ようこそクズヒモ男の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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来週からテストで忙しくなるかも…


第七章
動き出す者たち


 

 

 

 その写真を見せられてから俺の行動は早かった。

 写真に保存されていたデータを解析し、その写真が撮られた時刻を特定、背景に写るものや光の角度、そして神室さんから送られてきた敷地の地図を基に場所を特定した。

 その場所は、敷地のはずれにあるとある工事現場、建設途中の建物だった。

 

「はぁ、はぁ……クソ」

 

 いくら狭い学校の敷地内と言えど、全力で走った為か息が切れている。

 不安と焦燥、その感情が俺の脳を支配していたのも大きな理由だろう。

 そして当たりを付けていた場所へと到着する。隣の立て札を見ると、今日の工事が行われる予定は無いらしい。

 建設途中ということもあり、もちろん監視カメラなどは存在しない。間違いなく計画的な犯行だろう。

 

 ────一体誰が? 

 

 そんな疑問を抱きながら階段を駆け上がる。

 そして3階に上った俺は、金属製のバリケードで仕切られた一つの部屋へと到着した。

 

「有栖ちゃん!」

 

 そこには、コンクリートの床の上で両手を縛られ、ぐったりと横たわる有栖ちゃんの姿があった。

 

「ん……つ、紡君……」

 

 急いで駆けよって肩を抱きかかえると、有栖ちゃんは一度顔をしかめた後ゆっくりと目を開けた。

 

「有栖ちゃん。もう大丈夫」

 

「私は……どうしてここに」

 

 12月のこの時期、断熱なんて全く考えられていないであろうこの場所に長い時間放置されたのだ。前後の記憶が曖昧になっていても仕方がない。

 

「誰にやられた。神室さんや鬼頭君は一緒じゃなかったのか!?」

 

「……そんな大声出さないでください。頭に響くので」

 

「ご、ごめん」

 

 縄をほどくと、有栖ちゃんは壁に寄りかかるように体育座りをした。

 そして右手を頭に当て、考えるように俯く。

 

「とりあえず帰ろう。ここは寒いからね」

 

 こんな場所にずっと置いておくわけにはいかない。体の弱い有栖ちゃんが風邪をひいてしまう。

 座っている有栖ちゃんに手を差し伸べると、俺の顔を見上げた後有栖ちゃんは焦ったような表情を浮かべた。

 

「紡君! 危ないっ!?」

 

「なっ……がっ!?」

 

 その瞬間、後ろからとてつもない衝撃が俺の頭を襲った。

 まるで鉄パイプのような鈍器で殴られた感触が広がる。

 

 ────くそっ、油断した……! 

 

 完全に安心しきっていた。この状況で、全く周りを警戒することをしなかった。

 せめて手下人の顔でも拝んでやろう。そう思った俺は、消えかける意識の中顔を後ろに動かす。

 

「はっ?」

 

自然と声が出た。

こんな事をするなんて、悪い噂がよく立っている2年の南雲先輩か龍園君しかいないと思っていたからだ。

 

 

 

 

 

ーーーーしかし、俺の目に映ったのは南雲先輩でも、はたまた龍園君でもなかった。

 

 

 

 

 

「ーーーー清…隆?」

 

「…悪いな。紡」

 

そんな声がきこえたような気がしたが、はっきりと聞き取ることは叶わなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…やりすぎでは? 後遺症でも残ったらどうするんですか」

 

目の前で完全に動かなくなった紡を見て、坂柳が心配そうにこちらを見つめてくる。

 

「加減はちゃんとした。もうじき目が覚めるはずだ」

 

「ならいいですが」

 

右手に持った鉄パイプをガランと地面に落とす。

そしてオレは、部屋の隅に予め置かれていた段ボールからロープを取り出し、紡の右手をむき出しになっている金属の配管に結び付けた。

さらに目隠しの為に布を巻き付ける。

こうしてみると完全に捕虜だ。これから尋問をされるといっても信じられるだろう。

 

「いよいよですか。ここまで長いような短いような。不思議な感覚でした」

 

「気を引き締めるぞ。ここが正念場だ」

 

 

 

ーーーーどうしてこんな事になってしまったのか。それは、今から約1ヶ月ほど前にさかのぼる。

 

堀北兄から紡が退学したがっている事について伝えられたオレと堀北は、まず真っ先にとある人物に相談を持ち掛けた。

 

「…そうですか。紡君は退学したがっていると…確かにそうおっしゃったんですね」

 

「…ええ。そうよ」

 

