ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
1日開けてこの長さでごめんなさい…
ピストルの音と共に飛び出した12人の生徒。今回は3年→1年、Aクラス→Dクラスの順で外側から内側に並ぶスタート。
そうなると須藤は一番後ろからのスタートとなるが、圧倒的加速力で一気にすべての生徒を追い抜く。そして力強い走りでそのまま直線へと差し掛かった。
「凄いわね須藤君。あんなに差を付けて」
堀北が感心したように呟く。確かにあのごぼう抜きは相当インパクトがあっただろう。
「作戦は大成功だな。須藤の我慢は無駄じゃなかった」
カーブで他の生徒がもつれている間に、15m程のアドバンテージを維持して直線へと差し掛かった。恐らく最初から主力級の生徒を配置したクラスは少なかったのだろう。追い抜く時にかなりのタイムロスが生じるため、ここで1位になれたのはかなり大きい。
須藤はアンカーか5番手が良かったと言っていたが渋々納得してもらった。後で飯でも奢ってやろう。
「次だな。頑張れよ」
「言われなくても」
トラックの中に入り準備を済ませた堀北にそう話しかける。堀北らしい、非常に頼もしい返事が返ってきた。
本当は兄と勝負したかっただろに、クラスの勝利を優先する姿勢はリーダーの鏡だな。
「すげぇ! 1位で渡しやがったぞあいつ!」
「応援しよう皆! ここからが勝負だよ」
応援に来てたDクラスの集団の最前列で、興奮したように池が叫び、平田が発破をかける。それを皮切りに全員で応援するDクラスの生徒たち。
しかし、いくら運動の得意な小野寺でも2、3年生の男子とは分が悪いようで、そのリードはどんどん狭くなっていく。
「堀北さん!」
そしてゴール前の50mで3年Aクラス、2年Aクラスの生徒に追い抜かれ、現在3位で堀北にバトンが渡る。
「はぁ……はぁ……やっぱ速いなぁ先輩は。2人も追い抜かれちゃったよ」
「お疲れ様。むしろよく2人に抑えたと思うぞ? 後は任せろ」
悔しそうに呟く小野寺にそう言い、トラックへと向かう。
現在堀北が1年Bクラスに抜かれ4位。順位が早い生徒が内側で待機するルールの為、オレは4番目のレーンで待機する。
「おい綾小路! お前負けたら許さねぇからな!」
池が大声で発破をかけてくる。
オレはそれに手を上げて答えると、前後の距離をキープし直線へと差し掛かった前園を見る。現在ほぼ同率の3Aと2Aの後ろ10mに続いている。このまま順当に進めば優勝は間違いないだろう。
────しかしその時、残り50mに差し掛かった辺りで、足がもつれたのか前園が転倒してしまう。
直ぐに立て直した前園だったが、2人、3人と抜かされ、走り直した頃には最下位となってしまった。1位の3Aとは50m以上の差がついてしまっている。
「あっ……」
そんな声がDクラスの方から聞こえてきたが……オレは諦めるつもりなど毛頭ない。
「諦めるな!」
自分でも驚くほどの声量が出た気がする。後に堀北と紡にからかわれることは確定してしまったが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「ううっ……綾小路君っ!」
さっきまでの綺麗なフォームはどこへやら、ひたすら前に進むことで必死な前園。今にも泣き出しそうな顔でバトンを持った手を伸ばしてくる。
今、オレの元にバトンが渡る。
────今、オレの右手にあるバトンには、単なるリレーのための道具には留まらない想いがこもっている。
情熱の大きさから、時にはクラスメイトと衝突することがあった。それでも自分を見捨てなかった紡や堀北の為に自分にできることを全力で行い、見事走り切った須藤の想い。
体育祭のリーダーとして、まとまりに欠けるDクラスを牽引するのはきっと大変だっただろう。それでも夢を応援してくれた紡の為、愚痴1つ吐かずにここまでやり切った堀北の想い。
そして、白い部屋での日々で人の心を失っていたオレに、諦めずに接してくれた紡や堀北、Dクラスの生徒達に対するオレからの感謝。
「綾小路君!」
スローで流れる意識の中、オレを呼ぶ声だけが鮮明に聞こえた。
バトンを貰い振り返る瞬間に見えたのは、既に諦めムードが出ているクラスメイトたちの中、1人身を乗り出して応援する佐倉の姿。
「頑張って!」
その想いを、オレの恩人であり、親友である紡に今から継ぐのだ。だったら……
「任せろ」
────優勝してもらわないと、格好がつかないだろ?
