ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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短めです。



友人

 

 

 

『────以上で弓道部の説明を終わります。続いては……』

 

 どうも。着実に綾小路君との仲を深めてる斎藤紡です。まだ出会って2日しか経ってないけど、些細な出来事で目を輝かせるこの子が、ちょっと面白いから色々教えてやりたくなる。飯食う時に席合わせただけでもテンション上がってたけど……小、中学校不登校だったのか? 

 

「で、どうなの? 途中だけどさ、入りたい部活は決まった?」

 

 そんな冗談はさておき、隣でボーっと演説を聞いていた綾小路君に質問してみる。性格的に部活とか入りたがらない感じするけど。

 

「……いや、正直言って敷居が高い。運動部は特にな」

 

「さっきの堀北さんの発言気にしてる感じ?」

 

 二つの意味で可哀そうだ。『部員が多ければたくさん部費がもらえるから、初心者は歓迎されるでしょうね。その後は幽霊部員になって貰うのが、彼らの理想だと思うわ』だなんて言われた綾小路君も、そんなことを本気で思ってるほど捻くれている堀北さんも。

 

「何かしら? 私は間違ったことは何一つ言ったつもりはないのだけど」

 

 そんな俺の視線に気が付いたのか、堀北さんは鋭い目をこちらに向けて来る。

 

「間違いじゃないとは思うけど、部活に入りたいって思ってる奴の隣で言う事じゃないと思うよ?」

 

「何故私が綾小路君に気を使わなければいけないのかしら? 第一そんな生半可な気持ちで……!」

 

 そんなこと言っていた堀北さんの体が、突然大きく跳ねた。口から出ていた言葉も途切れ、顔を青くして舞台の方を見つめている。

 

「どうした?」

 

 綾小路君が声を掛けたが、一切気づいた様子はない。珍しいな、ここまで動揺を見せるだなんて。今は野球部の代表だ。特段おかしなことは無い。

 彼女に限って、一目惚れだなんてもあり得ないし、その様子から感じ取れるのはもっと根深い何かだ。

 驚き、畏怖、喜びがごちゃ混ぜになっているように感じる。

 

「大丈夫? 堀北さん」

 

 再度声をかけても全く反応を見せない。綾小路君と目が合い肩をすくめた。仕方ないからもう少し待ってみるか。

 舞台から説明を終えた代表が一人去り、二人去り、いよいよ最後の一人となった。全員の視線が集中する。 そこで初めて、俺は堀北さんの視線の先にある人物に気が付いた。

 

「こんなに騒いでんのに、誰も注意しないんだね」

 

「ああ、やっぱりイメージと違って緩い学校だよな」

 

 件の生徒が前に立つ。さて、堀北さんがあの反応を見せる人物だ。一体どんなことを話してくれるのやら。

 そんな俺の思いはすぐに裏切られることになった。その生徒が一言も発しなかったからだ。呆けているわけではなさそうだな。となると……

 

「がんばってくださ~い」

「カンペ、持ってないんですか~?」

「あははははは!」

 

 一年生であろう生徒から、そんなヤジが飛ばされる。しかし、それでも彼は一切動揺を見せることなく立ち尽くしていた。凄いな、高校生でここまでやるとは。

 恐らく、彼は頭から内容が抜けたのではなく、『待っている』のだ。周りの生徒が静かになるのを。

 そして一分ほど時間が経っただろうか? 辺りは先ほどの喧騒が嘘のようにシーンとした静寂が広がっている。そんな中、ゆっくりと全体を見回しながら演説を始めた。

 

『私は、生徒会会長を務めている、堀北学と言います』

 

 わーお。堀北か……こりゃ凄い。

 偶然名字が同じ、だなんてことはありえないだろうな。堀北さんのあの反応も、壇上の先輩が彼女の兄だと考えるとしっくり来る。この子も家庭環境に問題抱えてるタイプか。

 体育館に彼の声が響き渡る。一切の喧騒が無いこの空間に、彼のはきはきとした声は良く通る。

 

