ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
連日九時電帰りが続いております。少し短いですがご了承ください!
「あ゛あ゛ぁぁぁ……疲れたマジで」
時は特別試験が終わったすぐ後、有栖ちゃんに結果報告をするために彼女の部屋へと足を運んでいた。堀北さんが心配でしょうがなかったが、まだ辛そうだったため我慢しておく。
だらーっとベッドに倒れ、久しぶりの柔らかい感触に酔いしれる。ある程度慣れているとはいえ、一週間硬い地面で寝泊まりをしていたのだ。今は女の子よりも布団を抱きたい。
「珍しいですね。紡君がそんなに疲れているだなんて。一度睡眠をとってはいかがでしょう?」
普段疲れることがそうそうない俺がこの様子の為か、隣に座った有栖ちゃんが気を使ってくれた。
「いや、いいよ。どうせ夜にはDクラスの皆に説明しないといけないし」
有栖ちゃんは鞄から一枚の紙を取り出し広げると、口に手を当て上機嫌に笑った。
「ふふっ……それにしても、随分頑張って頂いたようですね?」
「お気に召しましたか? お嬢様」
「ええ。頑張った紡君にはご褒美を上げないといけませんね」
そりゃいい。後で胸でも揉ませてくれ。
「試験結果を簡単にまとめてみましたが……『第4位がAクラスで15ポイント。第3位がCクラスの50ポイント。第2位がBクラスの140ポイント。そして、第1位がDクラスで355ポイント』と部屋で聞いたときは、背中に冷たいものを感じましたよ?」
「濡れたってこ「セクハラです」ぐぇっ……」
ほっぺ引っ張るのやめて、それは俺の特権だから。
「全く……それで。どんな手品を使ったんですか?」
俺は初日に龍園君と結んだ契約や、その後に起こったいざこざについて説明した。
「なるほど。綾小路君も中々酷なことをしますね。それで戻ってきた時気まずそうにしていたのですか?」
「まあね……正直、卒業まで毎月あの額の負債を抱えるのは良くないっていうのは、俺も分かってたよ。でも、だからと言ってあんな事……」
因みに堀北さんは、俺が無理やり言って六日目の時点でリタイアさせた。30ポイントのマイナスになってしまうが、綾小路君も流石に文句を言ってくることは無かった。
一度治りかけでまた発症したとなると、試験中に溜まったストレスも相まって中々大変だろう。
「……綾小路君が下着を紡君の鞄に入れたのは、ベースキャンプ地から追い出すためで間違いないでしょう。彼の計画を進める上で、近くに居たら感づかれるのは必然でしょうし」
……まぁ、昨日の俺は冷静じゃなかった。退学がかかっている綾小路君と、そうではない俺との間で、試験に対する温度差があるのは間違いない。そこに気が付いてやれなかった時点で、大人として失格だ。
そう。理解はしている。だが俺は自らの感情を抑制することが出来なかった。恐らく、もう一度似たような状況になっても俺は同じ行動をとるだろう。
「……有栖ちゃん」
「ん……あら? 随分と甘えん坊さんですね」
らしくない事をしている自覚はある。俺は隣に腰掛ける有栖ちゃんの膝へと頭を乗せ、細い腰に手を回しお腹に顔をうずめた。
瞼の裏に映るのは、土砂降りの中堀北さんを抱えた時の光景。
────気絶するほどのキツイ尋問を受け、さぞ苦しかったであろう堀北さんが……最初に口にした言葉は、『大丈夫?』という、俺を心配する言葉だった。
「ありえないだろ……絶対おかしいよ、この学校」
前世を含めると年の半分にも満たない女の子、それも理事長の娘にこんな事を言ってしまう弱い自分が、心底憎かった。
「くすぐったいですよ。上を向いてください」
太ももに顔を埋める俺の頭を、丁寧に抱えて仰向けにする有栖ちゃん。正直顔を見せたくなかったため少しだけ抵抗したが、ちょっとだけ怖い雰囲気を感じ取った為大人しくしておく。
「ふふっ。泣いてるんですか?」
「……泣いてない」
嘘。ホントはちょっと、ちょっとだけ泣いてる。
「紡君が泣いているところを見るのは、これで三回目ですかね? 一回目は小学校二年生の年の夏。二回目は中学校二年生の年の冬でしたね」
「何で覚えてるんだよ……」
この口ぶりだと状況も事細かに覚えているだろう。恥ずかしすぎるから勘弁してほしい。
「一回目は、ちょっとだけ恥ずかしい思い出です。紡君と一緒に運動することができないのが悔しくて、無理に体を動かして発作が出てしまって、泣きながら怒られたのを鮮明に覚えています」
……小学二年生なんて涙腺が緩いんだから、勘弁してくれよ。
「二回目は……結局教えていただけませんでしたよね? 何だったんですか? 私の家族も、皆心配していましたよ」
「あー……秘密で」
もう時効だからいいだろうと、興味津々に聞いて来る有栖ちゃん。
俺は目を逸らして言葉に詰まりながら答える。余り追及してほしくないという想いを汲み取ってくれたのか、それ以上有栖ちゃんがこの話題を出すことは無かった。
「……そうですか。まあいいでしょう」
……失敗したな。適当な嘘でもつけばよかった。
そんなことを思っていると、突然有栖ちゃんは手をポンと叩いた。何か良からぬことでも思いついたのだろうか?
