ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
「よーし始めるぞ、お前ら集合しろー」
The・体育会系。と言ったような雰囲気のマッチョのおっさんが声を上げる。その大きな体から出る声はよく通るらしく、バラバラに別れて話していたクラスメイト達が集合した。
「見学者は16人か……随分多いようだが、まあいいだろう」
さすがに、半数近くの生徒が休んだらサボりだと疑うと思うが、それでも先生は咎めることはしなかった。この放任主義というか、冷たいともいえる教育形態は、どの科目の先生も同じらしい。
オレが知らないだけで、義務教育を終えた後に通う高校全てがこんな感じなのかもしれないが。
「綾小路君はどんなもんよ? 水泳」
隣に立つ紡に話しかけられた。その表情は楽しげで、今にも始まる水泳の授業を楽しみにしているようだ。
「そこそこだ。人並みって感じ。紡は得意なのか?」
紡と知り合って1週間。コミュニケーションを苦手とする俺でも、紡と話す時はスラスラと言葉が出てくる。沈黙も気にならないし、順当に親友への道を歩んでいると言っても過言じゃない。
「まぁねー。俺、これでも全国経験者だから」
ニカッと笑いながら、紡は自分を指す……申し訳ないんだが、山内が似たような嘘を吐くせいで、すぐには信用出来なかった。
「あ、信じてないな? ちょっとショック」
「だってあなた、平田君とサッカー部の見学しに行ってたじゃない。全国に出てるくらいなら、水泳部に入るのが普通だと思うわよ」
そう語るのは毎度おなじみの堀北だ。なんやかんや言って、こいつも俺たちとの会話を楽しんでいる節がある。
「サッカーも全国出てるよ? 嘘だと思うなら今度俺の名前で検索してみて、多分両方とも新聞出てくるから。まぁ、結局どの部活にも入るつもりは無いんだけどね」
「入らないのか?」
「最初は入ろうと思ってたんだけど、俺幼なじみとこの学校来ててさ、その子が体弱いから面倒見てんのね? だから部活やってる暇ないなーって」
何十倍もの倍率を誇るこの学校に、幼なじみと2人で入学か。さぞかしその相手も優秀なんだろうな。
そんなことを思ってると、先生がパンと手を叩いて話し始めた。
「お前らの実力を見たいから、準備体操が出来たら早速泳いでもらうぞ」
「先生、俺あんまり泳げないんすけど……」
1人の生徒が不安げに手を挙げる。
「大丈夫だ、俺が教える限り必ず泳げるようさせてやる」
「いや、別にいいですよ。無理して泳げるようにしてもらわなくても」
補習までして泳げるようになりたいという生徒は居ないだろう。
「そうはいかん。今は泳げなくてもいいが、克服はさせる。泳げるようにしとけば必ず役に立つぞ? 必ず、だ」
『必ず』か……そりゃ確かに泳げて損は無いと思うが、何か含みを感じる言い方だな。
ま、教師として泳げるようにしてやりたいって気持ちが強いのだろう。
それから準備体操を終え、50mを流しで泳いだ。泳ぎ切れない生徒は底に足をつけても構わないらしい。
「とりあえず殆どの者が泳げるようだな」
「余裕ッスよ先生。俺、中学の時は機敏なトビウオって呼ばれてたんで」
「そうか。では早速競争を行う。男女別50m自由形だ」
初授業でいきなりか。こういうのは数回ほど授業を行った後にやるものだと思っていたが。
そう思っていたのは俺だけでは無いらしく、周りの生徒がザワついている。
「1位になった生徒には、俺から特別ボーナスで5000ポイントを支給しよう。逆に一番遅かった奴は補習だから覚悟しとけよ」
その言葉に歓声と悲鳴の両方が上がる。
「ちょうどいいじゃん。一番取って証明してあげるよ」
「お、おう。分かった」
隣で紡が嬉々として語る。いつも掴みどころがなく、飄々とした余裕を見せている彼らしくない様子に困惑するが、意外と子供っぽい所もあるようだ。
