ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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始動

 

 

 

「……それで? あんたは誰かに着せられた下着泥棒の罪を償うため、わざわざ1人でサバイバルをするって事なの?」

 

 時刻は朝の9時ごろ。皆が朝食と点呼を済ませた頃合いだろう。そんな中各クラスのベースキャンプ地から離れた森の中で、神室さんの呆れたような声が聞こえてくる。

 俺は切り株の上に腰掛けながら、目の前で不機嫌そうに腕を組んでいる神室さんに弁明を行った。

 

「んー……厳密には違うかな。一つは軽井沢さんの心理的負担を減らすためだね。いくら冤罪の可能性が高いとはいえ、流石に気まずいだろうし」

 

「だったらBクラスとかに行けばいいんじゃない。同盟関係なんだし」

 

 そんな正論を言われてしまったが、実際一人の方がやりやすいことだってあるのだ。

 

「まあ……それは後にわかるよ。どう? 坂柳派の皆は上手くやれてる?」

 

 ここで説明する意味はないため、2日目に指示しておいたことについての確認を取る。

 あの閉鎖空間で3日。複数人から()()()()()を言われ続けているのだ。流石に我慢の限界が来るだろう。

 

「ええ。今の所はね。でもどうしてわざわざ戸塚の奴に『お前は威張ってる割に何もしていない葛城の腰巾着だ』って言わなきゃいけないの? 正直に言って雰囲気悪いから嫌なんだけど」

 

 そう。俺が指示したのは、戸塚君の有り余るプライドを刺激する事。神室さんの口調からするに、上手い具合に荒れてくれているらしい。

 

「そうだね……じゃあそれも今日で終わりにしよっか。最後に大仕事受けてもらう予定なんだけど、大丈夫かな?」

 

「……はぁ。ここまで来て辞めますなんて言えるわけないじゃない。そういう所なんじゃない? 良くない噂が立ってる理由」

 

 失礼な。アレは龍園君の嫌がらせだって認められたじゃないか! 

 

「誰が認めたのよ……で、私は何をすればいいわけ?」

 

 そう言って渋々と言った感じで右手を差し出してくる神室さん。しかし、その表情を見れば頼られて喜んでいるのは目に見えて分かる。どんな形であれ、他人から求められることが癖になってるのだろう。

 俺はそんな可愛い神室さんの右手に、初デートの時と同じように指を絡める。おお、見る見るうちに顔が赤くなった。ウブだねぇ~。

 

「もし上手くいったら、この前の時みたいにデートしてあげる。もちろん俺の奢りだし、忘れられない思い出も作ってあげるよ?」

 

 因みにこの金は有栖ちゃんの財布から出るものとする。

 左腕で抱き寄せながら、耳元で囁いてあげたらウブな神室さんはイチコロだ。

 

「わ、分かったから……! 早く何するか教えなさい!」

 

「その意気だよ神室さん。じゃあまずはこのメモを見て欲しいんだけど」

 

 そう言うと、予め必要な情報を記入しておいたメモを彼女に渡す。

 

「これは……島全体の地図?」

 

「そう。その地図には、俺と綾小路君が一日かけて作った島の外形と、その中にある十か所近くのスポットの位置。そして大きく丸付けた所は、各クラスのベースキャンプとそこから予想される活動範囲だね」

 

「……よくやるわね。こんな事」

 

 感心したように呟く神室さん。どのクラスも喉から手が出るほど欲しい情報のはずだ。

 

「そして今回神室さんにやってもらうのは────」

 

 一通り説明を終え顔を上げると、神室さんの表情には驚きと畏怖が混じった感情が浮かんでいた。

 

「本気なの? バレた時のペナルティだって大きいし、何より私が上手くやれる保証だってないじゃない」

 

「大丈夫。俺は神室さんを信じてるからね」

 

 もう一度神室さんの手を取りその瞳を見つめる。

 

「……分かった。でも、あんまり期待しすぎないで」

 

 顔赤くしながら言っても説得力ないよ? 神室さん。

 

「ありがとう! さて、女の子を傷つける悪い奴には、それ相応の罰を下さないとね♪」

 