その人物というのが、幼少期から関わりがあり、紡のことを深く知っている人物である坂柳だった。

坂柳の確認に対し、堀北が緊張した様子で返答する。

何というか、正直言って坂柳の反応は意外だった。もっと取り乱すと思っていたからな。

 

「そうですか。なるほど…ふふっ、退学ですか」

 

「…坂柳?」

 

俺が気付いていなかっただけで、かなり動揺していたのかもしれない。

しかし坂柳は不気味に笑うだけで、何も言葉を続けようとしなかった。

 

「それで、あなた達は私に何をしてもらいたいのですか?」

 

「何って…紡君が退学になってもいいの!?」

 

「嫌に決まってるじゃないですか。当たり前のことを一々聞かないでください」

 

「だったら…それを阻止しようって話で「どうやって?」…それは」

 

声を荒げた堀北に対し、坂柳はずっと冷静なままだ。

呆気にとられた堀北を尻目に、説明を続ける坂柳。

 

「紡君本人が退学したいと言ってるんですよね? それを彼の意志を無視して阻止したところで、そこから2年間ずっと気を張ったまま生活を続けるんですか?」

 

「だから…その理由を聞きに来たのよ。あなたなら何か知っているかと思って」

 

そう堀北が言い放つと、坂柳は少しの間をおいてため息を吐いた。

 

「なるほど…分かりました。ただしあなた方に協力するにあたって、()()()()()()()()()

 

「条件?」

 

「この件に関しては、あなた達は私の指示に従ってもらう。この条件を飲めないのであれば私は1人で行動します」

 

「…わかったわ」

 

坂柳の提案に対して、堀北は渋々と言った様子で承諾した。

紡から話は聞いていたが、そう簡単に信頼できるかは別の話だ。いくら紡のことを最もよく知る生徒だからといって、全てを任せるというのは不安も残るだろう。

しかし堀北は譲った。自分ひとりじゃ解決できないことに悔しさを覚えているだろうが、最善を尽くすために譲ったのだ。

ならば、オレもただ見ているだけという訳にはいかないだろう。

 

「具体的には何をするつもりだ?」

 

「そうですね…では、信頼できる人を連れてきてください」

 

「信頼できる人?」

 

オレがそう聞き返すと、坂柳はいたずらな笑みを浮かべて続けた。

 

「ええ。具体的には紡君に惚れている人ですかね。そこにいる彼女と同じような」

 

坂柳が堀北に指をさす。

堀北は気まずそうに視線を逸らすも、その言葉自体を否定することは無かった。

 

「…分かった。明日再度集合しよう」

 

「分かった」

 

ーーーーそして翌日、オレと堀北は紡に惚れている人物…信頼できる人物である軽井沢を連れて坂柳の部屋へと訪れていた。

 

「ねえ、これってどういう集まりなの? 理由くらい教えてくれても良いと思うんだけど」

 

理由を教えられず連れ出された軽井沢はどこか不満げだ。

 

「それを今から説明するんです」

 

それを返すのは坂柳。能天気な軽井沢に対してどこか不機嫌そうだ。

 

「…あっそ」

 

何処かピりついた雰囲気を漂わせながら待っていると、部屋の扉が開いた。

 

「…何このメンツ」

 

入ってきた生徒に対して、坂柳は端的に指示を出す。

 

「遅いですよ真澄さん。時間が惜しいので早く座ってください」

 

「…そうね」

 

そんな有無を言わさない坂柳の態度に何かを感じ取ったのか、神室はそのまま空いた場所へと座った。

女4人に男1人。計5人が1つの部屋に集まっていて中々気まずいが、ここにいる女子全員が紡に惚れているという事実は何とも不思議だ。

 

「で、あたしは何でここにいるのよ。それにAクラスの女子って」

 

「綾小路君。説明は任せました」

 

丸投げかよ…まぁ、坂柳なりの考えがあってのものだろう。

しかし…

 

「?」

 

不思議そうにこちらを見つめる軽井沢。

彼女に今から紡が退学しようとしていると伝えるのは中々気が重い事だった。…仕方ない。腹をくくるか。

 

 

 

ーーーーそして、オレの予想通り説明を受けた軽井沢の反応は散々なモノだった。

 

「ど、どういうことよ! 何で斎藤君が退学するの!?」

 

「軽井沢。落ち着「落ち着けるわけないじゃない! 斎藤君が居なくなったら、私…」…」

 

瞳を潤わせながら、軽井沢は声を震わせる。

…最近クラスでの様子から、過去に受けたトラウマは紡のおかげで乗り切ったと思っていたが…どうやらそれは表面上だけのものだったらしい。

 

