ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
始まり
実際の所、その選択が正しかったかどうかなんてオレには分からない。
人生なんてそんなものだろう。熱に浮かされ、その場のノリや勢いで間違いを犯すことなんてありふれた話だ。そして最高傑作と呼ばれたオレも例外ではなく、そんなどうしようもない熱に浮かされてしまっている。
『だから、今くらいは楽になっても良いんじゃない? もし君を苦しめる何かが残っているのなら、俺も堀北さんも、それから全力で君を守るよ』
ただ、もし後になってやっておけば良かったと思うなら……その後悔を背負い続けるくらいだったら────
「もしもし、どうしたの綾小路君?」
「少し話したいことがあってな、明日オレの部屋に来てくれないか?」
────オレは、その一時の浅はかな感情に身を任せてみようと思う。
「うおおお! 最高だあああああああ!」
常夏の海。広がる青空。そして澄み切った空気。真夏の猛暑を吹き飛ばすほどの解放感。そんな楽園ともいえる空間に、クラスメイトである池の声が響き渡る。
「凄い眺め! マジ超感動なんだけど!」
船内から姿を見せた軽井沢率いる女子グループが、満面の笑みを浮かべ大海を指さしていた。
いつもならどこからか煩いと文句が飛んできそうなものだが、今日に限ってはそんな意見が出ることもなく、各々が至福のひと時を堪能していた。特等席とも言えるデッキのベストポジションからの眺めは特別なものがあった。
「いやー……無事来れてよかったよ。楽しんでる? 有栖ちゃん」
「ええ。でも良かったのですか? あれだけ貯めていたのに、もう1ポイントも残ってませんよね?」
「いいのいいの。有栖ちゃんとこうして旅行来れただけでも、俺は嬉しいよ」
視界の端では我が大親友の斎藤紡と、協力者である坂柳有栖が乳繰り合っている。全く、この場に堀北がいなくて良かった。へそを曲げたあいつの相手程面倒なものは無い。
そんなことを思っていると、紡は誰かを探すように視線を動かす。誰かを探しているようだ。
「おーい綾小路君! そんなとこ居ないでこっち来いよ!」
どうやらその探し人というのはオレだったらしい。いや、嬉しいけど……あの場に突っ込んで行くのは中々勇気がいる。
「人生初めての旅行なのに、そんな辛気臭い顔してて良いんですか?」
だがそれは杞憂だったらしく、坂柳も歓迎してくれるようだ。これが以前語ってくれた正妻の余裕なのだろう。その後何気なく「他に妻がいるのか?」と聞いたらちょっと怒られた。流石に理不尽だと思う。
苦い思い出を頭の端に追いやり、オレは紡の隣に並ぶ。そこから見える景色に、思わず感嘆の声が漏れてしまう。
「おー」
デッキの真ん中から見る景色もすごかったが、柵まで行くと別格だな。視界一面を青い海が覆っている。
きっとこの景色を心の底から堪能できるのも、あの時勇気を出したおかげだろう。よく頑張った、オレ。
「高校生でこんな体験、早々できたもんじゃないからね。それに、ちょっとした夢だったんだ。こんな感じで友達と旅行行くの」
「私の家族と旅行に行った数多くの思い出、もう忘れてしまったのですか?」
「あれ殆どは俺の大会の応援でしょ? 残り少しは有栖ちゃんが一緒に行きたいってダダこ……「余計なことを言うのはこの足でしょうか?」痛だだだ!」
ニヤニヤとからかうように語る紡だったが、坂柳が杖で小指をグリグリと押し付けたため止まってしまう。口は災いの元とはこの事だろう。
「いっつ……足は喋らないよ? 有栖ちゃん」
「さも私だけ楽しんでた様な言い方は心外です」
……何というか、二人の仲が良すぎて疎外感を感じる。今まではクラスの中か、プライベートで遊ぶくらいだったからな。決して羨ましいとか、もっと小さい頃に出会いたかったなんて思ってな……いや、正直ちょっと羨ましい。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、
「意義ある景色ねぇ……綾小路君」
「ああ。間違いなく何かしらの意図があるだろうな」
他の生徒達は気にした様子もなく楽しみにしている様だ。続々と生徒達が集まり出すと、数分後にその島は姿を現した。
「すげえ! 俺たち今からあれに行くんだよな!?」
池が歓喜の声をあげる。地平線の彼方、視界に小さく島のようなものが視認できた。
生徒たちがそれに気づき、一斉にデッキへと集まり始める。群集が押し寄せると、それまでベストポジションを取っていたオレ達を押しのける横暴な男子生徒たちが現れた。
「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」
「きゃっ!」
威圧しながら男子の一人が見せしめの如くオレの肩を突き飛ばした。何とか手すりを掴んで転倒を避けたが、隣で立って居た坂柳も巻き込まれる形となってしまう。
「……大丈夫かい? 2人とも」
「オレは大丈夫だ。坂柳は?」