……絶対あんたが言っちゃいけないセリフだと思う

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「ちょっと集まってもらえるかな」 

 

 テントから出ると、平田から集合がかかる。程なくしてクラス全員が集まった。 

 そしてそこには目を真っ赤に腫らしながらも、怒りに震える軽井沢の姿があった。

 

「男子は信用できない。このまま同じ空間で過ごすなんて絶対無理……!」

 

「でも、男女で離れて生活するのはちょっと問題じゃないかな……。斎藤君も言ってたし、試験はもう少しで終わる。だからこそ、僕たちは仲間なんだから信じ合い、協力し合わないと」

 

「……それは、そうだけど。でも下着泥棒と一緒の場所なんて耐えられない! そもそも何で平田君は斎藤君の話を聞こうとしてるの……?」

 

 意外だったのが軽井沢の反応だ。紡のバックから彼女の下着が出てきた時、本当に紡を疑っていたのは、山内含む紡と関係性の薄い男女数人のみだった。その為軽井沢も紡を犯人だと断定するはずないと思っていたのだが……

 

 

 

『嘘でしょ……? 斎藤君が犯人なの?』

 

『いや、だから冤罪の可能性が『信じらんない!? やっぱ噂通りだったじゃん!』軽井沢さん……』

 

『斎藤君ならやらないって信じてたのに……ここから離れるって言ったのも、どうせ逃げるためなんでしょ!?』

 

 

 

 そんなやり取りがつい数十分前に行われていた。紡は荷物を纏めていなかった為その場にはいなかったが、恐らく彼は軽井沢の反応をある程度予想していたのだろう。

 何故かは分からないが、紡は軽井沢に大層嫌われているらしい。紡から直接そう聞くまで、そんな雰囲気は微塵も感じなかったが。

 

「だから斎藤が犯人な訳ないって、何回言えば分かるんだよ! この話はひとまず置いといて、あと二日頑張ろうっていう話だろ!?」

 

「意味わかんない……何で盗んだ奴を庇うのよ! ホントに盗んでなかったらもっと違うって言うはずでしょ!?」

 

 そんな軽井沢の発言に言い返したのは、紡が疑われた時に真っ先に庇った池だった。

 ……今の軽井沢に何を言っても無駄だろうな。恐らくだが、彼女は『加害者である紡が庇われて、被害者である軽井沢が我慢するように言われている』この現状に不満を抱いているのだろう。

 

「いい加減にしろ軽井沢。下着を盗まれたことには心底同情するが、証拠となる現物が斎藤のバックから出てきた時点で、現段階で犯人を見つけることは不可能と言ったはずだぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()お前のために、俺達が迷惑被るのはごめんだぞ」

 

 そう。ここまで話がこじれているのは、この試験……いや、それ以前からの軽井沢へのヘイトが高かったことにあるだろう。

 たった今幸村が言った通り、軽井沢は篠原たちと比べてクラスに貢献するような行動をしてこなかった。

 

 ────しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は? 何被害者ぶってるの? そもそもアンタ達の誰かが軽井沢さんの下着を盗んで、斎藤君に罪を着せたのは変わらないじゃない!」

 

 幸村の言い方が悪かったのか、今度は篠原が声を荒げる。

『紡の意向を汲み取ろうとする池や、幸村含む男子』

『プライドから紡を犯人だと決めつけている軽井沢』

『あくまで他の男子が犯人だと信じている篠原含む女子』と、三つ巴の争いが発展している。

 

「私たちは犯人が男子だと思ってる。だからここに線引きして男子と女子でエリアを分けてよ。男子はこっち側には絶対立ち入り禁止にするの」 

 

 篠原はそう言って生活スペースを区画で分ける提案をする。

 

「……斎藤の犠牲は無駄って事かよ」

 

「うっさい。下着泥棒の罪を斎藤君に擦り付けた最低野郎と、一緒に住めるわけないでしょ」

 

 あれだけ一致団結していたDクラスは、顔の見えない一人の生徒によって、バラバラに崩されてしまった。

 

