ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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導入のため短いです!
遅れてすみません!


第六章


 

 

 

 体育祭も終わり、肌寒くなってきた10月中旬。次期の生徒会を担うメンバーを決める総選挙が行われ、早くも新旧生徒会の交代式がやってきた。全校生徒を体育館に集めた大々的なイベントだが、大半の一年生にとってはどうでもいい時間でもあった。眠たそうにしながらも、教師をはじめ上級生に目を付けられないよう息を殺している。

 

「それでは、堀北生徒会長より最後のお言葉を賜りたいと思います」

 

 司会の言葉と共に堀北学が、ゆっくりとステージに用意されたマイクへと歩みを進める。彼はここ最近で一気に関係性が変わった人物でもある。

 そんなステージの上に立つ堀北兄をボーっと見つめながら、オレは先月の話を思い出していた────

 

 

 

 

 

「────ど、どういうことですか……! 何で、どうして紡君が!」

 

 オレよりも少し早く思考が戻った堀北が、目の前で数枚の書類を手に持った兄に問いかける。

 今までの冷静な堀北らしくない、焦燥と混乱がごちゃ混ぜになったような様子だった。かく言うオレも、頭の中では思考が堂々巡りになっている。

 そんなオレ達に対し、堀北兄はあくまで冷静さを崩すことなく書類をこちらに向けて並べた。

 

「具体的には、退学時に必要となる資料と、こちらが把握している保護者との面談可能日を教えると言う内容だ。どちらも担任に言えば済む話だが、どうにもそう上手くは行かなさそうだ」

 

 そこは理解できる。今やDクラスの最高戦力と言っても過言じゃない紡の退学を、オレを脅してまで試験に協力させるような茶柱先生が、素直に認めるとは思えない。他の先生に言っても担任に話がいくのは目に見えている。だから生徒会長である堀北兄を頼ったのだろう。

 

「……紡は、何か理由を話してましたか。退学する理由を」

 

「いや、俺は何も聞いていない。ただ、退学したら親元に帰り別の高校に通うと言っていた」

 

 俺の問いかけに淡々と答える堀北兄。その様子からして、何も聞いていないと言うのは嘘ではないのだろう。

 

「どうして……」

 

 声を震わせながら、両手で顔を覆い俯く堀北。

 来月からCクラスへ昇級し、これから盤石になった体制でAクラスの座を狙いに行くというタイミングで、それに最も協力した紡が退学するという事実が受け入れられないのだろう。

 

「現時点で俺から言えることはこれしかない。自主退学にはお前達の前に並べているプリント、保護者と担任、そして理事長の承諾が必要となる」

 

「……無理よ。茶柱先生が退学を許可するはずがない」

 

「承諾と言っても、生徒本人がそれを望んでいる限り担任の判断で取り消すことはできない。せいぜい面談を行い説得するのが関の山だろうが……あそこまで意志が固いと、それも無意味だろうな」

 

 僅かな望みにかけた堀北の呟きも、容赦なく切り捨てる兄。

 しかし、ここでそれをわざわざ教えてきたと言うことは、彼なりの目的があるからだろう。オレはそれを知らなくてはならない。

 

「あんたは一体何の目的でオレ達に教えたんだ? 説得して退学を止めさせてほしいのか」

 

「ああ。その通りだ綾小路」

 

「何故だ? 紡と仲がいいってわけでもないだろ」

 

 個人間で交わした約束をこうも簡単にバラすなんて風潮が広まったら、それこそ堀北兄にとっては最悪の事態だろう。

 素直に書類や日程を教えてやればいいだけの話。何も難しいことは無いはずだ。

 

「お前達からすれば意外かもしれないが、俺は斎藤に感謝をしている。あの不出来だった妹をここまで成長させた張本人だからな。恐らく奴には、誰にも話すことが出来ない()()を抱えている。……そんな恩人をそんな状態でみすみす退学させる程、冷徹な人間になった覚えはない」

 

「……そうか」

 

 話を聞く限り堀北兄は妹のことを嫌っていたのかと思っていたが、その実そうでもなかったらしい。

 よくよく考えれば、生徒会長を継いでほしいと言っている時点で雰囲気は感じるな。硬派な見た目に反してシスコンなんだろう。

 

「奴は、お前たちのことを大層褒めちぎっていた。『出来れば成長した先を見て見たかった』ともな」

 

 先ほどとは違い、どこか穏やかな語り口の堀北兄。

 それを聞いて、俯いて震えたままの堀北は、今にも泣きだしそうだ。そんな彼女の様子を見て、ある感情が沸々と溢れて来るのを感じた。

 

「……ふざけんな」

 

「……あやの、こうじくん?」

 

 自分でも驚くほどの感情的な声が出たと思う。実際堀北も不安そうな瞳をこちらに向けてきた。

 だが、オレは初めて抱くこの感情を抑えられる気がしなかった。

 

「何が『成長した先が見たかった』だ。最初から退学するつもりだったなら、どうして周りに優しさを振りまくんだ……!」

 

 散々人の舌を肥えさせておいて、都合が悪くなったらすぐポイか? 

