ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
これからは感想の返事ちゃんとします!
幸村が三宅たちの問題を採点し始めてから10分ほどが経ち、『とある生徒』との話を終えたオレは席へと戻った。
「そう言えばだけど、斎藤君って結局どうなったの? 教えに来る感じだっけ?」
席に着くと、ふと思い出したという様子で長谷部が聞いてきた。
「……説明を聞いてなかったのか? お前が斎藤に教わるのが嫌だと言ったから代わりに幸村が来てくれたんだぞ」
「そう言えばそうだったっけ。てか、人聞き悪いこと言わないでよみやっち。もし聞かれてたらCクラスの女子に殺されちゃうって」
少し大げさに手を左右に振る長谷部。
しかし、周りを少しだけ見渡した後テーブルの真ん中に顔を寄せ小さく呟いた。
「ま、私斎藤君のことちょっと苦手だから、別に嘘じゃないんだけどね」
「おい……綾小路の前で言うなよ」
「ええー? 別に良いじゃん。悪口言ってるわけでもないんだしさ」
呆れたような様子で咎める三宅に対し、長谷部はどこ吹く風といった様子。
「悪いな綾小路。長谷部も悪気は無いはずなんだが、好き嫌いがはっきりしているタイプだからな」
「ちょー分かってんじゃん。流石私のぼっち同盟」
「何だよそれ……」
会話のペースは長谷部が握りっぱなしだ。それでもお互い気楽に話せているのは、ひとえに2人の相性が良いからであろう。
「純粋な疑問なんだが、紡のどういうとこが苦手なんだ?」
ハッキリと紡のことを苦手、あるいは嫌いだと明言しているのはCクラスには山内位しかいなかっただろう。ここに来てまさかの2人目の登場に疑問が沸いてきた。
そう質問すると、長谷部は悩むような様子を見せた。
「仲がいい綾小路君とか、堀北さんとかから見たら感じないかもしれないけど、斎藤君って何か皆から一歩引いて接してるように見えるんだよね」
「一歩引いて?」
「うん。今回の試験だって、多分堀北さんじゃなくて斎藤君がクラスをまとめた方が上手く行くんじゃないって。そこら辺で皆の意識と少し噛み合ってないって言う感じ? 上手く言えないんだけどさ」
なるほどな。そういう考えを持つ生徒もクラスは居るのか。
まあ長谷部が言いたいことも分からなくはない。今回は
「だからちょっとよく分かんなくて。……後は女がらみの噂かな。お金取ってデートしてたり、三股ぐらいしてるとか言われてたよね? あれって結局ホントなの?」
……そりゃあほぼ初対面の女子からは敬遠されても文句は言えないな。オレも女子でそれをやってる奴が居ると知ったらヤベェ奴だとしか思わない。
噂の内容を興味津々といった様子で聞いて来る長谷部。年頃の女子的には、このような話題はやはり気になるのだろうか。
「デート云々の話は知らないな。だが三股の件に関しては多分デマだぞ。そもそも紡は入学してから一度も彼女ができた事無いからな」
「え、マジそれ?」
心底驚いたと言う様に目を丸くする長谷部。
「紡が嘘をついてないならな」
「えーヤバ。余計タチ悪いじゃん。曖昧な状態でキープしてるってことでしょ?」
「……さあ。そこまでは分からん」
本当は込み入った事情があるのだが、それを説明せずに誤解を解く方法が思いつかなかった。
────ホワイトルーム最高傑作の頭が、一人の男子高校生の女癖の悪さに敗北した瞬間だった。
「よし」
突如、幸村が勢いよく顔を上げる。どうやら全ての確認が終わったらしい。
「何となく2人の苦手な部分が把握できた。でも、詳細はここから詰めていきたい」
そう言って色々と書き連ねていたノートをひっくり返し三宅に向ける。
「文系問題をいくつか作ってみた。後で長谷部にもやってもらうから俺のノートには直接答えを書かず、自分の方に書いてくれ」