 

 

 

 

 あの後結局男女のテントを分けることになり、運ぶ依頼をされたのはオレと平田。「親友の斎藤君にあんな事されたらムカつくよね……私達も仲間だよ」とか女子に言われてしまった。クラス共通の親友判定は嬉しいが、男子の視線がすごく気まずいことになっている。

 

「……災難だったな。アンタも」

 

「伊吹か。まあ、一番辛いのは紡だと思うぞ」

 

「……そっか」

 

 炎天下の中作業を行っていると、伊吹が話しかけてきた。二日前あれだけバカ騒ぎをした後でこれだと、彼女も思うところがあるのだろう。

 

「今朝の下着泥棒の件、何て言うか大変そうだな。斎藤のバックに入れた奴がバカなんじゃないのかって、正直思った」

 

「まあ、な。濡れ衣を着せるなら池辺りが最適だろうに。理解が出来ない」

 

 ……別に池が嫌いってわけではない事を補足しておく。

 純粋な疑問を口にしただけだが、伊吹にはオレが怒っているように見えたのだろう。気まずそう……いや、これはまた『別の感情』を浮かべている。

 

「犯人に心当たりはないのか」

 

「今のところは全く。オレとしては、極力男子は疑いたくない」

 

「じゃあ誰が犯人だと思うんだ?」

 

 試しているかのような、そんな問いかけだった。オレは真横に立つ伊吹の様子を横目で窺うが、こちらを向くことなく回答を待っていた。それでも答えずにいると、伊吹は言う。

 

「おまえの言うように男子が犯人じゃなかったとしたら、次に疑われるのはよそ者の私。疑う声だって絶対に出たはずだ。斎藤が下着を盗んだように見せかけたのかもって。違う?」

 

「少なくともオレは信用するかな。おまえが犯人とは思えない」 

 

 そう迷わず伊吹に対して答えていた。少し驚きオレの目を見てくる。それが真実かを確かめているかのようだった。オレが視線を合わせると、伊吹は()()()()()()小さく呟いた。

 

「……ありがと。そんな風に言ってくれて」

 

「お前も紡と話してみてわかっただろ。あいつは天性の女たらしだ。しかもそれを嫌味に感じさせない爽やかさがある。そんなアイツのバックから出てきても、だれも犯人だとは思わないだろ? 大方Aクラスで紡の事を知らない誰かが、夜中にコッソリやったんじゃないかと思ってる」

 

「確かにあり得るな。それとちょっと早口になるのやめろ、キモイから」

 

 ……女子にキモイと言われると、ここまでショックを受けるものなのか。

 

「……まあ。俺の予想が合ってたなら、結果として最悪だな。『真犯人が他クラスの生徒だと教える代わりに、Dクラスのリーダー情報を教えろ』とか言われたら、俺は喜んで教えるだろうな。今後クラス間闘争をする上で、紡は欠かせない戦力だ」

 

「……そんなに大事にされてるんだ」

 

「ああ。オレだけじゃなく堀北や平田も、紡が潔白だと証明できるなら50ポイントくらい喜んで差し出すと思うぞ」

 

 そう言うと、伊吹は驚いたように目を見開いた。さて、食いついて来るかどうか……

 

「そう、なのか。ありがとう。私はもう行くよ」

 

 伊吹はさぞ驚いているだろう。

 

 

 

 ────池のバッグに入れた下着が、紡のバックから出てきたんだからな。

 

 

 

「ハッ……最低なのは変わらずか……これで嫌われたら世話ないな」

 

 

 




 軽井沢が斎藤を嫌う理由は、同族嫌悪と嫉妬です。それにプラスして何故か皆が斎藤を守ろうとする流れだったため怒ってます。
 そして斎藤に罪を着せた男子にキレてる篠原筆頭とした女子。
 最後に斎藤の犠牲を無駄にした女子にキレてる男子。
 書いてて思いましたが、想像以上に地獄ですね笑

 
https://twitter.com/Tokumeikiboussh
Twitter始めました。ほとんど初めてなので不備があったら教えてください。

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