ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
諦めなかった軽井沢さんの精神性は、紡君にはどんな風に映ったのでしょうか?
「じゃあ……その、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
「うん。吐き出してすっきりする事も多いだろうからね」
────その言葉がキッカケとなり、せき止めていた感情がダムが決壊するかの如く溢れてきたのだろう。
そこから軽井沢さんの言葉が止まることはなく、Cクラスの生徒とのいざこざや、その解決方法で洋介君と揉めた話も聞かせてもらった。
「真鍋さん達と揉めたって……最初に軽井沢さんが他の子とぶつかったって言う話は本当なの?」
「うん……多分あっちが言ってるのは本当の話」
1つ想定外だったのは、軽井沢さんの口から自分に非があったという言葉が出てきたと言うことだ。意地でも認めないと思っていたため、どうやって説得するか迷っていたんだが……
「謝らなかったのはクラスの立場を考えて?」
「……きも。何で分かるのよ」
いたずらがバレた子供の様に、ばつの悪い顔でそっぽを向く軽井沢さん。
今の態度を見るに、クラス内での立ち振る舞いは本来の軽井沢さんの性格によるものではないだろう。今一度彼女について考え、俺はそう結論付けた。
「まぁ意地を張っちゃうのは、大なり小なりみんなあると思うよ? でもずっとそのままで居るのは辛くない?」
ここはあえてデリカシーのない発言を投げかける。軽井沢さんの本質に迫るためには仕方のないことだ。
「……あんたには分かんないでしょ。私みたいな何の取柄もない人間は、ああやって取り繕わなきゃいけないの。そうしないと、また『あの時』みたいに……!」
そんなくぐもった声で語る軽井沢さん。その肩が震えているのは、寒さとは別の理由からだろう。
「
そう聞き返す。軽井沢さんは目を逸らして数秒ほど迷う素振りを見せた後、ポツポツと語り出した。
「……いじめられてたの。小中って、9年間」
「いじめって、そんな……」
他人に嫌われてまで、自身の優位性をアピールしなければならない強迫観念。無人島試験での態度。そして真鍋さん達に対する過剰なまでの対応。ここまでヒントが揃えば何となく予想はついていたが……実際に本人の口からそう聞くと、中々クルものがあるな。
「……だから、クラスでもあんな風に?」
「そうよ……平田君と付き合ってたのもそれが理由。私が最初にお願いしたの。『いじめられたくないから、私と付き合って』って。……結局、さっき私が振っちゃったんだけどね」
自暴自棄になったように自嘲する軽井沢さん。先ほどまでの強気な態度は、もうどこにも残っていなかった。
「……凄いよ軽井沢さんは。よく立ち直ったと思う」
「立ち直った? 諦めたのよ。どうしようもない現状に、私はただただ捕食されるのを待ってただけ。そんな気休めみたいなこと言わないでよ……!」
……どうしてこうも俺の周りには、自己評価が低い人ばっかなんだろうな。
鈴音ちゃんも清隆君も、羨ましくなる位気高い精神をもってなお前に進もうとしている。そしてそれは軽井沢さんも同じだ。トラウマに精神を苛まれながらも、それを払しょくしようと努力している。
────その姿を見ると、どうしても己の醜さが浮き彫りになるから嫌だった。
「……ごめん。別に、あんたにそんな気が無いってのは分かってるけど」
「いや、俺も軽率だった。ごめん」
その言葉を最後に、辺りは静けさを取り戻す。……参ったな。ちょっと相談に乗るだけだったのに、俺がこんなじゃ意味ないじゃん。
「……ねぇ」
しかし、そんな沈黙を破ったのは意外にも軽井沢さんの方だった。
「違ってたらごめんなんだけど……その、なんて言うか────あんたも何か
「……無いか。変な事言っちゃった」と続ける彼女だったが、割と図星を突かれて驚いてしまった。
顔がこわばるのを感じながら、軽井沢さんに問いかける。
「ちなみにどうしてそう思ったの?」
「えっ……なんだろ。勘?」
勘かよ。最近の女子高生は凄いなホント。
「んー。まぁ、俺の話は良いでしょ? 別に聞いても面白い話じゃないし」
「……そっか。まぁそうだよね」
一瞬だけ嬉しそうに目を合わせてきた軽井沢さんだったが、俺がやんわりと誤魔化すと明らかに気落ちした様子だった。
あまり健全な感情とは言えないが、それでも仲間を見つけたと思ったのだろう。今まで数か月見てきた仲からは想像もつかない姿だ。
……ま、いっか別に。どうせ後半年くらいの付き合いだし。俺の年齢との整合性を取れるように話を混ぜる。
「クラスメイトとかは……無かったけど。親かな、俺は」
「親? 虐待ってこと?」
……説明が難しいな。そんな仰々しいものでもないんだけど。
「両親が4歳くらいの頃に離婚してね。母親の方に預けられたんだけど、聞き分けの悪い子供だったからよく鞄で殴られたり、冬に追い出されて野宿したりしてたんだよね。飯もロクに食わせてもらえなかったから友達から集ってたよ」
