ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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僕はそれを見てニヤニヤします笑


決意

 

 

 

「おい斎藤ーどこまで歩くんだよ?」

 

 ざくざくと葉を踏んで歩く音が聞こえてくる中、そう問いかけてきたのは池君だった。

 

「大体二分くらいで着くかな。もうちょっと辛抱して」

 

 行先告げずに歩いてるから不安なのはわかるけど、俺15㎏のテント持って歩いてんだから少し我慢してほしい。

 

「そうよ! アンタ何にも持ってないんだから黙ってなさいよ!」

 

 そう思ったのは俺だけじゃないらしく、篠原さん含む女子からブーイングが飛んでくる。まあ、二つしかないテントのうち一個は俺で、もう一個は洋介君が持ってるから仕方ないんだけど。

 

「うっせえな……一々噛みついてくんじゃねえよ」

 

「は? アンタがトイレ要らないとか変な事言ってるからでしょ?」

 

 その間にもまた男子と女子で喧嘩が始まろうとしている。ったく、このやり取りもう3回目だぞ。

 

「お! 見えてきたよ。ほら、喧嘩してないで早くいってきな」

 

「見えてきたって何が────おおぉぉぉ!」

 

 茂みを抜けた先にあったのは、澄んだ水が流れる幅10メートルほどの川と、意図的に作られたであろう整備された川沿いの土地だ。

 

「これは……凄いね。ここならベースキャンプにするのに理想的かもしれない。凄いよ紡君!」

 

「でしょ? 多分あそこの岩に埋められている機械が占有する装置だから、早めにリーダー決めてポイント貰っちゃおうぜ」

 

「俺! 下の方まで見てくる!」

 

 そんな言葉と共に走って行った池君。こちらの許可も取らずに行ってしまったため、また女子が文句言うと思ったがそうでもないらしい。

 

「凄い……どうやって見つけたの?」

 

 この場所を手に入れることができた喜びでかき消して余るだろうな。

 

「さっき島を旋回するときのアナウンスがちょっと引っかかってね。一応この島のある程度の構造は頭に入ってるよ」

 

「流石ね。気づきもしなかったわ」

 

 これにはツンデレヒロインもニッコリだろう。

 

「おーい! この川、占有したら下の方まで俺達しか使えないっぽいぞ!」

 

 丁度下流の方から帰ってきた池君がハイテンションで話した。彼が戻ってきた場所を少し見に行ってみると、他に利用できそうな場所には木の立て看板が刺さっていた。

 

「なになに……『スポットに指定されたものであり、許可のない利用を禁ずる』なるほどね。池君の言う通りだ。よし、占有しちゃおっか。もし他のクラスが夜中とかこっそり占有しちゃったら追い出されちゃうし」

 

「お前……意外と怖いこと考えるんだな」

 

 いや、決してやろうとなんて思ってないよ? いやマジで。だからそんな引かないでよ。

 

「確かに、開けた場所にあるから出来ない話でもないね……僕も賛成だよ。肝心なのは、誰をリーダーにするかだね」

 

 そう洋介君と相談し合いながら、俺達は機械が埋め込まれている岩の所まで戻ってきた。

 占有することは確定として、リーダーを誰に据えるかが大きな鍵となる。ここでのミスは命取りになりかねない。誰もがその重役を避けたいと思う中、櫛田さんは皆に集まるように言い、円を作らせると小声で話し出した。

 

「私も色々考えてみたんだけど、平田くんや斎藤くんは嫌でも目立っちゃう。でも、リーダーを任せるなら責任感のある人じゃなきゃダメでしょ? その両方を満たしているのは堀北さんだと思ったんだけど……どうかな?」

 

 お、いいねそれ。どう転んでも堀北さん自身の成長につながるだろうし、周りと合わせる事を覚えてから意外と可愛がられてるから、反発する人もいないだろう。

 ただ一つの懸念事項がある。これはしっかり確認しておかないとな。

 

「俺も賛成だけど。堀北さん、体調大丈夫?」

 

 そう。この子こんな肝心な時に風邪ひいてたんだよね。薬とかしっかり飲ませて看病してたから大丈夫だとは思うけど。

 

「……おかげさまでね。全く、大丈夫って言ってるのに世話焼きなんだから」

 

「堀北さん超可愛かったんだよ! 斎藤君に看病されてるとき顔真っ赤だった「何か言ったかしら?」……いいえ! 何でもありません!」

 

 とまあこんな感じで可愛がられてる。

 須藤君達のためにどれだけ努力したのかを、ツンデレヒロインのあだ名と共に広めまくったらこうなってしまった。でも全然後悔していない。

 

