ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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次で二巻は終了かな。


予期せぬ事態

 

 

 

 放課後、敷地内の公園にてダン、ダンとボールが弾む音が聞こえてくる。目の前には腰を落としボールを突く須藤君、実際にバスケをするのは久しぶりだが、ここまで迫力のある相手と対峙したのは初めてだ。

 

「シッ!」

 

 そんな一瞬の気の緩みがバレたのか、トップスピードで俺の左側へ一歩踏み出す須藤君。そしてそのまま華麗なフォームでボールを持った右手を上げる。通称レイアップと呼ばれる

 そしてそのまま吸い込まれるようにして、ボールはリングへと吸い込まれて行った。

 

「つっよ」

 

「コレで3-2、俺の勝ちだな……ったく、まさかバスケ部でもねぇやつに2本取られるとは思わなかったぞ」

 

「油断してるから~」

 

「うっせえ」と言ってボールを投げる須藤君。

 さっと投げただけだが、いとも簡単にゴールへと入っていく。中学卒業したばっかでこれは凄まじい才能といえるだろう、

 

「急に1on1やろうって言われた時はアタマおかしくなったのかと思ったぞ」

 

「まあまあ、こういう時じゃないと話せないこともあるだろ?」

 

 肩を竦めた俺に対し、須藤君は頭をポリポリと搔いている。そのまま備え付けられたベンチへ腰を降ろした俺は、沈みかけの夕日を見ながら須藤君へと話しかけた。

 

「いよいよ明日審議だけど、心の準備は出来てるか?」

 

「準備も何も、俺は自分の無実を証明する。たったそれだけの話だろ」

 

「本当にそう思ってるの?」

 

 シュートを打とうと構えた手がピクっと止まる。そのまま気にせずボールを投げた須藤君だったが、そのボールがリングに入ることは無かった。

 苛立ちを隠そうともせずチッと舌を鳴らす須藤君。

 

「……何が言いてぇんだよ。説教ならごめんだぜ」

 

「いいから、とりあえず座りなよ」

 

 コートを囲うように設置されている金網、その外側に置いてある自販機でスポーツドリンクを2本購入し、片方を須藤君に投げる。

 

「悪ぃな」

 

 2人並んでベンチに腰掛ける。

 

「今買った飲み物は、150pptのスポーツドリンクだ。5月までは何不自由なく買うことが出来たが、今やそれ1本買う事すらままならない」

 

「?」

 

 唐突に語り出した俺に、須藤君は疑問符を浮かべている。そんな彼を尻目に、俺は続きをポツポツと話し続けた。

 

「そして先々週の中間テスト、その過去問は俺が先輩から2万pptで買い取ったものだ」

 

「……そんな高かったのかよ」

 

 ごめん嘘、本当は先輩誑かして貰ったやつなんだ。まぁ大体買い取るならそれくらいが相場だって聞いたし。

 

「そして俺がそんな大金はたいて過去問を買い取ったのは、ひとえに堀北さんのためなんだ」

 

「堀北?」

 

「ああ。彼女はAクラスに行くという夢のために努力している。それは君も知ってるだろう?」

 

「まぁな」

 

 いまいち要領を得ないと言った様子の須藤君。少し待ってくれ、後ちょっとで本題にはいるから。

 

「最初、堀北さんは君や池君、山内君を見捨てようとしてたんだ。日頃の行いや素行、成績がモロにCPに影響するこの学校で、それが劣る生徒は足手纏いになるってね」

 

「ムカつく話だな」

 

 勉強会初日にこっぴどく貶されたことを思い出したのか、苦い顔をする須藤君。

 

「だが俺は堀北さんを説得し、彼女はそれに納得した。勉強以外でも、必ず輝く何かがあるはずだという俺の説得にね。須藤君、勉強が苦手な君がどうしてこの高度育成高等学校に入学できたと思う? そしてなんでDクラスに配属されたと思う?」

 

「……知らねぇよ。俺だって不良品って言われんのはムカつくぜ」

 