そんなギャップも女子にモテる理由なのかもしれない……参考にしなくては。
「女子は人数が少ないから、5人を2組に分けて、一番タイムの早かった生徒の優勝にする。男子はタイムの早かった上位5人で決勝をやる」
学校側がポイントを景品にしてくることがあるなんて思ってもみなかった。もしかしたら今回欠席した生徒たちに発破をかけるためなのかもしれない。よく考えられている。
競争に参加するのは見学者と泳げない一人を除いた、男子が16人、女子が10人。まずは女子からスタートということで、男子たちはウキウキ気分でプールサイドに座り込み、女子を応援……品定めする。
準備をする女子たちをボーっと見つめていると、隣に座った紡がオレの肩をちょんちょんと叩いてきた。
「綾小路君は誰推し? 好きとかじゃなくて、タイプ的な」
にやにやと笑いながら耳打ちをしてくる。推しというのは言わずもがな女子についてだろう。朝の胸の大きさ賭博の時に、全く興味を示していなかったから、彼からこの手の話題が出るのは意外に感じた。
「意外だな。この手の話題に興味がないのかと思ったぞ」
「朝のアレに参加しなかったから? 冗談はよせよ。あれに参加してるだけで、女子からのポイントはダダ下がりだぜ?」
そうだったのか。あれが健全な男子高校生だと思っていたが、どうやらちょっとずれていたようだ。確かに紡と平田という、Dクラス筆頭イケメンは両方とも参加してなかった……欲をオープンにするのはやめておいた方が良いな。
「で、誰なの?」
「……そんなに気になるか?」
なんか酔っぱらった親戚のおじさんの相手をしている気分だ。そんな経験ないけど。
俺の沈黙をどう捉えたのか、紡は心底申し訳なさそうに、頭を下げて語り出した。
「ごめん。俺から言うべきだったね。えっと……まず堀北さんでしょ? 後は……軽井沢さん、佐倉さん、佐藤さんかなぁ」
何と言うか、意外なチョイスだ。堀北、軽井沢、佐藤の三人は、お世辞にもそこまで良いプロポーションとは言えない……自分で言ってて最低だな。
かと思えば、佐倉は相当良い体をしている。雰囲気や性格も全く違うが、一体どのような共通点があるのだろうか?
「意外だな。その人数なら、櫛田がチョイスに入ると思っていたが」
「櫛田さんはね……ちょっと
一体何に向いてないんだろうか? そう質問しようとしたとき、ゴールし終えたであろう堀北がこちらへ向かってきた。
「一体何をコソコソ話しているのかしら?」
「何でもないよ。それより凄いね! 現役水泳部に次いで二位だよ?」
コイツ思いっきり話題を逸らしたな。助かるけどさ。
「……まあ、別に勝ち負けは気にしてないから。それより、二人とも自信はあるの?」
「俺はバッチリよ。何なら一位取れなかったら、明日弁当作ってきてあげるよ」
紡の弁当か。ちょっと……いや、かなり気になるな。友達の手作り弁当なんて、早々食べる機会無いだろうし。
そんな俺とは逆に、堀北は興味なさげに吐き捨てた。
「別にいらないわよ」
「そう言わずにさ、そこまで自信があるって事で。綾小路君はどう? 人並みって言ってたけど、補習は嫌っしょ?」
「当たり前だろ。ビリにはならん」
「……それ、自慢する事じゃないわよ。男子は勝ち負けに煩いと思っていたけれど」
「オレは競い合うのが嫌いなんだ。事なかれ主義だからな」
1位なんて最初から諦めてる。オレは補習さえ避けられればそれで十分だ。
最初の組に配属されたオレは2コースで、隣の1コースには須藤がいた。運動部の須藤にペースを合わせるのは不可能だ、すぐ眼中から外す。とりあえずこの中でビリを避ければ、最下位は避けられる。
それだけを考えながら、スタート台から飛び出した。 50mを物凄い勢いで泳ぎきり、須藤は水面に顔を出した。男女から驚嘆の声が上がる。
「やるじゃないか須藤。25秒切ってるぞ」
一方オレは36秒少し。どうやら10位だったようだ。よし、これで補習はなくなった。
