ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
有栖ちゃんに初キスを奪われてから1時間後。久しぶりに昼食を一人ぼっちで取った俺は、堀北さん……もとい鈴音ちゃんの容態が安定したと茶柱のカs……先生から連絡を受けた。
「はい。鈴音ちゃんあーんしてー」
風邪を移さないように別の部屋に移動させられた鈴音ちゃんだが、今更俺がそんなものを恐れるわけもない。にっこにこでレンゲを構えると、鈴音ちゃんは熱が引いたのにも関わらず、顔を赤くしてそっぽを向いた。
「……別に1人で食べれるわ。それより、その口べn「いいからいいから」」
だがそんな緩い否定で、俺のレンゲ攻撃を躱せると思わない方がいい。頑張った子にはその分だけご褒美を与えなければいけないのだ。何か言っていた気がするが、どうせ誤魔化しの言葉だろう。
「……あーん」
観念したのか、恥ずかしそうにモグモグと口を動かす鈴音ちゃん。教室で見る姿より子供っぽさが出ていて可愛いな。
「よろしい。どう? 何の変哲もないお粥でも、久しぶりに食べれば美味しいでしょ?」
「別に……いえ、確かに悪い気分じゃないわね。あれだけ圧倒的な差をつけて勝利したんだもの」
その言葉と同時に、こちらをジロリと見つめてくる鈴音ちゃん。いやー……それを言われると少し弱いなぁ。
「今黒幕の綾小路君に連絡いれたから、少し待ってて。そいつが着いたら説明するから」
「……そうね。しっかり聞かせてもらうから、覚悟はいいかしら?」
先ほどまでの不機嫌そうな様子は演技だったのか、鈴音ちゃんはこちらを揶揄うようにフッと笑った。この子も入学当初に比べて随分と表情豊かになったな。嬉しい限りだ。
そんな会話をしている最中、部屋の扉がコンコンと叩かれた。え……早ない?
「はーい!」
「……入るぞ」
そう言って気まずそうに扉を開けたのは、我らが事なかれ主義者の綾小路くんである。
鈴音ちゃんをリタイアさせた後そのまま話すことなく今に至っているため、俺も正直ちょっと気まずい。……というより、こいつ絶対扉の前でスタンバってただろ。分娩室の前で出産を待つ夫じゃあるまいし。
「ぷっ……あははは! 緊張しすぎじゃない? ほら、鈴音ちゃんもビックリしてるよ?」
「はぁ……これは驚愕じゃなくて軽蔑よ。あれだけの事をした人間と同一人物とは思えないわ」
今度こそジトーっとした目を綾小路君に向ける鈴音ちゃん。綾小路君はバツの悪そうな顔をして頬をポリポリと掻いている。
「堀北。今回の事は本当に済まなか「謝罪は後。今私が欲しいのは説明よ」……そうだな」
「許すか許さないかは、それを聞いて決めることにするわ」
わーおカッコいい鈴音ちゃん。さっきまで照れながらあーんしてた子と同一人物とは思えないわ。
その言葉を聞いた綾小路君は来客用の椅子に腰掛けると、試験中の俺達の動きについて説明し始めた。予め説明することを決めていたのか、その語り出しは非常にスムーズだ。
「まず特別試験の結果については把握しているな?」
「……ええ。第4位がAクラスで15ポイント。第3位がCクラスの50ポイント。第2位がBクラスの140ポイント。第1位がDクラスで355ポイント……正直言って信じられないわね。2クラスのリーダーを当てないと計算が合わない。あなた達は一体何をしていたの?」
体調が悪くとも、しっかりメモを取る辺り流石鈴音ちゃんだな。
しかし、彼女なりに考えてみたのだろうが、見当もつかないと言った様子でこちらを見つめている。
「オレ達が当てたクラスはAとCだ。大体の内訳は────」
綾小路君が語った内容は以下の通り。
Aクラス……『全てのクラスからリーダーを当てられた』
Bクラス……『Aクラスのリーダーを当て、Cクラスに当てられた』
Cクラス……『AクラスとBクラスのリーダーを当て、Dクラスに当てられた』
Dクラス……『AクラスとCクラスのリーダーを当てた』
「ちょ、ちょっと待って。どうして他のクラスのリーダー当ての結果を知っているの? 協力していたBクラスはともかく、AとCに関しては……」