 卒業したら、最悪二度と会えないまま一生を終える可能性だってあるんだぞ。それを知っていて、何故紡はそんなことを考えるんだ。オレが悲しまないとでも思っているのか? 

 拳を握り込み、バカな親友の姿を思い出して言い放つ。

 

「こんな形で終わらせてたまるか! ……最低でも、その真意を聞きだしてやる」

 

「……私もやるわ。一発でも打ち込んでやらないと気が済まないし」

 

 オレに続くように、堀北も膝の上で拳を震わせながらハッキリと言った。

 

「そうか。なら俺からは以上だ。斎藤から連絡があったらすぐそちらに伝達する。一応言っておくが、この件は信頼できるものにのみ相談しろ。事が広まると手が付けられなくなるぞ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 そう言って生徒会室を退出する。

 そのまま教室まで戻ると、まばらに残る生徒達の中に紡の姿があった。

 

「お、2人ともどこ行ってきたの? もしかして生徒会室?」

 

 ニヤニヤと悪戯っ子のような笑みを浮かべて話しかけて来る紡。感情がぐしゃぐしゃになっているのを自覚しつつも、表面上は平然としているように繕った。

 

「やっぱりお前が推薦したのか! ……ったく」

 

「へへっ。で、どうだった? 受けたの?」

 

「断ったよ。オレは荷が重いし、堀北はやるなら推薦じゃなく自分の力がいいって。な?」

 

「……ええ、そうね」

 

 堀北はさっきからずっと視線をうろうろとしている。しばらくはまともに動くことは無いだろう。そんな堀北に代わってオレが返答すると、そんな俺達の様子を見た紡が不思議そうに堀北を見た。

 

「鈴音ちゃんどしたの? さっきからずっとこんな感じだけど」

 

「兄と和解したんだよ。成長したと言われてからずっとこんな感じだ。逆にこれでポンコツになったら面白いな」

 

 コンコンと堀北の頭を叩くがこれといった反応はない。……流石に耐えられないのか。泣き出す前にどこか連れて行かないとダメだな。

 

「あはは! ……そっか。良かったね鈴音ちゃん」

 

 楽しげに笑った後、慈愛の籠った瞳を堀北に向ける紡。……マズイな。堀北の背中が震えてる。

 

「そう言えば、さっき廊下で坂柳とすれ違った時に呼んできてくれと頼まれたぞ。何か約束でもしてるんじゃないか?」

 

「マジ? ……えっ、ヤバ。なんかあったっけ」

 

 坂柳には話を合わせてもらおう。紡から見えないようにスマホを操作しチャットを送る。事情を説明するのは……今日の夜辺りで良いか。

 

「ごめん行ってくるわ! ありがと清隆君!」

 

 そう言って走って教室を出ていく紡。いつの間にか他の生徒も姿を消しており、夕陽が埃をキラキラと照らす教室の中、堀北と2人きりになってしまった。

 そんな状況が堀北のたがを外したのか、小刻みだった肩の震えが大きくなり、鼻をすする音が聞こえてくる。

 

「う……ひっ、何で……」

 

 すすり泣く堀北になんて声をかければよかったのか、そんなことが分かるはずもなかった。

 

「……ひとまず坂柳に連絡だな。絶対止めるぞ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

「────……よたか君? 清隆君!」

 

「ん?」

 

 肩をグラグラと揺らされ思考の渦から現実へと引き戻される。

 目の前には、心配そうにのぞき込んでくる紡の姿があった。

 

「良かった。もう式終わって帰るころだよ? 俺らも帰らないと」

 

 周りを見れば、クラス順に続々と退場を済ませている。

 

「ああ。ありがとう紡」

 

「大丈夫? 体育祭の疲れ取れてない感じ? だったら、俺めっちゃおすすめの入浴剤あるから────」

 

 紡が心配そうに話しかけて来るが……周りが見えなくなる位考え込んでたのか。堀北だけかと思ったが、オレも随分弱っているらしい。

 あの施設での最高傑作。冷徹で無感情だと研究員にも気味悪がられたこのオレが、たった一人の生徒の退学で、ここまで心を乱されてしまっている。

 

「これは高くつくぞ……紡」

 

「ん? どうかした?」

 

「いいや、何でもない」

 

 このツケは後でしっかり払ってもらうことにしよう。

 

 

 






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