「ええ、紡君が支えてくれたので」
その様子を見て男子生徒達が蔑むように笑った。
「テメェ何しやがる!」
須藤が即座に威圧し返し、櫛田は心配した様子でオレの傍に寄ってきた。女の子にフォローされる男子というのは実に情けない格好だろう。
「お前らもこの学校の仕組みは理解してるだろ。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんてない。不良品は不良品らしく大人しくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ」
「何もこの場にいるのは、Dクラスの生徒だけではないのですが? 戸塚君」
「あ……?」
そんなAクラス様の言葉に言い返したのは、先ほど巻き込まれた坂柳。特に感情を表すことなく淡々と告げる。
「さ、坂柳!」
その声に大きく反応したのは、先ほどご高説宣った戸塚と呼ばれた男子生徒ではなく、その後ろにいた金髪の生徒。何故か顔を青ざめているが、そこまで恐ろしい女だと思われているのだろうか。
「チッ、お前ら何ビビってんだよ……それで、葛城さんに負けた女が、どうしてDクラスの生徒と一緒にいるんだ。腹いせに裏切るにしても、こんな不良品どもの集まりじゃ意味ないだろうにな?」
「バ、バカ止めろって! ……悪いな坂柳。そういえば俺たち葛城さんに呼ばれてたんだ。ほら、行くぞ」
他の生徒達に引っ張られる戸塚。意味が分からないが、どうやら俺達の居場所は守られたらしい。
「全く。しっかりと目を付けておけと言ったはずですが……」
「スーッ……助かったよ、有栖ちゃん」
紡が深呼吸をしながら坂柳の頭を撫でている。全く、うっかり手を出さないか心配だったぞ。
「危なかったな」
「流石にあの場で手出すほど子供じゃないよ。須藤君のこと言えなくなっちゃうし」
気が付いていたのはオレと坂柳だけだっただろうが、坂柳を突き飛ばされた上、謝罪もなしにDクラスを不良品呼ばわりしたのだ。表面上は冷静を装っていたが、内心相当キレてただろうな。
「まあ、怪我がなくてよかったよ。2人とも」
────四か月の付き合いで分かったが紡はオレや堀北、そして坂柳等の親しい人間を異常なまでに守ろうとしてくる。それだけ聞くとただの良い奴だと思うんだが、何事にも限度がある。
複雑な感情の為上手く表現することができないが、紡のソレを一言で表すなら『依存』だろう。
『凄い聞きづらいんだが、紡は……どうしてあそこまで親身にしてくれるんだ? 正直かなりの面倒事を持ち込んでいる自覚はあるんだが』
『さあ? 元々子供好きでお節介な方でしたが、綾小路君は随分と入れ込まれているようです。私には及びませんがね』
『……別に張り合うつもりもないが、少し度が過ぎてるとは思わないのか?』
『……元々あそこまで酷くはありませんでした。しかし────』
少し前に坂柳と話した時の会話を思い出す。依存されている理由は分からないと言っていたが、小学一年生からの幼馴染、それも互いに家同士の付き合いだった坂柳が見当もつかないのは少々違和感がある。
ただ助けを求めるだけならそれでも良かった。しかしオレの素性がばれてしまった以上、行動原理が不明な相手を懐に入れるというのは、少しばかり不安が残る。
「ほら! はっきり見えてきたよ2人とも!」
柵に思いっきり体重をかけ、まるで小さな子供の様にはしゃぐ紡。小さなころからの夢と言っていたが、そこまでのものだろうか?
そんなことを思っていると隣に立つ坂柳と目が合った。そしてお互い苦笑いを浮かべ歩き出す。
「はしゃぎすぎですよ、紡君」
「ああ。落ちても助けないぞ」
「え~? 2人ともなんかドライじゃない?」
だが、オレは紡に救いを求め、紡はオレに手を差し伸べてくれた。自分のことを全く教えてくれないのは不公平だと思うが、今はそれでも構わない。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします』
「お別れですね。頑張ってください、二人とも」
「ああ。一仕事してくるよ」
────そう思えるほど、オレにも人間らしさが戻ってきている。今度はそう確信しながら、無人島へ降り立った。
「ではこれより────本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
「やるか、相棒」
「ああ。あの女に目に物見せてやろうぜ?」
現時点で公開している原作との乖離点
・綾小路と坂柳が既に出会っている
レンタル彼氏で稼いだポイントを万一の為の設備代で全部飛ばしたらしいですよ。これには坂柳親子もニッコリ。
どっちが読みやすい?
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会話文一行ずつ開ける(今採用してる方)
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会話文は改行しない