懐かしい記憶だ。恐らく今の俺の生命力はその頃に培われたものだろう。流石に東京の冬は寒かった。
「……よくそれでそんな性格に育ったわね」
「今の両親……育ての親が良い人だったからね。包丁でブッ刺されてヤバいってなって引き取られたけど、なんやかんやあって元気でやってるよ」
これ以上説明したら矛盾が発生してくるため言葉を濁しておく。
「
身を乗り出しながら、食い気味で聞いて来る軽井沢さん。そこを突っ込まれるとは思わなかったんだけど……
「えっ、そこ聞く? うーん……まぁ痛かったよ結構。自分で救急車呼んだから何とかなったけど、母親は虐待がバレて逮捕されちゃった」
最期の一文は嘘である。というか、あの後すぐ死んだから生きてるかどうかも分かっていない。
「……プールの授業とか、どこにも傷跡無かった気がするんだけど」
「見えないところだから」
やけに食いついて来るなこの子。流石に十数か所滅多刺しとかって言ったら何で生きてるねんとかツッコまれそうだし誤魔化すけど、流石に整合性取れなくなりそうだからそろそろ勘弁してくれ。
「ふーん」
明らかに暗い話題のはずなのに、軽井沢さんの反応は上々だ。一体どういうことだろう。
「これは平田君にも言ってなかったんだけどさ」
そう言うと、軽井沢さんはジャージとその下に着ていたキャミソールの裾をたくし上げ、お腹を露出させる……ってちょ
「えっ、ちょちょ……」
「誰も来ないわよこんなとこ」
「そういう問題じゃないよ!? って言うか何で脱ぐの……って────え?」
────そこにあったのは、綺麗な肌には似つかわしくない生々しい傷跡。鋭利な刃物で裂かれたような、そんな痛々しいものだ。
「まじウケるよね。あたしたちお揃いじゃん」
「そんな……これって」
その傷は子供の虐めで済まされるようなものじゃない。この深さの傷跡は、手当てが遅かったら命にかかわるほどのものだ。
「そうよ。あたしが受けたのは、アンタみたいなお人好しが想像するような生ぬるいのじゃない。上履きに画鋲、机の引き出しに動物の死骸。トイレに入れば汚水をぶっかけられて、制服には淫乱だの売女だの書かれる。髪を引っ張られる、殴る蹴るは当たり前」
その口から語られたのは、俺の想像をはるかに超えた内容だった。返す言葉が見つからず唖然としていると、軽井沢さんは自嘲気味に笑って続ける。
「今言ったのだってほんの一部。笑ってしまうくらい優しいものよ。他にも、数えられるいじめは全部受けてきた」
────甘かった。何もかも、全ての認識が。
「笑えば? 虐められっぱなしで格好悪いヤツだって笑ってみてよ。今だって、似たような境遇のあんたをみて嬉しくなっただけ。普通はこんなこと絶対しない。……あんたは私の事凄いと思ってくれてるかもだけど、こんな弱い人間だからイジメられるの」
感情を露わにするように立ち上がり、軽井沢さんは悲痛な叫びをあげる。
「は、ははは……最低ね私。あんたにこんなこと言ったって、何も変わるわけじゃないのに」
「軽井沢さん「ごめん」……」
背を向けて歩き出した軽井沢さんに声を掛けるが、それを遮るように帰ってきたのは謝罪の言葉。
「私は、あんたに嫉妬してたんだと思う。何となくだけど同じような雰囲気感じながら、それでも皆の人気者だった斎藤君に。……あんたは良い奴ね、────私なんかと一緒にしちゃいけない位に」
「軽井沢さん!」
「もういいの。あんたに聞いてもらって凄い楽になった。ホント、一年で一番モテてるのも納得よ。だから……ありがとう」
そう言って逃げるように走りだした軽井沢さん。後から思えば、これ以上甘えていてはダメだという彼女なりの意志だったのだろう。
────そんな姿を見せられて、放っておける訳が無かった。
「えっ……」
気が付いたら、俺は走り去る彼女の左腕を掴んでいた。
振り向いた彼女の端正な顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。
「もういいって……! もう十分だから!」
「駄目だ」
「放してよ! あたしたち友達でも何でもないじゃない! ……あんたと、あんたと喋ってると甘えたくなっちゃうの! それじゃダメなの!」
しゃくり上げながら、捕まれた左腕を振り払おうとする軽井沢さん。……はぁ、どうして俺の
そんな愚痴を心の中で吐きながら、俺は正面から軽井沢さんを抱きしめた。
何故洋介君に言ったみたいに俺に助けを求めなかったのか。どうせ下着泥棒の時に冤罪を掛けてしまったことを気にしているんだろう。
「! ……なんでっ」
「暖かいっしょ? とっくの昔の記憶だけど、よくお母さんにやってもらってたんだ」
前世で俺が渇望してやまなかったもの。似たような経験をした軽井沢さんも、心のどこかでは人の暖かさを求めているはずだ。20cm以上の身長差があるためか、腕の中に小さい体がすっぽり収まっている。
周りの友達とも心から打ち解けられず、1人孤独で戦ってきた軽井沢さんの心の負担は、俺には計り知れない。