 答えになってない返事だったが、言いたいことはよく分かる。

 俺は一呼吸置いた後、今までより強く言い放った

 

「さっき1on1やってわかったよ。君には飛び抜けたバスケの才能がある。それを見出されて入学を許されたんだ」

 

「ンなこと、お前に言われなくても分かってる」

 

 うんうん、自分の優れた点を認識しているのはいい事だ。だかそれ以上に、自分の欠点を理解出来ないのは悪いことなんだよ? 須藤君。

 

「じゃあDクラスに配属された理由を教えてあげるよ。それは須藤君、君自身の『甘さ』だ」

 

「結局説教かよ。そんな話聞きに来た訳じゃねぇぞ」

 

 頭をガシガシと掻きながら立ち上がる須藤君。きっとこのまま帰るつもりなんだろう。

 

「誰のおかげで退学せずに済んだと思う? 別に説教するつもりで来たんじゃないし、話くらい聞いてってよ」

 

「……チッ。ウザかったら帰るからな」

 

 それを言われたら弱いんだろう。須藤君は渋々といった様子で再度座った。

 

「甘さとか大層な事言っちゃったけど、実際その欠点なんて簡単に直せる。そうすれば君は晴れて不良品と呼ばれた生徒から良品へと変わるんだ。今の状態は、少し勿体無いと思わないかい?」

 

「じゃあ具体的に何をすればいいか教えろよ」

 

 そんな当たり前の質問が飛んでくる。これだけ上から物を申しておいて、解決策が何もないと言ったら恥ずかしいだけだ。

 

「まず最初は目先のことから。この暴力事件、君にも非があったと認めるところからだね」

 

「は? なんで俺が悪いんだよ。正当防衛じゃねえのかよ!」

 

 その言葉が決定的となったのか、つもりに積もっていたイライラが爆発する須藤君。

 俺の胸倉をつかみながら、閑散とした公園に響き渡るほどの声量で怒鳴り散らす。

 

「勿論君が全部悪いとは言ってない。この事件においての一番の悪は間違いなくCクラスの生徒達だ」

 

「だったら……「だから」」

 

 須藤君の言葉を遮るようにして続ける。この事件の解決を手伝う上で、俺はどうしても見過ごせないことがあるのだ。

 

「この事件が解決したら、まずはDクラスのみんなに『迷惑かけてごめん、助けてくれてありがとう』って一言言って欲しいんだ」

 

「……それだけかよ」

 

「ああ、それだけさ」

 

 拍子抜けしたように手を離す須藤君。それだけとは言っているが、実際にやるとやらないとでは大違いだ。

 俺は須藤君に右手を差し出し、自らの意思を表明するように強く語る。

 

「皆君のためを思って行動してるんだ。この事件が解決したら大会だって出られるんだからさ、もう少しだけ優しくしてあげようぜ?」

 

「……分かった。ちゃんと解決したらだからな!」

 

 大丈夫だよ須藤君。もう既に手は打ってあるからね。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 オレの親友、斎藤紡は頭が良い。

 勿論勉強ができると言うのもあるが、それ以上に頭の回転が速いと言うか、まさかオレと同じ発想に至っているとは思わなかった。

 同じことを考え付いたという事実に少し浮ついていると、隣を歩く堀北が小さく呟いた。

 

「今日ですべてが決まるわ」

 

「そうだな」

 

「あなたの作戦ありきで進めるのは不愉快だけど、こればっかりはしょうがないわね」

 

「オレじゃなくて紡の作戦だ」 

 

「……まあいいわ。第一段階はクリア、そっちは大丈夫?」

 

「昨日説明した作戦どおりだ。一之瀬もいるし何とかなるだろう」

 

 ポンと軽く堀北の肩を叩いて歩き出した。

 紡がこの発想に至ると知っていたら、こんな回りくどいことはせずに済んだのにな。

 

「無事に終わらせて、3人で出かけるぞ」

 

「うるさいわよ」

 

 頭を叩かれた。そんな怒らなくても良いのに。

 

 

 

