ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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紡視点→三人称視点です!

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多分これからは返事ちゃんとします!


準備

 

 

 

 高度育成高等学校のグラウンドは、国立のスポーツ強豪校という事もあってか非常に整備されている。一周400mのトラックにはタータン(陸上競技場で使われている赤いゴムの床)が敷き詰められており、ゴールを設置すれば中がサッカーコートに早変わりする優れものだ。

 そんなグラウンドの端、100m走のスタート台に立つ。5月の体力測定でも一度走ったがあれは50m走。実際にちゃんとしたトラックで走るのは実に一年ぶりくらいだろうか? 

 

「お前その靴ズルいって! 陸上部でもねぇ癖によ!」

 

 隣のレーンに立つ池君が俺の足元を見て抗議の声を上げる。まぁ言いたいことは分かる。俺が今履いているのは短距離用のスパイクシューズ。値段にして3万円近くするガチの奴だ。

 10月に行われる大会に陸上部の助っ人として参戦すると言う条件で借りたものである。

 

「やるなら全力でやんないとね。ちょっと今の全力知りたいし」

 

 トレーニングを始めて早1週間ほど。やっぱり半年間体を動かしていなかったツケが回ってきているのをひしひしと感じている。

 中学時の最高記録は確か10秒後半だったけど……まぁ、11秒切れたら及第点かな。

 

「じゃあいくよー?」

 

「うおおおお! 桔梗ちゃん見ててくれよ!」

 

 池君ご指名の櫛田さんが手に持ったスターターピストルを持って合図する。100m先でストップウォッチを持った洋介君がOKのサインを送ると、櫛田さんはそれを上に構えて合図を出した。

 

「皆頑張ってね! じゃあ────位置について……よーい、ドン!」

 

 バンッ! という甲高い音と主に足を強く踏み込む。後ろから池君の驚いたような声が聞こえてきたが気にせずゴールを突っ切ると、それから数秒ほど遅れて他の生徒もゴールを迎えた。

 

「はぁ……はぁ……速すぎだろお前!」

 

「凄いね……一着の紡君が10秒88。二着の────」

 

 お、意外と良い感じだ。ロクに練習してない+走りづらいジャージというのを考えると悪くない記録だろう。

 洋介君が全員の記録を書き写しているのを聞いていると、鈴音ちゃんが水の入ったペットボトルを渡してくれた。

 

「お、ありがと」

 

「もはや言葉も出ないわ。須藤君もすごいけど、同じクラスなのが気の毒ね」

 

「器用貧乏なだけだよ。バスケじゃ流石に勝てないし。ちょっと出来ることが多いだけ」

 

 幼少期から効率重視で運動していたし、運動神経や反射神経は結構自信あるんだよね。純粋な身体能力やパワーで高円寺君や清隆君に勝てるかと聞かれたら微妙だけど。

 

「そのちょっと全てが全国上位レベルなのがおかしいと言ってるのだけど……まあいいわ。次は綾小路君ね。今回本気出すとか言ってたけど、実際の所どうなのかしら?」

 

 スタート台に立った清隆君を興味津々で見つめる鈴音ちゃん。

 

「とりあえず推薦競技に出れる位で、なおかつ他クラスに警戒されないような記録を出すつもりらしいよ。リレーは男女3:3だから……現状3位の洋介君を抜かさなきゃいけないね」

 

 因みに2位の須藤君は12秒13で、洋介君は12秒79だ。スパイク履くと大体1秒くらい早くなるから、2人ともガチれば陸上部に入ってもやってけるだけの走力は十分あると思う。

 そんなことを考えている最中、スターターのバンという音がグラウンドに響き渡った。

 

「結構上げてるね。早すぎてもまずいと思うけど……あ、落とした」

 

 タイムが見れないのにも関わらず後半で速度を少し落とした清隆君。流石の調整力だ。

 全員がゴールし終えると、洋介君は手元のストップウォッチを見て嬉しそうに清隆君に駆け寄った。

 

「おお! 綾小路君も早いね! 特訓の成果かな? 12秒48だよ」

 

「そうか。紡に感謝しないとな」

 

 よく言うよ。お前も10秒台余裕で行ける癖に。何なら調整の方が難しそうだ。

 

「じゃあリレーの男子は紡君と須藤君、綾小路君で決定かな。凄いよ! これなら3年生にも勝てるかもしれないね!」

 

