ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
面白いと思ったり、良いと思った文にはここすき機能を使ってみてください!
「ちょっと男子。集まってもらえる?」
5日目の早朝。深い眠りについていると、テントの外から不機嫌な様子の女子達の声が聞こえて来た。
その一言で終わることなく、早く起きろだの出てこいなど、さながら立てこもり犯の様な扱いをされている。ただ事ではないと思った俺は、眠い目をこすりながらテントの外に出た。
「どうした? 何かあったの?」
隣のテントからは洋介も出てきている。俺達の顔を見て、それまで般若のごとく眉に皺を寄せていた篠原さんが、幾分かマシな表情へと戻る。
「2人とも……悪いけど、男子全員起こして貰っていい? 大変なの」
しかし、彼女がその強い口調を改めることは無かった。
「ん、じゃ洋介君そっちお願いね」
「分かった。今声をかけるから、少し待ってて」
俺達が声をかけてから1、2分ほどして、男子たちが眠そうな目を擦りながらテントを出て来た。
寝ぼけていた男子達だったが、テントの外で集まる女子を見て初めて只ならぬ状況を察知する。
「こんな朝早くからどうしたんだい?」
「モーニングコールにしては、ちょっとばかし過激だと思うな」
そんな俺の冗談にも、女子達の表情が和らぐことは無い。
「ごめんね二人とも。平田君と斎藤君には関係のない話なの……でも、どうしても確認しなきゃならないことがあるから集めたの」
篠原さんは俺と洋介君を除く全員に対し、侮辱を込めた目でこう言葉を浴びせた。
「今朝、その……軽井沢さんの下着がなくなってたの。それがどういう意味か分かる?」
うわ、マジかよ。
「え……下着が……?」
流石にインパクトが大きかったのか、いつも冷静な洋介君も言葉を失っている。
そう言えば軽井沢さんと一部の女子の姿が見えない。
「今、軽井沢さん、テントの中で泣いてる。櫛田さんたちが慰めてるけど……」
そう言って、女子のテントを見る篠原さん。
「え? え? なに、なんで下着がなくなったことで俺たち睨まれてんの?」
「そんなの決まってるでしょ。夜中にこの中の誰かが鞄を漁って盗んだんでしょ。荷物は外に置いてあったんだから盗ろうと思えば盗れたわけだしね!」
その言葉に、緩和していた男子の間に緊張が走る。一斉に顔を見合わせた後、抗議するようにざわめき出した。
「いやいやいやいや!? え!? え!?」
池君は大慌てで男子と女子を交互に見やる。その様子を見た男子が、冷静な声で呟いた。
「そういや池、おまえ昨日……遅くにトイレに行ったよな。結構時間かかってたし」
「いやいやいや! あれは、その、暗かったから苦労したんだよ!」
「ほんとかよ。軽井沢の下着盗んだのおまえじゃないの」
「ば、違うって! そんなことしねえよ!」
日ごろの行いが出ているのか、真っ先に疑われる池君だった。
……さて、面倒なことをしてくれたな。どうやって収めようか。
「とにかく。これ、凄く大問題だと思うんだけど? 下着泥棒がいる人たちと同じ場所でキャンプ生活するなんて不可能でしょ」
篠原さんの話は最もである。
「因みに無くしたとかっていう可能性は……まあ無いだろうね。ちゃんと探したんでしょ?」
「うん。だから、何とかして犯人を見つけてもらえないかな? ……私は男子の中の誰かが盗んだと思ってる。でも男子全員が悪い訳じゃないし、あと二日残りの人で頑張りたいの」
その感情の大半は怒りだったが、その中には悲しみやショックが見て取れる。
一丸となって試験に取り組んでいた中、あと二日というところで裏切られたのだ。盗まれた軽井沢さんはもちろん、他の女子達の精神的ショックは計り知れないだろう。
「それは───でも、男子が盗ったって証拠はないんじゃ……僕はこの中に犯人がいるとは思いたくないよ」
「そうだそうだ! 俺たちは無関係だ!」
やってない人からしたらとばっちりだと思うだろう。しかし、その反応をしても女子達の不信感が増すばかりだ。
「だったら手荷物検査させてよ。盗んでないなら問題ないでしょ?」
「よし。じゃあ俺がまず持ってくるよ」
