ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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怒り

 

 

 

「……どこまで行くつもりかしら?」

 

 私ははやる気持ちを目の前を歩く伊吹さんにぶつけるようにして問いかけた。

 

「うるさい。少しは余裕をもったらどうなの?」

 

 しかし、帰ってきたのは呆れを含んだ視線と言葉。確かにこのやり取りも三回目だが、それも仕方のないことだと思う。

 強くなってきた雨や、雨雲によって辺りが暗くなってきていることも焦りを生む理由だったが、何より私は彼女に言われたことが気になって仕方がなかった。

 

『斎藤の無実を証明したかったら、何も言わず今すぐ私について来い』

 

 斎藤君の無実というと、間違いなく下着泥棒の件だろう。伊吹さんが怪しいとは思っていたが、一体なぜこのタイミングで接触をしてきたのか、それが分からなかった。

 

「……そうね」

 

 辺りにはザーザーとした雨音だけが鳴り響いている。失敗ね……ここまで雨が強くなるなら、何か上に着るものを持ってくればよかったわ。

 

 

 

 それから数分ほど歩いた後、伊吹さんはおもむろに辺りを見渡して立ち止まった。

 

「ここなら誰にも見られることは無いな」

 

「本題に入りましょう。伊吹さん、あなたの狙いは何?」

 

 Dクラスのベースキャンプ地から遠く離れた場所で、他クラスの生徒と2人きりの状況は余りよろしくないだろう。

 

「はっ、そんなに斎藤の事が大事かよ……まあいいや」

 

 そう言って伊吹さんは、真剣な表情でこちらを見つめてきた。

 

「私からの要求は1つ。アンタが今持っているリーダーカードを私に渡すこと。その代わりに下着泥棒の件は私がやったとDの奴らに伝える」

 

「……呆れたわ。そんな要求を飲むとでも?」

 

「斎藤の奴が居なくなって2日。あんたも気が付いてるだろ? D()()()()()()()()()()()()()()()()()……もし盗まれたのが別の奴だったとしたら、アイツは上手くクラスを纏められたと思うぞ」

 

 半ば確信したように問いかけて来る伊吹さん。一瞬訝し気な表情を見せたが、すぐに元通りの勝気な表情へと戻った。

 

「そうね。でもその話と私が取引に応じることに、一体何の関係があるのかしら?」

 

「まだ分からないのか? このまま斎藤の身の潔白を証明できなかった場合、間違いなく軽井沢の不満が爆発する。女子に大きな影響力を持つアイツがそんな状態で、Aクラスを目指すことなんてできるのか?」

 

 イライラした様子で語る伊吹さん。

 

「随分と饒舌ね伊吹さん。あなたも薄々気が付いてるんじゃないかしら。この状況が長引けば不利になるのはあなただって」

 

 今でこそ火事で皆の注意が逸らされているが、消火を終えたら私と伊吹さんが居なくなってることに気が付くはずだ。

 

「意外と冷静だな? 斎藤の無実を証明できるいい機会だってのに。たかが50ポイントだろ?」

 

「初日で全員がリタイアするようなクラスの生徒には分からないでしょうけど、この50ポイントを貯めるために皆がどれだけ努力をしたと思っているのかしら? 皆不満はあれど、同じ目標に向かって努力をしているの。それを私個人の感情で無に帰すのは許されない」

 

 私が取引に応じる可能性が無いと確信したのか。その瞬間伊吹さんは手に持った鞄を地面へ置いた。

 

「……どういうつもりかしら?」

 

「やめだやめ。万全のお前に舌戦で敵うはずもないし」

 

「そう。なら大人しく……ッ!?」

 

 私が引き返そうとした瞬間、伊吹さんの細い足が私の顔に向け放たれた。

 ……危なかったわ。警戒しておいて正解だったわね。

 私ギリギリで後方に逸らして躱すと、跳ねた泥が私の両腕と手に付着した。

 

「へえ。やるじゃん」

 

「暴力行為は即失格よ」

 

「こんな場所で誰が見てるって言うんだか。それにおまえもムカついてるだろ? 愛しの斎藤に濡れ衣を着せた女が目の前にいるんだから……なっ!」

 

 その言葉と同時に、伊吹さんは上体を低くしてタックルを仕掛けて来る。踏ん張りのきかないこの場所では最適の攻撃方法だろう。だが、本気でかかってくるのなら私も容赦はしない。

 私は彼女の顔面に蹴りを放つ。まさか急所を狙って来るとは思わなかったのか、伊吹さんは軌道を横に逸らして受け身を取った。

 看病をしてくれた斎藤君に感謝しないといけないわね。風邪をこじらせた状態で勝てる相手ではない。

 

「チッ……意外と動けるじゃない。何か習ってた?」

 

