ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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これで体育祭編は終了かな


夜明け

 

 

 

 各クラスの順位を確認中とのことで、最後の競技を終えてから10分ほどの時間を空けての閉会式となるようだ。

 皆の注目を清隆君に押し付け、俺は1人グラウンドわきの日陰で体を休めていた。

 

「あ、いたいた」

 

 コンクリートの冷たい壁に背を預け物思いにふけっていると、鳴りを潜めてきた静けさの中に1つ明るい声が響いた。

 声の方向を見ると、そこには右手にスポーツドリンクを持った軽井沢さんの姿が。

 

「はい。あたしからの奢りだから感謝して飲むように」

 

「お、ありがと」

 

 ペットボトルを受け取りキャップを開ける。って……

 

「これ開いてない?」

 

「うん。私も喉乾いちゃったから一口だけ飲んじゃった。気にしないから飲んで良いよ」

 

「あ、そう」

 

 水滴のついたボトルを握り、中身を半分ほど飲む。喉を通る冷たい感触が火照った体に染み、ため息がこぼれる。

 

「あ˝ーおいし。ありがとう軽井沢さん」

 

「うん。それは良いんだけどさ……ちょっとは気にしようよ」

 

 気にしないからと許可を取って飲んだにも関わらず、こちらをジト目で見つめる軽井沢さん。今まで様々なタイプの子と付き合ってきたが、やっぱりこの年になっても女性の気持ちを完全に理解するのは不可能のようだ。

 

「気にしないって言ったから、遠慮するのも違うかなって思ったんだけど……」

 

「やっぱりちょーっとズレてるよね。斎藤君って」

 

「何だそれ」

 

 プンプンと可愛らしい怒り方をする軽井沢さんに、思わず笑みがこぼれる。夏休み前から感じていた、何処か常にピりついていた感じも無くなってる。それが今回の体育祭に良い方向に働いているのは間違いないだろう。

 

「まあ……お疲れ。その……かっこよかったよ」

 

「お、マジ? ありがと」

 

 彼氏持ちの子に言われるのは罪悪感というか背徳感がすごいな。浮気にハマっちゃう人はこういう感情が原因なんだろうか。

 

「……なんか失礼なこと考えてるでしょ」

 

「いや、全然? それにしても、軽井沢さんもお疲れ様。めっちゃ頑張ってたの見てたよ」

 

「そうやって誤魔化そうとしてる……別に、いつも通りよ」

 

 誤魔化すつもりは無かったんだけど……タイミングが悪かったか。

 

「いや、俺から見たら全然だよ? クラスがまとまるように動いてたり、運動苦手な子のフォローしてたりしたじゃん」

 

 今までの軽井沢さんならまずやらないだろう。外から見たら似ている事かもしれないが、よく見てみればその意味は真逆と言っても過言じゃない。

 イジメられないようにという負のモチベーションではなく、また別の理由から動いてくれるようになった彼女は、俺からは凄く魅力的に見えた。

 

「ふーん。女子の気持ちは分からないのに、そういう所はちゃんと見てるんだ。まあいいけど」

 

「あはは……」

 

「それ返して。あたしも喉乾いたから」

 

 返答を待つことなくペットボトルを取り返す軽井沢さん。

 そしてキャップを開けそのまま飲むかと思いきや、飲み口を見たまま喉を鳴らした。……ああ、なるほど。そういう事か。

 

「躊躇してると逆に変態っぽくなっちゃうよ。……それにしても、意外とピュアなんだね? 軽井沢さんって」

 

「うっさい!」

 

「ちょ」

 

 ちょっとからかっただけなのだが、ペットボトルを投げつけた軽井沢さんはぷんすかと怒って歩いて行ってしまった。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「なあ、紡の奴どこに行ったんだ? そろそろ結果発表されるぞ」

 

「ん、どこだろうね? さっき戻る時までは居た気がするんだけど」

 

 隣にいた平田に聞くが、どうやら見ていない様子だ。

 珍しいな。基本的にこういう賑やかしの場には必ず現れるはずなんだが。まぁ全競技ぶっ通しでやったからな。疲労がたまっていてもおかしくない。

 

「信っじられない! やっぱ最低よあいつ!」

 

 怒り心頭といった様子で歩いてきたのは軽井沢。最近はまだとっつきやすい性格になった気がしていたが、一体どうしたのだろうか? 