 清隆君に記録を抜かれたのにも関わらず、洋介君の表情は喜び一色だった。うーんこれは聖人。洋介君の分も頑張らないとね。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 各クラスが体育祭の準備を始めてから早一週間。同じ組で協力するはずのBクラスと決別の意志を表明したCクラス。しかし、それを率いる男、龍園は1つの『秘策』を編み出していた。

 彼が向かった場所は学校の敷地内に存在するカラオケの個室。学生と待ち合わせをするならばもっと良い場所があるはずだが、どうやら教室などでは都合が悪いらしい。

 

「……遅い」

 

「遅刻はしてねぇぞ? 時間ピッタリだ」

 

 部屋の扉を開けると既に先客が居たらしく、不機嫌そうな様子を隠そうともしない声が龍園に向かう。

 それを気に留めることなくソファに座り込んだ龍園は、楽しそうな笑みを浮かべながら件の生徒と向き合った。

 

「随分と不機嫌そうじゃねえか? ()()

 

「当たり前でしょ。ホントムカつく。堀北のクソ女!」

 

 その生徒の名は櫛田桔梗。Dクラスの中心人物として必ず名が上がる生徒だった。

 そんな彼女が、敵であるはずの龍園と密室で話をしている。Dクラスの生徒からしたら理解しがたい光景だろう。

 

「急にキレんじゃねえよ。鬱陶しい奴だな」

 

「言っとくけど、アンタのせいでもあるんだから。私がせっかく()()()()()()()()()()()()()()()のに、ロクに有効活用できなかったじゃない!」

 

 口汚く罵る櫛田。きっと池が見たら卒倒することは間違いないだろう。

 そんな櫛田に対し、龍園は呆れたような様子を隠すことなく足を組んで言い放った。

 

「じゃあ俺から1つ聞くぞ櫛田。優待者試験で、お前は俺にどんな動きを期待して優待者だと暴露したんだ?」

 

 あくまでも余裕を崩さない龍園を見てか、櫛田の怒りも鳴りを潜め静かに返答した。

 

「……優待者を教えることで、Dクラス……堀北を叩きのめして、最終的に退学させる。それがあんたに協力する条件だったはずよ」

 

「そうか。じゃあ仮に俺が斎藤の提案を蹴って、そのまま優待者の法則を当てたとする。じゃあ()()()はどうなる?」

 

「その後?」

 

 いまいち要領を得ない様子の櫛田に対し、龍園は続けて説明する。

 

「まず間違いなくDクラスに裏切者が居ることがバレる。そうなりゃテメェはおしまいだ」

 

「は? 意味わかんないんだけど。たったそれだけでバレるわけないじゃん。あいつら皆バカばっかだし、()()()()()()私の本性に気づいてない」

 

 自分が裏切り者だとバレることは絶対にないと言い切る櫛田。彼女がクラスで積み上げてきた信頼はその程度で崩れるはずが無いという確信なのだろう。

 実際に龍園の言う状況になったとして、裏切者が櫛田だとたどり着ける生徒は極少数のはずだ。

 

()()()

 

「は?」

 

「お前の本性に誰も気づいていないと言ったが、本当に誰一人として気づいてないのか? だとしたらおかしい話だ。他クラスの俺から見ても、櫛田桔梗の話は良く聞こえて来るぜ? 『品行方正で、誰にでも隔てなく接する生徒』だってな」

 

「……それがどうしたのよ」

 

 毒気を抜かれた櫛田が小さく聞き返す。偶然か必然か定かではないが、一度敗北を喫した龍園には、櫛田を言いくるめられるほどのカリスマ性が生まれつつあった。

 

「そんなお前が鈴音を退学させようとしているのが不思議でならなくてな。いくら影響力を増しているとは言え、証拠もない中お前の過去の行いを断罪出来るとは思えねぇ。()()()()()()()? どこの誰だかは知らねぇが」

 

「っ……」

 

 図星を突かれた櫛田が表情を歪める。実際に龍園がそれを確信していたわけではない。しかしその反応が全てを物語っていた。

 そんな櫛田を見て、龍園は喉を鳴らしながら続けて言い放った。

 

「確かにお前が提示した条件は鈴音を退学させること。だが同時に俺はこう言ったぜ? 『嘘をつくな』とな。で、どこの誰なんだよ」

 

「それは……」

 

「教えないならこの取引もおしまいだな。目的のために身を切れない奴なんざ話にならねぇ「待って!」……あ?」

 

 立ち去ろうとした龍園を大声で呼び止める櫛田。

 内心計画通りだとほくそ笑みながら振り返ると、櫛田は小さくその生徒の名を口にした。

 

「綾小路君よ。あいつが私の本性を唯一知ってる人間」

 