 時刻は3時40分過ぎ。放課後を迎えた特別棟はいつにも増して蒸し暑い。手筈通りに事が進んでいれば、もうすぐ待ち人がやってくるはずだ。

 そして、程なくして3人組の男子が暑い暑いと不満を漏らしながらやって来た。各々の表情にはどこか楽観、嬉しそうな様子が窺える。

 それも無理のない話だ。何故ならその3人がやってきたのは、我がクラスのアイドル的存在櫛田からのお誘いメールを受け取ったからだ。デートの誘いか、あるいはまさかの告白か。そんなことを夢見ていたのかも知れない。

 しかしそんな彼らの幻想は、オレの存在を見つけたことによって打ち砕かれることになる。……というより、3人で呼び出された時点で疑うべきだろう。

 

「……どういうことだ。なんでお前がここにいる」

 

 昨日生徒会室で顔を合わせた為、流石に覚えているようだった。3人のリーダー的存在である石崎が威圧するようにこちらに近づいて来る。

 

「櫛田なら来ないぞ。お前らを呼び出すために無理言ってメールを送ってもらった。一つ話し合いをしたくてな」

 

「話し合いだぁ? 一体何を話すってんだ。どうあがいたって俺らが須藤に呼び出され、殴られたって事実は変わんねぇよ」

 

 苛立ちを隠さず吐き捨て、その場を後にしようと踵を返す石崎達。

 しかし、その足取りは思わぬ客人の存在により止まってしまう。

 

「観念した方が良いと思うよ、君たち」

 

「い、一之瀬!? どうしておまえがここに!?」

 

 驚くのは当然Cクラスの連中だ。関係のないBクラスの人間が現れれば無理もない。

 

「どうしてって? 私もこの件に一枚噛んでるから、とでも言っておこうかな?」

 

「有名人だな一之瀬」

 

「あははは。Cクラスとは何度か色々あってね」

 

 思わぬ人物の登場により、明らかにCクラスの連中は取り乱している。

 

「今回Bクラスは何の関係もないだろうが。引っ込んでろよ……」 

 

 オレの時とは違い、明らかに弱々しかったが、必死に退けようとする。

 

「確かに関係はないけどさ。嘘で大勢を巻き込むのはどうかと思わない?」

 

「……俺たちは嘘を言ってない。被害者なんだよ俺たちは! さっきも言ったが、ここに呼び出されて須藤に殴られた。それが事実だ」

 

「えーい、悪党は最後までしぶとい。そろそろ年貢の納め時だよ!」 

 

 ……ここは一之瀬に任せようか。

 そう思ったオレは、一昨日紡に言われた作戦を思い出す。

 

『まず大前提として、この作戦を行うためには一度石崎君達に証言させる必要がある』

『……つまり火曜日の審議で結論を出されたらおしまいって事だな?』

『ビンゴだよ綾小路君。だから須藤君には落ち着いて証言するように頼んでおいたから』

 

 実際に昨日の須藤は偽物なんじゃないかと疑うほど冷静に証言していた。どうせまた裏で紡が説得したんだろう。

 

「今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしいと感じなかった?」

 

「あ?」

 

「君たちが学校側に訴えた時、どうして須藤君がすぐに処罰されなかったのか────」

 

「んだよ、勿体ぶらず早く言えっての」

 

 ざっくりとした概要を説明しただけだが、一之瀬は上手く説明してくれているようだ。Bクラスのリーダーをやっているだけあるな。

 石崎達は暑さにやられているのか、気だるさを隠そうともしていない。

 

「────この学校の至るところに監視カメラがあるのは知ってるよね? 教室や食堂、コンビニなんかにも設置されてあるの、何となく見たことあるでしょ? 私たちの普段の行いをチェックすることで不正を見逃さないようにしてるんだよ」

 

 数回ほど会話のやり取りを済ませ、一之瀬は石崎達に問いかける。

 

「それがどうしたんだよ」

 

「だったらさ。アレ、見えないかな?」

 

 一之瀬は、廊下の少し先、その天井付近を指さした。

 

「え?」

 

 

 