 

「どうしたの?」

 

「……別に、なんでもない」

 

 そのまま平田の隣に立つ軽井沢。何ともうちのクラスは感情豊かな女子が多いもんだ。夏休み前と違い交流が0というわけでもないが、明らかに面倒くさそうなので平田に任せておこう。

 

『それでは、これより本年度体育祭における勝敗の結果を伝える』

 

 丁度軽井沢が戻ってきたタイミングでアナウンスが流れる。

 赤組と白組に分けられた電光掲示板の数字がカウントを始め、数値が増え始める。 

 全13種目のトータル獲得点数。勝った組は……。『勝利赤組』の文字と共に点数が発表される。

 

「意外と圧勝だな」

 

「何となく理由は察せるけれどね」

 

 いつの間にか隣にいた堀北がそう呟く。勝ったのに随分と冷静な様子だ。

 

「問題なのはこっちじゃないでしょ。……まぁ、大方結果の予想はついてるけど」

 

『続いて、クラス別総合得点を発表する』

 

 全12クラスを3つに分けた表示が一斉にされ、各クラスの得点が表示されていく。 

 オレたちにとって2年3年の内訳はどうでもいい。肝心なのはDクラスが何位であるかだ。電光掲示板に以下のような順位が発表される。

 

 1位 1年Dクラス

 2位 1年Cクラス

 3位 1年Bクラス

 4位 1年Aクラス

 

「お、勝ったな。正直あまり驚きは無いが」

 

「……そうね。どちらかというとCクラスの順位が気になるわ」

 

 近くでは須藤や女子達が歓喜の声を上げているが、オレも堀北もはしゃぐようなタイプではない為リアクションが薄くなる。

 

「まさかBクラスを抜かしてくるとはな。Aクラスに関しては坂柳が出れない分仕方がないとは思うが」

 

『それでは最後に、最優秀選手を発表する』

 

 そして目玉となる最優秀選手。と言ってもこれは確定だ。

 

 

 

 ────総合最優秀選手:1年D組・斎藤紡

 

 

 

「……借り物競走のあれが無ければな」

 

「あら? 皆に付いて来てもらえて随分嬉しそうだと感じたけど……次からは行かない方が良いかしら」

 

「それとこれとは話が違うだろ!」

 

 ……まぁ、正直10万ポイントなんかとは比べ物にならないな。

 

「なら素直に喜びなさい。私は嬉しいわよ。紡君が最優秀選手で」

 

「……そうだな」

 

 ────そして、最終的に赤組勝利によってCクラスとBクラスに-100CPt。

 順位によるポイントと合わせるとDクラスに50、Cクラスに-100、Bクラスに-150、Aクラスに-100が与えられる結果となった。

 そうなると、各クラスポイントは以下の通りになる。

 

 Aクラス   919CPt

 Bクラス   703CPt

 Cクラス   392CPt

 Dクラス   540CPt

 

「……まさかここまで早々に差が詰まるとは思わなかったわ。────これで私達は来月からCクラスへと上がる」

 

「体育祭は大成功だな。流石だ堀北」

 

 手にメモ帳とペンを持っている堀北にねぎらいの言葉をかける。

 

「これからが本番よ……と言いたい所だけど、正直少しだけ安心したわ」

 

 それを聞いて、溜まっていたものが抜けるかのようにため息をついて、堀北は芝生へと座り込む。

 

「根を詰めすぎるのは良くないって、あなたともう1人ここに居ない誰かさんに常々言われているから。体育祭で入ったポイントで買い物でもしようかしら」

 

「堀北が買い物か。何を買うんだ?」

 

 ちょっと意外だったため聞いて見る。こいつのことだから来るべき日に備えて節約するとでも言うと思ったが。

 何気ない質問だったが、堀北は驚いたように少し固まり、そして恥ずかしそうに小さく語った。

 

「……服とか、化粧品とかそういうのよ。色々調べてあるの」

 

「ふっ……そうか、そう言えばそうだったな」

 

 ちょっと意外な買い物の中身が滅茶苦茶意外だったが、その理由を理解し吹き出してしまった。

 そんなオレを何度見たか分からないジト目で見つめて来る堀北。下手な事を言ったら右手に持ったペンで刺されそうだ。

 