その言葉と同時に俺は潔白を証明するため、自身の荷物がある場所へと足を運んだ。
荷物はテントの外側に置いてあるため、もし俺が盗んで入れてたとしても隠すことはできない、そんな狙いもあった。そして何より、信頼されているならそれに答えなくてはならないだろう。
「おい! 断れって斎藤!」
「この状況で俺らが疑われるのはしょうがないよ。盗んでないって胸を張って言えるなら、コソコソしないで応じるのが得策だと思うよ」
池君の怒号にも屈せず言い返す。そして俺は自身の荷物が置かれている場所に到達すると、皆の視線を背中に感じながら、埋もれていた荷物を取り出す……ッチ、なるほどな。嫌な事してくれるぜ、ホント。
「あったよ。はい、篠原さん。皆が見てる前だから、隠したりできないし。ちゃっちゃと俺の潔白を証明しちゃおっか」
「うん! 別に、そんなことしなくても元々疑ってないけど」
俺は、
「じゃあ開けるね! 全く、アンタ達のせいで斎藤君がこんなこと……──────えっ?」
……はぁ、やっぱりな。
ブツブツと文句を言いながら俺のバックを開けた篠原さん。しかし、彼女の予想とは全く違うことが起きたんだろう。覗き込んだ状態で立ち尽くしてしまっている。
「ん? どうしたの篠原さ……「ど、どういう事? 斎藤君」え?」
よし……落ち着け。今後の展開は確定したんだ。まずは
篠原さんが震える手で俺のバックから取り出したのは、明らかに女性用と思われるかわいい下着だった。ピンクか、いい趣味してるね。
「は……?」
「────何で、軽井沢さんの下着が、斎藤君のバックから出てくんのよ!」
絶対龍園君の指示だろ。裏でニヤニヤしてんのが容易に想像つくわ……マジで一発ぶん殴ってやろうかな。
篠原さんは、何故か俺じゃなく後ろで絶句している男子達に向かって言い放った。
「ちょ、ちょっと待てよ! 絶対おかしいだろ! 斎藤が盗んだとして、何で隠そうともせず手荷物検査受けたんだ!?」
「だな。馬鹿な俺でも開けてすぐのとこになんて入れないぜ」
池君が手を振りながら大声で訴え、須藤君も援護してくれた。やっべぇ……ここで俺を犯人って事にした方が楽なのに、庇ってくれる信頼が暖かすぎる。
「え? 斎藤のバックから出てきたんだったら、斎藤が犯人なんじゃねえの? コイツ女好きだし別に変じゃねえだろ」
そんな彼らと対照的なのは山内君。コイツ……後で覚えとけよマジで。
「アンタは黙ってて! ねぇ、こんなの絶対おかしいって。アンタが斎藤君に罪を着せたんじゃないの!?」
「はぁ!? んで俺が犯人になってんだよ! 斎藤のバックから出てきたんだから、斎藤が犯人でいいじゃねえかよ」
ほら言わんこっちゃない。思考が短絡的すぎるんだよ。
そこから男女での言い争いに発展する中、その喧騒を止めたのは堀北さんだった。
「少しいいかしら。この下着泥棒の件、私は斎藤君ではないと思うのだけど」
「だから、今その話し合いをしてるんじゃねえかよ」
「話し合い? お互い感情的になって互いに罵り合う行動の、どこが話し合いと言えるのかしら」
……口調が入学当初に戻っている。これ……怒ってるな。確実に。
「まず、何故山内君は斎藤君が犯人だと思うのかしら。その根拠を教えてほしいわ」
「根拠って……犯人の鞄から出てくるのが普通なんじゃねえのか?」
その矛先は、俺が犯人だと高々に言い放つ山内君へ。さも当然と言った様子で語る山内君だったが、堀北さんはそうは思わないようだ。
「女子の下着が盗まれたとなると、発覚後に男子の手荷物検査が行われるのは容易に想像がつく。仮に斎藤君が盗んだとして、バッグに入れっぱなしだなんて、そんな頭の悪い行動するわけないでしょ」
「そ、そんなこと分かんねえじゃねえかよ! 斎藤が欲を抑えきれなくてバカになってた可能性もあるだろっ」
……何でこいつがこんなに俺の事疑うか分かったわ。絶対モテてる俺に嫉妬して、俺の地位を落とそうとしてんだな? この前綾小路君に似たようなこと言ってたって聞いたし。
でもそれ絶対悪手だと思うんだよね。ほら、堀北さんガチギレしてるって。
「……話にならないわね。私的には、篠原さんの言う通り他に盗んだ人が斎藤君に濡れ衣を着せたと思っているのだけど」