完全に他クラスとのかかわりを断っていたAクラスと、そもそも敵対していたCクラス。確かに、ここまで詳しい情報を持っているのは違和感を感じるだろう。
「順を追って説明するぞ。まず、この特別試験が始まる前に、オレと紡はAクラスと取引をした」
そう。俺達の動きを説明するためには、まずはAクラス……有栖ちゃんとの協力体制について説明する必要がある。
「Aクラスと?」
「正確に言えば『その一部』だがな」
これは流石に予想できなかっただろうね。完全に団結していたと思われていたAクラスの生徒が、まさか敵である俺達と取引をするだなんて。
恐らくだけど、これは先生も知らなかったことのはずだ。争いを起こさず、懐に潜り込んで寝首を掻く有栖ちゃんの手腕は、味方ながらにゾッとするものがある。
「紡と親しい坂柳というAクラスの生徒を知っているか?」
「……ええ。よく知っているわ」
……なんか含みのある言い方だな。何時ぞやの修羅場を思い出してしまった。
「……そうか。なら話は早い。紡が坂柳と結んだ取引は『Aクラスにおける葛城のリーダー体制を崩すこと』だ。今回の試験結果を経て、これからAクラスは坂柳がクラスをまとめ上げることになる」
鈴音ちゃんはAクラスが水面下で分裂していたことに驚いているようだ。顎に手を当てた鈴音ちゃんは、少し考えた後納得したように呟いた。
「Aクラスのリーダーを知っていたのは、彼女を支持する生徒から教えてもらったのね?」
「ああ。その通りだ」
「……でも。やっぱりおかしいわ。そうだとしたらBCD全てのクラスに情報を漏らしたと言うの? それだったら、クラスの中に裏切者が居たと思うのが自然じゃないかしら?」
鈴音ちゃんが言う通りだ。それでは内密に失脚を依頼した意味が無くなってしまう。裏切者のせいでポイントを落としたとなったら、それこそ有栖ちゃんのクラスでの立場が危ぶまれる。
「幸か不幸か、それを隠すようにAクラスのリーダーが、キーカードを無くしたらしい。そして
「……あなた達が何をしたのかは聞かないでおくわ」
そんな綾小路君の含みのある言い方に、俺の行動に当たりを付けた鈴音ちゃんは、呆れたようにため息をついた。
「あはは……何があったかはAクラスの子に聞いて。もちろん俺が関わっている事はナイショで」
「分かった。で、そこからどうやって6日目の話に繋がるのかしら? あなた達が秘密裏に動いていたのはよく分かったわ。私がリーダーをしている中でね」
あ、これ鈴音ちゃん拗ねてるな。仲間外れにされたという事実が寂しいのだろうが……うーん。正直綾小路君の過去を知らないと、
そんな鈴音ちゃんの言葉に、綾小路君はこちらを一瞥した後、ぽつぽつと語り出した。
「龍園と交わした契約を覚えているな?」
「ええ。もちろん。過程はどうであれ、彼のおかげでポイントを残せたのは間違いないわ」
Dクラスに物資を届ける代わりに、その分のプライベートポイントを永続的に支払う契約だね。
「初日にあの契約を結んでから、この試験において、オレの目標は一つに絞られた。『毎月150cpt分のプライベートポイントの支払いを、何とかして無くす』という目標にな」
「……そんなこと、本気で出来るって考えてたの?」
「正直、かなり望み薄だった。だから最初、紡にこのことを話さなかった。Aクラスとの取引と、紡の能力があれば試験自体に勝利すること自体は確実と言えるしな」
無条件の信頼を感じる……本当は俺が主体となって動くことに不安もあっただろうに。
「そしてオレが目を付けたのは伊吹だ。盗みの証拠で龍園をゆすれば交渉することができる。元々は彼女が鞄に入れていたデジカメで、堀北がリーダーだという証拠を残すつもりだったのだろうが、それはオレが壊した。これで伊吹は強引にキーカードを盗むしかなくなるだろ?」
「デジカメ、証拠というと……なるほどね。
伊吹さんの発言では信用できない人がいた。となると、残る可能性はAクラスだけだ。
あの龍園君が、1人で使うためだけに証拠を手に入れるとは到底思えない。