幸村はこの短時間で2人の傾向を把握するどころか、自作の問題まで作ってしまったらしい。流石堀北以上の学力を有するだけある。
2人の問題を採点し終えた幸村は、何処か呆れたようにため息をついた。
「全くお前らは……」
互いに正解していた問題数のマルは3つ。バツが6つ。そしてサンカクがひとつだった。
テストなら同じ点数だが、驚くべきは正解も不正解も全て同じであるということ。
「得意な科目が似ていることだけじゃなくて、覚え方や傾向まで同じだ」
「すっご、なんか運命感じるくらいじゃない? みやっち」
「感じねえ」
「あ、っそ。なんかノリ悪ーい。でもこれってピンチってヤツ?」
我に返ったように焦る長谷部だが、それは逆だ。
「この場合は好都合と取るべきだろうな。労力は半分で済む」
「そうだな。科目も文系なのが幸いしてる」
教える人数を実質1人にすることが出来る。
しかも根本からの理解が必要な理系の問題と違い、世界史等の科目は範囲外までさかのぼる必要は無くなる。
「楽勝な感じ?」
「それはこれからの努力次第だ。期末テスト当日から逆算して、7、8回は集まりの場が欲しい。短期集中よりも、間を置いて勉強するのが理想的だ。その辺3人は大丈夫なのか? 三宅は部活の問題もあるだろ」
「期末が近づいたら部活も休みになるだろうけど、時間の相談はさせてくれ」
そんな三宅の要請に頷いた幸村が続けて説明を行う。
「脅すような形にはなるが、現実問題として2人の学力でこのまま試験を行うのはかなりまずい。普通のテストならいざ知らず、この試験の問題を作るのはDクラス。最悪10点台なんていう大惨事もありえる」
「……たしかにな。Dクラスなんて絶対捻くれた問題しか出さないだろうし」
「ああ。だけど全く傾向と対策が立てられないわけでもない。Dクラスが問題文を作ると考えると想像できないかも知れないが、俺の予想じゃ問題を作るのは金田だと思ってる」
あまり聞きなれない名前だが、全く聞いたことが無いわけでもない名前だった。
「なんかあのメガネかけた気持ち悪いヤツだよね?」
「その言い方はどうかと思うが、多分それだ。Dクラスじゃあいつが一番勉強が出来る」
幸村のもたらした情報が正しいとするなら、当然勉強のできる生徒が問題を作ると考えるのが妥当だろう。
「それにどの程度の難易度なら弾かれるかはもうじき分かってくるはずだ。今堀北と平田が際どいラインの問題を用意して審査してもらおうとしてる。明日にでもなれば大体の難易度も特定できると思うぞ」
「行動が早いな。いいアイデアだ」
感心したように呟く幸村。
「うん。なるほどね」
先ほどのやり取りで不安が取れたのか、長谷部は笑顔で頷いた。
「私のほうは部活もしてないし、いつでもいいよ。みやっちを基準に決めて」
そう言って決定権の全てを譲った。
それを見ていた三宅が驚いた様子で長谷部を見た。
「長谷部はてっきり断ると思ったぜ。珍しいな。普段男子とはあまり絡もうとしたいのに」
「今回は結構勉強しないとやばそうだし。私が退学する分には仕方がないけど、みやっちまで巻き込むわけにはいかないじゃない?」
自分のことよりも、友人である三宅のことを思って承諾したようだった。
「それじゃあ今日のところは解散だ。1回目の勉強会は明後日からするつもりだ」
そう締めくくる幸村。今日と明日で問題の傾向を探り、対策を立ててくる予定か。
初日にしては中々いい雰囲気だっただろう。そんな手ごたえを感じながら解散となった。
それから寮に帰宅しベッドでスマホをいじっていると。ふとチャットの通知音が鳴った。
「っと……紡か」
そこに書かれていた名前は斎藤紡。最近はテスト続きで忙しいため約一週間ぶりの連絡だ。
『お疲れ! 勉強会どうだった?』
どうやら労いのメッセージを送ってくれたらしい。こういう細かなところが人に好かれる理由なのだろう。
