ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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これで第二章は完結です!


理由

 

 

 

 龍園と呼ばれた男は、ポケットに手を突っ込みながら不敵な笑みをこちらに向けていた。

 オレがその男に懐疑的な視線を向けていると、隣で頬に汗を浮かべた一之瀬が語り出した。

 

「今回の騒動の黒幕……Cクラスのリーダー的生徒だよ」

 

「黒幕? 一体なんのことだろうな?」

 

「龍園さん! ど、どうしましょう……カメラがあるなんて知らなかった! 俺退学は嫌っすよ!」

 

 石崎は懇願するように声を荒らげた。本人は惚けているが、この騒動の黒幕だという一之瀬の言葉は正しいのだろう。

 

「それ以上喋んじゃねぇ。ここからは俺がコイツらと話す」

 

「は、はい……」

 

 あの石崎がここまで従順になる相手……警戒が必要だな。

 龍園はもう一度振り返った後、こちらに距離を詰めてきた。身長は同じかオレよりやや上、少し特徴的な長めのヘアースタイルは実に暑そうだ。

 

「まだお前の名前を聞いてなかったな」

 

「綾小路だ」

 

「では1つ聞かせてもらおう綾小路。この計画を立てたのはお前か?」

 

「……計画? 何の話だ」

 

 素直に答える必要は無いため惚けるが、龍園は確信したように笑みを浮かべていた。

 

「あくまでもシラを切るか……まぁいい。このカメラが取り付けられたものだとしても、俺達の負けは確定だ」

 

「や、やっぱりそうだったんですか!? だったら俺らの勝ちじゃないすか!」

 

「ああ。お前が余計なこと喋んなければな」

 

 龍園はオレのポケットを一瞥し、そう語る……しくじったな。もう少し焦る演技をすればよかった。

 ……これがCクラスのリーダーか。日本有数の進学校というのは伊達じゃないみたいだな。Aクラスはまだ分からないが、各クラス警戒せざるを得ない人物はいる様だ。

 しかし3人はその意味が分かっていないのか、ポカンとした表情を浮かべている。

 

「おいお前ら、退学になりたくなかったら訴えを取り下げろ。こんな暑いとこ居てられっか」

 

「そ、そんな! 説明してくださいよ、龍園さん!」

 

 後ろで声を上げる石崎を尻目に、龍園は一歩一歩こちらに近づいて来る。そしてオレの真横で止まった後、小さく呟いた。

 

「この計画を練ったクソ野郎に伝えておけ。お前は俺が必ず潰す、とな」

 

「……」

 

 オレの返事を待たずに龍園は特別棟を後にする。

 

「あ! 待ってください!」

 

 取り残された石崎達も、慌てて後を追っていく。あっという間に、廊下には俺と一之瀬の2人だけが残り、閑散とした雰囲気が戻ってきた。

 

「これは……成功って事でいいのかな?」

 

「ああ。龍園の登場は予想外だったがな。紡が保険を掛けてくれて助かった」

 

 オレのポケットの中には、録音状態になっている端末が入っている。このままCクラスは訴えを取り消すと思うが、一応データを堀北へ送っておく。

 

「斎藤君って、なんて言うか凄いよね。この前のこともそうだし、今回の作戦だって私には考え付かなかったもん」

 

「ああ。オレの自慢の親友だ」

 

 そう鼻が高く言い放ったオレだったが、実際の所紡の能力は不可解なほどに高い。

 水泳や他の体育で見せた身体能力も高円寺と同等以上だし、学力においてもクラストップだ。性格も入学当初の堀北みたいに協調性がない訳でもないし、一見カタログスペックだけ見ればAクラス相当の人物なのは間違いないだろう。

 

 ────となると、紡がDクラスに配属された理由は何だ? 

 

「ポイントもどうやって用意したんだろうね? このカメラ、一台買うだけでも相当な値段なのに」

 

「……さあ、貯金でもしてたんじゃないか?」

 

 流石にレンタル彼氏のことは言えない。

 

「どうする? 生徒会室の前で待つ?」

 

「そうだな……」

 

 ふと、オレはさっきの佐倉の姿を思い出した。今日はこれから用事があると言っていたが、一体なんの用事だ? 

 以前電話を受けた時、そして放課後の玄関先で彼女はオレになんて言おうとしていいた? 覚悟を決めたような、そんな表情じゃなかったか? 