『すでに準備は済ませてある。石崎君達を騙すカメラをね。後は君たち次第だ、さぞ驚くと思うよ? 何せ証拠を残さないためにわざわざ特別棟の監視カメラのない所に呼び出したのに、その一部始終がバッチリ撮られているんだからね』

 

 

 

 ────そこにあったのは、特別棟の廊下を隅々まで監視するように、首を左右に振るカメラだった。

 

 

 

「全く。監視カメラが無かったらどうなってたことやら。なあ? 一之瀬」

 

「ほんとほんと。ここまで用意周到だったのに、何で最後一番大事なところでミスっちゃうかなー」

 

 オレと一之瀬はわざとらしくため息を吐く。さて、ここからが本番だ。

 

「な、何でカメラなんか!? 嘘だろ!? だってしっかり()()()()()()だろ!?」

 

「へぇ~。『確認したはず』だって?」

 

「不思議な話だな。どうして須藤を呼び出すのにカメラがないことを確認する必要があるんだ?」

 

 まるで狙っていたかのようにこちらの望む言葉を出してくれる石崎。尋常じゃないほどの汗をかきながら、3人とも頭を抱えている。

 

「なっ!? 石崎! 何してんだよ!」

 

「うるせぇ! ……クソ! 俺達をハメようったってそうはいかないぜ。アレはお前らが取り付けたんだろ!」

 

 とうとう仲間割れまでしだしたCクラス3人……終わりだな。冷静な思考を一切持ち合わせていない。その追及すら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気が付いていない。

 

「だから何だ。もし仮にオレ達が取り付けたとして、それで何かマズい事でもあるのか?」

 

「何だろうね? 例えば……()()()()()()()()()

 

「うっ! そ、それは……」

 

 一之瀬の確信に迫る一言で、一気に言葉を詰まらせる小宮。さて、予備のプランはこれで十分だろう。後は順調に訴えを取り下げてくれればよいのだが……

 

「ま、待てよ。やっぱおかしいだろ! もし監視カメラに映像が残ってたとしたら、どうしてお前らは俺達に教えてんだよ!? そんなことしなくても須藤の無実は証明できるだろ。やっぱりお前らが仕掛けたんじゃねえのかっ」

 

 中々鋭いな。体格だけの脳筋だと思っていたが、この状況でこの結論に至るとは意外とキレ者なのかもしれない。

 

「無実? それは無理な話だぞ石崎。この事件は起こった時点で無傷で解決することは不可能だ。事情がどうであれ須藤はお前たち3人を殴った。そこを現時点で認めている限り、須藤の無実の証明は不可能。悪いうわさが残ればレギュラーの座は危うい。大会にだって参加できなくなるだろう」

 

「勘違いしてほしくないから補足するけど、このままこの映像が出れば君たちは退学だよ? 虚偽の訴えを起こして、1人の生徒を陥れようとしたんだから当然だよね。でも、お互いが幸せに終われる方法が一つだけある。聞く価値はあると思うけど」

 

「……何だよ」

 

 一度絶望の底に落としてから、救いの糸を垂らすように呟く。温和な性格の割にえげつないことをするな。オレの中で一之瀬の評価がぐんぐん上がっている。

 

「今回の事件、それを穏便に解決する方法は1つだけだ。それは訴えそのものを取り下げると言うこと。撮られた映像を持ち出されそうになった場合、Dクラスも全力でお前らを支援する。さっきも言ったが、映像を論点とされたら須藤も罰を受けるからな」

 

「……クソッ!」

 

 石崎が悔しそうに地団駄を踏んだその時、特別棟の廊下に聞きなれない言葉が響き渡った。

 

「────おいおい。何時までたっても顔を出さねえ馬鹿どもの様子を見に来たら……随分と愉快なことになってるじゃねえか」

 

「龍園君!? どうしてここに……」

 

「久しぶりだなぁ? 一之瀬」

 

 ……今度はそっちの来客かよ。暑いから早く帰りたいのに……

 

 

 





中間試験全教科満点の男がいると聞いて、警戒した結果ですね。
原作以上に龍園君がDクラスに執着するようになります。

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