「だよね! 絶対他の男子がやったよね!」
「そうとも限らないわよ篠原さん。Dクラスのかく乱を目的に、他のクラスがこっそり夜中に仕掛けた可能性も否定できないわ」
そうなってくると議論は振り出しに戻る。これ以上話してても悪化するだけだろうし、ひとまずここは俺が人柱になろう。
先ほどからずっと黙っていたためか、何人か心配そうにこちらを見ている。俺はそんな彼らに苦笑いを向けた後、言い争っている皆の前に立ち切り出す。
「皆、一つ提案があるんだ」
「……何かしら。斎藤君」
堀北さんが、不安そうに瞳を揺らしてこちらを見つめてきた。俺はそんな彼女の頭をポンポンと撫でると、弱々しい演技を心掛けつつ続けて語る。
「まず最初に、俺は誓ってやってない。でも、証拠となりうる下着も俺のバックから出てきてしまったし、話し合っても真犯人を特定することは不可能だろう」
「じゃあ……どうするの?」
そう問いかけてきたのは篠原さん。
「ひとまずあと2日。酷な話だとは思うけど、皆にはそのまま試験を続けてほしい。────その代わりとして、俺は今日と明日、点呼以外でこのキャンプ地に一切立ち寄らないことを約束する」
「……絶対おかしいわ。そもそも犯人じゃない人間を追い出して、一体何が解決するのかしら」
「だからとりあえずなんだ。試験が終わればいくらでも調べられるだろうし、俺が犯人だって思ってる人も、それで納得するでしょ?」
堀北さんの言う通り、実際は何の解決にもならない。
しかし、『犯人ではない人間を追い出した』という罪悪感が残ることにより、ひとまず彼らが争うことは無くなるだろう。……最低な作戦だが、あと二日の辛抱だ。ここまでの努力を水の泡にはしたくない。
────それに、最も警戒されているであろう俺が居なくなれば、油断した龍園君の相手を綾小路君に任せられる。
「でも……」
「大丈夫だって。俺サバイバル得意だし、リタイアすることは無いから。じゃ、早速準備しないとね。食べ物だけちょっと分けて貰えると凄い助かるんだけど……ダメかな?」
反対する声を押し切って、俺はその場を後にした。
「────後は頼んだよ。洋介君」
俺がやっていた事の引継ぎを終え、俯いている洋介君の肩に手をポンと乗せ語る。彼には負担を掛けることになるが、こればっかりはどうしようもない。
「……やっぱり駄目だよこんな事。僕から言って、もう一度許してもらえるか話して「洋介君」……」
未練がましく止めて来る洋介君に少しだけイラっと来た俺は、彼の言葉を途中で遮る。
「甘ったれた事を言うな。下着泥棒の疑いが掛かってる俺と、被害者である君の彼女を同じ場所で過ごさせるのかい?」
状況的にありえないだけであって、それを今の軽井沢さんに納得させるのは酷な話だろう。公平性を謳う彼の方針は嫌いじゃないが、優先すべきものが何なのかを考えて欲しいものだ。
「それは……」
それでも納得しない洋介君……しょうがないな。これはあまり言いたくなかったんだが。
背に腹は代えられないと思った俺は、周りに聞こえないように洋介君に耳打ちをした。
「
「えっ……」
驚いて声を上げようとした為、彼の口を手で押さえつける。
「下着泥棒の犯人はほぼ彼女で確定だ。大方警戒すべき俺の影響力を落とすのが目的だろう」
「だったら猶更! 「大丈夫。俺を信じろ」……信じていいんだね?」
「ああ。くれぐれも他の人には悟られないように頼むよ」
数秒ほど悩んだ後、洋介君は小さくうなずいた。
「良い返事だ。じゃ、後は頼んだよ」
少しだけ恰好付けながら、俺はDクラスのベースキャンプ地を後にした。
「────って事で、ご飯分けてくれない? 神室さん」
「……」
────まぁ。女の子に集るのはやめないけどね。ヒモだし、俺。
因みに彼の計画的に、1人で動く方が都合が良かったりします。綾小路君にDクラスを任せられると判断しての行動ですね。
バックを開く前から仕掛けられた事に気が付けた理由は、後々明らかにする予定です。
次の更新は明後日です!気長にお待ちください!
どっちが読みやすい?
-
会話文一行ずつ開ける(今採用してる方)
-
会話文は改行しない