「ほう? 綾小路か。そりゃ焦るわけだ」

 

 綾小路と堀北が親しい関係だと知っている龍園が納得したように呟いた。

 

「分かった? これでいいでしょ。……あんたも約束破ったらタダじゃおかないから」

 

 櫛田は鬼の形相で言い返す。自身の弱点をさらす結果となってしまった怒りが大きいのだろう。

 

「ククク……だったら猶更動かなくて正解だったな。優待者試験がCクラスの圧勝で終わった場合、まず間違いなく斎藤が裏切り者の存在を確信する。もしかしたらテメェの本性も既に伝わってるかもしれないぜ?」

 

「……あり得ない。バラしたらレイプされそうになったって言いふらすって脅したし、証拠だってある」

 

「あ? 証拠だ?」

 

 そんな耳折りな話した櫛田に、興味を持ったのか聞き返す龍園。

 ここまで来て黙る理由は無いと思ったのか、櫛田はそのまま綾小路に対して行った策略を説明した。

 

「────だから、綾小路君みたいなチキンには言いふらすなんてできない。分かった?」

 

 若干得意げになりながら説明する櫛田だったが、あまりにお粗末な作戦に龍園は呆れ返っていた。

 

「3ヶ月近く前の制服に指紋が残ってると本気で思ってるのか?」

 

 呆然とする櫛田に続けて説明する龍園。

 

「仮に指紋が残ってたとして、何故それを早く学校に報告しなかったと言われておしまいだろうが。テメェのソレは何の抑止力にもなってねぇ」

 

「……だったら、だったらどうすればいいのよ!」

 

「だから利害が一致しているもの同士で協力するんだろうが。お前はDクラスの情報を流し続けて、俺は別のアプローチで鈴音が退学するように仕向ける。だから言う通りに動いてろって言ってんだよ」

 

 絶対の自信をもって言い放つ龍園。主導権を握られる方向に向かわされているが、櫛田はそれに気づくことが出来ない。それほど龍園やその発言には『凄み』があった。

 

「……今回はどうするの」

 

「事前に言った通り参加表を流してもらう。だがすべての組をそれに合わせて編成するつもりは無い。表立った動きもな」

 

「何でよ」

 

「旨味が少ねぇんだよ。赤白どっちが勝つかは2、3年生の結果が大きく関わってくる。流石にそっちに干渉するのは無理だ」

 

 一つ一つ丁寧に説明しながら、龍園は続けて目標を語る。

 確かに、無人島試験の様に300近くのポイントが動く試験とは異なるのが体育祭だ。意図的に順位を落とすこともできなくはないだろうが、スパイという手札を温存しておこうという龍園の考えは非常に理にかなっている。

 

「だから裏切者の存在をバレない程度に編成し堅実に2()()()()()。これは俺の予想だが、よほどの事が無い限り1位はDクラスだ」

 

「それは……確かに」

 

 斎藤、須藤に続く平田や頭角を現し始めた綾小路。女子だと堀北や小野寺、今話している櫛田も体育祭で大きなポイントを稼ぐことになるだろう。

 

「まぁ今は我慢してろ。今後無人島試験のような大きな試験が来たときに全てひっくり返してやる」

 

 あまり勝ってもメリットが無い体育祭で切り札を使うより、温存しておいた方が後に良いと判断したのだろう。

 

「分かった。ひとまずあんたの言う事に従ってあげるわ」

 

「それが賢明だな。今後とも頼むぜ? 櫛田」

 

「……裏切ったらタダじゃ置かないから」

 

 話はこれで終わりだと言う様に部屋から出ていく櫛田。

 それを無言で見送った龍園は、ポケットから取り出したスマートフォンを操作し、とある画面を開いた。

 

「馬鹿な女は操りやすくて良い」

 

 表示されていた再生ボタンを押すと、そこから流れて来たのはとある音声だった。

 

『当たり前でしょ。ホントムカつく。堀北のクソ女!』

 

「ククク……面白くなって来たじゃねえか」

 

 ────静まり返った部屋の中で嗤う龍園の瞳が見据えていたのは、体育祭だけではなくその先だった。彼が他クラスの牙城をいつ崩すのか……それはまだ誰にも分からない。

 

 

 





次で体育祭本番かな?…多分

モチベ=投稿頻度なので、まだやってないよって方は高評価や感想、お気に入り登録をしてくれると超嬉しいです!!

年明けは旅行行くから流石に投稿できないかも

話の進むテンポについて

  • もっとサクサクでもいいよ
  • 今のままで良いよ
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