「全く。第一あれは熱があったからであって「はいそこまでー」……」

 

 話がこじれそうだったため、最早お馴染みとなってしまった頬ムニムニで黙らせておく。

 

「じゃあ体調は大丈夫なのね?」

 

「ええ。状況的にも櫛田さんの意見が正しそうだし……なにか意見はあるかしら? 些細な事でも構わないわよ」

 

 昔の彼女だったらクラスメイトからの意見なんて聞きもしなかっただろうに。成長を感じられて本当に喜ばしい。このリーダーの経験を活かしてもっと成長してほしいものだ。

 

「……なさそうね。じゃあ私が務めさせてもらうわ。よろしく」

 

「うん、ありがとう堀北さん! 早速茶柱先生呼んでくるね!」

 

 よし、何とか纏まったな。櫛田さんともそこそこ良好な関係を築けてるようだ。内心どうかは分からんけど。

 そんなことを思っていると、話を終えた堀北さんがちょんちょんと俺の肩を叩いてきた。

 

「ん? どうしたの、堀北さん」

 

「……あなたの幼馴染、Aクラスの坂柳さんで合ってるかしら?」

 

 振り返ると真剣な表情を浮かべていたため心配だったが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。

 

「うん。有栖ちゃんでしょ? それがどうしたの?」

 

やっぱり名前呼び……その、別に嫌だったら構わないのだけど……今回の試験が上手くいったら、私のことも名前で『鈴音』って、呼んでくれないかしら」

 

 俺のジャージを摘みながら、不安げな瞳でこちらを見上げる堀北さん。え? 何この可愛い生き物。破壊力抜群すぎて尊いんだけど。

 脳内が萌えで浸食され思考停止していた俺を見てどう思ったのか、堀北さんは摘まんでいたジャージをスッと離し、俯いて弱々しく呟いた。

 

「……ごめんなさい。突然こんな事を言ってしまって。少し暑さでおかしくなってるのかも知れないわね」

 

 そう言って逃げるように背を向けた堀北さんの手を掴む。……やっちまったな。でもこんな悲しそうな表情見せられたら放っておけんって。

 

「いいよ。頑張ったご褒美がそれでいいなら喜んで。その代わり俺のことも紡くんって呼んでね?」

 

「……分かったわ。く、櫛田さんが呼んでるみたいだし……その、手を離して頂戴」

 

 因みに櫛田さんはさっき茶柱先生を呼びに行ったぞ。耳まで真っ赤になってる彼女にこれを言うのは無粋だろうけど。

 

「ん、おっけー。頑張ってね、堀北さん」

 

「勿論よ」

 

 手を離した途端、逃げるように速足でクラスメイト達の輪の中へ戻って行った。

 俺は、堀北さんを無意識に掴んでしまった右手を広げて、その手のひらをボーっと見つめる。

 

「はぁ。こりゃ……また刺されても文句言えねえな」

 

 マジでクッソ痛かったから刺されるのは勘弁。流石に死に方くらい選ばせてくれ。そのせいで()()()()()()()も残ったままだし。

 

「────オレもこの試験が終わったら清隆って呼んでくれないか?」

 

「ひゃあ!?」

 

 えっ? 何……って綾小路君かよ。

 

「……そんなに驚かなくても良くないか?」

 

「いや、クソビビったわ。忍者モードもういいってホント」

 

 いつもだったら気が付いてたと思うけど、ヘラってるときに来るのはちょっと心臓に悪すぎる。

 

「それで、呼んでくれるのか?」

 

「まだその話する!? いや、全然かまわないけど。とりあえず報告だけよろしくね」

 

「ああ。分かった」

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「マジ? Aクラスのリーダー分かったの?」

 

「ああ。恐らくリーダーは戸塚、俺と坂柳を突き飛ばした生徒だな」

 

 オレは今、猛烈にテンションが上がっている。何故なら、オレの大親友である紡が、オレのことを清隆と呼んでくれることが確定したからだ。こちらが名前で呼んで、紡はオレのことを名字で呼ぶという現状にもどかしさを感じていたからな。グッジョブ堀北。オレからも親愛を込めて鈴音と呼ばせてもらう。

 

「へぇ……彼がね」

 

 そんな冗談は置いておいて、今目の前でおっかない顔をしている紡が、オレを1人で動かしてくれたおかげで様々な情報を得ることができた。

 