「あの生徒会長、凄いね」

 

「?」

 

 小さく呟いたつもりだったが、隣に居た綾小路君には聞こえていたらしく、疑問符を浮かべている。

 俺はそれを笑って誤魔化し、目の前で演説をしている彼と、堀北さんの関係について思案していた。

 

 兄は間違いなく優秀だ。()()()は生半可な実力では使えないからな。彼が使用した技、それはスピーチ術の一種だ。

 辺りに緊張を走らせ、自身の演説に耳を傾けやすくするこの技は、かの有名なアドルフ・ヒトラーも使用したとされている。言うのは簡単だが、実際にそれを実行に移せる人間がどれほどいるだろうか。それを高校生、なおかつこの場で行う胆力は、凡人には決してないだろう。

 そうなってくると堀北さんの感情にも当たりが付いた。あれは『憧れ』だ。他人に当たりが強いのは、劣等感の裏返しだろうな。外れてたらごめん。

 

『それから───私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう』

 

 そう最後に締めくくり、彼は舞台を降りて行った。

 

『皆さまお疲れさまでした。説明会は以上となります。これより入部の受付を────』

 

「堀北さん? おーい」

 

 目の前で手を振ってみても一向に反応しない。このままいたずらしてみたい気持ちは大いにあるが、綾小路君みたいに変態扱いされたらたまったもんじゃない為やめておく。

 そんな堀北さんを尻目に、綾小路君は何やら誰かと話しているようだった。

 

「あれ? 知り合い?」

 

「ああ。昨日少しな」

 

「へぇー。クラスメイトだよね? 自己紹介の時居なかったっぽいけど。俺は斎藤紡、よろしく!」

 

 綾小路君と話していたのは、ガタイの良いヤンキー感満載の生徒だった。

 

「須藤だ」

 

「よろしくねー須藤君。って後ろ池君と山内君じゃん。2人も部活なんかやるの?」

 

 須藤君の後ろにいるのは、昨日クラスを盛り上げてくれた池君と、中学生でインターハイに行ったことがあるらしい山内君だった。流石にもう少しマシな嘘つくけどな。

 

「まあ、俺達は賑やかしっていうか、楽しそうだから来た感じだ。そして運命的な出会いがあることを期待してるってのもある」

 

「運命的な出会い?」

 

 そんな池君の言葉に、綾小路君が聞き返す。まあ、この手のヤツが言う運命的な出会いってのは、1つしかないもんだ。

 

「Dクラスで一番に彼女を作る。それが俺の目標だ。だから出会いを求めているのさ」

 

 ほら来た。まぁ高校生らしくて良いと思うけど、あんまり公言するのも逆効果だぞ。

 俺がそんなことを思っていると、綾小路君は三人と連絡先を交換していた。池君に関しては陽キャだしガッツかなきゃ案外すぐできそうなもんだけどな……まあ、何にせよ新しい友達が増えてよかったね、綾小路君。

 

 

 

 

 

「にしてもこの時期に水泳の授業なんて珍しいよね」

 

 入学してから一週間ほどたった午後、いつものごとく綾小路君と弁当を食べ、授業の準備に取り掛かっていた。

 

「そうだな。もう少し暖かくなってからやるもんだと思っていたが」

 

「ま、嫌いじゃないから良いんだけどねー」

 

 水泳って得意苦手ハッキリ別れるよな。俺は少しかじってたから良かったけど。

 

「おーいお前らー早く来いよ。早く見たくてうずうずしてきた!」

 

 そんな池君の声が聞こえてきたため、駆け足で更衣室へ向かう。彼とはこの一週間で、そこそこの間柄になった。

 イケメンを目の敵にしているらしい池君だったが、どうやら俺はそこまでヘイトを買っていないらしい。因みに洋介君はずば抜けて嫌われている。まあ、入学式の時の挨拶だったり、昼食を女子とばっかり食べている所が気に食わないんだろうな。俺も放課後用事ない時は、洋介君たちとカラオケ行ったりしてるけど、それは言わない方が良いだろう。