「須藤、水泳部に入らないか? 練習すれば大会も十分に狙えるぞ」
「俺はバスケ一筋なんで。水泳なんて遊びっすよ」
この程度の水泳は運動のうちにも入らないのか、須藤は余裕な様子で上にあがって来た。
「お疲れ、綾小路君」
「ありがとう。須藤の記録ってどのくらい凄いんだ?」
労いの言葉をくれた紡に質問する。
「んー。あと1秒くらい縮めれば全国でもいい感じに戦えるって感じかな? 未経験であれは凄いと思うよ」
「なるほどな。次だろ? あれだけ啖呵切ったんだから頑張れよ」
「おう! 1位になったら話の続き教えてよ?」
そんなに俺の性癖を知りたいのか……まあ、それくらいなら構わないが。その言葉に頷くと、紡は満足そうにスタート台に向かっていった。
「きゃー! 平田君頑張ってー!」
女子から悲鳴(喜びの)があがる。見ればスタート台には平田が立っていた。細マッチョでThe・女子にモテるといった体形だ。女子が湧くのも無理はないだろう。
池が唾を吐く仕草を見せ、須藤もちょっと気に入らない様子で平田を睨む。
「勝ち上がってきたら全力でたたき潰してやるぜ。この俺の全力をもってな」
水泳は遊びじゃなかったのか……
「紡君頑張ってね。応援してるよ」
「おう! ぶっちぎりで1位取ってカラオケ奢ってあげるよ」
一方端のコースに立って居る紡は、女子6、7人に囲まれている。平田を応援するキラキラした女子とは対照的に、こちらは少し大人しめの雰囲気の女子が多いように思える。
というより、彼女たちは紡と呼んでいるんだな……いや、決して自分だけが下の名前で呼んで優越感を感じていたわけではない。決して。
アイドル的な立ち位置の平田と、親しみやすい雰囲気の紡という、タイプの違いが出ているのだろう。同じくモテているのには違いない。因みに櫛田は紡派だ。
「っくー! なんだかんだ言って斎藤のヤツもモテんじゃねえかよ!?」
そんな池の悲鳴を尻目に、レースはスタートした。
ガヤガヤとヤジを飛ばす池たちだったが、その声も尻すぼみとなっていく。ちゃっかり隣で見ていた堀北も、驚きの表情を隠せないようだ。
「23秒70……」
「お、久しぶりにしてはまあまあじゃん」
確か紡は24秒切れれば全国でもいい線行けると言っていたが、専門じゃない競技でこのレベルの人間が居たらやる気なくすだろうな。
「……ごめんなさい。正直想像以上だったわ」
「ああ、これはお前が優勝で決まりだろうな」
あの堀北でさえ謝罪をするほどだ。
「へっへーん。どうよ、凄いっしょ?」
鼻の下を人差し指で撫でて得意げに語る紡だが、残念なことに、それも長くは続かなかった。
「第三レース、記録……
「いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は好調のようだ。悪くないねぇ」
ざばりと上にあがって来た高円寺は余裕の笑みを見せ、髪をかきあげた。息が切れている様子もなく、本気を出して泳いだとは思えない。
「マジ……?」
紡も口をあんぐりと開けてそのまま動けないようだ。そんな様子の彼の下へ向かうのは、先ほど驚異的な記録を見せた高円寺だった。
あくまで尊大な態度は崩さず、すれ違いざまに語る高円寺。
「次は
「……こりゃ負けてらんねぇな」
そう語った紡は、覚悟を決めた男の顔をしていた。
「燃えて来たぜ……!」
須藤は負けたくないのかメラメラと闘志を燃やし始めた。いや、お前でもこの2人はキツイと思うぞ。
────────────────
「ではこれより、男子決勝を行う」
ヤバい。超緊張してきた。普通に大会出た時より緊張するわ。
あんだけ啖呵切っといて高円寺君に負けるとか、恥ずかしくて死ねるレベルだ。しかも手抜いたのバレてるし。
いや、確かにちょっと抑えたけどさ。去年に比べて5センチ以上背伸びたし、筋力もついてるし、ガチでやったらエグイ記録出て勧誘めんどいから抑えたけどさ!