「ピアノと書道なら」

 

 何処かの事なかれ主義者の言葉を引用させてもらう。

 本当は……彼と斎藤君が裏で何かをしていた事なんて分かっている。私がそこに入れてもらえないのは、単に実力が不足していると言うことも重々承知だ。

 ────だから、リーダーを任された時は本当に嬉しかった。自分に出来ることを精一杯やろうと固く誓った。

 

「いい加減……持っているキーカードを渡せ!」

 

 段々とぬかるんできた地面ではお得意の蹴り技が難しいと判断したのか、伊吹さんは拳を顔の横に構え距離を詰めてくる。

 顔面や腹部を狙った連撃を手で払いながら、バランスを崩した彼女の腹部に膝蹴りを入れる。

 

「はっ……! っぐ」

 

「私が攻撃を躊躇うかと思ったかしら? 残念だけど、今の私は1人で戦ってるわけじゃないの」

 

 油断していた中での一撃。呼吸が出来なくなったのか、伊吹さんはその場で膝をつき涙目でこちらを睨んでくる。

 

「……はぁ、はぁ……全く。どうしてCクラスはこうも気性が荒い生徒ばかりなのかしら」

 

「ぐっ……っクソ。まさか、ここまでとは……」

 

 荒くなった呼吸を整えていると、伊吹さんは生まれたての小鹿の様に足を震わせながらもなんとか立ち上がる。

 

「あなた、ここ一週間ロクに食べてないでしょう? 律儀なのか横暴なのか分からないけど、その状態で私に勝つのは不可能よ」

 

 そんな彼女の姿が哀れに見え指摘すると、予想に反して彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言い返してきた。

 

「ふっ……そうだな。確かに、この勝負は私の負けみたいだ。だが、あんたは決定的なミスを犯した」

 

「? ……何を言って」

 

 その瞬間、全く警戒していなかった方向から後頭部へと鈍い衝撃が走る。

 

「ガッ……!?」

 

 脳が揺れたのか、吹き飛ぶ体を抑える事すらできず、私は地面へと倒れた。上手く動かない顔を必死に動かし、横目でその姿を確認する。

 

「あれだけ啖呵をきっておいて、なにサラッと負けてんだ伊吹」

 

「……別に、負けてないんだけど」

 

 ────そこには、泥だらけのジャージに身を包んだ龍園君の姿があった。

 

「龍、園くん……?」

 

 どうして彼が居るのか、今までどうやって生活していたのか、目的は何なのか等を考える間もなく、私の意識は深く沈んでいった。

 

 

 

 

 

「────い、おい……起きろ。ッチ」

 

 何処からか私を呼ぶ声が聞こえてくる……私は、一体何をしていたのかしら? 

 少し前の記憶が抜けている。確か私は、伊吹さんに呼び出されて……それで────

 

「ガッ……!? ごぼっ……ゲホッ、ゲホッ……」

 

 そんな朦朧としていた私の意識は、冷たい水の感触で不快な覚醒を促された。

 

「やっと起きたか。ったく、手間とらせてんじゃねぇ」

 

「ここは……うっ」

 

 眼前に見えるのは、雨が降った事によってできた水溜まり。うつ伏せの状態で手足を縛られてるようだ。

 

「……やりすぎじゃないの」

 

「うるせぇ。元はと言えばテメェがしくじったせいだろうが」

 

 頭上からは伊吹さんと龍園君の声が聞こえてくる。……予定通り? この状況が? 

 

「おい、座らせろ伊吹」

 

「……分かった」

 

 そのまま伊吹さんに抱えられ、私は近くにあった太い木の幹に座らされた。記憶より強くなっている雨や、地面の水がジャージ越しに染み込んで私の体温を奪っていく。

 無意識に震え出した体から意識を逸らすように、私は不機嫌そうに眉を顰めている龍園君に言い放った。

 

「はぁ、はぁ……キーカード目当てかしら? だとしたら残念ね。何を勘違いしたかは分からないけど、私はキーカードを持ってない」

 

「ああ。すでに確認済みだ」

 

「一応言っておくけど、確認したのは私だから」

 

 舌打ちをしながら語る龍園君と、何の気休めにもならない補足をする伊吹さん。

 

「そう。じゃあ私に一体何の用かしら? 目的が上手くいかなかった憂さ晴らしでもするつもりかしら」

 

「それも悪くねぇが……いつ俺が失敗したと言った?」

 

 ……意味が分からないわね。龍園君が残っている事から推測するに、彼の目的は物資をプライベートポイントで売って、紛れ込ませたスパイの情報によってリーダー当てを行うことのはず。キーカードを持っていないと判明した今、私を拘束する理由はない。

 

「お前の言いたいことはよく分かるぜ? ────だから聞き出すんだよ」

 