「…はぁ。綾小路君が信用できると言って期待しましたが、話を聞いただけでこのざまですか」

 

「は?」

 

それを見て失望したように言い放つ坂柳。

そんなことを言われて大人しくするような軽井沢ではなく、次の瞬間には坂柳の胸倉を両手で掴んでいた。

 

「あんたが…あんたがそれを言うんじゃないわよ!」

 

「ちょっと軽井沢さん「うるさい!」…」

 

胸倉をつかまれても何も言わずに睨み続ける坂柳、堀北が見てられないと声をかけるが、軽井沢は聞く耳を持たなかった。

…一体どういうことだろうか? いくら軽井沢が感情的になりやすいとはいえ、この行動は少し不自然だ。まるで、()()()()()()()()()()かのような様子さえ感じ取れる。

その疑問は、軽井沢の発した言葉によって解決されることとなる。

 

 

 

「ーーーー()()()()()()()()()()斎藤君に何もしなかったアンタが、よくそんなこと言えるわね!」

 

「…は? 虐待?」

 

「そうよ。まさか今知ったわけ? 斎藤君が幼少期に虐待されてたってこと」

 

軽井沢が語った内容は以下の通りだった。

紡の両親は彼が幼いころに離婚していて、母親の元で暮らしていた紡は虐待を受けていたということ。

物で殴られたり、食事を与えられなかったり、真冬に外で放置されたりしていたということ。

最終的に母親から包丁で刺され、それを期に今の育ての親の元へ預けられたこと。

 

そのどれも、オレや堀北にとっては初めて聞く話だった。

 

「何…ですか。それ」

 

そして、意外なことに坂柳も知らなかった様子だ。

彼女が驚いている様子など見たことがない。それほど坂柳にとっては衝撃的な話だったのだろう。

 

「はっ、あれだけ自慢げに語っておいて何も知らないんじゃない」

 

「何を言うかと思えば、紡君の両親は私も知っています。彼らは虐待なんてする人じゃないし、離婚もしてません。それに紡君の体に刃物で刺された傷跡なんてありません。あなたが今語った内容は真っ赤な嘘です」

 

そう返す坂柳だったが、オレは今まで紡から聞いていた話を照らし合わせて違和感に気が付いた。

 

「…その話、全てが嘘だと決めつけるのは早計じゃないか?」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「オレは少し前に紡の過去について聞いたんだが、小学生の時は大層やせ細っていたそうだぞ。それも付き合っていた彼女の親が心配するほどにな。それから十数人と付き合っては分かれてを繰り返していたらしいが…今思うとおかしな発言だな」

 

この話を聞いたのは4月の頃だが、どうも紡が嘘をついているようには思えなかった。

虐待をされていた時期が小学校低学年の頃なら話のつじつまが合う気もするが…その場合不可解なのが坂柳の話だ。

 

「いいえあり得ません。紡君と私が出会ったのは小学校1年生の時ですが、やせ細ってなんていませんでした。それに特定の方とお付き合いをしていたという事実もありません」

 

「じゃあ…斎藤君が私に嘘をついたってこと…?」

 

「それ以外考えられないでしょう」

 

動揺する軽井沢に対し、冷たく突き放す坂柳。

そんなように議論が逸れようとしていたのを止めたのは、やり取りを静かに見守っていた神室だった。

 

「…今考えるのはそんなことじゃなくない? 坂柳もやりすぎ。軽井沢を責め立てるために呼んだわけじゃ無いでしょ」

 

軽井沢と一緒で今この話を聞いたはずだが、神室はやけに冷静だった。

 

「あいつは…なんて言ったらいいか分からないけど、どこか急にふらっと居なくなりそうな雰囲気あったし…だからショックが少なかっただけ」

 

「でも」と付け足して神室は続ける。

 

「ショックが少なくても、退学されるのは嫌。それを何とか考え直させるためにこの集まりがあるんじゃないの? …だったら、一番斎藤のことを知ってる坂柳がしっかりしないとダメでしょ」

 

意外にも神室は坂柳に物申した。

2人の間には、ただのクラスのリーダーとその手下という言葉では済ますことが出来ない絆を感じられる。

自らと同じ異性を想う神室を受け入れている坂柳の懐の大きさもあるのだろうが、ここは神室が大人だったといえるだろう。

 

「…そうですね。すみませんでした。軽井沢さん、真澄さん」

 

「…あたしも、ごめん急に」

 

こうして、対策会議の第一回は幕を開けたのであった。

 

 

 

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