趣味はスポーツ全般とボードゲーム。よろしく!」

 

 そう言って右手を差し出す斎藤。多少強引ともとれる距離の詰め方に驚く男子生徒だが、特に不快感を感じてはいない。それも当然だろう。斎藤はヒモに一番大事な能力であるコミュ力がカンストしているのだ。その人好きの良い笑みを真っ向から否定するのは難しい。

 彼も例に漏れなかったのか、その手を握り返して自己紹介をした。

 

「────オレの名前は綾小路清隆。特に趣味は無いけど、何にでも興味はある。長い付き合いになるだろうから、仲良くしてくれると嬉しい」

 

 

 

 ────後に親しい間柄になる2人だが、今の当人たちには知る由もないだろう。

 

 

 




主人公はちぐはぐな男です

皆さん何勢の方ですか?

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