「ああ。葛城と弥彦が洞窟を占有するところを目撃した。と言っても、直接その瞬間を見たわけじゃなくて、二人が洞窟を立ち去った後に占有の有無を確認したんだけどな」

 

 その時の状況を改めて説明する。目撃の瞬間、入り口に立つ葛城がカードを持っていたこと、奥から出てきた弥彦が合流して立ち去ったことも。

 

「あー、なるほどね。おっけ、一応裏は取るけど、リーダーは戸塚君で確定だろうね」

 

 そう。予め坂柳から得た情報を基に考えると、カードを持っていた葛城がリーダーであるというのはありえない。

 洞窟を見つけたとき、葛城は当然占有などするつもりはなかったはずだ。にも拘らず押さえていたのは、迂闊にも弥彦が占有してしまったことが原因だろう。まだ誰にも見られていないとは思いつつも、ヤツは保険を打った。自らがカードを持って周辺に姿を見せることで、万が一目撃者が居てもリーダーを誤認させられると踏んだのだ。

 

「占有はリーダーカードがあったとしても、()()()()()()()()()()()()()()。指紋や虹彩等の生体情報で判別するのかは分からないけど……大手柄だよ綾小路君。これは面白くなりそうだ」

 

 紡はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。全く、戸塚も運が無いな。ただ突き飛ばしただけじゃなく、()()()()()()()()()()

 

「後は他のクラスの動向を確認してからだね。どうだった? それも見れた?」

 

「ああ。Aクラスはさっきも言ったが、かなり保守的な動きをするはずだ。実際にその判断は間違っていない」

 

 これが仮に坂柳の派閥と葛城の派閥に別れていたのであれば、また話は変わってくるのだろう。

 だが一つ下のBクラスでさえも300近いポイントの差が開いている現状、博打を打ってリーダーを的中させられたら目も当てられない。それにAクラスが占領した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、ここら一帯を一週間占領するだけでも60近くの占領ポイントが貰えるということ。

 

「間違いなくAクラスがリーダー当てをすることはないだろうね。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「オレも同じ結論だ。そしてきな臭いのはCクラスだな。葛城は分かりやすいタイプだったが、龍園に関しては全くの未知数。あいつがお利口に一週間を過ごすビジョンが浮かばない」

 

「彼がやりそうな暴力行為、略奪行為はバレたら大きなペナルティを受ける。だがそれで止まるようなタマじゃないだろうね。なんせ須藤君の件もあるし、こちらの監視カメラ+ボイスレコーダーの作戦にも感づいてた。こういう土俵なら有栖ちゃんレベルのポテンシャルがあってもおかしくない」

 

 ボイスレコーダーというと、監視カメラの存在を教えた時の石崎達の反応を撮ったものだろうな。

 あのままカメラが偽物だとバレても、その音声を提出することでこちらの勝ちは確定となるという作戦だった。恐らくオレの落ち着きようを見て、撮られていると気が付いたのだろうが、あの状況でそこまで頭が回る相手は厄介だ。

 

 ……あの女の機嫌を損ねれば、最悪退学だ。負けるなんてことはありえないだろうが、万一の時もある。

 そんな不安を抱いていたオレだったが、その不安も紡の表情を見たことで吹き飛んでしまった。好戦的な笑みを浮かべた紡は、オレに発破をかけるように力強く語った。

 

「どんなに相手が強かったとしても、俺達のやるべきことは変わらないよ綾小路くん。逆に考えてみてよ。俺達が負けるなんてあり得ると思う?

 

「……はっ。そうだな」

 

 何をネガティブになっているんだ、オレは?

 今の俺は1人じゃない。紡や坂柳がいるし、今でこそ実力不足だが成長を続けている堀北だっているんだ。そんなオレ達が負ける? あり得ない。

 

「俺に名前で呼んで欲しいんだろ綾小路君。だったら余計な雑念は捨てて、目の前の障害を排除する事だけを考えるんだ」

 

 恐らく来年にもなれば、オレの『後輩』がオレを退学させようとやって来るだろう。その時は一個上の先輩として『友達は良いものだ』と言ってやろうじゃないか。

 

 

 

「────斎藤ー! 大変だ! 龍園が、龍園の奴がお前を出せって!」

 

 遠くから紡を呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。

 

「早速行動に出たみたいだね。さて、お呼びのようだから先行くよ綾小路君」

 

「ああ。頼んだぞ」

 

 

 

 ────俺は人生初めてのグータッチに少しだけ高揚感を感じながら、顔も知らぬ後輩達に向けてそう決意した。

 





同じ境遇の後輩を心配するほど、心に余裕ができている綾小路君でした。

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