「まさか君の様な面白い人間がいるとは思わなかったよ。それほどの実力を持ちながら、何故手を抜いているんだい?」
「何言ってんのよ……そもそも、さっき初めて喋った相手に、そんなこと分かるわけないじゃん」
「私を誰だと思っている? 相手がどのような人間かなんて、見ただけで手に取るようにわかるさ」
なんか絡まれてるんだけど、助けて綾小路君。
と、それはさておき。23秒22か……確か中学生の日本記録って23秒50くらいだよな。化け物かよ。
体温まってなかった、久しぶりに泳いだ、手抜いた、っていう言い訳が通じるか分からないが、今の俺だったら、この記録を越せるポテンシャルはあるはずだ。
「大会を思い出せ……俺ならやれるはずだ」
そんなことをブツブツと呟いていると、後ろから肩を指で叩かれた。そこにいたのは綾小路君と堀北さん。
「頑張れよ」
「あれだけ言い切って負けたら恥ずかしいわよ。斎藤君」
「要するに、頑張れって事だ」
「何を言っているのかしら綾小路君。元はと言えばあなたが────」
マジか。あの堀北さんが俺に発破の言葉を掛けるだなんて。
俄然やる気が出てきた。この勝負、絶対俺が勝つ。
「それでは、男子50m自由形の決勝を始める」
合図とともにスタート台の上に立つ。先生もやけに真剣だし、周りも固唾をのんでこちらを見ている。それだけ俺と高円寺君の勝負が気になるのだろう。
そしてブザーの音が鳴った瞬間、俺は弾丸の様に飛び出した。
「うお! 早え!」
隣から池の声が聞こえて来る。隣のレーンの高円寺君は俺より頭一つ分前を泳いでいる……マズイな、流石に技術は俺の方が上だろうが、基礎体力だったら彼の方が上。初動ですでに負けているとなると、ここから逆転するのは厳しいだろう。
「紡君頑張ってー!」
「おい斎藤! どうせなら1位取って俺に飯奢れよ!」
クラスの奴らが俺に並走しながら応援してくる……最初から気持ちで負けてどうすんだ。俺は全力を尽くしてこいつに勝つ。それ以外は考えなくていい。
「高円寺との差が縮まってきたぞ!」
残り半分を切った辺りで、俺と高円寺君が並ぶ。さて、ここからは根性勝負だ。
そしてほぼ同時に向こうの壁に手を付ける。そして全員がゴールした。
「どっちだ! どっちが勝った!?」
そんな池の声がプールサイドから聞こえてくる。横を見ると、クラスの半数ほどがこちらまで来て先生を見つめていた。
ストップウォッチを手に取った先生が、一呼吸おいてゆっくりと告げた。
「第一位。記録……23秒08──────斎藤紡」
「────よっしゃあ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は無意識に叫んでいた。
基本的に冷めている俺だが、運動…それも得意な競技で負けたくなかったから、これで一安心だ。
「斎藤が勝ったぞおおお!」
プールサイドに上がると、歓喜の声を上げたクラスメイトに囲まれる。皆俺と高円寺君の熱い戦いに浮かされたのか、異様なテンションの高さを見せていた。
「お前すげぇよ! あの高円寺に一泡吹かせるなんてよ!」
「俺もビックリだよ。自己ベスト大幅に超してたし」
彼らの称賛を受けていると、遅れてプールサイドへと上がってきた高円寺君が、笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「負けたよ、完敗だ。まさか本気の勝負で私が敗北を喫するとは」
高円寺君は23秒11だったらしい。本当に僅差だ。というか、割とさじ加減で変わるレベルではある。
しかし、彼は言い訳等を一切することなく、俺を讃えてくれた。
「だが私も敗北を黙って受け入れるほど大人ではないのでね。次はリベンジさせてもらうよ」
そう言うと、こちらの返事を待たずして去って行く高円寺君。
「……なんか、ヤバいのに目付けられてないか?」
「……言わないでくれ」
そんな綾小路君の言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。
友情努力勝利は王道ですよね。主人公がヒモの漫画がジャンプにあるかは分かりませんが…
ぶっちゃけ原作(小説・アニメ・漫画)見てます? 見てない方多かったら、試験の説明詳しく書きます
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