「……何。文句があるならはっきり言ったらどうかしら」

 

「いいや。そうだよな。だって堀北は恋する乙女だもんn……痛!?」

 

「私の手が出る前に謝罪することをお勧めするわ」

 

「だから、それは手を出す前に言う言葉だ!」

 

 結局抑えられずにからかってしまった。

 

「綾小路君が余裕で居られるのももうあと少しよ。今回の体育祭、紡君と同じくらい注目を浴びてただろうし」

 

「それの何が悪いんだ? モテることはいい事だろ?」

 

「もしあなたに言い寄る生徒が増えたとして、女性経験のないその中身を知られたら呆れられてお終いよ」

 

 真顔なのかドヤ顔なのか分からない、物凄いムカつく表情で煽ってくる堀北。一体いつお前はそんな表情が出来るようになったんだ? 

 オレの記憶には真顔とジト目と怒った顔と照れた顔しか無かったんだが……

 

「……やってみないと分からないだろ」

 

「そうね。何事も挑戦よ綾小路君。だったら私に言うことがあるんじゃないかしら?」

 

「すみませんでした」

 

 人の挑戦を笑うのはよくないことだ。ごめんな堀北。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 体育祭が終わってから1週間。その熱もだんだん引いてくる頃合いだろう。実際あの夢のような時間の話題も段々少なくなり、体育の時間も今まで通りの形態へと戻った。それを見ると、安心したような寂しいような複雑な気持ちにさせられる。

 そんな金曜日の放課後に、オレは堀北と共に『ある生徒』に呼び出されていた。

 

「なぁ。オレたちは今から怒られに行くのか?」

 

 いつもの凛々しさは鳴りを潜め、どこか緊張した様子の堀北にため息を吐きながら質問する。

 

「……そんなわけないでしょ。からかうのは私の手が出ない内に抑えておきなさい」

 

「こっわ」

 

 別にそうとは一言も言っていないのだが、付き合いの長さからか言葉の意図を読み取られてしまったらしい。

 しかし、堀北の為にもこれだけはしっかりと言っておきたかった。

 

「少しふざけたのは事実だが、お前がそんな様子でどうする。まさか今までやってきたことに自信を持てないのか」

 

「……そうね。ありがとう綾小路君」

 

 そう小言を言っただけだが、堀北は感謝の言葉と共にいつもの様子に戻った。こういう切り替えの早さは、堀北が入学してから成長した部分の一つだろう。

 そして呼び出された部屋の前へと向かい、2人並んで扉に向かう。そのまま堀北は扉を4回ノックした。

 

「失礼します。一年Dクラスの堀北と綾小路です」

 

「入れ」

 

『生徒会室』という札が張られた扉を開け中に入る堀北。

 オレも続いて入室すると、そこには遠目からのみだったが見た事のある一人の生徒・堀北学が立っていた。

 

「少し長くなる。座ってくれ」

 

「失礼します」

 

 応接用のソファに案内され、堀北の隣に座る。そしてテーブルをはさんで向こう側に座った堀北兄。

 

「まずは突然の呼び出しになった事を謝罪する。()()()早い方が良いと思ったからな」

 

「いえ……それで、一体どんなご用件で?」

 

 オレが居るからか、それとも別の理由かは分からないが、兄の前だが一学生としての立場は崩さないようだ。

 そんな堀北を見てどう思ったかは定かではないが、堀北兄は一度何かを考えるそぶりをした後、妹と似た真っ直ぐな瞳でオレ達を見つめた。

 

「結論から話す。お前ら2人には生徒会に所属してもらいたい」

 

 ここだけを聞けばただの勧誘だと思われるだろうが、この学校の生徒会となると話は変わってくる。

 何せリーダーシップの塊のような人間である一之瀬や、坂柳と並んでAクラスを導いてきた葛城。誰が見ても生徒会に適性があると言うであろうこの2人を生徒会に入れなかったのは、今目の前にいる堀北兄なのだから。

 

「生徒会……ですか?」

 

「ああ。そして、ゆくゆくはお前たちに生徒会長、副会長の座を継いでもらいたいと思っている」

 