「……」
「よく打ち明けてくれたね。信頼してくれてありがとう」
「べ、別にそんなんじゃ……んっ」
そんな軽井沢さんの反論を、抱擁を強めることで飲み込ませる。
胸元に収まった頭を撫でながら、たった一人で戦ってきた彼女を労う様に声を掛ける。
「ちょっと妬いちゃうよ? 洋介君にはあんなに頼ってたのに、俺には何もないの?」
「だって……あたしっ、あんなひどいこと……」
ほらやっぱり。気にしてないって言ったのに、仕方のない子だなぁほんと。
「だから気にしてないって。俺は軽井沢さんの事大事な友達だと思ってるよ? 軽井沢さんはどう?」
「うん……」
泣きながら胸に顔をうずめる軽井沢さんに既視感を感じながらも、頭を撫でる手を止めずに語り掛ける。
「じゃあもう安心だ。これからは俺が軽井沢さんを守るよ。俺の友達はみんな良い奴だし、何も心配する事無いよ。────お疲れ様。もう大丈夫だよ」
「……ばかっ、お人好し」
ぽんぽんと腹に衝撃が走るが、これが軽井沢さんにできる唯一の抵抗と考えると可愛いものだ。
「……あたし、寄生虫だよ? 一人じゃ何もできないもん」
「こんな可愛い寄生虫なら本望だよ」
「クラス皆から嫌われてるし」
「これからどうとでもなるよ。俺が会話の仕方教えてあげる。清隆君みたいに」
「でもあいつコミュ障じゃん」
「……あれは天性の才能だよ。多分」
「────好きって言ったら付き合ってくれる?」
「……それは、えーっと……」
「最低」
「うっ……」
「まあいっか。────」
「ん? なんか言った?」
「何でもない……えへへ、これからよろしくね! 斎藤くんっ」
────憑き物がスッと落ちた軽井沢さんの表情が見える。それはそれは、とても可愛らしい笑顔だった。
────────────────
翌日。4回目の試験が終わり、インターバルとして与えられた試験三日目の朝。俺は1人カフェで朝食を取る傍ら電話をしていた。ここは人通りが少ないため静かに過ごせる。今日みたいな日にはピッタリだ。
「おはよう。昨日……って今日だけど、よく眠れた?」
「んー、微妙? なんか色々ありすぎて疲れちゃった。でも平田君にもちゃんと謝ったし、『穏便な方法で解決する』って伝えたよ」
電話の相手は軽井沢さん。なんだかんだ話し込んでしまい、彼女を部屋へ送り届けたのは4時を回ったころだった。
刺々しかった言葉も抜けて、気の強いギャルから普通のギャル位にはなれたようだ。
「そっか。なら良かった」
「それで、結局真鍋さん達の件ってどうするの? 何もしなくていいってどういう意味?」
昨日別れ際に言った言葉が気になっていたのだろう。万が一のリスクを減らすために一応言わなかったが、もうあと数分だし問題ないか。
「ん、後ちょっとで分かるよ」
「あとちょっと?」
ちゃんと打ち間違えずに送信できたかな? 一応清隆君に見てもらってるけど……お、来た来た。
一度に大量の通知がスマホに届く。それと同時に、遠くで朝食を取っている生徒達のざわめきがこちらまで聞こえてきた。
「えっ……これどういうこと!?」
「良いリアクションするねー。良かったね軽井沢さん。これから真鍋さん達と顔合わせずに済むよ」
そもそもこんな試験で顔合わせるからトラブるんだよ。『証拠』と『脅し』も完ぺきだし、今後真鍋さん達が彼女に接触する可能性はほとんどなくなるはずだ。
「えっ、え?」
「じゃ、俺これからやんなきゃいけないことあるから、また今度ね軽井沢さん」
何か言いたげな軽井沢さんだったが、その言葉を遮って通話を終了する。
それと同時に俺の使っていたテーブルに影が差す。よし、ちゃんと時間通りだね。
「────お疲れ様。良い取引だったよ」
画面に届いた5つの通知を全て確認する。一覧で表示させたスマホの画面には、以下の文字が羅列されていた。
『虎グループの試験が終了いたしました』
『兎グループの試験が終了いたしました』
『竜グループの試験が終了いたしました』
『蛇グループの試験が終了いたしました』
『馬グループの試験が終了いたしました』
オチは二段階。
下着泥棒の冤罪なんて、下手をこかなくても虐めの対象になりかねませんから。軽井沢の中には、罪悪感が積もっていたんじゃないかと想像しての内容でした。
現在終了しているグループ
・猿グループ『優待者:Cクラス』
・虎グループ『優待者:Cクラス』
・兎グループ『優待者:Dクラス』
・竜グループ『優待者:Dクラス』
・蛇グループ『優待者:Cクラス』
・馬グループ『優待者:Dクラス』
計6グループ
現在未終了のグループ:6グループ
モチベ=投稿頻度なので、もし続きが見たいって思って頂けたなら高評価や感想してくれると超嬉しいです!
話の進むテンポについて
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もっとサクサクでもいいよ
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今のままで良いよ