────────────────
「うお、はっや清隆君」
前園さんが転んだときはどうなるかと思ったけど、清隆君の化け物みたいな走りでどんどん抜かしていき、3位まで持ち直した。
「だが俺たちのクラスや、南雲のクラスとの差はそう簡単に埋められるものじゃない。綾小路が来るまで待ってやってもいいが」
「あんまり馬鹿にしないでくださいよ会長。手抜いたら承知しませんからね」
「そうか。なら遠慮はしない。約束は違えるなよ?」
「ええ。もちろん」
もう勝った気でいるよこの人。まぁいくら清隆君が速いと言えど、到着時会長のクラスとの差はせいぜい10m程。実力者同士でこの差は致命的だ。そうそう覆せるものではない。
────しかし、この絶体絶命の状況を覆す方法が一つだけある。
「清隆!」
清隆君が到着するまで残り30m。その前を走る2人との差は約10m程。
そんな状態で、俺は向かって来る清隆君に大声で叫んだ。聞こえている保証なんてない。だが、清隆君なら大丈夫だという確信があった。
「
それと同時に、3年生の先輩が会長にバトンを渡そうと声を上げる。2年Aクラスもほぼ同じタイミングでバトンが渡った。
────そして、彼らが走り出した瞬間。それと
────────────────
「何してんだよあいつ!? まだバトン貰ってねぇだろ!」
「焦っちゃったのかな……」
同時期、その様子を見ていた池が焦ったように叫び、櫛田が心配そうにその様子を見つめていた。
確かに斎藤は、綾小路からバトンを貰う前に飛び出した。これでは一度止まって受け取り直すしかなくなってしまい、余計なロスが増えることになる。
「……いや。あれはわざとだよ。ほら見て」
そんな不安を打ち破ったのは、スポーツに明るい平田だった。専門の競技ではないものの、その『渡し方』の存在自体は知っていたようだ。
「は? 何で並んでんの!」
平田が指差した先にあったのは、2人の後方1mほどを追う斎藤の姿があった。何故か10m近くあった差がほとんど無くなっている。
速力の違いで追い抜いたとしたら、既に斎藤が先頭に出ているはずだ。しかしその様子も見えない。
「土壇場でやったとしたら凄いよ! 池君も見たことあるでしょ? あれは陸上選手が大会とかで使うバトンパスだ!」
そう。いくら学年でも随一の走力を持つ斎藤でも、10mの差を付けられ、なおかつ追い抜くときに外側から抜かないといけないという条件では勝つことは不可能。
そこで斎藤は一か八かの賭けに出た。
────陸上の世界大会等でも使われる方法で、バトンが到着する前に走り出し、加速しきった状態でバトンを貰う技術を斎藤は使った。
数か月にも及ぶ緻密な調整が必要であり、人生を走ることに注ぎ込んできた陸上のプロでもミスをする可能性があるこの技を、2人はセンスとお互いの信頼関係で成し遂げたのだ。
2人の体格では失敗したら大けがを負う可能性もある。しかし、斎藤にはこれが成功するという『確信』があった。
「何かよくわかんねぇけど、行けるんじゃねえか!? いよっし! 応援するぞお前ら!」
言葉の意味は理解できなかったが、興奮したような平田の様子から凄いことをしたのだと理解した池。見えてきた優勝の可能性にテンションを上げ声援を送る。
そして、ほとんど同じタイミングで3人がゴールの白線を踏んだ。それから遅れて全員がゴールへと到着する。
備え付けられた電光掲示板に、チームの記録と順位が表示されて行く。1,2,3位に関しては順位の所に『現在判定中』との文字が表示されていた。
「おい! どっちが勝ったんだ!?」
堪らないと言った様子で声を荒げる池。他の生徒も口にこそ出さないが同じ心情のようだ。
『只今ビデオ判定の結果が出ました! 1着……
────1年Dクラス! 2着────』
「いよっしゃあ!!!」
残りの順位の発表を待たずして、池が大声で歓声を上げる。
グラウンド全体に今日一番の大歓声が沸き、アンカーである斎藤の元に十数人の生徒が囲むようにして集まった。
「お前すげぇよ! 綾小路もめっちゃ速かったしさ!」
「それな! マジで私終わったかと思ったもん!」
「あのバトンパス何なんだよ!? 練習してたのか?」
口々に質問や喜びを投げるクラスメイトに、斎藤は苦笑いをしながら告げた。
「あはは……ちょっと落ち着こ? 先生も見てるしさ。まあでも……勝ったよ! 皆!」
「「「うおおおおお!」」」
原作では想いなどどうでもいいと言った綾小路君が、今作では彼らの想いを親友へと渡す。ベタな展開ですけど凄く良いですよねー
次回後日談+です!
評価人数500人突破しました!皆様の応援のおかげでここまで書くことができました!これからもこの作品と紡君をよろしくお願いします!
話の進むテンポについて
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