『結構いい感じだ。4人でやる約束も取り付けたし、次の集まりは明後日だ』
『そっか。4人ってことは佐倉さんは結局行けなかった感じだよね?』
その言葉で、今日パレットで出会った意外な生徒のことを思い出していた。
その生徒は佐倉。席を立っているときに話していた『とある生徒』のことだ。
勉強会に参加させてほしいと頼んできた時は驚いたが、大方紡が佐倉に発破をかけたのだろう。結局佐倉自身の口から言い出して欲しいと突き放してしまったためそれは叶わなかったが。
『そうだな。パレットで会って話したが、オレが紹介するより佐倉自身で頼んだ方が良いと思ったんだが……間違いだったか』
『いや、それでいいと思うよ? 紹介されて入ってきてもちょっと気まずくなるしね。多分今の佐倉さんなら大丈夫よ』
『そうか。なら良かった』
そこで既読が付いて会話が途切れる。……こういう時の対処法を誰か教えてくれ。現実でもコミュ障のオレには荷が重いぞ。
そんな神への祈りが届いたのか、少し遅れて紡の方から送られてきた。
『清隆君明日の予定空いてる?』
『明日か? 空いてるぞ』
『じゃあ今回の試験の対策会議するから、明日鈴音ちゃんと一緒に俺の部屋来てくんない?』
……流石にか。明日は誕生日だから少し期待してしまったが、そういえば一度も自分の誕生日を話したことは無かったな。……
そんな落胆と決心を胸に秘め返事を返した。
『分かった』
そして時は流れ翌日の放課後。オレは1人で寮の紡の部屋へと向かっていた。
別に放課後そのまま一緒に行けば良いはずなのだが、
『ごめん! ちょっと最近人呼んでなくて部屋凄い汚いんだよね。ちょっと片付ける時間欲しいから先帰ってるね!』
そんなことを言って紡は先に走って行ってしまい、堀北はいつの間にか居なくなっていた。
「一体オレが何をしたって言うんだ」
紡に関しては多分嘘だろう。坂柳が最近来ないからってそこまで汚くなるわけない。普段の様子を見てれば分かる。
堀北に関しては謎だ。用事があったのなら一言声をかけてくれればよいものを。
「……ついてないな」
そんな不満を漏らしながら、とぼとぼと寮への道を歩いてゆく。
あれだけ暑かったこの道も、すっかりと木枯らしが身を包むようになってしまった。
何時もは気にならない寒さだが、1人で歩くと嫌にそれが気になって仕方がない。
────そう言えば、最近は1人で居ることがほとんど無くなったな。
何処に行くにしても紡や堀北が居るし、家では博士や池と通話を繋ぎながらゲームをしている。堀北も中間が終わった後にポイントでゲーム機を買ったらしい。
4月からは考えられない。正直程々の学生生活を送れればいいと思っていたが、ここまで充実したものになるとは思わなかった。
……っと駄目だな。1人で居るとノスタルジーな気持ちにさせられる。これから大事な話し合いがあると言うのにこの体たらくじゃ2人にバカにされてしまう。
そう心の中で自分自身に活を入れていると、気づけば紡の部屋の前に着いていた。
親しき中にも礼儀ありということで、一応遊びに来るときはちゃんとインターホンを鳴らすようにしている。今回も例に漏れず押したが、どうも反応がない。あまり他の生徒に見られたくないんだが……
「紡? おーい」
呼びかけても反応がないため試しにドアノブを開けると、何故か鍵が掛かっていなかった。
紡らしくない不用心さだ。
「入るぞ?」
そう言って扉を開け中に入るが、何故か電気はついていない。キッチンや廊下に付けられたカーテンは全て閉ざされており、妙に嫌な暗さが部屋中に蔓延していた。
「……紡?」
おかしい。紡が帰宅してからもう15分は経っている。堀北も既に到着している筈なのに、廊下と部屋を繋ぐ扉からは物音すらしない。────まさか『あいつ』の差し金か?