 面食らったように聞き返す堀北に、一切の淀みなく返す兄。

 ……となると、堀北が会長になってオレが副会長になるということだろうか。

 

「それは……一体どういう理由ででしょうか?」

 

 まどろっこしい話が嫌いなのか、いきなり要件から話し始める堀北兄に、困惑しながら理由を訪ねる堀北。

 

「お前達の日々の様子を見て「御託は良いでしょう? あまり時間を掛けたくないんですが」……口の利き方がなっていないようだな」

 

「ちょっと、綾小路君」

 

 堀北が咎めるようにこちらを睨んでくる。しかし、オレが聞きたいのはそんなことではない。

 

「そっちの真意を話さない限りこの話は先に進まない。()()()()()()()()()()()

 

 本来ここに関わることの無いオレの親友の名前を出したが、堀北兄の反応は一番だった。

 

「ほう? よく分かっているじゃないか……流石斎藤が天才というだけある」

 

「どういうこと? どうして彼の名前が出てくるんですか?」

 

 兄とは対照的に混乱した様子の堀北だが、少し考えれば分かる話だ。

 

「体育祭であんたと紡が話をしているのが見えた。そしてそこからたったの1週間。成績も普通で、表立った活動もない俺が、歴代最高と名高い生徒会長に選ばれるとは到底思えない。関連を疑う方が自然じゃないか?」

 

 わざわざ他に推薦してくれるような友達は居ないしな。悲しいことに。

 

「やはり面白い生徒だな綾小路……そうだ。お前らにこの話を持ち掛けた理由は、斎藤紡がお前らに適性があると言ったからだ」

 

「推薦ということですね」

 

 そういう事だろう。紡ならやりかねない。

 しかし堀北兄の様子を見る限り、どうもここで話が終わるとは思えなかった。お互い早い方が良いという言葉の真意も聞いておきたい。

 

「ああ。先日の体育祭で、俺は斎藤と賭けをした。俺が勝ったら斎藤は生徒会に所属し、斎藤が勝ったら堀北鈴音と綾小路清隆を生徒会に勧誘する」

 

ここまではまぁ分からなくもない。

恐らくオレと堀北なら生徒会に入っても大丈夫だという信頼の下での賭けだろう。そこにオレ達の意思が介入していないのが少し不満だが。信頼されているのは悪い気分じゃない。

しかし、堀北兄はここからが本題だと言わんばかりに一呼吸置き、続けて語った。

 

「その際、綾小路清隆が()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして()()()()()1()()()()()()()()()()()。お前たちを呼び出した『本当の理由』はこの斎藤紡の願いにある。それは…」

 

 どこか含みを持たせた言い方をする堀北兄。

 思い出されるのは今までの、何処か()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 

 

 

 Aクラスを目指すという堀北の夢を叶えるための土台を作り上げ、その際に壁となるであろう須藤や軽井沢の問題も解決した。

 

 坂柳がクラスを掌握するための手伝いをほぼ無償で行い、自身の悪評が広まることも厭わずやり遂げた。

 

 そして、たった今堀北兄が言った。恐らく父親の手からオレを守るための条件。通常の学校よりも圧倒的な権力を持つ生徒会に所属し、その後ろ盾を得ることが出来れば、あの父親でさえ迂闊に手を出して来れなくなる。

 

 

 

 確かに、明るく飄々とした姿の裏にはどこか退廃的な気質が見える時もあった。刹那的な、どこか儚さを感じさせる言動もゼロとはいえなかった…ただ、それも気のせいだと思っていた。

 自分が世間一般とは違う価値観や判断基準、そして常識を持っていた。だからそう見えただけかと思っていた。

 無意識のうちに、何となくは理解していたのかもしれない。

 ────だが、実際にその言葉を耳にした時、オレは頭が真っ白になってしまった。

 

 

 

 

 

「自身が退学する際の障害を無くすこと────()()()()()()()()退()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 

 

 その言葉を発したのが堀北なのかオレなのか。それを自分で理解する事すらできなかった。

 

 

 

 




ヒント:紡君の父親は公務員。
ホワイトルームがどういう場所か。そして誰が運営しているかも知っています。
尚速攻でバラされる紡君。
ネタバレすると退学はしません。そろそろ楽になって貰います。

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