「そうだ。キーカードを奪われていたら、間違いなく二クラスにリーダーを当てられて、結果としては220ポイント。試験では一位だろうが、Dクラスの士気は底まで落ちる」
そうなったときの状況を想像したのか、鈴音ちゃんはゾッとした様子で顔をこわばらせた。あのまま行けば負けていた可能性が高いと言う事実は、彼女にとって気持ちの良いものではないだろうね。
「でも……どうしてあなたは龍園君が闇討ちしてくるのを予想していたの? あのまま諦める可能性だって大いにあるでしょ?」
「オレも最初はそう思っていた。だが、4日目の夜中。残っていたCクラスの生徒を見て、その考えを改めた」
……俺が綾小路君に確認に行かせたタイミングか。
綾小路君は、黙って続きを催促する俺達を尻目に、淡々と話しを続ける。
「残っていた生徒は、石崎、アルベルト、龍園の3人。そこで使われていた物資のポイントを考えるに、その3人+BとDのキャンプ地に匿われている生徒しか残っていない計算になる」
「そこで腕っぷしの良い生徒だけを残すメリットは、一つしかないってわけだ」
俺の言葉に、綾小路君は首を縦に振る。決してあり得ない話ではないし、何なら彼の噂的に可笑しくない作戦だが、無意識に頭から除外していた。
「恐らく龍園の目的は、紡か堀北のどちらか。またはその両方を暴力で服従させることだ。須藤事件の時も執心だったからな。偽のカメラを仕掛けた黒幕に」
須藤君の件があった後で、監視カメラのない特別棟への呼び出しに応じるバカは居ない。
そんな中やってきたのは、教師や周りの目が届かない場所でのサバイバル試験。『絶好の機会』と言っても過言ではないだろう。
「そして綾小路君も『絶好の機会』と思ったわけだ。龍園君をゆすって契約を有利に進める絶好の機会だって」
ちょっと意地悪な言い方をすると、綾小路君はバツの悪そうな顔をして返した。
「……ああ。そして次の日。伊吹が池の鞄に入れた下着を紡のに移し替えた。最悪伊吹がやらなかったらオレが似たような事をしていただろうな」
うわっ。結局どんな世界線でも俺は下着泥棒かよ。
「そして伊吹を誘導し、平田に伝言を頼んであそこに至るというわけだ」
口調こそいつも通りだが、どこかその声色には緊張が見て取れる。あんなことをしておきながら、綾小路君は鈴音ちゃんをちゃんと友達として見ているわけだしな。
勝ちにこだわる彼女なら受け入れてくれるという
────辺りには嫌な沈黙が漂っている。この三人で居る時の無言が嫌になったのは、これが初めてだ。
「……はぁ。あなたって本当にバカなのね。綾小路君」
その沈黙を破ったのは、鈴音ちゃんのため息だった。
目の前の不器用な男に対し、心底呆れたといった様子を隠そうともしていない。
「馬鹿……オレがか?」
「そりゃもう大馬鹿だよ。ね? 鈴音ちゃん」
「ええ。あれだけの事をしておきながら、今のあなたから感じるのは申し訳ないという気持ちだけ。どんなプロセスを踏んだらそんなチグハグな感情に行きつくのか、是非とも教えて欲しいわね」
鈴音ちゃんも俺と同じ結論に至ったようだ。
────バカみたいに賢くて、どうしようもなく不器用な綾小路君に対して。
「あのまま行けば、男女に亀裂が入ったままキーカードを取られて、龍園君の思い通りになっていたかもしれないわ。その後Dクラスが立ち直れるかもわからない。そんな可能性もあったのに、あなたのおかげで特別試験は圧勝。龍園君に支払うポイントも0になった。何も悪いことは起きてないじゃない」
「鈴音ちゃんの風邪がぶり返した位かな?」
睨まれちゃった。怖い。
俺がふざけている間にも、鈴音ちゃんは強い意志を宿した瞳を、綾小路君へ真っ直ぐ向けた。
「────ありがとう綾小路君。私は感謝しているわ……まあ、今回の事に関しては私の実力不足よ。最初からあなた達と並べる位の実力があれば、もっとスムーズに行けたかもしれないし……」
「堀北……」
呆気にとられた様子で呟く綾小路君だが、鈴音ちゃんが言葉を止めることはない。