まだオレに接触すらしていないのに、いきなり無関係の紡に刺客を送るか? いや、紡が退学しようとしている理由が
脳内に浮かんだ最悪の光景に、思考が堂々巡りになっている事を自覚しながらも、体は冷静に水切り台に置かれていたフライパンを持っていた。
そしてすり足で足音を殺しながら扉に近づき、意を決して思いっきり扉を手前に引く。
────その瞬間、暗かった部屋が急激に明るさを取り戻し、暗闇になれていたオレの目を埋め尽くした。
そして次に感じたのは『バンッ』『バンッ』という乾いた2発の爆発音……クソッ!? 銃だと!?
遅れてやってくる火薬の匂いに自分が銃撃されたと確信したが、オレの体に降りかかってきたのは鉛玉ではなく、ふわふわとした紙のようなものだった……って、紙?
その時やっと自身が置かれている状況が、想像していたものと大分乖離していたことに気が付く。
────音の鳴った方向を見ると、そこには満面の笑みを浮かべる紡と、同じくいたずらな笑みを浮かべる堀北の姿があった。
「清隆君! お誕生日おめでとう!」
……は? 誕生日? 一体どういうことだ?
「一体何と勘違いしたかは知らないけど、まずはその物騒なものを置いてきなさい」
「あ、ああ」
堀北に言われるままフライパンを取った場所に戻す。
「ほら、鈴音ちゃんも言わないと」
「……さっきあなたが言ったからいいでし「鈴音ちゃん?」……わかったわ」
未だ混乱し続けるオレの目を合わせては逸らしを数回繰り返した後、堀北は小さく呟いた。
「誕生日おめでとう、綾小路君」
「サプライズは大成功かな? いやー良かった準備しておいて」
堀北に続いて紡が嬉しそうにオレの頭に乗ったちり紙を取る。……なるほどな。何となくどういう状況下は理解した。
そして、同時に物凄く恥ずかしい勘違いをしていた事にも気が付いた。
しかしどうしても疑問に残ることが一つだけある。
「……何でオレの誕生日を知ってたんだ?」
「そんなの先生に聞けば一発でしょ。絶対誕生日祝ってもらったことないかなって思ってさ」
「いや、確かにないが……」
そういう問題じゃないと思うんだが。
「私としては、あなたが一体どんな勘違いをしたのかが気になるわ。急に足音を消したと思ったら、勢いよくフライパンをもって廊下から飛び出してくるなんて」
「いや……聞かないでくれ」
何だろう。凄く恥ずかしい。
だが、そんな羞恥心をはるかに上回る感情がオレを支配していた。
「ほら、ケーキもあるよ! 2週間前から用意してたんだから早く食べよ! 俺包丁取ってくるねっ」
今までに見た事無い位の笑顔でキッチンへ走る紡。
オレと一緒に部屋に残された堀北が、疲れたような呆れたような様子でため息を吐いた。
「……はぁ。気を張り過ぎよ」
「……」
ぐうの音も出ない指摘だ。紡はいまいちよく分かっていなかった様子だったが、堀北はオレがこのような勘違いをした理由を知っている。
『飲み物冷えてるけど何がいい? カルピスとかコーラとかオレンジジュースもあるよー』
扉越しに紡の声が響いてくる。
「オレはコーラで。堀北は?」
「じゃあ私はカルピスでも頂こうかしら。随分と久しぶりに飲むことになるけど」
『オッケー! じゃあちょっと待って』
祝われる側のオレより楽しそうだ。
「あなたが言いたいことはよく分かるわ。私たちにできた初めての友人は、とてつもなく罪な人間よ」
「……そうだな」
勿論嬉しいのは嬉しいのだが、このまま行けば来年も同じく祝ってもらえるかも分からないのだ。複雑な気持ちにもなる。
そんなオレに、先ほどとは違った力強い意志の籠った瞳を向けてくる堀北。
「────だから、このまま逃げるなんてことは絶対にさせない。そうでしょう? 綾小路君」
「ああ。当たり前だ」
『ちょっとごめん2人とも! こっち物多すぎて運べないから手伝って!』
紡の助けを求める声が聞こえてきた。
「じゃあ、今日の所は楽しみましょう?」
「そうだな…堀北」
席を立って歩き出した堀北に声をかける。
「何かしら?」
「ありがとう」
「…お礼なら、私じゃなくて紡君に言いなさい」
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