 彼が何を見たいかは、後々分かるのであえて説明しないでおく。

 

「ひゃー、やっぱこの学校すげえな! 町のプールより凄いんじゃね?」

 

「ね。50mで屋内って。俺水泳ちょっとやってたけど、ここまでちゃんとしてるとこも珍しいよ」

 

 正直金かけすぎじゃないかとは思うけどな。ま、特権はありがたく享受しよう。

 

「うわ~。凄い広さ、中学の時より全然大きい~」

 

「き、来たぞ!?」

 

 それから少し後に、女子グループの感嘆の声と、池君の声が聞こえて来る。ここまで聞けばもう分かるだろう。彼が見たかったのは女子の水着姿だ。

 さっきも綾小路君と何やら話していたようだけど、俺はお仲間だと思われたくないから少し距離を取っている。

 

「あの集団に混ざらないのかしら?」

 

 軽く体を伸ばしていると、堀北さんが話しかけてきた。そんな言葉と共に、彼らをゴミを見るような目で見ている。こっわ、行かなくてよかったホント。

 

「俺も興味がないわけじゃないけどさ、流石にあんな露骨にやるのはね……」

 

「そう。あなたがあんなくだらない事をやる人間じゃなくて良かったわ」

 

 彼女が言った『くだらない事』というのは、十中八九朝の賭け事だろう。女子の胸の大きさにオッズを掛け、誰が一番大きいかで勝負していたのだ。

 正直ドン引きである。彼女欲しい奴の行動とは思えない。因みに綾小路君はちゃんと混ざったらしい。

 

「やっと抜けてこれた……」

 

「あら綾小路君。下品な賭け事はもういいのかしら?」

 

「いや、あれはその場のノリというか流れというか……」

 

 そんな会話をしていると、少しげんなりとした綾小路君がゆっくりこちらへ向かってきた。勿論堀北さんの鋭い言葉も投げかけられるが、流石に慣れてきたのだろう。

 普通ならそこでもう一撃くらい食らわせるのが堀北さんクオリティなのだが、意外なことに彼女は口をつむいで綾小路君の体を見ていた。

 

「……綾小路君、あなた何か運動してた?」

 

「え? いや、別に。自慢じゃないが中学の時は帰宅部だったぞ。それに紡だって同じようなものじゃないか」

 

「彼は運動してたって言ってたじゃない、それに並ぶあなたがおかしいのよ」

 

「両親から恵まれた体を貰っただけじゃないか?」

 

 覚えててくれたんだ、ちょっと嬉しい。

 それはさておき、俺も同意である。遺伝的な要素は間違いなくあるだろうが、この体つきは運動、しかもかなりしっかりとしたものをしていないと身につかない。堀北さんも言っていたが、幼少期からアホみたいにスポーツやってきた俺と並ぶ時点でおかしいのだ。

 

「とてもそれだけが理由とは思えない」

 

「ま、実際にやってないって本人が言ってるんだし、そこは信じようぜ」

 

 それでも食い下がる堀北さん。流石に隠し事に首を突っ込むのは無粋だからやめておく……というのは嘘だ。何と言うか、入学初日に感じていた違和感を、もう一度感じることができた。そして一つ分かったことがある。

 綾小路君は恐らく過去に何かを抱えている。そんなの、大なり小なり誰でもあるだろうが、彼の場合はもっと得体の知れないものだ。藪蛇は嫌だから俺はここで手を引いておく。仲が良いという自覚はあるが、まだ入学して一週間なのだ。本人から言ってくれることを祈るしかない。

 

「……そうね。分かったわ」

 

 それが賢いと思うよ。

 お、もうすぐ授業始まりそうだな。よーし、いっちょカッコイイとこ見せちゃおっかな。

 

 

 




ヒモは人の地雷を避ける能力に長けてるらしいですよ。

ぶっちゃけ原作(小説・アニメ・漫画)見てます? 見てない方多かったら、試験の説明詳しく書きます

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