 勇気を出すこと。その意味。それはなんだ? 

 頭の奥が痺れるような感覚に襲われ、思考を張り巡らせる。

 

「今度この前のお礼とお祝いを兼ねて、神崎君と4人でご飯食べに行こうよ! 私の奢りで!」

 

 1つの結論に至る前に、オレは駆けだしていた。一之瀬の提案は魅力的なものだったが、今は後回しにさせてもらおう。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」 

 

 何事か分からないまま、一之瀬も何故か追いかけて来た。

 オレは走りながら携帯を取り出す。位置情報サービスの閲覧が許可されていれば、友達の位置を調べることが出来る。こんな場面で池の悪知恵が役立つとは皮肉なものだ。

 すぐに携帯の現在地を調べ佐倉がどこにいるのかを検索した。その後とある人物に電話を掛ける。

 

『お! 綾小路君~上手くいった?』

 

「佐倉が危ない! ケヤキモール搬入口に至急向かってくれ!」

 

 都合よくワンコールで出てくれた親友に感謝しつつ、オレは最小限の説明だけをする。ストーカーの件は確信が取れなかったから相談しなかったが、今はそれを後悔している暇はない。

 

『分かった。すぐに向かう』

 

「頼んだ」

 

 学校からよりも寮から向かう方が近いため、準備をする時間を含めても紡の方が早く着くだろう。

 

「中学生の時陸上部だったから。足と持久力にはそこそこ自信あるんだよね」

 

 そう言って楽しそうに笑う。

 

「悪いけど、途中で待つつもりはないぞ。急いでる」

 

「あははは、大丈夫だよ」 

 

 佐倉の位置がさっきから動かない。それが不安で仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 ────オレは、その選択が間違っていたとは微塵も思っていない。

 

 実際に紡を呼ばなかったら、もしかしたら手遅れになっていたかもしれないからだ。

 

 だが……それを手放しで喜べないほど、目の前の光景は、オレにとって衝撃的なモノだった。

 

 

 

 

 

「何が愛だ? 彼女が苦しんでいる事を理解せず、ゴミ以下の独りよがりを、お前は愛だと思っているのか?」

 

 遅れて到着したオレ達が見たものは、今まで見たことがないほど怒りを露わにする紡の姿だった。

 茶柱先生の時も静かに怒っていたが、ソレの比にならない程だった。

 

「独りよがりなんかじゃないっ! 僕は佐倉を愛して、佐倉は僕を愛してるんだ!」

 

「彼女の怯えた表情が見えないのか? お前の愛は一生届かない。大人しく警備員が来るまで待ってろ」

 

 紡は、男と佐倉の間に立って対話を試みている。一之瀬は早く助けに行きたいと言った様子だったが、オレは息を殺すように指示をする。

 どうしても、紡の取る行動が気になったのだ。

 

「こ、来ないで……!」

 

 しかし、佐倉が浮かべていた嫌悪と恐怖が男に向けられた途端、男は気が狂ったように叫び出した。

 

「お前が……! お前が、佐倉を! お前があ゛あ゛あ゛あ゛」

 

「危ない!」

 

 男はそのまま腰に下げたポーチからカッターナイフを取り出し、紡に向かって駆けだした。

 隣で息をひそめていた一之瀬が声を荒げる。クソッ、間に合うか!? 

 

……救えないな

 

「いぎっ、ぎゃああぁあぁぁ!」

 

 紡は向けられたカッターナイフを的確に躱し、それを握っている男の手を壁に押し付ける。

バキッ!  という音が男の拳から流れ、その衝撃からか、カッターナイフが零れ落ちる。

 

「あ、やべ」

 

 口ではそう言っているが、紡は落ちたカッターナイフを足で的確に遠くへ蹴り飛ばす。

 先ほどのやり取りもそうだが、明らかに手慣れている様子だった。……オレの様な特殊な生い立ちの人間ならともかく、普通の格闘技を習っていただけの高校生が出来る芸当ではない。

 

「大丈夫!? 斎藤君!」

 

「一之瀬さん……俺は大丈夫。佐倉さんを見てあげて」

 

 紡は制服のベルトで男の足をぐるぐる巻きにしながら、駆け寄ってきた一之瀬に返答する。

 

「ダメだよ!? どこかケガとかしてたら大変だよ!」

 

 ……聞く気は無いようだな。オレは佐倉の方を見てやるか。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。斎藤君が助けてくれたから」