「では紡君、ちょっと頭を上げていただけますか……そうです。ありがとうございます」
言われた通り左太ももの方へと頭をズラすと、有栖ちゃんは左手を俺の頭、右手を俺の首にそっと添えた。
「頑張った紡君にご褒美です。私大好きなんですよ? 紡君に撫でられるの」
懐かしいな。昔から事あるごとに撫でまわしてたし、俺も大好きだ。
「紡君とこの学校の相性は、間違いなく最悪でしょうね。他人のために、本気で怒ったり泣いたりできる人がやっていけるとは思えません」
「あー……痛いとこ突くね。マジで」
何一つ反論できないわ。精神が弱いのは自覚してるし。
「ですが……私はあなたのそういう所に。どうしようもなく惹かれてしまっています。お節介で女たらし、挙句に中学生でギャンブルをやったと聞いたときは心底呆れました。でも、それが霞んで見えるほど、私は紡君が大好きです」
有栖ちゃんの白い指が、さらさらと俺の髪の毛を梳かすように流れていく。……なんと言うか、凄い安心感を覚える。本当に高校生か?
ヤバい、別の意味で泣きそうなんだけど。
「あら? どうやら満足頂けなかったようですね」
凄く残念そうに語る有栖ちゃん。やばいやばい。涙を堪えていただけなのに勘違いされてしまう。
「い、いや超嬉しいよ? ただボーっとして────「では、こういうのはいかがでしょう?」……えっ」
目隠しをするように左手を瞼の上へ、俺の顎をそっと右手で摘まむように置いた有栖ちゃん。
「失礼します。紡君」
────視界が暗転した次の瞬間。感じたのは唇への暖かい感触だった。
「えっ」
ふわりと柑橘系の香りが漂う。間違いなく彼女のシャンプーの香りだろう。最近まで俺が勧めたものをずっと使っていたため、最初そうだと知ったときは凹んだ記憶がある。
────そんなどうでもいい事を考えてしまうほど、俺は滅茶苦茶混乱していた。
「……初めてですが、中々癖になりますね」
えっ、キスされた? 俺。マジ?
「『生涯を共にする覚悟ができた時に返してください』そう言った記憶がありますが。紡君が余りにもヘタレなので罰を与えました」
「……ご褒美って言ったじゃん」
ちょ、駄目だ。頭ぐちゃぐちゃになってる。拗ねた子供みたいな返事しかできない。
そんな俺とは対照的に、有栖ちゃんは艶っぽく唇を指で撫でた後、俺の耳元でふわりと囁いた。
「紡君も初めてでしたよね? どうですか? 女の子から初めてを奪われた気持ちは」
ここぞとばかりに煽ってくる有栖ちゃん。ウザいけど様になってるからやめて欲しい。
「……じゃあ俺からやってやるよ」
「ふふっ。大丈夫ですか? 勢い余ってぶつかったりしないでくださいね」
ここまでコケにされて黙ってられるほど、俺は大人じゃないんでね。
起き上がって有栖ちゃんを正面に見た俺は、震える手を抑えながらそっと彼女の頬に手を添える。
「い、行くよ。有栖ちゃん」
「はい。優しくしてくださいね?」
「う、うん……いや、ちょっと待って……」
何時まで経っても吹っ切れない俺にしびれを切らしたのか、次の瞬間俺は有栖ちゃんに押し倒される形で唇を奪われていた。
「んっ、はむっ……んんっ」
先ほどの優しいキスが嘘のような熱い口づけだ。舌こそ入れてこないが、有栖ちゃんは俺の腹の上に跨り、両手でオレの頭をホールドしながら貪るようにキスを続けている。
────引っかかったな?
「────んんっ!?」
残念ながら、高一の処女がオレに性技で勝てると思わない方がいい。十数年のブランクはあるが、こんな小娘に負けるつもりは毛頭ない。
手始めに彼女の熱い口の中に舌をぶち込む。この時ビックリして舌を噛まれる可能性があるので、一瞬だけ顎を押さえておくのがポイントだ。
「ひゃっ♡ んんっ……ま、待っ♡」
はーい形勢逆転です。相手のペースを乱したらあとはこっちのものだ。調子に乗った子には罰を与えないとね。
「はっ、はっ……こ、こんなの、おかしいです♡」
それから数分ほど口の中を荒らしまわると、有栖ちゃんはベッドの上でぐったりと動かなくなってしまった。部屋に響くのは彼女の荒い呼吸音のみである。
うわ……凄い光景だ。その見た目と相まって、酷く背徳感をそそられる
「はい! 俺の勝ち! ばーか!」
そんな彼女を尻目に、俺は逃げるように部屋から退出した。もし襲われたりでもすると大変なため、部屋に鍵を掛けるのも忘れずに行っておく。
辺りを見渡してみるが、皆疲れているのか外には誰もいない。荒ぶった感情を整えるため深呼吸をした俺は、無意識で唇に指を当てている事に気が付いた。
「……魔性の女過ぎるだろ。いったい誰に似たんだか……」
そう呟いている間にも、俺の心臓はドクドクと大きな音を立てている。
どうやらこの感情を抑えるには、もう少しだけ時間が必要みたいだ。
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