「勘違いしないで頂戴。私は諦めたわけじゃない。いつか、どんなに時間がかかっても、あなた達の所に並べるようになるわ……あなたもよ。斎藤君」
「あれ、紡君って呼んでくれるんじゃなかったの?」
「……うるさい。……それは、ちょっと恥ずかしいわ」
ごめんね。ちょっと照れ隠ししちゃった。
でも俺なんかマシな方よ? 綾小路君の顔見てみなよ。
「……すまない。少し外させてもらう。すぐ戻る……と思う」
逃げるように背中を向け、部屋から出ていこうとする綾小路君。
「綾小路君……? まだ話は「鈴音ちゃん」……」
鈍感な鈴音ちゃんが呼び留めようとするが、流石に綾小路君が可哀そうだ。
そして俺は、扉を開け廊下に出ようとする綾小路君に声を掛けた。
「
「! ……何だ」
一瞬肩をビクッと震わせた綾小路くん……もとい清隆君は、振り返ることなく返してきた。
俺はそんな可愛い清隆君に元気よく、それでいてねぎらう様に優しく言い放った。
「────お疲れ様! よく頑張ったね!」
「……ズルいだろ……それは」
何か小さく呟いた後、そのまま部屋を後にした清隆君。……ほらね。君は、立派な人間だよ。
そんな感傷に浸っていると、部屋に残った鈴音ちゃんがジト目でこちらを見つめている事に気が付いた。
「……私には何かないのかしら?」
「えっ……どうしよう……ご褒美のキスとか?」
きっしょ。自分で言った癖に言うのもアレだがキモすぎだろ。鈴音ちゃんもビクッと肩を跳ねさせてフリーズしちゃってるし。
絶対有栖ちゃんとやったせいでおかしくなってるわ。反省しないと。
「ご、ごめん。なんでも「良いわね。そうしましょう」えっ」
鈴音ちゃんはおもむろにティッシュを取り出し、何故かオレの唇を数回拭った。えっ……マジでやる感じ?
「一体何を
「ん? 食べる? 口紅……あ゛」
やっちまった……。鈴音ちゃんが手に持ったティッシュの一部が淡いピンク色に染まっている。
どう言い訳しようかな。他の女の子とキスした1時間後、しかもバレちゃうのはマジで詰んでる。てか俺唇ピンク色にしながら飯食ってたの? クッソ恥ずいんだけど。
「あ、いや……これは」
「いいわ。斎藤君にとって、私は他の子とキスした直後でも構わない安い女みたいだし」
「それは違うよ鈴音ちゃん。自分を卑下しないって約束したでしょ?」
状況的にはその通り過ぎるのだが、その発言を見過ごすことは出来ない。少し強めに言い返すと、鈴音ちゃんは一瞬押し黙った後、伏し目がちに小さく呟いた。
「だったら、その子を捨てて私の所へ来てって言った時、あなたは来てくれるのかしら?」
「うっ……それは」
痛い所を突くなぁ。そう言われるとちょっと困る。
言葉に詰まっていると、堀北さんはおもむろに起き上がって俺と彼女のおでこをくっつけた。熱が引いていたと聞いたんだが、その額はやけに熱を帯びている。
「……まあいいわ。
「えっと鈴音ちゃ「────入るぞ堀北。オレの過去について少し話があるんだが……」あっ」
最悪のタイミングで戻ってきたのは、心なしかテンションが高く見える綾小路君。おでこをくっつけている状態で目が合ってしまった。
俺と堀北さんの目をチラチラと2往復ほどした後、心底申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「……すまん。失礼したみたいだな」
「あっ……」
そんな俺の声も虚しく。バタンと扉を閉めた音が辺りに響き渡った。
その直後、何故か走って逃げるつもりなのか、廊下でドタドタという足音が
「追いかけなさい」
絶対零度の瞳で語る鈴音ちゃん。今ならどんなことでも従ってしまう様な気がした。
「……清隆ああぁぁあ!」
エモい感じで終わるかと思ったらこれかよ! 絶対逃がさねえからな!
「はぁ……上手くいかないものね」
皆さん沢山の評価、応援コメントありがとうございます!
11月のテスト終わったら更新頻度上げられるはずなので、もう少し待っててください!
軽井沢さんどうしよう
-
ヒモのヒロイン(ドロドロに依存される)
-
綾小路のヒロイン(原作より健全な仲)
-
作者に任せる