 

 もし紡を呼ばなかったら大変なことになってたかもしれないな。本当にギリギリだった。

 

「あ、あれ……立てない」

 

「大丈夫か?」

 

 腰が抜けてしまったのか、へたり込む佐倉に手を差し伸べる。

 

「あ、ありがとう……きゃ!」

 

「おっと」

 

 急に立ち上がった為か、バランスを崩した佐倉がオレに倒れ込んできた。

 抱き着くように受け止めると、そのふくよかな感触が伝わってくる。何というラッキースケベ、アニメの中だけだと思っていたが、現実でもあるようだ。

 

「ご、ごめん! すぐに退くから」

 

「ああ。大丈夫だ」

 

 ある程度落ち着いてきたため、オレは先ほどの紡の様子について思案する。

 

「ホントに大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって、心配しすぎ。お姉ちゃんかよ」

 

 近くでは一之瀬が紡にしつこく話しかけている。……そこはお母さんじゃないんだな。

 そんなことを思っていると、紡が言っていた警備員らしき人が駆けつけてきた。

 

「皆さん、大丈夫ですか!」

 

「あ、来たみたいだね。三人とも解散して大丈夫だよ。俺はちょっと話があるから」

 

「わかった」

 

 佐倉と一之瀬を連れ、オレはその場を後にする。

 中々壮絶な一日だったが、その報酬にオレは()()()()()()()()()()()()()()

 

「今週末、楽しみにしてるぞ」

 

「お! いいねー綾小路君!」

 

 ……その事実は、オレにとってあまり良いモノとは言えなかったが。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「退室してもよろしいでしょうか? 茶柱先生」

 

 作戦は上手くいったようで、Cクラスの生徒達は訴えを取り消した。……これで一安心ね。

 

「まあ待て。少し堀北に話がある。お前達は先に出ていろ」

 

 茶柱先生は兄さんと橘さん……今回の審議を行った生徒会の人達を追い出し、興味深そうにテーブルで腕を組んで問いかけてきた。

 

「それで、どんな手を使ったんだ? 堀北」

 

 茶柱先生は興味深そうに、テーブルで腕を組んで問いかけて来た。

 

「何のことでしょうか」

 

「誤魔化すな。理由なくあいつらが訴えを取り下げるわけないだろう」

 

「ではご想像にお任せします」

 

 私達がやったことは嘘のでっち上げ。追及されると困るのはこちら側だ。

 

「秘密というわけか。では質問を変えよう。Cクラスを退けた作戦、誰が考えた?」

 

「……どうしてそんなことが気になるんですか?」

 

「この場に居ない2人の生徒が少々気がかりでな」

 

 十中八九その2人とは綾小路君と斎藤君だろう。茶柱先生は入学直後から、この2人のことを気にかけていた。

 斎藤君は元から優秀だったけど、分からないのは綾小路君。

 

「……まだはっきりとは分かりませんが、綾小路君……彼は優秀かもしれません」

 

 正直言ってそう疑問に思った理由は今回の作戦だけ。しかし、あの作戦を()()()()()思いついてたとすると、ただの凡愚な生徒とは到底思えない。

 

『この作戦は紡が考えたものだ。オレはその伝達を任されただけ』

 

 そう語る綾小路君の姿が脳裏に浮かぶ。不可解なのはその配役について。

 作戦の内容的に、斎藤君が審議の場に出て、私がCクラスの生徒を騙す方が良いと思っていた。しかし綾小路君が言うには、この配役は斎藤君が指定したものらしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ────その事実が、たまらなく悔しかった。

 

 

 

「そうか、おまえが認めたか」

 

「……驚くことではないのでは? 茶柱先生は最初に彼と私を引き合わせた。綾小路君の持つポテンシャルの高さを見抜いていての行動だったんですよね?」

 

「ポテンシャルの高さか……」

 

「自分の力を隠してバカなフリをするなんて、謎の行動を取っていますが」 

 

 そう、本当に理解不能だ。そんなものに意味があるとは思えない。ただ、綾小路君が私以上に信頼されているという事実がある以上、否定することはできない。

 

「色々と思うところはあるだろうが、お前がAクラスに上がることを目標としているのならば、一つアドバイスを送ってやろう」

 

 怪訝そうに聞き返した私に対し、茶柱先生は続けて語る。

 