「何を……ぐっ!?」

 

 答えになってるようでなっていない返答をした後、龍園君は私の髪の毛を掴んで地面へと押し付ける。

 そして掴んだ手を持ちあげ、至近距離で私を睨みつけた。

 

「Dクラスのリーダーは誰だ。そして誰にキーカードを渡した。教えればここで開放する」

 

「言うわけ……ないでしょ」

 

 そう言い返したが、口から出たのは弱々しい声のみ。私が思っていた以上に、この数分間で体調が悪化していると気が付いた。

 それを聞いた龍園君は、先ほどとは打って変わって上機嫌に笑っている。

 

「ククク。だよな、言うわけねえよな?」

 

「……当たり前でしょ。はぁ、はぁ……こんな事、許されていいはずがない「誰が口答えしていいと言った」……!」

 

 先ほどよりも強い力で、今度は近くの水たまりに顔を押し付けられる。

 顔面を泥や涙でぐしゃぐしゃにした私を見ながら、龍園君はニヤニヤと笑みを浮かべ言い放った。

 

「その威勢が何処まで続くか見ものだな?」

 

「ごぼっ……ゲホッ、ゲホッ……。随分と、ご立腹なのね龍園君。斎藤君のことが、そんなに気に入らないのかしら?」

 

 正直言って、今すぐにでもリーダーを言って解放されたい。しかし、これは私のミスのせいで起きている事だ。斎藤君の話を出されて、冷静になれないまま遠くまで来てしまった私のミス。

 それでクラスのポイントを下げるような真似は絶対嫌だった。

 

「噂には聞いていたが、よほど斎藤の奴に入れ込んでいるようだな? ……おい! 出てこい石崎、アルベルト」

 

 徐に時計の時刻を確認した後、合図を出す龍園君。その合図とともに、須藤君の事件で対峙した石崎君と、体格のいい黒人の生徒が闇の中から姿を現した。

 

「点呼の時間だ、斎藤の野郎を呼んで来い。ククク……この光景を見たら、あのクソ野郎はどう思うだろうなぁ?」

 

「っ!? 彼は、斎藤君は関係ないでしょ!」

 

「大有りだ。おい鈴音、テメェか? 斎藤の鞄に下着を移したのは」

 

 どういうこと……? 伊吹さんが入れた訳じゃないの? 

 そんな困惑が顔に表れていたのか、龍園君はフンと鼻を鳴らして再度語った。

 

「成程な……だとすると斎藤本人か? それとも……まあいい。本人に直接聞けば済む話だ。おい! いつまで突っ立ってる。早く行け」

 

「は、はい!」

 

 そう言って走り出した二人。その場に残ったのは、先ほどから黙って成り行きを見ている伊吹さんと、近くの切株に腰掛ける龍園君だけとなった。

 

「……斎藤君が、1人で来るわけない」

 

「本当にそう言えるか? あの野郎が、お前を見捨てるとでも?」

 

 もう一度私の前にしゃがみ込む龍園君。恐怖で反射的に体が震え出してしまうが、心まで屈するつもりはない。

 言い返そうと口を開いた瞬間、私の声はその場にいた誰でもない声にかき消された。

 

 

 

「完璧だよ龍園君。よくもまあ、たったの2日でこんな計画を思いつくもんだ」

 

 

 

「なっ!? どうして……」

 

 あり得ない。石崎君達が探しに行ったのはたった数十秒前、ここからDクラスのベースキャンプ地まで、歩いて五分はかかるはず。────でも、この安心する声の持ち主を、私は1人しか知らない。

 既に月明りだけが光源となってしまった中、彼……斎藤君はゆっくりと姿を現した。

 

「ク、ククク。何だ? 全部気が付いてんじゃねぇかよ。随分と冷徹な奴だったんだな?」

 

「冷徹? 気が付いてた? 御託抜かしてんじゃねえよカス。()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあお姫様を助けに来たって事か。だが、ちょっとばかし無謀じゃねえか?」

 

 その言葉と共に、案内をしてきたであろう2人の生徒も、彼を囲う様な位置を取った。

それに狼狽えることなく、斎藤君はこぶしを握り締めて言い放った。

 

 

 

 

 

「────()()()()()()()()()。俺の友達に手出した事、後悔させてやる」

 

 

 

 

 





次回:斎藤VS龍園、伊吹、石崎、アルベルト ファイ!

綾小路君が助けられなかった理由は次回明らかになります。


https://twitter.com/Tokumeikiboussh
Twitter始めました。ほとんど初めてなので不備があったら教えてください。

軽井沢さんどうしよう

  • ヒモのヒロイン(ドロドロに依存される)
  • 綾小路のヒロイン(原作より健全な仲)
  • 作者に任せる
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