「Dクラスは、大なり小なり欠点、不良品の要素を持った人間達が集まりし場所だ」

 

「……認めています。私の欠点も」

 

 今までの私だったら、自分の欠点を認めるなんてことはしなかっただろう……あの夜、斎藤君の前でみっともなく泣いてから、私はスッと肩の荷が下りた。もう、妥協する気も甘える気も一切ない。

 

「なら、綾小路と斎藤の欠点は何だと思う?」

 

 綾小路君の欠点……。そう聞いて、脳裏にすぐ浮かぶものがあった。

 

「それは既に判明しています。彼は自分で欠点を理解しているようでしたし」

 

「ほう? つまり?」

 

「事なかれ主義です、彼は」

 

 今回の件で思わぬ実力があることが判明したが、それを表に出そうとしないのは不良品と言って差し支えないだろう。

 

「事なかれ主義か。普段の綾小路を見てそう感じたのか?」

 

「いえ……。彼が自分自身で、そう言っていましたから」

 

「そうか。では話を変えよう。お前が懇意にしている生徒、斎藤の欠点は何だと思う?」

 

 正直女癖が悪い以外思い浮かばない。

 

「……分かりません。正直言って、全ての点においてAクラス相当の人物だと確信しています」

 

「お前の見立ては当たっている。斎藤は元々Aクラスへ配属される予定の生徒だった。それも他生徒の総合評価に大きく差をつけてな」

 

「ではなぜ?」

 

 私と違って、本当に不当な評価を与えられているらしい。

 茶柱先生は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ呟いた。

 

()()()()()

 

「え?」

 

 聞き間違えだろうと思った私だったが、どうやらそうではないらしい。茶柱先生は手に持ったタブレットを操作し、とある画面を私に見せた。

 

「これは?」

 

「今までの斎藤の経歴だ。2回だけ受けた全国模試は全て1位。この学校の入学試験も、歴史の並べ替えを一問間違えたのみで498点を取っている。運動も言わずもがな、数多の競技で全国大会上位に入っている。このレベルの生徒が何故Dクラスに落とされたと思う?」

 

「……素行が悪かったとか?」

 

 小学校中学校と遊び惚けてきたと本人は語っていたし、それ以外ないと思うのだけど。

 

「そうだ。()()()()()深夜徘徊に金銭を交えた不純異性交遊、パチンコや競馬等のギャンブルが要因となっている」

 

「……それはDクラスに配属されてしかるべきでは?」

 

 予想以上だった。そんなに遊んでたのね、斎藤君。

 

「そう思うだろうが、これらの行為は一度注意を受けた後確認されていない。これだけの能力があり、周りの生徒教師からの評判も良かったと考えるならば、悪くてCクラスが妥当。この判断を下したのは()()()()()()()()()()()()

 

「坂柳……」

 

 よく斎藤君の話に出て来る幼馴染だ。あの子も斎藤君に誑かされた被害者の一人なのだろう。

 

「そしてその娘、坂柳有栖と斎藤紡は幼少期から深い関係にある。これを偶然と捉えるかはお前次第だ」

 

「……何故それを私に話したのでしょうか? 私に彼らをどう扱えと?」

 

 そんな疑問が浮かんでくる。担任としての自覚が薄く、クラスがどうなろうと関係ない。そういうスタンスの茶柱先生が、わざわざ私に話した理由を知りたかった。

 

「今お前がそれを知る必要は無い。現状は掌握できているからな。今は……だが」

 

 そんな意味深な言葉を残し、茶柱先生は部屋を後にした。

 

 

 





皆さまの応援のおかげで、無事第二巻まで完結させることが出来ました!
これからも頑張って更新するので、応援よろしくお願いします!

現時点で公開している原作との乖離点。描写していないところでも細かな変更点があるため箇条書きで。
・堀北が他人と協力を惜しまない程成長している
・綾小路が一巻最初のテンションのまま
・龍園がDクラス、ひいては斎藤に対して好戦的になっている
・須藤、池、山内の成績が上がっている
・Dクラスの結束が上がっている
・DクラスのCPが95(原作では87)

・『Aクラスの派閥争いが終了している(発生していないが正しい)』
・『坂柳有栖の能力値が大幅に強化されている』



紡君がDクラスになった理由を勘ぐる綾小路君でした。

どっちが読みやすい?

  • 会話文一行ずつ開ける(今採用してる方)
  • 会話文は改行しない
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